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ファースト・シーズン
初週2日目。3月1日(日)モーニング・タイム
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艦内標準時05:30にセットしたモーニング・アラームが鳴り響く。昨夜はシエナ副長にマッサージの施術を行い、かなり疲れてはいたのだが眠りに落ちた時刻が早かったお陰か、アラーム3回目で覚醒した。
パジャマと下着を脱いで置き、バスルームに入り熱めのシャワーを浴びて身体を温めると同時に、眠気を完全に払う。今はモーニング・タイムだ。デイ・タイムは08:00から始まる。だから今は、モーニング・シフトのクルーが配置に就いている。デイ・シフトのクルーは08:00迄に朝食を摂って配置に就かなければならない。
よく身体を温めて洗い、髭も剃り上げて出る。手早く拭き上げて服を着る。床に座具を置いて座り、40分間瞑想を実践して自分の身体と心と心の中心を観察した。うん、自分の心身に於いては異常も懸念も無い。今日も自分自身を充全に発揮できる。コーヒーはバーラウンジで飲む事にしてデスクに着くと灰皿とライターを用意し、プレミアム・シガレットを取り出すとコンピューターに空調の強化を命じて1本を咥えると点けた。
ゆっくりと喫い、蒸して燻らせて馨りを楽しむ。今日は確か、ミア・カスバートの誕生日だ。観測分析ラボで分析スタッフの1人として就任して貰っている彼女は、今日で24才になる。今夜の夕食の時に誕生会を開いて祝ってやろう。そう考えながらプレミアム・シガレットの喫煙を楽しみ、その後の8分間で喫い終ったので揉み消して片付けて灰皿を洗って拭いて仕舞った。
ゲームフィールド内専用携帯端末を出して、副長の端末に通話要請を送る。コール15回で繋がった。
「…おはよう、シエナ副長。アドルだ。大丈夫かな? 」
「…あ…はあっ! あ、お、おはようございます! アドル艦長! 大丈夫です! 早いですね…」
「…大丈夫なら、好いんだけどね。女優は朝に強いんじゃなかったのかな? 」
「…あ、はっ、申し訳ありません…昨夜はちょっと…」
「…(笑)分かっているよ。昨夜はお疲れさんだったね。ところで今日はミア・カスバートの誕生日なんだけど、分かるかい? 」
「…ミア・カスバート…ああ! 分析ラボの分析スタッフですね! 彼女の誕生日なんですか? 」
「そうなんだよ、だから今夜の夕食時に誕生会を開催して祝ってやりたいんだ。だから、朝食の前にその件について協議したい。参謀・カウンセラー・補給支援部長・観測室長・生活環境支援部長・保安部長・チーフ・リントハートとマエストロ・ラウレンティスにも連絡を執って、バーラウンジでコーヒータイムとしよう。好いかな? 」
「…了解しました。全員と連絡を執ってラウンジに集合して貰います。他にはございますか? 」
「いや、今の処は無いよ。私は先にラウンジに入っているから、早目に頼むな? それじゃ、後でな? 」
「了解しました。また後で…」
通話を切り上げて、端末をポケットに仕舞う。ジャケットの上着を着込んで艦長の襟章に触れる。鏡に映して全体を確認してから、再度髪型を整えて自室を出る。
バーラウンジに入る迄に、3人のクルーとすれ違って挨拶を交わす。ラウンジに入ると客席に座っているクルーは3人だけだった。まだ朝も早い。右手を挙げてそのままと促し、カウンターに着く。
サポートバーテンダーとして就任してくれているライル・アルバート君が、エプロンで手を拭きながら出て来てくれる。
「お早うございます、アドル艦長。早いですね。コーヒーを差し上げましょうか? 」
「うん、ちょっと深めに点てて淹れてくれ。香りを立ててな。砂糖はひとつで頼む。ライル君も早いじゃないか…」
「モーニング・シフトですからね。デイ・タイムが始まれば、休ませて頂きますよ。待ち合わせですか? 」
