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夏祭り(3)

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 ヘンリーとのわだかまりが解けた後、クリスティーナは楽しくてしかたがなかった。

「それでね、領民に安く薬を提供したかったんだけど、難しくて」
「確かに鎮痛剤は高価だし、副作用もありますからね。腰痛に使うには非現実的でしょう」
「そうなの! だから薬じゃなくて、ハーブとか食材とかで探してみたの。最近論文が出ていてね……」

 仕事の話が中心だったが、ヘンリーと普通に会話出来ることが嬉しかったのだ。

(良かった、こんなに楽しく話せるなら、もっと早く謝れば良かったわ)

 ホッと安堵した時、クリスティーナのお腹がぐぅと音を立てた。

「あ、あのっ、今のはっ……!」
「僕のせいで出発時間が早かったですからね。お詫びになにか奢りますよ」 

 慌てるクリスティーナを面白そうに見ていたヘンリーは、笑いながらそう言った。

「いいの? じゃあ……あそこのミートパイが食べたいわ!」
「では行きましょう」

 街のいたる所から美味しそうな匂いがしていた。クリスティーナが指したのは、肉屋が出していた人気のミートパイだった。
 
「女神に感謝を。いただきます!」
「いただきます」

 テラス席で女神への感謝を述べてから手を合わせた。
 ミートパイを一口頬張ると、ひき肉と野菜の旨味が口いっぱいに広がる。後からスパイスの香りもして、ずっと食べていられる美味しさだ。

(美味しいっ……! 久しぶりに食べごたえのある物を食べたわ)

 最近は忙し過ぎて食事を簡単に済ませていたので、味わってゆっくり食べるのも久しぶりだった。
 夢中になって食べていると、ヘンリーがこちらを見つめていることに気がついた。
 
「どうかしたの?」
「クリスティーナがあまりに美味しそうに食べるので、つい見惚れてしまいました」
「……からかわないでよ」
「本当の事を言っただけです」

 相変わらずドキドキさせるような言動をするヘンリーだったが、クリスティーナの心はだいぶ落ち着いていた。

(もう変な反応をして気まずくなるのは嫌! 今の幸せをたっぷり味わうって決めたもの)

 そう思えば、ヘンリーの思わせぶりな態度を楽しめるようになった。

 他愛もない話をしながらミートパイを味わっていると、前から見知った人物がやって来た。

「あら? クリスティーナ様?」
「ソフィア! 来ていたのね。そちらの方はもしかして……」

 ソフィアの横に立っていたのは、ガッシリとした体格の男性だった。

「カーミラ・レイモンドと申します」

 礼儀正しく挨拶をしたその人は、ソフィアの婚約者であるカーミラ・レイモンドだったのだ。

「クリスティーナ・フェンネルです」
「ヘンリー・カスティルと申します」

 こちらが挨拶をすると、カーミラの表情がパッと明るくなった。

「貴女が……お二人の話はソフィアから聞いていますよ」
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