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セカンド・ゲーム

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 3人でバー・ラウンジに入ると、既にメイン・スタッフの半数が着いている、大きい丸テーブルに歩み寄る。

 ハル・ハートリーの右隣に座ると、シエナがハルの左隣に座って…ハンナが私の右隣に座った。

 既にテーブルの全席には、3種類のお通しと一緒にガスパチョが供されている。

「…おう……今日のお昼はスペインのランチ・コースだね……スペイン料理を頂くのは、実に2年振りぐらいだな……頂きます……」

 3種類のお通しを一つずつ摘んで食べてから、スプーンでガスパチョを掬って食べる……トマトを主材料とするスパイシーな冷製スープだが、新鮮なトマトからの酸味が素晴らしい。

「……旨い……ハルさん……ブリッジには誰が? 」

「……はい……ハンナ・ハーパーとカレン・ウェスコットとエレーナに着いて貰っています……」

「……そう……テイクアウトで何か持って行ってやろうな? 」

「……そうですね……ありがとうございます……」

「……当然だよ……」

 やがて網焼きのソーセージ、トルティージャ・デ・パタタ(ポテトとのオムレツ)、ヤリイカのフライ、薄くスライスされたハモン・セラーノ(豚ロースの生ハム)、豚耳のシチュー、フライドポテト、香り高いクレマカタラーナ、オルチャータ(スペイン・ヨーグルト)と、ライスが中盛りで運ばれて来た。

「……やあ……これはたっぷり食べられるな……改めてウチに来てくれた厨房スタッフの腕がすごいと分かる……こんなに本格的なスペイン料理が、ここで頂けるとはね……これ程のものが食べられるなら、何でも出来そうだし……何でもやらなきゃな、とも思えてくる……そうだ……マドリードでも映画祭が開催されているね……出席した事は? 」

「……スペインでの映画祭はマドリードで3年に1回…バルセロナで2年に1回の間隔で開催されています……私はそれぞれで2回ずつ参加しました……」

 ナプキンで口を拭い、サングリアを二口呑んでハル・ハートリーが応えた。

「……私はマドリードの映画祭だけで…3回出席しました……助演女優賞を1度、頂いています……」

 シエナ・ミュラーは琥珀色の酒を呑んでいる……ワインには観えない。

「……ナンバー・ワン……それは何だい? 」

「……これはシドラと言って、アストゥリアスやバスクで少量ながら作られている林檎酒です……スペインに行ったら、必ず呑みます……」

「……へえ…美味しそうだね……」

「……じゃあ、これをどうぞ……私はもう飲みませんので……」

 そう言って、まだ3分の1程シドラが残っているグラスを私の近くに置く。

「……好いの? 」

「……ええ…新しく卸すのも勿体無いですし…美味しいですが、ワインよりは強いですので……」

「……そう…ありがとう……」

「…どう致しまして…」

 そこまで言ってくれるんだから、ありがたく頂こう……別にちょっと味をみさせて、と言って…一口だけ貰う訳じゃない……このくらい…配信番組で、やいのやいの言われるような事でもないだろう。

「……うん……確かに好い味わいだね……林檎の香りが高い……スペイン・ワインは酸味が強く出やすいから……却ってこちらの方が安定した味わいで…好いんじゃないかな……ヨーロッパへの海外出張は今迄に何度かあったけど……スペインにはまだ行った事が無いんだ……1度、行ってみたいね……」

「……次のマドリード映画祭に、このゲーム大会の海外キャンペーンの一環と言う事で……私達と一緒に参加されても好いんじゃないでしょうか? 」

 エドナ・ラティスがスペイン・カバのグラスを置いて言う。

「……海外キャンペーン? 」

「……ええ…マルセル・ラッチェンスさんに提案しましょう……シーズン間のインターバルは…きっと数週間にも及ぶでしょうから……それを利用して新たな視聴者と参加者の獲得を目的に…全世界レベルでキャンペーンを展開しようと言う企画です……」