「ああ、ちょっと朝食の前に協議したい事があってね。メンバーが集まったらテーブルに移るよ。こいつを飲み終わったら、また同じものを頼む…」
「畏まりました。ごゆっくり…」
そう応えながら熱いお絞りを渡してくれて、彼はバックに退がった。
お絞りを拡げて少し冷ましつつ手を丹念に拭いながら出入口を見遣ると、ちょうどマスターバーテンダーのカーステン・リントハートと、マエストロ・サルヴァトーレ・ラウレンティス料理長が連れ立って入って来たから笑顔で左手を挙げて見せる。
「やあ、おふたりともお早うございます。朝早くからご足労頂きまして、ありがとうございます。デイ・タイムまでまだ時間がありますが協議したい事がありまして、お声掛けさせて頂きました。そちらのテーブルに陣取りましょう…」
そう言ってカウンター席から立ち、程近いテーブルに移る。2人とも同じテーブルに着いた。
「…お早うございます、アドル艦長…先程シエナ副長から連絡を貰いましてね。急ぎの用件で協議したい事があるからとの事だったのですが、まだシエナ副長はいらっしゃいませんね? 」
と、ラウレンティス料理長がちょっと見渡しながら訊く。
「申し訳ありません。昨夜は少し遅くまでバタバタしておりましたので。もうすぐ来ると思います。私も先程来たばかりでして、今はライル君の淹れてくれるコーヒーを待っている処です」
「いや、昨日は6隻を相手にして勝利を収める大奮闘でしたからね。ブリッジの皆さんは、相当にお疲れでしょう。シエナ副長直々のお声掛けですし、待ちますよ…」
と、チーフ・リントハートは笑顔で応える。その時に、ライル君がコーヒーを持って来てくれた。
「…お待ち遠さまでした…あ、お早うございます。チーフ…マエストロ…」
「お早う、ライル。僕にもコーヒーを頼むよ。ブラックでね? 」
「わしにも頼む。砂糖ひとつでな? 」
「畏まりました。只今お持ちします」
一礼を施してライル君は退がる。その時に彼女達が連れ立って入って来た。
「…お早うございます💦お待たせしてしまいまして、申し訳ありません💦朝早くからおいで頂きまして、ありがとうございます💦」
シエナ・ミュラーが申し訳なさそうに頭を下げて、私の右隣に座る。他のメンバーも朝の挨拶と共に遅れた事を謝罪した。ハル・ハートリー参謀はチーフの右隣に座り、ハンナ・ウェアーは私の左隣に座り、マレット・フェントン補給支援部長は、マエストロ・ラウレンティスの右隣に。パティ・シャノン観測室長はチーフの左隣に。ミーシャ・ハーレイ生活環境支援部長は、マエストロの左隣に。フィオナ・コアー保安部長はカウンセラーの左隣に座った。
私はコーヒーに一口を付けて立ち上がる。
「皆さん、お早うございます。お集まり頂きまして、ありがとうございます。朝早くからお呼び立てしまして、申し訳ありません。早速ですが、パティ・シャノン観測室長の許で分析スタッフとして就任して貰っているミア・カスバート女史が、本日誕生日を迎えまして24才になられます。ですので本日の夕食時に於いて彼女の誕生会を開催し、『ディファイアント』全体として祝いたいと思います。ついてはマレット・フェントン補給支援部長を実行委員長として実行委員会を結成しますので、ご協力を願います。これが先ず1点…パティ観測室長、ミア嬢は自分の誕生日について最近言及していたかな? 」
そう訊いて座り、二口飲む。
「いいえ、私に聴こえる範囲内では、話しておりません」
「分かりました。それではこの企画、ミア嬢に対してはサプライズと言う事にして進めます。出来得る限り彼女の耳に入らないよう、ご配慮を願います。これよりは実行委員会に、企画・準備・運営・進行を一任します。厨房の皆さんには、今夜のバースデー・メニューとバースデー・ケーキの調理・製作をお願いします。バー・カウンターの皆さんには、今日に因んだバースデー・カクテルを含めて、様々な飲み物の手配をお願いします。私はギターを艦内に持ち込んでおりますので、バースデー・ソングの弾き語りや演奏・伴奏等に於いても、協力は惜しみません。更にこの実行委員会は、全クルーに於ける誕生日祝賀実行委員会として存続し、活動を継続させます。ついては全クルーに於ける誕生日の把握をお願いします。直近で申し上げれば、3月8日がモアナ・セレン。15日がアン・ピューシー。22日がエラ・ホール。29日がラニ・リーの誕生日です。今は取り敢えずこのメンバーにお集まり頂きましたが、実行委員は幾ら増やしても構いません。本人の耳に入らなければね(笑)…ここまでで、質問は? 」
