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視廻り旅・4ヶ月目・
シエン…魔物退治…
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村の入り口に差し掛かった頃合いで日が沈んだ…隠形の印を組んで切り、真言を唱えて気配を隠す。
その時の癖で魔除けの首飾りに触るんだが、首飾りをミリエラに貸したままだったと思い出す…まあ良いか…なまじ魔除けの物なんぞ持ってたら、却って気配を覚られちまうかも知れねえ…。
道剣を抜いて右手に引っ提げ、縮地歩術で村の周りを歩き始める…ピーラ(魔鳥)が6羽ばかり飛び回ってる…俺は剣を鞘に収めて座り、瞑想に入って更に気配を消して周囲を探る…。
ほんの少しの探索でも30匹余りを感知した…道剣を抜いて左手に持ち替え、右手の指2本を剣の柄近くの腹に
当てる。
「…天の光焔神・エリンツイの焔光を我が剣に!…シリエンツイ・ティエン・セン!! 」
そう唱えながら剣の腹に当てたまま手指を祓い、エリンツイの焔光を剣に纏わせる。
縮地走術で走り出し、3000歩を行くまでに21匹を斬る。
斬ったのはガゴルにゲドルにバラミンに、クラゲルにマグータにマダゲルとジャガラが、それぞれ3匹ずつだった。
道剣の刃にあまり負担を掛けないように、太い動脈を2ヶ所ずつ斬った…しかし、種類も多いが頭数も多い…この地方にこれ程の数で魔物共が出歩いているなんて話は、噂にも聞いた事がねえ…ある程度片が付いたら、お師さんに手紙で報せよう。
21体の死骸があれば残りの奴らの腹も、今夜はくちくなるだろう…俺は縮地走術で隣村も視廻ることにした。
確か一万七千歩の辺りで、目立たないが間道に入れる辻があった…間道に入って二万歩ちょっと行けば沢がある…そこで沐浴をして剣を洗おう。
沐浴と剣の手入れを終えて、服に匂い消しの粉を振り掛けて着直す。夜明けまで四時ほどだ…急ごう。
隣村の入り口で隠形印を組み、真言を唱えて気配を消す…座って内観に入り気配を探ると、村の廻りで9匹…村の中で5匹を感知する。
まずいな…先に廻りの奴らを斬って、死骸の臭いで中の奴らを誘き出すか。
「ノウボウ・タリツ・タボリツ・ハラボリツ・シャキンメイ・シャキンメイ・タラサンダン・オエンビ・セン! 」
左手で道剣を持ち、右手の指二本を刀身の腹に当てて天神大元帥の真言を唱え、その剛剣力を借り受けて退魔の刀身に乗せる…縮地走術で走りながら9匹を斬った。
そのまま茂みに隠れて座り様子を観ていると、二時ほどで村の中の5匹が臭いに釣られて出て来た。
そいつらが完全に村から出て来て、死骸に覆い被さろうとする刹那で頸と腋の動脈を斬る…今夜はこんなものか。
さっき沐浴した沢にまた寄って、冷たいが我慢して体を洗う…服を着直して剣の手入れも終え、寝床を作った泉まで戻った。
夜明けまでは二時ほどか…雲行きと風の香りで観る限り、明日か明日の夜は雨だな…夜が明け切ったらミリエラの家に寄ろう…そう思いながら寝床に身を横たえて眠った。
目覚めると、昼まで三時ほどだった。体をよく動かして温める…寝床を整えて簡単に作った屋根に葉を乗せ、露が浸みないようにする。
ミリエラの家に行く前、辻に生えている木の幹に打ち付けた板を観に寄ったが…まだ何も無かった。
ミリエラの家に行ってドアを軽く叩く…ドアを開けてキトルが顔を出した。
「…よう、姉ちゃんはいるかい? 」
「…いるよ。仕事してるけど…」
「…ちょっと、呼んでくれるかい? 」
そう言うと、引っ込んで呼びに行った…ミリエラはすぐに出て来た…仕事着かな?…を着て俺が右手に握らせた魔除けの首飾りを着けている。
「…やあ、ミリエラ。調子はどうだい? 」
「…うん…好いよ。おとついは助けてくれてありがとう…」
「…好いってことよ…言ったかも知れないし聞いたかも知れないけど、ここと隣の村で夜中にうろつき回っている魔物共を粗方片付けるまで、俺はこの辺りにいるからな…分かってるとは思うが、日が沈んだら外には出るなよ…魔物退治は夜にやるから、薪集めとか薪割とかやる事はあるかい? 」