「……う……ん……視聴者層を拡大させようって言うのは解るけど……新参加者ってのは…どうなんだろうなあ?……シーズンを経て生き延びた艦には経験値が積まれている……新シーズンが始まって、ノーマルレベルでポンって出航しても……かなり厳しいと思うけどね……」

「.……ですから…艦ではなくて…クルーです……」

「……クルー? ああ、……そうか……」

「……ええ…ひとつのシーズン中には…戦死扱いで退艦した人もいるでしょうし……何らかの事情でゲームに参加出来なくなった人もいるでしょう……つまり、欠員の出た艦は新しい人を募集出来るし……その募集に応えて応募出来る……新制度の創出です……」

「……すごいな、エドナ……素晴らしいアイデアだと思うし……これは提案するべき話だよ……尤も、もう撮られているから…今夜には知られるだろうけどね……でも来週のどこかでマルセルさんに会ったら……私からもこの話はするよ……」

「……ありがとうございます……」

「……こちらこそ……」

 エマ・ラトナーが白ワイン(リアス・バイシャス)のグラスを干して置いた。

「……アドル艦長❤️……スペインでしたら……【E・X・F】(エクセレント・フォーミュラ)マドリード・グランプリにも、マドリード映画祭にも…2回ずつ参加しましたよ❤️……ちょうどこのふたつは、開催時期がほぼ重なっていますので……それで……その国際キャンペーンの一環と言う事で、ですね❤️……アドルさんが私をエスコートして、マドリードに入って下さるんでしたら❤️……マドリード・グランプリにも特別参加して…その国際キャンペーンを展開できますけれども❤️? 」

 右隣に座るリーア・ミスタンテが、グラスを更に遠くへ離して置く。

「……アンタ、もう酔ったの? 呑んでないで、もうちょっとしっかり食べなさい……今夜はちゃんと食べられるかどうか、分からないんだから……全く……まだ提案もされてない話なのに…浮かれてるんじゃないわよ……気持ちは分からないでもないけどさ……アンタ、聞いたけど……ハンナと2人掛かりでも……アドルさんを1回も墜とせなかったんですって?……」

「……アドルさんは人間じゃありません……何回やっても……どうやっても勝てませんでした……だから私はもうアドルさんには、甘えるしかないんです❤️……」

「……エマ……この提案はするよ……採り上げて貰えるかどうかは、判らないけどね……それで、もしも採り上げられて……募集の国際キャンペーンを……世界中で展開すると言う事になって……マドリードの映画祭にも……スピードポッドレースのマドリード・グランプリにも……キャンペーンと言う事でお邪魔する、と言う事になったら……僕がエマをエスコートして…マドリードに入るよ……約束する……だから…元気なエマに戻ってくれ……頼む……」

「……はい! ありがとうございます! 私はもう大丈夫です!……ただ……あの時にもしも撃墜されていたら……もうここには居られなくなっているんだなって……ちょっと考えちゃいました……でも、もう大丈夫です……大丈夫です……」

「……エマ……それに皆……この事態に於いては…私が対応を誤った……シャトルで迎えに行く前に…私が自分で操作して…主砲で狙撃するべきだった……勿論、射程距離の遥かに外だから……効果はほぼ無いだろうがそれでも……援護にも…牽制にもなっただろう……ハイパー・モードで操作して狙撃すれば……或いは掠めさせるぐらいは出来たかも知れない……すればエマは離脱できた……結果として、襲って来たパイロットにその気が無かったおかげで…エマは無事に帰還できたが……本艦のメイン・パイロットを危険に晒し……あまつさえ直接に守れなかった責任は、私にある……改めて…申し訳なかった……」