そう訊いて、また二口飲んだ。
「…アドル艦長…質問ではありませんが、貴方は本当に素晴らしい方だ…分かりました。実は私、このようなサプライズが大好きでしてね…喜んで協力させて頂きます。ケーキを含めて食べる物は総て厨房にお任せ下さい。どのような要望にも注文にもお応え致します…」
と、マエストロ・ラウレンティス料理長が力強く請け合ってくれる。とても御年58才には観えない。
「カウンター・バーとしても、総てを挙げて協力させて頂きます。私もサプライズは大好きです(笑)メニューに合わせるお酒についてはマエストロともご相談致しますが、その他の飲み物については全面的にお任せ下さい」
チーフ・リントハートも嬉しそうだし、楽しそうだ。
「早くも今夜、アドル艦長の歌とギターが聴けるなんて幸せです」
ハンナ・ウェアーがそう言うと、他の女性メンバー達も笑顔で頷く。
「アドル艦長、ステージの下にグランド・ピアノが収納されていますので、ピアノの弾き語りもお願いします♡」
と、ミーシャ・ハーレイが可愛らしく言う。やっぱり言われたな。
「ピアノは長い間弾いてないからさ…多分間違えるよ」
そう応えて、最初のコーヒーを飲み干した。
「間違っても気にならないくらいの楽しい曲でお願いします♡」
「グダグダになっても笑うなよ♡? 」
「私達がアドルさんの事を笑う訳が無いじゃないですか(笑)」
マレット・フェントンに笑顔で言われると、腹を括るしかない。
「分かった。やってみるよ(笑)」
ここまでの遣り取りの間で、全員の前に飲み物が届けられている。私の前にも、2杯目のコーヒーが置かれた。
「…『ミーアス・クロス』と『リアン・ビッシュ』にも手伝って貰おう。今回は特に準備時間が短いから。だから私も頑張ってピアノを弾くよ…」
「そうですね。ありがとうございます。私達も手早く動いて準備します。彼女達へは私から連絡します」
と、シエナ・ミュラーが後を引き取って言う。
「宜しく頼む。それじゃ、こんな処で好いかな? 他に無ければこれで終わって朝食にしよう。皆、ありがとう。食べながらでも何か思い付いたら、その場で言って下さい…そうだ…せっかく初日の戦闘で6隻と戦って勝った訳ですから、今夜の誕生祝賀会はその祝勝会も兼ねて行いましょう。と言っても私が最初にスピーチをするでしょうから、『ディファイアント』の初日勝利を祝してと言う意味でと、ミア・カスバート嬢の誕生日を祝賀するという意味での話をした後で、私が乾杯の音頭を執ります…それを祝賀会のスタートとしましょう…それでプログラムがスタートしますが、歓談の内容は自由に、と言う事にしましょう…」
私がそう言うと、ちょうど通り掛かったサポート・クルーのマルト・ケラーに、チーフ・リントハートがモーニング・メニューを頼んだ。
「…アドル艦長…つくづく貴方は素晴らしい方ですな…それで今日は、何が起きるのでしょうかな? 」
マエストロがカップをソーサーに置いて訊く。心なしか思い掛けないサプライズ・アクシデントに期待しているようだ。
「…さあ…分かりませんね。昨日の戦いは私にも意外でしたが、最初のチャレンジ・ミッションでしたので、あのような結果になりましたが、いずれにせよこれ程に広大なゲーム・フィールドの中では、滅多に他艦とは出遭わないでしょうから、取り敢えず単艦でできる訓練を行います…その中で何かを感知したなら、その都度に対応します…」
マルト・ケラーがモーニング・メニューを持って来て配ってくれる。私は2杯目のコーヒーを二口飲んで、メニューの中からコンビネーション・モーニングセットのAを頼む。他のメンバーも思い思いに朝食メニューを頼んだ。
