上 下
11 / 15

近づく距離

しおりを挟む
「なっ……! そんなことを話したのか?」

「はい! クロード様が領民想いで、高い能力をお持ちだとお聞きしました」

「……」

 嬉々として話すナタリアは、クロードが気まずそうにしていることに気がついていない。

「今回の結婚は、領民の皆様が祝福してくださると知って……あの、クロード様?」

 ナタリアは、黙り込んでしまったクロードの顔を覗き込んだ。

 それに気がついたクロードは、ふっと顔をそむけてしまう。

(あ、クロード様のお耳が赤い……もしかして照れているのかしら? 可愛らしい)

 いつもと違うクロードの一面を見たナタリアは、なんとも言えない気持ちになり思わずクロードの手を取った。
 
「私はとても嬉しかったのです。今回の結婚のこと、私は誰にも祝福されないと思っていました。でも実際は、大勢の人々が喜んでくださって……全部クロード様の人徳のおかげです。ありがとうございます」

 きゅっと握った手に力を込めると、ようやくクロードはナタリアの顔を見た。

 クロードは顔を赤らめたまま、嬉しそうに笑った。

「……ここに住む人達は、心が広くて気さくな人が多いんだ。僕はこの土地と領民が好きだ。ナタリアも好きになってくれると嬉しい」

「もちろんです。早くこの地に馴染んで皆さんのことをよく知りたいです!」

「そうか、では今度時間を作って皆に挨拶する機会を設けよう」

「ありがとうございます!」

 その後もナタリアとクロードは、結婚披露パーティーについての話や、領地についての話で盛り上がった。




 一時間程経った頃、予想以上にクロードとの会話が弾んだことに舞い上がったナタリアは、つい口をすべらせてしまった。

「結婚という問題も解決しますし、東の国との交渉はきっと上手くいきますわ」

「君がなぜそのことを? ポールに聞いたのか?」

「あっ……はい。なぜクロード様が結婚を急いだのかと尋ねたら……。申し訳ありません、直接クロード様にうかがうべきでしたね」

 あまりに深刻な顔をするクロードに、ナタリアは慌てて謝った。

「いや、構わない。初日はあまり話す暇もなかったから。……申し訳ない。ナタリアを利用するような形になってしまった」

 クロードは、立ち上がって頭を深々と下げた。
 ナタリアもつられるように立ち上がって頭を下げる。

「そんな……それは私も同じです。家を出るためにクロード様との結婚を利用したのですから。正直、結婚出来るなら誰でも良いと思っていました。でも、今はクロード様で良かったと思います」

「ありがとう。僕も相手がナタリアで良かった」

 顔を上げた二人は、顔を見合わせて笑い合った。

「クロード様、私達また謝ってましたね」

「本当にな」

 そうして、また笑い合うのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

みんなが嫌がる公爵と婚約させられましたが、結果イケメンに溺愛されています

中津田あこら
恋愛
家族にいじめられているサリーンは、勝手に婚約者を決められる。相手は動物実験をおこなっているだとか、冷徹で殺されそうになった人もいるとウワサのファウスト公爵だった。しかしファウストは人間よりも動物が好きな人で、同じく動物好きのサリーンを慕うようになる。動物から好かれるサリーンはファウスト公爵から信用も得て溺愛されるようになるのだった。

芋女の私になぜか完璧貴公子の伯爵令息が声をかけてきます。

ありま氷炎
恋愛
貧乏男爵令嬢のマギーは、学園を好成績で卒業し文官になることを夢見ている。 そんな彼女は学園では浮いた存在。野暮ったい容姿からも芋女と陰で呼ばれていた。 しかしある日、女子に人気の伯爵令息が声をかけてきて。そこから始まる彼女の物語。