 全員が30秒ほど……一言も…微かな音さえ発しなかった。

「……エマさあ……あなた……皆が観ている眼の前でさ……それもカメラにも撮られているのにさ……よく堂々と抜け駆けができるよね……全く好い度胸してるよ………アドルさん❤️……マドリードも含めて世界の10大都市では、音楽祭や歌謡祭も定期的に開催されています……私も含めて『ディファイアント』には…持ち歌や自分の楽曲で、これらの音楽祭に参加したクルーが20人くらいは居ます……私……シドニーの音楽歌謡祭で、最優秀新人賞と優秀歌唱賞を頂いた経験があります❤️……ので……その国際キャンペーンがシドニーでも展開される事になったら……私をエスコートしてシドニーに入って頂ければ、お役に立てますよ❤️? 」

「……ありがとう、カリーナ……その時が来たら…是非、お願いするよ……」

「……アドルさん……『ラムール・ハムール』のブラッドフォード・アレンバーグ艦長ですが……私達の現況を敵性集団に流すでしょうか? 」

 ハル・ハートリーがまた食べる手を止め、口を拭って訊いた。

「……うん……しないだろうな……」

「……どうして、そう思いました? 」

 マレット・フェントンも訊く。

「……彼が我々の戦場を草刈り場にしようとしているのは、間違いない……それでも状況が把握できなくなる程の混乱は望まないだろう……それは……彼が自ら設定した『マイク・ハーマン』と言うキャラクターに照らしても解る……」

「……何ですか? その、『マイク・ハーマン』と言うのは? 」

 パティ・シャノンも食べる手を止めて訊いたので、先程副長とカウンセラーに話したゲーム『サンドラス・ガーデン』での思い出話を、もう1度披露した。

「……へえ……確信がおありですか? 」

 と、フィオナ・コアー。

「……ああ……間違いない……彼も今頃は、思い出しているだろう……」

「……逢いたいですわね❤️…魔法剣士…シエン・ジン・グン様に❤️……」

 アリシア・シャニーンがおねだりするように言う。

「……そうだな……」

 食べる手を止めて口を拭い、水を飲んで席から立つと少し離れる。

「……コンピューター…ライブラリー・データベースにアクセス……」

【…アクセス…】

「……3D バーチャル体感サバイバル・ゲーム『サンドラス・ガーデン』にアクセス……」

【…ユーザー・ネームとパスワードを入力して下さい…】

「……アドル・エルク33……シエン・ジン・グン0703 ……」

【…ガーデンを表示しますか? 】

「……いや…シエン・ジン・グンを等身大で投影……私の動きと発声を同時模倣で再現……発音は登録している音声パターンを使用する……」

【…了解…スタンバイ…】

「…スタート…」

 バーチャル・キャラクター…魔法剣士…シエン・ジン・グンが投影された……全員が顔を向けて観る……立ち上がった者もいる。

 バーチャル・キャラクターだが、20代前半の青年……髪は肩までの長髪で青緑色……モス・グリーンのバンダナを巻いている……虹彩は山吹色……ライト・マッチョな体格で、銀・赤・青に彩られた甲冑が馴染んでいる……薄紫色のケープを纏い、腰の左に長剣…右側に短剣を差している……私が右脚をやや前に、左手を腰に当てているので…同じ姿勢で顕れた。

「……これは見目麗しい皆様方……お揃いでお食事中の処を失礼してお目通り致します……私、魔法剣士のシエン・ジン・グンと申します……以後、お見知り置きの程をお願い申し上げます……」

 そう言いながら右手を左胸に当てて、恭しく礼を施す……当然、バーチャル剣士も同じ口上で、同じに動いた。

「……❤️格好好い❤️❤️……」

 そこかしこで…10数人が思わず洩らした。

「……このゲームには……今でも参加できるんですか? 」

 と、エドナ・ラティス。

「……ええ……以前に比べれば、確かに世界は幾分狭まり……冒険者達の数も少なくはなりましたが……まだまだ血湧き肉躍る冒険の数々が…手付かずで残されております……自分は今、どこのパーティーにも属しておりませんので……皆様のパーティーに於いて……その末席にでも加えて頂きますれば、無上の喜びにございます……」