「…アドルさん…貴方のように選ばれた他の19人の艦長達と、出遭えるのでしょうか? 」
チーフ・リントハートがコーヒーを飲み干して訊いた。
「…ええ、いずれは出遭うでしょうし…出遭うように仕向けられるでしょう…そうでないと、配信番組が面白くならないでしょうからね…まあ番組が配信されれば、私の他に誰が選ばれているのかくらいは判りますよ…」
「…マエストロ…もしかしたら昨日の戦いは、ファースト・チャレンジミッションのファースト・ステージであって、今日はセカンド・ステージがあるかも知れません…油断しないで行きましょう…」
そう言って、もう一口コーヒーを飲んだ。
「…アドル艦長、私達は単艦にて実行し得る訓練プログラムプランを詳細に設定して開幕に臨みました…ですが予想外のチャレンジミッションと、その後に強いられた補給作業と戦闘とで大幅に時間を費やす事になり、ナイト・タイムに入る前まで訓練を行いましたが、chapter6を反復するまでで終わっています…まだ手を付けていない訓練分野もありますし、このゲームフィールド内で過ごせるのも今日を含めて後3日ですから、出来れば8時間から10時間は集中して訓練に取り組みたいものです…ので、セカンド・ステージでなく他艦を感知した場合にはスルーされるように、意見具申します…」
ハル・ハートリー参謀がそう言い終わる頃合いで、それぞれに朝食のメニューが配られる。ミルクとオレンジ・ジュースを追加で頼んでから、彼女に顔を向ける。
「うん、それで好いと思うよ。ハル参謀…センサーの感知範囲に他艦が現れたとしても、それが2隻迄だったらセカンド・ステージとは判断しない…3隻が現れたら、セカンド・ステージと判断する…」
「ありがとうございます、アドル艦長…私もその判断を支持致します…」
「ありがとう、ハル参謀…」
「艦長…シャトルの操縦訓練にも、早期に取り組むべきですわね? 」
と、ハンナ・ウェアーが食べながら言う。さすがだな…。
「そうなんだよ。それも非常に重要だ。副長、デイ・タイムに移行したら出来れば20名を選抜して、シミュレーション訓練に投入しよう。ミスタンテ機関部長に連絡して、シミュレーション・ポッドカプセルの事前点検を…」
「分かりました。食べ終わったら、直ぐに連絡します」
「頼むよ」
その後は誰も口を開く事無く朝食に取り組み、25分ほどで食べ終えた。オレンジ・ジュースを飲み干してグラスを置き、ナプキンで口を拭う。
「…それでは皆さん…開幕2日目ですが、今日も元気にいきましょう…」
そう言って私が立ち上がると、皆も続いて立ち上がる。食器を厨房の返却口に返してラウンジを後にした。
デイ・タイムに移行するまで40分。自室で一服して休もう。
パジャマと下着を脱いで置き、バスルームに入り熱めのシャワーを浴びて身体を温めると同時に、眠気を完全に払う。今はモーニング・タイムだ。デイ・タイムは08:00から始まる。だから今は、モーニング・シフトのクルーが配置に就いている。デイ・シフトのクルーは08:00迄に朝食を摂って配置に就かなければならない。
よく身体を温めて洗い、髭も剃り上げて出る。手早く拭き上げて服を着る。床に座具を置いて座り、40分間瞑想を実践して自分の身体と心と心の中心を観察した。うん、自分の心身に於いては異常も懸念も無い。今日も自分自身を充全に発揮できる。コーヒーはバーラウンジで飲む事にしてデスクに着くと灰皿とライターを用意し、プレミアム・シガレットを取り出すとコンピューターに空調の強化を命じて1本を咥えると点けた。
ゆっくりと喫い、蒸して燻らせて馨りを楽しむ。今日は確か、ミア・カスバートの誕生日だ。観測分析ラボで分析スタッフの1人として就任して貰っている彼女は、今日で24才になる。今夜の夕食の時に誕生会を開いて祝ってやろう。そう考えながらプレミアム・シガレットの喫煙を楽しみ、その後の8分間で喫い終ったので揉み消して片付けて灰皿を洗って拭いて仕舞った。