「…ちょっと待って…母さんに訊いてくる…」
一度戻ったミリエラが、母親と話して戻って来る。
「…薪はあるから薪割を頼みたいって…裏で出来るよ…」
「…分かった。すぐに終わるからな…キトル、釣り竿はあるかい? 」
「…あるけど? 」
「…薪割が終わったら、釣りに行こう。釣り方を教えてやるよ…」
それから一時で薪割は終えた。動剣の素振り千回に比べれば何でもない。
キトルが持って来た釣り竿を調整して仕掛けを作る…釣り餌を作ってキトルに連れられ、近くの沢に入る。
キトルの父ちゃんは魚釣りを教える前に、魔物に殺されたそうだ。
沢の中でのポイントの見つけ方、気配を殺した歩き方、撒き餌のやり方、当たりに対する合わせ方…それらを教えながら三時ほど釣りを続けて、36尾の釣果で戻ったんだが…おっかさんには大層喜ばれた。
おっかさんの名前はマルセラと言った。おっかさんの勧めで遅めの昼飯をご馳走になり、それからの二時で畑仕事を手伝う…鍬振りも結構好い鍛錬になる。
井戸の水を浴びさせて貰って休んでいる間に、ミリエラが俺の服を洗濯してくれた。
刃物砥ぎの砥石を借りて銀砂を塗し、服が乾くまで道剣を砥いだ…乾いた服を着直すと気分が上がる。
最後に火種を3つ拵えてキトルに持たせた。
「…ミリエラ…この辺りをうろつく魔物を粗方片付けるにゃ、ひと月ぐらいはかかるだろう…終えたらこの家と村の周りに隠形結界を張るから、きれいな塩を用意しといてくれ…それが終わったら他の村に行くから、悪いけどその首飾りは返してくれな…それは俺のお師さんが出立の門出にくれたものだからさ…心配すんなよ…魔物退治と掃除を終えたら、その先10年は安心して暮らせる…でも夜は外に出るなよ…それじゃあな…俺に何か用があったら辻の木に板を打ち付けてあるから、そこに手紙でも挟んでくれ…みんなでマルセラ母ちゃんを助けてやれよ…」
そう言い置いて鞘に収めた道剣を腰の左に差し、物入袋を右腰に吊るし、ケープを羽織って外に出た…日没まで、あと二時ほどだ。
その時の癖で魔除けの首飾りに触るんだが、首飾りをミリエラに貸したままだったと思い出す…まあ良いか…なまじ魔除けの物なんぞ持ってたら、却って気配を覚られちまうかも知れねえ…。
道剣を抜いて右手に引っ提げ、縮地歩術で村の周りを歩き始める…ピーラ(魔鳥)が6羽ばかり飛び回ってる…俺は剣を鞘に収めて座り、瞑想に入って更に気配を消して周囲を探る…。
ほんの少しの探索でも30匹余りを感知した…道剣を抜いて左手に持ち替え、右手の指2本を剣の柄近くの腹に
当てる。
「…天の光焔神・エリンツイの焔光を我が剣に!…シリエンツイ・ティエン・セン!! 」
そう唱えながら剣の腹に当てたまま手指を祓い、エリンツイの焔光を剣に纏わせる。
縮地走術で走り出し、3000歩を行くまでに21匹を斬る。
斬ったのはガゴルにゲドルにバラミンに、クラゲルにマグータにマダゲルとジャガラが、それぞれ3匹ずつだった。
道剣の刃にあまり負担を掛けないように、太い動脈を2ヶ所ずつ斬った…しかし、種類も多いが頭数も多い…この地方にこれ程の数で魔物共が出歩いているなんて話は、噂にも聞いた事がねえ…ある程度片が付いたら、お師さんに手紙で報せよう。
21体の死骸があれば残りの奴らの腹も、今夜はくちくなるだろう…俺は縮地走術で隣村も視廻ることにした。
確か一万七千歩の辺りで、目立たないが間道に入れる辻があった…間道に入って二万歩ちょっと行けば沢がある…そこで沐浴をして剣を洗おう。
沐浴と剣の手入れを終えて、服に匂い消しの粉を振り掛けて着直す。夜明けまで四時ほどだ…急ごう。
隣村の入り口で隠形印を組み、真言を唱えて気配を消す…座って内観に入り気配を探ると、村の廻りで9匹…村の中で5匹を感知する。
まずいな…先に廻りの奴らを斬って、死骸の臭いで中の奴らを誘き出すか。