 再び恭しく礼を施し…顔を向けてシエナを観ながら、右手で自分の首を刎ねるように動かす。

「! コンピューター! バーチャル・キャラクターとのリンクを解除! 」

「……ありがとう…ナンバー・ワン……彼の声ではコンピューターに指示できないからね……まあ…ざっと…こんなものだよ……コンピューター、ログアウト……」

【…保存しますか? 】

「……ああ、保存してくれ……」

 シエン・ジン・グンの姿が消えて、元の席に戻り着く。

「(笑)…ああ…久し振りに演じたな……でも何だか、今の私には合わないような気もしたよ……ちょっと、気恥ずかしかったね……ライト・ビアをハーフボトルで貰えないかな? 」

「……でしたら、アドルさん…こちらをどうぞ? まだ半分近くありますから……」

 そう言ってハル・ハートリーが、呑んでいたサングリアのグラスを私の近くに置く……彼女と顔を見合わせて微笑み合った。

「……せっかくの気遣いだ……有り難く頂こう……」

 グラスを持って軽く掲げ、二口呑んだ。

「……ああ…美味いな……咽喉に沁みるよ……」

 グラスを置いて、また取り皿に料理を少しずつ置き始めた時…私を呼ぶ声がした。

「……アドルさん! こちらをどうぞ!? 」

 観ると…機関部員のヴァラ・キーナーが、栓を抜いたライト・ビアのハーフボトルを差し出している。

「……やあ、わざわざありがとう……頂くよ……」

 ボトルを受け取ると、彼女が更に歩み寄る。

「……あの! 私も『サンドラス・ガーデン』にアカウントを持っています! お暇な時にでもパーティーを組んで頂ければ、本当に嬉しいです……」

「……へえ……奇遇だね……尤もこれだけの人数が乗り組んでいるんだから、充分に考えられるよね……ヴァラのアヴァターは何? 」

「……僧侶です……まだ経験値はそんなに高くありませんが……」

「……そうなんだ……『優しい癒しの手』だね……ヴァラに似合っていると思うよ……」

「……ありがとうございます! 最強の魔法剣士と謳われたシエン・ジン・グン様に、ここで逢えるなんて感激です! 」

「…(笑)…最強だなんて言われてるんだ……くすぐったいね(笑)……ああ、ヴァラ…立たせたままで悪かった……ここに…誰も使っていない椅子があるから……ごめんね? ちょっと詰めてくれる? じゃ、ヴァラ……ここに座って? 飲み物も食べ物も自由に取って? 沢山食べてね? これからちょっと…忙しくなるから……」

 近くのテーブルから使われていない椅子を持って来て…皆にはちょっと間を詰めて貰って隣に置くと…ヴァラを手招いて座って貰った。

「……ありがとうございます♪  ご一緒できて嬉しいです♪   」

「……そんなに畏まらなくても良いから……沢山食べてよ……夕食は、ちゃんと食べられるかどうか…分からないからね……」

「……分かりました……ありがとうございます…頂きます……」

「……それで? 『サンドラス・ガーデン』には、いつから入っているの? 」

「……1年近くになりますが…ログインしたのは10回くらいです……『ディファイアント』のクルーに選ばれてからは、全く……」

「……そうなんだ……パーティーは? 」

「……はい……1度組んだんですが、不意を突かれて襲われた時に散り散りになってしまって……それからはまだ……」

「……そう……『シエン・ジン・グン』の噂でも聞いたかい? 」

「……はい…参加者からも……設定キャラクターからも聞きました……」

「……へえ…そんなに有名なんだ? 」

「……有名ですよ……18体に取り囲まれても…無傷で斬り抜けたって……」

「……そりゃ、言い過ぎだな……あの時は……6ヶ所に手傷を負って、這う這うの体で逃げ出したんだから……いや…でも、懐かしいよ……」

「……アドル艦長…お食事中の処をすみません……応答できますか? 」

 ブリッジで、オペレーター・シートに着いている、カレン・ウェスコットだ。

「…ご苦労様…どうした、カレン? 何か感知したか? 」

「…はい……『ラムール・ハムール』のブラッドフォード・アレンバーグ艦長から…アドル・エルク艦長を指名して、通話要請が届いています……どうしますか? 」

「…ノーマル・チャンネルは封鎖中だ……応える必要はない……」

「……はい……通話自体はノーマル・チャンネルなのですが…送受信先を特定指定した搬送波に内含して届けられているので…交信に応じても、他艦に傍受される恐れは無いと思われます……」