地味女は、変わりたい~告白するために必死で自分磨きをしましたが、相手はありのままの自分をすでに受け入れてくれていました~

石河 翠
恋愛
好きな相手に告白するために、自分磨きを決心した地味で冴えない主人公。彼女は全財産を握りしめ、訪れる女性をすべて美女に変えてきたという噂の美容サロンに向かう。 何とか客として認めてもらった彼女だが、レッスンは修行のような厳しさ。彼女に美を授けてくれる店主はなんとも風変わりな男性で、彼女はなぜかその店主に自分の好きな男性の面影を見てしまう。 少しずつ距離を縮めるふたりだが、彼女は実家からお見合いを受けるようにと指示されていた。告白は、彼女にとって恋に区切りをつけるためのものだったのだ。 そして告白当日。玉砕覚悟で挑んだ彼女は告白の返事を聞くことなく逃走、すると相手が猛ダッシュで追いかけてきて……。 自分に自信のない地味な女性と、容姿が優れすぎているがゆえにひねくれてしまった男性の恋物語。もちろんハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

告白さえできずに失恋したので、酒場でやけ酒しています。目が覚めたら、なぜか夜会の前夜に戻っていました。

石河 翠
恋愛
ほんのり想いを寄せていたイケメン文官に、告白する間もなく失恋した主人公。その夜、彼女は親友の魔導士にくだを巻きながら、酒場でやけ酒をしていた。見事に酔いつぶれる彼女。 いつもならば二日酔いとともに目が覚めるはずが、不思議なほど爽やかな気持ちで起き上がる。なんと彼女は、失恋する前の日の晩に戻ってきていたのだ。 前回の失敗をすべて回避すれば、好きなひとと付き合うこともできるはず。そう考えて動き始める彼女だったが……。 ちょっとがさつだけれどまっすぐで優しいヒロインと、そんな彼女のことを一途に思っていた魔導士の恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

帝国に奪われた聖女様は帝国の皇太子に溺愛されてます

りり
恋愛
王国に聖女として生まれたエルサ・ラ・エリサエル。 しかし、宰相の裏切りによりエルサは、おってから必死に逃げていた。 そんななか、騎士団長であるアレクドリスに助けられる。 実は……彼の正体はかつての同級生であり隣国ラーサル帝国の皇太子だった。 この物語は二人が様々な困難を超え結婚する話。 本編完結 番外編更新中

【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢 ルルーシュア=メライーブス 王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。 学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。 趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。 有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。 正直、意味が分からない。 さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか? ☆カダール王国シリーズ 短編☆

拾った仔猫の中身は、私に嘘の婚約破棄を言い渡した王太子さまでした。面倒なので放置したいのですが、仔猫が気になるので救出作戦を実行します。

石河 翠
恋愛
婚約者に婚約破棄をつきつけられた公爵令嬢のマーシャ。おバカな王子の相手をせずに済むと喜んだ彼女は、家に帰る途中なんとも不細工な猫を拾う。 助けを求めてくる猫を見捨てられず、家に連れて帰ることに。まるで言葉がわかるかのように賢い猫の相手をしていると、なんと猫の中身はあの王太子だと判明する。猫と王子の入れ替わりにびっくりする主人公。 バカは傀儡にされるくらいでちょうどいいが、可愛い猫が周囲に無理難題を言われるなんてあんまりだという理由で救出作戦を実行することになるが……。 もふもふを愛するヒロインと、かまってもらえないせいでいじけ気味の面倒くさいヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより pp7さまの作品をお借りしております。

はずれの聖女

おこめ
恋愛
この国に二人いる聖女。 一人は見目麗しく誰にでも優しいとされるリーア、もう一人は地味な容姿のせいで影で『はずれ』と呼ばれているシルク。 シルクは一部の人達から蔑まれており、軽く扱われている。 『はずれ』のシルクにも優しく接してくれる騎士団長のアーノルドにシルクは心を奪われており、日常で共に過ごせる時間を満喫していた。 だがある日、アーノルドに想い人がいると知り…… しかもその相手がもう一人の聖女であるリーアだと知りショックを受ける最中、更に心を傷付ける事態に見舞われる。 なんやかんやでさらっとハッピーエンドです。

処理中です...