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お茶会(6)
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馬車の中にはいると、ようやく息が出来た。
「何の話をしていたのですか? 随分と仲良くなったようですが」
「なんと言ったらいいか……所謂、恋バナというやつを。皆さんがどんなお相手と結婚するのか話してくれたのよ。あとは、皆で婚約者にお手紙も書いたりして」
「な、なるほど?」
心配そうな顔をしていたヘンリーは、クリスティーナの言葉に戸惑っていた。
迎えに来たということは、少なからず心配していたはずだ。それが、恋バナに花を咲かせていたと聞けば驚くだろう。
クリスティーナは安心させるために付け加えた。
「えぇ、皆さんとっても熱心に書いていたわ。……どんなことを言われるか少し警戒していたのだけれど、皆さんは恋に一生懸命なだけだったの。少し暴走していたけれど、もう大丈夫よ」
「……そうでしたか」
ヘンリーは「大丈夫」という言葉を信じてくれたようだ。安心したように頷いてくれた。
「実はね、私も手紙を書いたの。受け取ってくれる?」
クリスティーナがいたずらっぽく笑って手紙を見せると、ヘンリーの表情がパッと明るくなった。
「僕にですか? 本当に? ありがとうございます」
「読んでみて」
その場で手紙を読み始めると、ヘンリーの頬がうっすらと赤く染まっていった。
「こ、これはっ……」
「少し前に、私のことをたくさん褒めてくれたでしょう? だから私もたくさん褒めようと思って」
「照れますね」
「でしょう?」
二人で顔を見合わせると、お互い照れくさくて笑ってしまった。
とても穏やかな時間だった。
(あぁ、この時間がずっと続けばいいのに……)
幸せ過ぎて寂しかった。期限が決まっている関係だから、終わりのことを考えるのが辛い。
「クリスティーナ?」
「なあに?」
名前を呼ばれて笑顔で返事をした、はずだった。
それなのに、ヘンリーは苦しそうな顔をしてクリスティーナの頬に触れた。
頬に触れられた時、クリスティーナは自分が泣いていうことに気がついたのだ。
(あれ? なんで涙が……)
「やはりお茶会でなにかありましたか?」
「ううん……何もなかったわ。ただ、ホッとしたみたい。迎えに来てくれてありがとう」
上手く誤魔化せただろうか。ちゃんと笑えているだろうか。そんなことを考えていると、ふいにぎゅっと抱き寄せられた。
ヘンリーは黙ったまま、クリスティーナに寄り添っていた。
(優しくしないで……余計に好きになってしまう)
本当はこのまま自分からヘンリーの胸に飛び込みたい。全て打ち明けて楽になりたい。その気持ちの一方で、拒絶された時のことが頭に浮かぶ。
『僕はこの先、他の女を好きになることはありませんから』
そう吐き捨てたヘンリーの姿が、フラッシュバックした。あの表情で拒絶されたらと思うと、自分の気持ちを打ち明けることは出来なかった。
ヘンリーに抱き着くことも、腕から抜け出すことも出来ず、家に到着するまで動けないままだった。
「おかえりなさいませお嬢様……どうかされましたか?」
「いいえ、何も」
誰にも相談できない。クリスティーナは、皆からヘンリーの婚約者だと思われているのだから。
(偽りの婚約者を好きになるなんて、愚かなことだわ)
この気持ちに蓋をするしかない。残りの期間、婚約者の役を全うして、その思い出とともに生きていこう。
クリスティーナには、そう決心することしか出来なかった。
「何の話をしていたのですか? 随分と仲良くなったようですが」
「なんと言ったらいいか……所謂、恋バナというやつを。皆さんがどんなお相手と結婚するのか話してくれたのよ。あとは、皆で婚約者にお手紙も書いたりして」
「な、なるほど?」
心配そうな顔をしていたヘンリーは、クリスティーナの言葉に戸惑っていた。
迎えに来たということは、少なからず心配していたはずだ。それが、恋バナに花を咲かせていたと聞けば驚くだろう。
クリスティーナは安心させるために付け加えた。
「えぇ、皆さんとっても熱心に書いていたわ。……どんなことを言われるか少し警戒していたのだけれど、皆さんは恋に一生懸命なだけだったの。少し暴走していたけれど、もう大丈夫よ」
「……そうでしたか」
ヘンリーは「大丈夫」という言葉を信じてくれたようだ。安心したように頷いてくれた。
「実はね、私も手紙を書いたの。受け取ってくれる?」
クリスティーナがいたずらっぽく笑って手紙を見せると、ヘンリーの表情がパッと明るくなった。
「僕にですか? 本当に? ありがとうございます」
「読んでみて」
その場で手紙を読み始めると、ヘンリーの頬がうっすらと赤く染まっていった。
「こ、これはっ……」
「少し前に、私のことをたくさん褒めてくれたでしょう? だから私もたくさん褒めようと思って」
「照れますね」
「でしょう?」
二人で顔を見合わせると、お互い照れくさくて笑ってしまった。
とても穏やかな時間だった。
(あぁ、この時間がずっと続けばいいのに……)
幸せ過ぎて寂しかった。期限が決まっている関係だから、終わりのことを考えるのが辛い。
「クリスティーナ?」
「なあに?」
名前を呼ばれて笑顔で返事をした、はずだった。
それなのに、ヘンリーは苦しそうな顔をしてクリスティーナの頬に触れた。
頬に触れられた時、クリスティーナは自分が泣いていうことに気がついたのだ。
(あれ? なんで涙が……)
「やはりお茶会でなにかありましたか?」
「ううん……何もなかったわ。ただ、ホッとしたみたい。迎えに来てくれてありがとう」
上手く誤魔化せただろうか。ちゃんと笑えているだろうか。そんなことを考えていると、ふいにぎゅっと抱き寄せられた。
ヘンリーは黙ったまま、クリスティーナに寄り添っていた。
(優しくしないで……余計に好きになってしまう)
本当はこのまま自分からヘンリーの胸に飛び込みたい。全て打ち明けて楽になりたい。その気持ちの一方で、拒絶された時のことが頭に浮かぶ。
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そう吐き捨てたヘンリーの姿が、フラッシュバックした。あの表情で拒絶されたらと思うと、自分の気持ちを打ち明けることは出来なかった。
ヘンリーに抱き着くことも、腕から抜け出すことも出来ず、家に到着するまで動けないままだった。
「おかえりなさいませお嬢様……どうかされましたか?」
「いいえ、何も」
誰にも相談できない。クリスティーナは、皆からヘンリーの婚約者だと思われているのだから。
(偽りの婚約者を好きになるなんて、愚かなことだわ)
この気持ちに蓋をするしかない。残りの期間、婚約者の役を全うして、その思い出とともに生きていこう。
クリスティーナには、そう決心することしか出来なかった。
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