「……パワー・サインを採られているからな……尤もこちらも採ってはいるがね……カレン…ちょっとスタンバイしていてくれ……」

「……了解……」

「……カリーナは、どう思う? 」

「……傍受される恐れはないと思いますが…何を話したいんでしょう? 」

「……私が本当に『シエン・ジン・グン』なのかどうか、確かめたいんだろうな……あとは彼なりの…ちょっとした無駄話ってところだろう……カレン…ノーマル・チャンネル、封鎖解除…次に極性と構築パターンの違う…3種類の攻勢防壁を組んでくれ……そのいずれにも…カウンター・アタック・ミラージュ・ウィルスを仕込む……発動トリガーは…『ラムール・ハムール』の兵装が『同盟』の艦に向けて照準を採った瞬間…だ……準備が終わったら教えてくれ……」

「……了解……作業に掛かります……」

「……コンピューター…『サンドラス・ガーデン』にアクセスして、再ログイン……」

【…ログイン完了…】

「……『シエン・ジン・グン』の姿を、私の体型にオーヴァー・ラップさせて…私自身に投影…同時に、言動ともリンクさせて、同時模倣再現…準備ができたら、スタンバイ……」

【…スタンバイ…】

「……カレン、どうだ? 」

「……今……出来ました! 準備OKです……」

「…よし…搬送波の極性と周波数に応じ、回線を構築して接続…このテーブルの向こう側……2m離して3Dビューワを出してくれ……」

「…了解…」

「…コンピューター、スタートしてくれ…」

【…スタート…】

 私の姿が『シエン・ジン・グン』となり、テーブルの向こう側に少し大きい3Dビューワが投影されて『ラムール・ハムール』のブラッドフォード・アレンバーグ艦長が映し出される……バー・ラウンジに居る全員が…固唾を飲んで見守り始める……厨房やバック・バーからも、6人が出て来た。

「……やあ、マイク・ハーマン……久し振りだな……この姿でお前を呼ぶ場合には、この名で呼ぶ方が筋だと思ってそうしたんだが……構わなかったかな? ご覧の通り、今は昼食会の途中でね……美女と美食と美酒に酔い痴れていたものだから、お前からの呼び掛けに気が付くのが遅れたのは悪かったよ……それで? 確認は終わったかな? 」

「……『シエン・ジン・グン』……やはり、そうだったか……どのくらいで気付いた? 」

「……1時間とは掛からなかったよ……お前もそんなところだろう? それで? 『ガーデン』の中でお前とは10回やり合って…6回は俺が勝った……4回は、まあ痛み分けだった……よな? ここでもやり合うか? 」

「……正直…それもひとつのイベントとして…面白いか、とも思っていたが……辞めといた方が好いだろうな……今のお前は20隻のパーティーの中だ……敵うはずもあるまい?……」

「……ふん……俺達『同盟』の戦場を草刈り場にするつもりで近付いて来たんだろう? それでこっちの旗色が悪くなれば…俺達にも砲を向けるつもりだ……そうだろう? お前の考える事は解る……」

「……確かに、もしもで考えてはいたけどな……だがもうそんな気は無いよ……」

「……20隻と言っても、まだ合流しちゃいない……今やるなら1対1だ……どうだ? 11回目の正直が、あるかも知れんぞ? 」

「……だから……やらないと言ったろうが!……お前の強さはよく知っている……」

「……なら、ひとつ頼まれてくれないか? 俺達の戦場を草刈り場にするのは構わんが……むやみやたらに艦を沈めるな……戦闘不能に陥った艦は見逃してやれ……どうだ? 」

「……それを俺に約束させようってのか? 」

「……そうだよ、マイク・ハーマン……断るのならここでやり合おう……1対1で……お前も観たいだろう? 俺がハイパー・モードで艦を操ったら…どこまで速くなるのか……」

