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ファースト・シーズン

全速離脱…そして…しかし…

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 エンジンを停止して光学迷彩を展開した『ディファイアント』がアポジモーターを起動して変針を開始する。

 取舵で25°、アップピッチで12°切る。

 徐々に切って行ったので、方位転換には20秒掛かった。

 追尾艦4隻に方位転換を察知された気配は観えない。

 察知していてワザとコースを変えない可能性も僅かにはあるが、それならそれでこちらの思うツボだ。彼等はこちらの経験値が上がっている事は知らない。

 おそらく彼等がこちらの頭を本格的に押さえに掛かるのは、補給艦から第5戦闘距離以上に離れてからだろう。

 一応補給艦から第3戦闘距離の範囲内は、絶対戦闘禁止宙域に指定されている。

 だが標的を外したミサイルやビームがその範囲内に流れ込めば撃った艦の参加資格は即座に剥奪されるし、宙域の境界を掠めただけでも莫大な罰金が請求される。

「第1戦闘ラインを越えて30秒…第2戦闘ラインを越えるまで40秒です」

「コース、速度、そのままで…」

「了解」

「反転してこいつらを叩いて離脱したら、大体夕食時になるのかな?  」

「さあ…どうでしょう?  」

 シエナ・ミュラーの顔を見遣ると、彼女も私の顔を観返して微笑む。彼女の右手を左手で握ると彼女も握り返して来る。だが数秒で放した。

「第2戦闘ラインを越えました。第3戦闘ラインまで50秒です」

「ロケット・アンカー、目標岩塊に向けて発射用意」

「用意よし」

「発射7秒前、5、4、3、2、1、発射!  」

「発射しました!  到達まで10秒!  」

「到達したら、全力でワイヤー収納!  」

「了解!  」

「離脱はできるさ。問題はどこで反転するか、だな…」

「アンカー到達!  」

「ワイヤー全力収納開始!  」

「了解! 」

「パイロットチームには、また艦体の姿勢制御を頼む! 岩塊に近付く程艦体は高速で大きくスライドする! デプリに接触すると磁気反応の揺らぎを感知されて、追尾艦に気付かれる! 大変だと思うがやってくれ! 」

「了解! 」

「岩塊までの距離は?  」

「650mです」

「200mでアンカー抜錨ばつびょうして回収。その後10数秒で第3戦闘ラインの向う側に抜ける。そうしたら、エンジン始動だ」

「了解!  」

 アンカーワイヤーが展張して『ディファイアント』は岩塊に艦首を向けたまま大きく艦体をスライドさせながら高速で変針していく。パイロットチームの3人は、30本の指を目にも留まらぬ程の速さで走らせて操舵パネルを操作し、艦体に細かい姿勢制御を施し続ける。3人でないととても処理し切れないように観える。次に経験値が付与されたら、操舵パネルの操作性能を向上させよう。

「200mまで10秒!  カウントダウン、入ります!  」

「抜錨用意!  」

「了解!  用意良し!  」

「5、4、3、2、抜錨!  全力回収!  」

「第3戦闘ラインを超えるまで、15秒です! 」

「全エンジン始動用意! 臨界パワー150%へ! 全速・全力発進用意! 」

「了解! …臨界パワー150%へ…到達まで10秒! 全力噴射用意! 」

「第3戦闘ラインを越えるまで、7、6、5、4、3、2、1…越えました! 」

「エンジン始動! 噴射出力130%で全速発進! アフターバーナー点火して、ブースターダッシュ15秒! コース変更、面舵65°、アップピッチ12°! エマ! 追跡艦4隻との距離を、第5戦闘距離の30倍まで引き離してエンジン停止だ! それまで操艦は任せるが、加速は続行する! 」

「分かりました! 」

『ディファイアント』の艦尾メイン・スラスターが爆発的に輝き、蒼い噴射炎を艦体の2倍以上にまで引き延ばして、艦体を前に跳び出させる。ここは勿論撮影セットなのだが、かなりの加速度感が身体をシートに押さえ付けさせるし、全速で『ディファイアント』を走らせるメイン・エンジンの振動が、ブリッジの床からシートを通して私の身体にも響き渡る。

「面舵65°、アップピッチ12°! コースに乗りました! 」

「追跡艦4隻もエンジン始動。全速発進して、こちらに対してのインターセプト・コースを採ります」

「こちらが充分に距離を稼ぐ迄は構わなくて良い。エマ! 進行方位のチャートを長距離・広域で観て、比較的にデプリ密度の高い宙域へとコースを寄せてくれ。徐々にで好いから」

