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フェンネル家の使用人(1)

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 ヘンリーが「伯爵の憂いを晴らしてきますね」と言い残して帰った後、クリスティーナは自室に戻ってそわそわと歩き回っていた。

(どうしよう……引き受ける流れになってしまっているわ。でも冷静に考えたら無理じゃない? 私、今まで誰とも関わってこなかったのよ?)

 なぜ雰囲気に流されてしまったのか、頭を抱えるしかなかった。

(私一人では抱えきれない。でも相談出来る相手もいない。こうなったら……)

 クリスティーナは自室に執事を呼び出した。

「あ、あのー……少しお話をしてもいいかしら?」
「お、お嬢様?! 勿論ですとも。何でも仰ってください」

 クリスティーナが選んだ相談相手は執事のマシューだった。クリスティーナが生まれる前からフェンネル家に仕えており、クリスティーナのことをいつも気にかけてくれていた。
 一人で暮らすと伝えた時、最初について行くと言ってくれたのはマシューだった。

(この家には私の他に三人しかいないのだから、一番年配のマシューに相談するのが最善だわ!)

「たいした話ではないのだけれど……わ、私が伯爵であることを公表して、社交界に出ようなんて……無謀よね? 今さらよね?」

 そう言うと、マシューは驚きで目を見開いた。そうしてみるみるうちに目に涙を浮かべたのだ。

「あぁお嬢様……なんと勇敢な……! 無謀なはずありません。出来ますとも! 私が保証いたしましょう。きっと大丈夫です。おっと、こうしてはいられません。二人にも知らせなければ」
「あっ、ちょっと……!」

 涙を拭いながら部屋を出ていったマシューは、ほどなくして他の二人を連れて戻ってきた。

「お嬢様! 本当なのですか!? ヴェラは心配です。あの引きこもりのお嬢様が急にご貴族様達とやり合うなんて……!」

 心配そうな声を上げたのは身の回りの世話をしてくれるヴェラだ。
 クリスティーナより少し年下の彼女は、赤色の三つ編みを揺らしながらクリスティーナの手をぎゅっと握った。

「ヴェラ、お嬢様に失礼ですよ。お嬢様なら大丈夫です。社交界のマナーは私がみっちり指導いたしますから! ドレスを発注しなければなりませんね。折角の社交界デビューですもの」

 にっこりとクリスティーナに微笑みかけたのは、元家庭教師であり家事全般を担当しているモニカ。

 三人とも反応は様々だが、目がキラキラと輝いている。
 まるでクリスティーナが表舞台に上がることが確定したと言わんばかりだ。

(まだ相談しただけなのに! 絶対公表するなんて言ってないのにー!)

「さ、三人とも落ち着いて。まだ決まった訳じゃないし……ヘンリー様とのお話でね、そういう未来もあるかもって思っただけでね。万が一の話なのよ?」

 婚約だの破棄だのという話を隠しながらどうにか説明したものの、彼らはますますヒートアップしていった。
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