ゲームフィールド内専用携帯端末を出して、副長の端末に通話要請を送る。コール15回で繋がった。
「…おはよう、シエナ副長。アドルだ。大丈夫かな? 」
「…あ…はあっ! あ、お、おはようございます! アドル艦長! 大丈夫です! 早いですね…」
「…大丈夫なら、好いんだけどね。女優は朝に強いんじゃなかったのかな? 」
「…あ、はっ、申し訳ありません…昨夜はちょっと…」
「…(笑)分かっているよ。昨夜はお疲れさんだったね。ところで今日はミア・カスバートの誕生日なんだけど、分かるかい? 」
「…ミア・カスバート…ああ! 分析ラボの分析スタッフですね! 彼女の誕生日なんですか? 」
「そうなんだよ、だから今夜の夕食時に誕生会を開催して祝ってやりたいんだ。だから、朝食の前にその件について協議したい。参謀・カウンセラー・補給支援部長・観測室長・生活環境支援部長・保安部長・チーフ・リントハートとマエストロ・ラウレンティスにも連絡を執って、バーラウンジでコーヒータイムとしよう。好いかな? 」
「…了解しました。全員と連絡を執ってラウンジに集合して貰います。他にはございますか? 」
「いや、今の処は無いよ。私は先にラウンジに入っているから、早目に頼むな? それじゃ、後でな? 」
「了解しました。また後で…」
通話を切り上げて、端末をポケットに仕舞う。ジャケットの上着を着込んで艦長の襟章に触れる。鏡に映して全体を確認してから、再度髪型を整えて自室を出る。
バーラウンジに入る迄に、3人のクルーとすれ違って挨拶を交わす。ラウンジに入ると客席に座っているクルーは3人だけだった。まだ朝も早い。右手を挙げてそのままと促し、カウンターに着く。
サポートバーテンダーとして就任してくれているライル・アルバート君が、エプロンで手を拭きながら出て来てくれる。
「お早うございます、アドル艦長。早いですね。コーヒーを差し上げましょうか? 」
「うん、ちょっと深めに点てて淹れてくれ。香りを立ててな。砂糖はひとつで頼む。ライル君も早いじゃないか…」
「モーニング・シフトですからね。デイ・タイムが始まれば、休ませて頂きますよ。待ち合わせですか? 」
「ああ、ちょっと朝食の前に協議したい事があってね。メンバーが集まったらテーブルに移るよ。こいつを飲み終わったら、また同じものを頼む…」
「畏まりました。ごゆっくり…」
そう応えながら熱いお絞りを渡してくれて、彼はバックに退がった。
お絞りを拡げて少し冷ましつつ手を丹念に拭いながら出入口を見遣ると、ちょうどマスターバーテンダーのカーステン・リントハートと、マエストロ・サルヴァトーレ・ラウレンティス料理長が連れ立って入って来たから笑顔で左手を挙げて見せる。
「やあ、おふたりともお早うございます。朝早くからご足労頂きまして、ありがとうございます。デイ・タイムまでまだ時間がありますが協議したい事がありまして、お声掛けさせて頂きました。そちらのテーブルに陣取りましょう…」
そう言ってカウンター席から立ち、程近いテーブルに移る。2人とも同じテーブルに着いた。
「…お早うございます、アドル艦長…先程シエナ副長から連絡を貰いましてね。急ぎの用件で協議したい事があるからとの事だったのですが、まだシエナ副長はいらっしゃいませんね? 」
と、ラウレンティス料理長がちょっと見渡しながら訊く。
「申し訳ありません。昨夜は少し遅くまでバタバタしておりましたので。もうすぐ来ると思います。私も先程来たばかりでして、今はライル君の淹れてくれるコーヒーを待っている処です」
「いや、昨日は6隻を相手にして勝利を収める大奮闘でしたからね。ブリッジの皆さんは、相当にお疲れでしょう。シエナ副長直々のお声掛けですし、待ちますよ…」
と、チーフ・リントハートは笑顔で応える。その時に、ライル君がコーヒーを持って来てくれた。
「…お待ち遠さまでした…あ、お早うございます。チーフ…マエストロ…」