「……分かったよ💦……約束する……戦闘不能の艦は撃たない……」

「……偶然を装って撃つのも……罠を張るのもダメだからな……俺の眼には小細工もまやかしも通じない……」

「……だから解ってるって💦……お前を騙くらかそうとした奴らが、どんな目に遭ったか……手の指だけじゃ数え切れんよ……」

「……確か、お前もその内の1人だったな? 」

「……おい💦……ああ、そうだったよ……だが俺は卑怯な手は使わなかった……そこにいるお嬢さん方はまだ知らないんだろうが……この男は人質を捕って盾にするような奴が1番嫌いでね……かつて俺が観ただけでも、4人のバカが『ガーデン』の中でその手を使ったんだが……1人残らず秒で死んだな……」

「…(笑)ふふん……天才艦長とか呼ばれて随分鼻が長くなっていたようだからな……少しは元の長さに近くなったか? マイク……せっかくの再会だ……副長にでも酒を注いで貰ってグラスを持て……画面越しだが乾杯ぐらいはできるだろ? 」

「……ああ……まあ、そうだな……」

 私の前には、ハル・ハートリーが譲ってくれたサングリアのグラスがある。

 3Dビューワの中で…誰かの左手が彼に飲み物入りのグラスを手渡した……観ただけの印象では女性の手だ。

「……それじゃ…我らの再会を祝して乾杯! 」

「……乾杯……」

 画面越しにだったが、グラスを掲げ合って呑み交わした。

「……マイク……スタッフ・クルーに対してだけは、正直に何でも話せ……それが結局はお前の艦を長く存続させる……」

「……ああ…分かってるよ……」

「……あの当時『ガーデン』にいた、とんでもなく強かった連中な……このゲームにも居ると思うか? 」

「……何人かは居ると思うがな……10人は超えないと思うな……何しろこのゲームは、参加費用がべらぼうだ……おいそれとは出られないだろう……」

「……お前以外の天才艦長達な……どう思う? 」

「……分からん……交信してないし…見掛けてもないからな……だが…可能性は高いだろう……」

「……そうか……じゃあ、今はここまでにしよう……まだ、美女達との会食が途中だからな……マイク……約束を忘れるなよ……」

「……ああ…忘れやせんよ……」

「……良い心掛けだな……何かあれば報せを頼む……こちらでも何かが判れば報せよう……」

「……ああ……分かった……」

 『シエン・ジン・グン』はそのままシエナ・ミュラーに顔を向けて微笑みながら頷く……彼女は頬を染め、口を少し開けて観返すだけで何も反応できない……左隣のマレット・フェントンに右肘で小突かれて、初めて我に還る。

「……あ…あっ、コンピューター! アヴァターとのリンクを解除してログアウト! 保存して! 」

【…了解…コンプリート…】

 『シエン・ジン・グン』の姿が消えて、私自身が現世に戻る……3Dビューワも消えている。

「……やあ、結構時間を取られたね……もう少し食べておかないと……」

 また取り皿に周りの料理を少しずつ集めて目の前に置き、もう温くなったライト・ビアを二口呑んでから食べ始める。

「……お見事でした…アドルさん……今の対話で、論文が1本書けそうです……」

 ハンナ・ウェアーがそう言いながら新しいナプキンをくれる。

「……そうかい(笑)……まあ、あいつは……いけ好かない奴だし嫌いだし、親しくなんかないけど……付き合いだけは結構あって……気心だけは知れてるからね……解りやすいし……落ち着いていれば、話もしやすい……ああ…もうひとつ……あいつは部下や仲間に曲者を集めるのが得意なんだ……その適性はすごく高い……だから『ラムール・ハムール』のスタッフ・クルーにも……癖の強い人が多いと思うよ……」

