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おかしいのは私?

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私の婚約者であるフィリップ・シルゲンは、聖人と称されるほど優しく親切で慈悲深いお方です。

いつも困っている人を助け、たくさんの人から感謝されています。

こんなに素敵な方と結婚できるだなんて、私はなんて幸せ者なのでしょう!



なんて思っていたのは、昨日までのこと。

いくら聖人のように優しいからって、困っている女性を側室に置きまくるのは……どう考えてもおかしいでしょう?

え?おかしいって思っているのは、私だけなのですか?



――――――――――


入籍まであと一ヶ月と迫った昨日、私はフィリップに呼び出されました。彼の家へ行くと、フィリップの他に五人の女性がいました。

この方達はどなたなのでしょう?

「やあニーナ、急に呼び出してすまない。今日は大切な話があってね」

「構いませんわ、話とは何でしょう。この方達と何か関係が?」

「彼女達は、様々な理由で自分の家で暮らせなくなった娘達でね。落ち着くまで僕の家で居候しているんだ」

い、居候?独身男性の家に?五人もの女性が……?

「でも、もうすぐ僕は君と結婚するだろう?だから、彼女達を正式にを側室として迎え入れようと思うんだ。君にも伝えておこうと思ってね」

側室?!王族でもない一介の伯爵であるフィリップが、五人もの女性を側室にするのですか?いくらフィリップとは言え、それは……

「あの……フィリップのご両親は、このことをご存知なのですか?」

良識のあるご両親なら、おかしいと止めてくださるはずですが。

「もちろん知っているさ。特に母上は、感心してくださった。貴族の義務をよく果たしていると」

えぇー。まさかご両親公認の奇行だったなんて……。

「そうですか。えーっと、急なことで驚きました。とても大切な話なので、今日は一度帰ってよく考えさせてください……」

とりあえず、帰りたい。ここにいると頭がおかしくなりそうだもの。

「驚かせてしまったかな?でも大丈夫だよ。彼女達はとても良い娘達だし、上手くやっていけるさ」

「「「「「よろしくお願いします」」」」」

いやいや、よろしくされたくありません。



私は逃げるようにフィリップの家を出て、我が家に帰りました。

お父様とお母様に事の顛末を話すと、とても驚いていました。当然でしょう、こんな非常識な……

「やはりフィリップは素晴らしい男だな」

「そうね、本当に聖人のようだわ」

そうそう、聖人のような……って、えぇ?!そんな感想ですか?

私の考え方がおかしいのでしょうか。



いいえ!例えおかしいのが私だとしても、私はこの状況を受け入れたくありません。

しかし周囲の人達までこの様子だと、フィリップに側室を諦めさせるのは難しいかもしれない。

だとしたら、何としても逃げ出さなくては。



入籍まであと一ヶ月。それまでに婚約破棄してみせましょう!
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