「お早う、ライル。僕にもコーヒーを頼むよ。ブラックでね? 」
「わしにも頼む。砂糖ひとつでな? 」
「畏まりました。只今お持ちします」
一礼を施してライル君は退がる。その時に彼女達が連れ立って入って来た。
「…お早うございます💦お待たせしてしまいまして、申し訳ありません💦朝早くからおいで頂きまして、ありがとうございます💦」
シエナ・ミュラーが申し訳なさそうに頭を下げて、私の右隣に座る。他のメンバーも朝の挨拶と共に遅れた事を謝罪した。ハル・ハートリー参謀はチーフの右隣に座り、ハンナ・ウェアーは私の左隣に座り、マレット・フェントン補給支援部長は、マエストロ・ラウレンティスの右隣に。パティ・シャノン観測室長はチーフの左隣に。ミーシャ・ハーレイ生活環境支援部長は、マエストロの左隣に。フィオナ・コアー保安部長はカウンセラーの左隣に座った。
私はコーヒーに一口を付けて立ち上がる。
「皆さん、お早うございます。お集まり頂きまして、ありがとうございます。朝早くからお呼び立てしまして、申し訳ありません。早速ですが、パティ・シャノン観測室長の許で分析スタッフとして就任して貰っているミア・カスバート女史が、本日誕生日を迎えまして24才になられます。ですので本日の夕食時に於いて彼女の誕生会を開催し、『ディファイアント』全体として祝いたいと思います。ついてはマレット・フェントン補給支援部長を実行委員長として実行委員会を結成しますので、ご協力を願います。これが先ず1点…パティ観測室長、ミア嬢は自分の誕生日について最近言及していたかな? 」
そう訊いて座り、二口飲む。
「いいえ、私に聴こえる範囲内では、話しておりません」
「分かりました。それではこの企画、ミア嬢に対してはサプライズと言う事にして進めます。出来得る限り彼女の耳に入らないよう、ご配慮を願います。これよりは実行委員会に、企画・準備・運営・進行を一任します。厨房の皆さんには、今夜のバースデー・メニューとバースデー・ケーキの調理・製作をお願いします。バー・カウンターの皆さんには、今日に因んだバースデー・カクテルを含めて、様々な飲み物の手配をお願いします。私はギターを艦内に持ち込んでおりますので、バースデー・ソングの弾き語りや演奏・伴奏等に於いても、協力は惜しみません。更にこの実行委員会は、全クルーに於ける誕生日祝賀実行委員会として存続し、活動を継続させます。ついては全クルーに於ける誕生日の把握をお願いします。直近で申し上げれば、3月8日がモアナ・セレン。15日がアン・ピューシー。22日がエラ・ホール。29日がラニ・リーの誕生日です。今は取り敢えずこのメンバーにお集まり頂きましたが、実行委員は幾ら増やしても構いません。本人の耳に入らなければね(笑)…ここまでで、質問は? 」
そう訊いて、また二口飲んだ。
「…アドル艦長…質問ではありませんが、貴方は本当に素晴らしい方だ…分かりました。実は私、このようなサプライズが大好きでしてね…喜んで協力させて頂きます。ケーキを含めて食べる物は総て厨房にお任せ下さい。どのような要望にも注文にもお応え致します…」
と、マエストロ・ラウレンティス料理長が力強く請け合ってくれる。とても御年58才には観えない。
「カウンター・バーとしても、総てを挙げて協力させて頂きます。私もサプライズは大好きです(笑)メニューに合わせるお酒についてはマエストロともご相談致しますが、その他の飲み物については全面的にお任せ下さい」
チーフ・リントハートも嬉しそうだし、楽しそうだ。
「早くも今夜、アドル艦長の歌とギターが聴けるなんて幸せです」
ハンナ・ウェアーがそう言うと、他の女性メンバー達も笑顔で頷く。
「アドル艦長、ステージの下にグランド・ピアノが収納されていますので、ピアノの弾き語りもお願いします♡」
と、ミーシャ・ハーレイが可愛らしく言う。やっぱり言われたな。
「ピアノは長い間弾いてないからさ…多分間違えるよ」
そう応えて、最初のコーヒーを飲み干した。
「間違っても気にならないくらいの楽しい曲でお願いします♡」