「……『人質を獲るような奴が1番嫌い』ってところで…胸が痛くなりました❤️……何だか惚れ直しちゃったみたいです❤️……」

 と、ミーシャ・ハーレイが胸の前で両手を握り合わせる。

「……ありがとうな…ミーシャ……もう少し食べて…終わろう……交代時間が近いよ……夕食もスペイン料理で好いと思いますって…マエストロに伝えてくれるかな? 」

「……分かりました……『シエン・ジン・グン』としてのアドルさんも…すごく素敵です……迫力と言うか…カリスマ性と言うか……逆らえない凄味があります……時々は、逢いたいですね……」

「……ありがとう、ナンバー・ワン……ハル参謀……今やったのが規約に抵触しないかどうか……ちょっと確認してくれるかな? 」

「……分かりました…確認しておきます……私も『シエン・ジン・グン』様は……素敵だと思いました……」

「……ありがとう、参謀……ああ…カレン、聞こえるか? 」

「……聞こえます…何でしょう? 」

「……『ラムール・ハムール』は…搬送波に紛れ込ませてウィルスか何か…送り込んで来たか? 」

「……いいえ……何も…紛れ込ませてはいませんでした……」

「……そうか……こちらが攻勢防壁に隠して掴ませた、ミラージュ・ウィルスには気付いたようかな? 」

「……いいえ…これも先方の反応を注意深く観ていましたが……気付いた様子も…対処を施した形跡も…観受けられませんでした……」

「……そうか…分かった…ご苦労様……腹減ったろ? 何かテイクアウトで作って貰っているから…後で持って行くからな? 」

「……ありがとうございます……嬉しいです……」

「……どう致しまして……それじゃ、後でな……」

 それから15分後にインター・コールが鳴り響くまで……感想に雑談を交えながら、食べて飲んで過ごした……口を拭って水を飲んでから立ち上がり、居住まいを正して…サポート・クルーのララ・ハリスが持って来てくれた、ランチ・バスケットを受け取る。

「……ご馳走様でした……本当に美味しいお昼でした……私はブリッジに上がって交代するが…皆もシフトに従って、行動してくれ……それじゃ……」

 そう言い終えると右手を挙げて、バー・ラウンジから出て行った。

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三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

セルリアン

吉谷新次
SF
 銀河連邦軍の上官と拗れたことをキッカケに銀河連邦から離れて、 賞金稼ぎをすることとなったセルリアン・リップルは、 希少な資源を手に入れることに成功する。  しかし、突如として現れたカッツィ団という 魔界から独立を試みる団体によって襲撃を受け、資源の強奪をされたうえ、 賞金稼ぎの相棒を暗殺されてしまう。  人界の銀河連邦と魔界が一触即発となっている時代。 各星団から独立を試みる団体が増える傾向にあり、 無所属の団体や個人が無法地帯で衝突する事件も多発し始めていた。  リップルは強靭な身体と念力を持ち合わせていたため、 生きたままカッツィ団のゴミと一緒に魔界の惑星に捨てられてしまう。 その惑星で出会ったランスという見習い魔術師の少女に助けられ、 次第に会話が弾み、意気投合する。  だが、またしても、 カッツィ団の襲撃とランスの誘拐を目の当たりにしてしまう。  リップルにとってカッツィ団に対する敵対心が強まり、 賞金稼ぎとしてではなく、一個人として、 カッツィ団の頭首ジャンに会いに行くことを決意する。  カッツィ団のいる惑星に侵入するためには、 ブーチという女性操縦士がいる輸送船が必要となり、 彼女を説得することから始まる。  また、その輸送船は、 魔術師から見つからないように隠す迷彩妖術が必要となるため、 妖精の住む惑星で同行ができる妖精を募集する。  加えて、魔界が人界科学の真似事をしている、ということで、 警備システムを弱体化できるハッキング技術の習得者を探すことになる。  リップルは強引な手段を使ってでも、 ランスの救出とカッツィ団の頭首に会うことを目的に行動を起こす。

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