「分かりました! 」

「距離は開いていっているな? 」

「はい! 毎秒で20m程開いていってます。本艦の加速率は、明らかに追跡艦よりも上です! 」

 カリーナ・ソリンスキーが元気好く応える。

「そりゃあ、そうだろう…そうでなくちゃ困るよ…せっかく経験値を積んだんだから…しかし…カウンセラー…楽をして稼ごうと考えているような連中だ。これは追い付けないと観れば、諦めるかな…? 」

「そうですね。その可能性はあるでしょう…」

「そうか。せっかくアタリを取ってもエサを離されたんじゃ、つまらんからな…ここはもう1度撒き餌して、釣り上げちまおうか? 」

「どうするんですか? 艦長…」

 ハル・ハートリーが私の顔を覗き込んで訊く。副長・カウンセラー・参謀補佐・機関部長も私の顔を観ている。

「まあ、演技力が試される処だね…先ずエドナ。ハイパー・ヴァリアント、発射用意。徹甲弾4発を連射でセット。次にリーアが臨界パワーを60%迄に落とす。そうすると推進システムに過負荷が掛かって白煙が出るんだ…システムへのダメージにはならないけどね。同時にエマが15秒、ワザとフラフラ飛んで観せる。その間に噴射出力を50%に迄落とす。そうすれば白煙は止まる。追跡艦がこの演技に釣られて追い縋って来るなら、反転してカウンター・ショットだ。エマがコースを戻したら、噴射停止して全パワーをハイパー・ヴァリアントへ流す。艦首右舷と艦尾左舷のスラスターを同時に噴射して一点回頭を掛け、艦首を追尾艦に向けて軸線に乗せる。そして、エドナ・ラティス砲術長の腕前に頼む。連射で1発ずつ、ヴァリアントを当ててくれ。出来るか? 」

「出来ます」

「好く言った。じゃあ、作戦開始10秒前だ! 」

「了解! 」

「ハイパー・ヴァリアント、発射用意良し! 徹甲弾4本、連射セット完了! 」

「作戦開始5秒前! 3、2、1…」

「エンジン臨界パワー60%! 」

「白煙出ました」

「蛇行航行15秒開始」

「噴射出力、50%迄徐々に低下! 」

『ディファイアント』艦尾排気口からもうもうと白煙が噴き出す。それからエマ・ラトナーが『ディファイアント』を千鳥足のようによろめかせつつ、15秒間走らせる。その間に噴射出力を50%迄落としたので、白煙は止まった。

「追跡艦の様子はどうだ?  」

「加速を掛けてこちらに接近中。距離、第2戦闘距離の84%!  」

「よし、やろう。コース戻せ。減速3%。噴射停止。全パワーをハイパー・ヴァリアントへ。1点回頭。左180°。舷側スラスター同時噴射!  」

「スラスター同時噴射!  回頭します!  」

 艦首右舷と艦尾左舷の舷側スラスターが同時に噴射を始めて、『ディファイアント』が左1点回頭を始める。

 30秒程で回頭が終り、逆噴射を掛けて『ディファイアント』が真後ろを向く。

「パイロットチームは操舵システムへのアクセスと姿勢制御システムへのアクセスを砲術チームに廻してくれ」

「分かりました。お渡しします」

 そう言ってパイロットチームの3人は、同時に操舵パネルから手を離した。

 エドナ・ラティス砲術長とレナ・ライス副砲術長のコントロール・コンソールパネルの手前に、操舵パネルとラダー・コントロール・スティックがせり上がる。

「砲術チーム、頂きました」

 と、レナ・ライスが応えた。

 エドナが15秒を掛けてターゲット・スキャナーを3回絞り込む。レナがパネルの上で指を走らせながら、コントロール・スティックを慎重に操る。

「追跡艦4隻、『ディファイアント』艦首軸線に乗りました」

 と、レナ・ライス。

「4隻の先頭艦に照準セット。以降左1.2°ダウンピッチ0.8°で次撃。右0.9°アップピッチ1.1°で3撃目。左1.4°ダウンピッチ0.4°で4撃目でプログラムセット!  発射します!  」

 そう言ってエドナは絞り込むようにトリガーを引いた。

 ハイパー・ヴァリアント、徹甲弾4発は見事なカウンター・ショットで追跡艦4隻の艦首部分に命中して飛び込み、貫通こそしなかったが艦内を破壊的に引き裂きながら跳ね回った。

「追跡艦全艦に命中!  」

「よ~し、よくやってくれた、エドナ!  これより全速発進して迎撃戦に入る!  全エンジン臨界パワー150%!  噴射出力130%!  全速発進!  ヴァリアントはまた徹甲弾6発を連続装填!  フロントミサイル8門全弾装填、連続斉射用意!  主砲1番から5番と副砲1番、臨界パワー150%、発射出力130%で無制限斉射!  4隻全艦にそれぞれ3連斉射を撃ち込み、正面中央突破で離脱!  その後反転して再度の攻撃を掛ける!  行くぞ!!   」

「了解!  」

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