「グダグダになっても笑うなよ♡? 」
「私達がアドルさんの事を笑う訳が無いじゃないですか(笑)」
マレット・フェントンに笑顔で言われると、腹を括るしかない。
「分かった。やってみるよ(笑)」
ここまでの遣り取りの間で、全員の前に飲み物が届けられている。私の前にも、2杯目のコーヒーが置かれた。
「…『ミーアス・クロス』と『リアン・ビッシュ』にも手伝って貰おう。今回は特に準備時間が短いから。だから私も頑張ってピアノを弾くよ…」
「そうですね。ありがとうございます。私達も手早く動いて準備します。彼女達へは私から連絡します」
と、シエナ・ミュラーが後を引き取って言う。
「宜しく頼む。それじゃ、こんな処で好いかな? 他に無ければこれで終わって朝食にしよう。皆、ありがとう。食べながらでも何か思い付いたら、その場で言って下さい…そうだ…せっかく初日の戦闘で6隻と戦って勝った訳ですから、今夜の誕生祝賀会はその祝勝会も兼ねて行いましょう。と言っても私が最初にスピーチをするでしょうから、『ディファイアント』の初日勝利を祝してと言う意味でと、ミア・カスバート嬢の誕生日を祝賀するという意味での話をした後で、私が乾杯の音頭を執ります…それを祝賀会のスタートとしましょう…それでプログラムがスタートしますが、歓談の内容は自由に、と言う事にしましょう…」
私がそう言うと、ちょうど通り掛かったサポート・クルーのマルト・ケラーに、チーフ・リントハートがモーニング・メニューを頼んだ。
「…アドル艦長…つくづく貴方は素晴らしい方ですな…それで今日は、何が起きるのでしょうかな? 」
マエストロがカップをソーサーに置いて訊く。心なしか思い掛けないサプライズ・アクシデントに期待しているようだ。
「…さあ…分かりませんね。昨日の戦いは私にも意外でしたが、最初のチャレンジ・ミッションでしたので、あのような結果になりましたが、いずれにせよこれ程に広大なゲーム・フィールドの中では、滅多に他艦とは出遭わないでしょうから、取り敢えず単艦でできる訓練を行います…その中で何かを感知したなら、その都度に対応します…」
マルト・ケラーがモーニング・メニューを持って来て配ってくれる。私は2杯目のコーヒーを二口飲んで、メニューの中からコンビネーション・モーニングセットのAを頼む。他のメンバーも思い思いに朝食メニューを頼んだ。
「…アドルさん…貴方のように選ばれた他の19人の艦長達と、出遭えるのでしょうか? 」
チーフ・リントハートがコーヒーを飲み干して訊いた。
「…ええ、いずれは出遭うでしょうし…出遭うように仕向けられるでしょう…そうでないと、配信番組が面白くならないでしょうからね…まあ番組が配信されれば、私の他に誰が選ばれているのかくらいは判りますよ…」
「…マエストロ…もしかしたら昨日の戦いは、ファースト・チャレンジミッションのファースト・ステージであって、今日はセカンド・ステージがあるかも知れません…油断しないで行きましょう…」
そう言って、もう一口コーヒーを飲んだ。
「…アドル艦長、私達は単艦にて実行し得る訓練プログラムプランを詳細に設定して開幕に臨みました…ですが予想外のチャレンジミッションと、その後に強いられた補給作業と戦闘とで大幅に時間を費やす事になり、ナイト・タイムに入る前まで訓練を行いましたが、chapter6を反復するまでで終わっています…まだ手を付けていない訓練分野もありますし、このゲームフィールド内で過ごせるのも今日を含めて後3日ですから、出来れば8時間から10時間は集中して訓練に取り組みたいものです…ので、セカンド・ステージでなく他艦を感知した場合にはスルーされるように、意見具申します…」
ハル・ハートリー参謀がそう言い終わる頃合いで、それぞれに朝食のメニューが配られる。ミルクとオレンジ・ジュースを追加で頼んでから、彼女に顔を向ける。
「うん、それで好いと思うよ。ハル参謀…センサーの感知範囲に他艦が現れたとしても、それが2隻迄だったらセカンド・ステージとは判断しない…3隻が現れたら、セカンド・ステージと判断する…」