「ノウボウ・タリツ・タボリツ・ハラボリツ・シャキンメイ・シャキンメイ・タラサンダン・オエンビ・セン! 」
左手で道剣を持ち、右手の指二本を刀身の腹に当てて天神大元帥の真言を唱え、その剛剣力を借り受けて退魔の刀身に乗せる…縮地走術で走りながら9匹を斬った。
そのまま茂みに隠れて座り様子を観ていると、二時ほどで村の中の5匹が臭いに釣られて出て来た。
そいつらが完全に村から出て来て、死骸に覆い被さろうとする刹那で頸と腋の動脈を斬る…今夜はこんなものか。
さっき沐浴した沢にまた寄って、冷たいが我慢して体を洗う…服を着直して剣の手入れも終え、寝床を作った泉まで戻った。
夜明けまでは二時ほどか…雲行きと風の香りで観る限り、明日か明日の夜は雨だな…夜が明け切ったらミリエラの家に寄ろう…そう思いながら寝床に身を横たえて眠った。
目覚めると、昼まで三時ほどだった。体をよく動かして温める…寝床を整えて簡単に作った屋根に葉を乗せ、露が浸みないようにする。
ミリエラの家に行く前、辻に生えている木の幹に打ち付けた板を観に寄ったが…まだ何も無かった。
ミリエラの家に行ってドアを軽く叩く…ドアを開けてキトルが顔を出した。
「…よう、姉ちゃんはいるかい? 」
「…いるよ。仕事してるけど…」
「…ちょっと、呼んでくれるかい? 」
そう言うと、引っ込んで呼びに行った…ミリエラはすぐに出て来た…仕事着かな?…を着て俺が右手に握らせた魔除けの首飾りを着けている。
「…やあ、ミリエラ。調子はどうだい? 」
「…うん…好いよ。おとついは助けてくれてありがとう…」
「…好いってことよ…言ったかも知れないし聞いたかも知れないけど、ここと隣の村で夜中にうろつき回っている魔物共を粗方片付けるまで、俺はこの辺りにいるからな…分かってるとは思うが、日が沈んだら外には出るなよ…魔物退治は夜にやるから、薪集めとか薪割とかやる事はあるかい? 」
「…ちょっと待って…母さんに訊いてくる…」
一度戻ったミリエラが、母親と話して戻って来る。
「…薪はあるから薪割を頼みたいって…裏で出来るよ…」
「…分かった。すぐに終わるからな…キトル、釣り竿はあるかい? 」
「…あるけど? 」
「…薪割が終わったら、釣りに行こう。釣り方を教えてやるよ…」
それから一時で薪割は終えた。動剣の素振り千回に比べれば何でもない。
キトルが持って来た釣り竿を調整して仕掛けを作る…釣り餌を作ってキトルに連れられ、近くの沢に入る。
キトルの父ちゃんは魚釣りを教える前に、魔物に殺されたそうだ。
沢の中でのポイントの見つけ方、気配を殺した歩き方、撒き餌のやり方、当たりに対する合わせ方…それらを教えながら三時ほど釣りを続けて、36尾の釣果で戻ったんだが…おっかさんには大層喜ばれた。
おっかさんの名前はマルセラと言った。おっかさんの勧めで遅めの昼飯をご馳走になり、それからの二時で畑仕事を手伝う…鍬振りも結構好い鍛錬になる。
井戸の水を浴びさせて貰って休んでいる間に、ミリエラが俺の服を洗濯してくれた。
刃物砥ぎの砥石を借りて銀砂を塗し、服が乾くまで道剣を砥いだ…乾いた服を着直すと気分が上がる。
最後に火種を3つ拵えてキトルに持たせた。
「…ミリエラ…この辺りをうろつく魔物を粗方片付けるにゃ、ひと月ぐらいはかかるだろう…終えたらこの家と村の周りに隠形結界を張るから、きれいな塩を用意しといてくれ…それが終わったら他の村に行くから、悪いけどその首飾りは返してくれな…それは俺のお師さんが出立の門出にくれたものだからさ…心配すんなよ…魔物退治と掃除を終えたら、その先10年は安心して暮らせる…でも夜は外に出るなよ…それじゃあな…俺に何か用があったら辻の木に板を打ち付けてあるから、そこに手紙でも挟んでくれ…みんなでマルセラ母ちゃんを助けてやれよ…」
そう言い置いて鞘に収めた道剣を腰の左に差し、物入袋を右腰に吊るし、ケープを羽織って外に出た…日没まで、あと二時ほどだ。
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