上 下
34 / 81

お茶会(3)

しおりを挟む
 クリスティーナは立ち上がって、ソフィアに向けて一礼をした。

「それはお気持ちだけで十分です。私とヘンリーは、話し合いで理解を深めることが出来ますから。それに……ソフィアさんは、レイモンド公爵家のご子息と婚約が決まったと伺いました。あまり他の男性の話をしては、お相手の方に失礼ですよ」

 にっこりと微笑み返すと、ソフィアが目を見開いた。
 マシューに調べてもらって判明したのだが、ソフィアにはカーミラ・レイモンドという婚約者がいたのだ。

(婚約者がいるのに他の男性に好意を抱いて、その婚約者に嫌がらせ……? どういう精神状態してるのよ)

 その他にも、パーティーで色んな男性をダンスに誘い、その男性との噂を自ら流しているらしかった。
 とにかく、やる事なす事がめちゃくちゃな女性、というのがソフィアの印象だった。

「ソフィアさん、私は貴女に何かしましたか? このような嫌がらせをされる謂れはないのですけど……もしかして、ヘンリーとご結婚なさりたいの? 婚約者がいらっしゃるのに?」

 少しストレートすぎる言い方だったと後悔したが、仕方がない。クリスティーナは遺族特有の遠回しの表現に慣れていなかったのだ。 

 クリスティーナの言葉を聞いたソフィアは、みるみるうちに目に涙をためた。

「わ、分かっていますっ! でも……でも…なんでっ! 私だって……好きな人に愛されたいのよー!」
「ちょ、ちょっと! 落ち着いて」

 言い過ぎたと後悔しても、もう遅い。
 ソフィアはわんわんと泣き出し、周りの令嬢達もうるうると涙目になっていた。

(さっきまで強気で意地の悪いことを言ってきたのに、ちょっと言い返しただけでこんなに泣くなんてっ……!)

「わ、私だってフェンネル夫妻のような愛し合う夫婦になりたかったのにっ! 伯爵にはこの気持ちは分かりませんわ。仲の良いご両親に育てられた上に、素敵な婚約者がいるんですもの!」
「はぁ!?」

(この方、正気? あの二人に憧れてる人がいたなんて……)

 思いも寄らないところでフェンネル家の家名が相手を刺激してことに、げんなりした。
 こんな風に思われるくらいなら、本当の事を言ったほうがいい。両親の愛を美談にされるのは不愉快だ。

「確かに……私にはソフィアさんの気持ちが分かりません。私の両親は私の事を虐げておりましたし、ヘンリーとあのような夫婦になりたいと思ったことは一度もないですから」

 低い声で反論すると、ソフィアの肩がビクリと震えた。

「え……? 嘘……虐げ、られて? ご、ごめんなさい。私ったらなんてことを……知らなくて……」

 正直に謝るソフィアを見て、クリスティーナは笑ってしまった。ここまでくると、もう可愛らしく見えてくる。
 もう許してやるか、そう思えるから不思議だ。

「ソフィアさん、一度落ち着いてください。本当はこんな事したくないのでしょう? 何でもかんでも他人を羨む前に、ご自分の幸せに目を向けるべきですよ」
「は、はい……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君のような女は僕がいなくても1人で生きていけるだろうと告げて逃げた夫が1年後、愛人を連れて泣きついて戻ってきました

結城芙由奈 
恋愛
【私のモットーは『去る者は追わず』。しかし来る者は…?】 ある日、帰宅すると夫が愛人と浮気の真っ最中だった。ろくに仕事もしない夫を問い詰めると「君のような女は僕がいなくても1人で生きていけるだろう」そう告げられた私は翌日財産を奪われ、夫は愛人と出奔してしまう。しかしその1年後、何と夫は「このままでは生活できない」と言って泣きついて帰ってきた。しかもあろう事か共に逃げた愛人を連れて。仕方が無いので私は受け入れてあげる事にした―。 ※他サイトでも投稿中

【完結】王子から愛でられる平民の少女に転生しました〜ざまあされそうで超ピンチです!〜

チュンぽよ
恋愛
美しい金髪碧眼の王子ヘンリー・レイノルズが婚約者のマーガレット・クローバーに婚約破棄を一方的に言い出した。原因はヘンリーのお気に入りのマロンのせい。でもマロンはそんなことは全く望んでいなくて…!? これは、ざあまされないように奮闘するマロンの物語です。

天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ
恋愛
※カクヨムの方にも載せてあります。サブストーリーなども書いていますので、よかったら、お越しくださいm(_ _)m リアンは有名私塾に通い、天才と名高い少女であった。しかしある日突然、陛下の花嫁探しに白羽の矢が立ち、有無を言わさず後宮へ入れられてしまう。 王妃候補なんてなりたくない。やる気ゼロの彼女は後宮の部屋へ引きこもり、怠惰に暮らすためにその能力を使うことにした。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里
恋愛
社交界デビューの日。 訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。 後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。 それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。

完結 とある令嬢の都合が悪い世界 

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で婚約できた恵まれた侯爵令嬢。幼馴染みで婚約者の王子はもちろん彼女を愛している。 出来過ぎた関係だと周囲は言う、当人たちもまた奇跡的だと思っていた。順調に思われた令嬢の生活と未来だったが、気まぐれに受けた占いで運命が大きく変化していく。 ”あの老婆の占いは外れたことがない”と評判だと聞いた令嬢は結果を聞いて青くなった。 「王子の運命の女性は他にいる、こればかりは逆らえない」というのだ。 敵か味方か謎の占い師、読めない王子の心に翻弄されていく。

【完結】平民娘に転生した私、聖魔力に目覚めたので学園に行くことになりました

Na20
恋愛
孤児院で暮らすオルガはある出来事により突然魔力が目覚めた。この国では魔力持ちは王都にある学園に通わなければならない。しかし魔力持ちのほとんどは貴族である。そんな場所で平民かつ孤児であるオルガはうまくやっていけるのだろうか。不安を抱きながらも王都へと向かうのだった。 ※恋愛要素は薄めです ※ざまぁはおまけ程度

王子からの縁談の話が来たのですが、双子の妹が私に成りすまして王子に会いに行きました。しかしその結果……

水上
恋愛
侯爵令嬢である私、エマ・ローリンズは、縁談の話を聞いて喜んでいた。 相手はなんと、この国の第三王子であるウィリアム・ガーヴィー様である。 思わぬ縁談だったけれど、本当に嬉しかった。 しかし、その喜びは、すぐに消え失せた。 それは、私の双子の妹であるヘレン・ローリンズのせいだ。 彼女と、彼女を溺愛している両親は、ヘレンこそが、ウィリアム王子にふさわしいと言い出し、とんでもない手段に出るのだった。 それは、妹のヘレンが私に成りすまして、王子に近づくというものだった。 私たちはそっくりの双子だから、確かに見た目で判断するのは難しい。 でも、そんなバカなこと、成功するはずがないがないと思っていた。 しかし、ヘレンは王宮に招かれ、幸せな生活を送り始めた。 一方、私は王子を騙そうとした罪で捕らえられてしまう。 すべて、ヘレンと両親の思惑通りに事が進んでいた。 しかし、そんなヘレンの幸せは、いつまでも続くことはなかった。 彼女は幸せの始まりだと思っていたようだけれど、それは地獄の始まりなのだった……。 ※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。

処理中です...