「ありがとうございます、アドル艦長…私もその判断を支持致します…」
「ありがとう、ハル参謀…」
「艦長…シャトルの操縦訓練にも、早期に取り組むべきですわね? 」
と、ハンナ・ウェアーが食べながら言う。さすがだな…。
「そうなんだよ。それも非常に重要だ。副長、デイ・タイムに移行したら出来れば20名を選抜して、シミュレーション訓練に投入しよう。ミスタンテ機関部長に連絡して、シミュレーション・ポッドカプセルの事前点検を…」
「分かりました。食べ終わったら、直ぐに連絡します」
「頼むよ」
その後は誰も口を開く事無く朝食に取り組み、25分ほどで食べ終えた。オレンジ・ジュースを飲み干してグラスを置き、ナプキンで口を拭う。
「…それでは皆さん…開幕2日目ですが、今日も元気にいきましょう…」
そう言って私が立ち上がると、皆も続いて立ち上がる。食器を厨房の返却口に返してラウンジを後にした。
デイ・タイムに移行するまで40分。自室で一服して休もう。
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そんなある日、知人の研究者・竹戸瀬レネから研究手伝いのバイトの誘いを受ける。月面ローバーを使って地下の量子コンピューターから、あるデータを地球に持ち帰ってきて欲しいという。ユキは二つ返事でOKするも、相変わらず優柔不断のキョウカ。先輩に贈る月面望遠鏡の観測時間を条件に、バイトへの協力を決める。
理科部「夜隊」として入部したキョウカは、夜な夜な理科室に来てはユキとともに課題に取り組んだ。他のメンバー3人はそれぞれに忙しく、ユキと2人きりになることも多くなる。親との喧嘩、スバルの誕生日会、1学期の打ち上げ、夏休みの合宿などなど、絆を深めてゆく夜隊5人。
競うように訓練したAIプログラムが研究所に正式採用され大喜びする頃には、キョウカは数ヶ月のあいだ苦楽をともにしてきたユキを、とても大切に思うようになっていた。打算で始めた関係もこれで終わり、と9月最後の日曜日にデートに出かける。泣きながら別れた2人は、月にあるデータを地球に持ち帰る方法をそれぞれ模索しはじめた。
5年前の事故と月に取り残された脳情報。迫りくるデータ削除のタイムリミット。望遠鏡、月面ローバー、量子コンピューター。必要なものはきっと全部ある――。レネの過去を知ったキョウカは迷いを捨て、走り出す。
皆既月食の夜に集まったメンバーを信じ、理科部5人は月からのデータ回収に挑んだ――。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ヒトの世界にて
ぽぽたむ
SF
「Astronaut Peace Hope Seek……それが貴方(お主)の名前なのよ?(なんじゃろ?)」
西暦2132年、人々は道徳のタガが外れた戦争をしていた。
その時代の技術を全て集めたロボットが作られたがそのロボットは戦争に出ること無く封印された。
そのロボットが目覚めると世界は中世時代の様なファンタジーの世界になっており……
SFとファンタジー、その他諸々をごった煮にした冒険物語になります。
ありきたりだけどあまりに混ぜすぎた世界観でのお話です。
どうぞお楽しみ下さい。
NPCが俺の嫁~リアルに連れ帰る為に攻略す~
ゆる弥
SF
親友に誘われたVRMMOゲーム現天獄《げんてんごく》というゲームの中で俺は運命の人を見つける。
それは現地人(NPC)だった。
その子にいい所を見せるべく活躍し、そして最終目標はゲームクリアの報酬による願い事をなんでも一つ叶えてくれるというもの。
「人が作ったVR空間のNPCと結婚なんて出来るわけねーだろ!?」
「誰が不可能だと決めたんだ!? 俺はネムさんと結婚すると決めた!」
こんなヤバいやつの話。
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