『星屑の狭間で』

トーマス・ライカー

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セカンド・ゲーム

…1次集結ポイントまで…

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「……発進しました……パワー・バランス良好……加速安定して正常……加速率正常範囲……ファースト・スピードまで60秒……」

 と、エマ・ラトナー。

「……メイン・エンジン臨界パワー100%……噴射出力90%……サブ・エンジン臨界パワー100%……噴射出力80%……出力安定……」

 と、リーア・ミスタンテ。

「……1次集結ポイントまで、このペースなら5時間ほどです……」

 と、ハル・ハートリー。

「……分かった…リーア…長距離偵察機は? 」

「……あと2分で換装を終えます……」

「……了解…終わったら、1機を発艦態勢にセット……」

「……分かりました……」

「……ところでな、リーア……リモート・アナライズ・チェンバーを艦内で作れるかな? 」

「……?……!……艦長…敵艦のメイン・コンピューターをコピーするんですか? 無理ですよ……艦のコンピューターは標準仕様でも暗号化されています……遠隔では勿論……例え乗り込んでも無理でしょう……」

「……交信を装った搬送波に食い付かせて…コピーウィルスを送り込めれば、何とかならないかな? 」

「……どうでしょう? ウィルスが検知されれば浸潤範囲がブロックされますし…手動でシャットダウンされてしまえば、失敗します……」

「……いや…全面的なシャットダウンは出来ないよ……やってしまえば、メイン・リアクターの微妙なコントロールが出来なくなる……10分と経たずにオーバー・フローからオーバー・ロードが引き起こされるだろうからね……まあ…別に、今直ぐにって訳じゃない……取り敢えず、艦内にある部品でチェンバーが作れるかどうかだけでもチェックしておいてくれないか? 」

「……分かりました…観ておきます……」

「……ありがとう……エマ! 長距離偵察機『A』が発艦態勢に入る……パイロットを選抜して派遣してくれ……」

「……分かりました……」

 そう応えたエマ・ラトナーは、そのまま立って歩き出す。

「……おい💦……まあ……そう来るかも、とは思ったけどな……分かったよ……気を付けて出てくれ……あんまり派手に飛ぶなよ……それと1時間でワンセットだから、それで戻れ……戻ったら『B』のパイロットを指名すること……」

「……了解です❤️…ありがとうございます❤️……行ってきます❤️…」

 悪戯っぽくそう応えながら、私に流し目でウインクをくれて出て行く。

「……カリーナ……パッシブ・センサーレンジを『A』とリンクさせて、探査範囲を拡大設定……」

「……了解……」

「……シエナ……全艦に1時間交代で、長距離偵察機を出すように通達を出してくれ……」

「……分かりました……」

「……カリーナ……ハンナ……デコイからの発信とビーコンを通じての欺瞞交信は、各グループが1次集結ポイントを発進した以降に開始する……シエナはこの事も全艦に通達してくれ……」

「……分かりました……」

「……通達する事ばかりで悪いけどな……シエナ副長……これは各グループリーダーに通達だ……1次集結ポイントで合流して、3隻ひとグループとしての体制が整ったら、他のグループを待つ必要はないから…直ちに2次集結ポイントに向けて発進するように……」

「……分かりました…そのように伝えます……」

「……ああ、カリーナ……『マキシム・ゴーリキー』と『レディ・ブランチャード』は発進したかな? 」

「……はい…『マキシム・ゴーリキー』は20秒遅れで……『レディ・ブランチャード』は40秒遅れで発進しました……今はファースト・スピードに到達しています……」

「……分かった……あんまり……細かく指示したり…矢継ぎ早に通達を出したりしてると…うるさがられるかな? 」

「……まあ…今はまだ……大丈夫でしょう……ただ……これ以上は…自制した方が良いかも知れません……」

 ハンナ・ウェアーがそう応じる。

「……まあ……そうだな……今から大質量誘導弾についての指示を出しても仕方ないが……あと現状では……これだけにしよう……長距離偵察機との連携の上で、他艦を感知した場合には……取り敢えず半速まで落として、コースは変えずに様子を観る……もしもインターセプトコースで接近して来るようなら……こちらに連絡するようにと……これだけ頼む……」

「……了解しました……」

「……ハル参謀……朝早くからの出航で…朝食を摂っていないクルーもいるだろう……30分間の限定で悪いけど……ラウンジでの飲食を許可すると通知してくれ……飲酒は不可だ……」

「……分かりました……ありがとうございます……」

「……どう致しまして……」

【「……ブリッジ! 聞こえますか? 長距離偵察機『A』…発艦準備完了! 」】

「……発艦を許可する……ある程度の操縦訓練も許可する……」

「……ありがとうございます❤️…発艦します! 」

「……長距離偵察機『A』…右舷から出ます……」

「……よし…トレース開始……」

「…了解…」

「……敵艦隊は、何を考えているんでしょう? 」

 エレーナ・キーン参謀補佐だ。

「……うん……我々と同じだろうね……取り敢えず合流して……我々を見付け出すつもりだろう……」

「……それなら、私達が先手を取っていますね……」

 と、ハル参謀。

「……うん…先手には違いないだろうが……何せ、こちらとの戦力比は10倍以上だから……2手先を取ったとしても…有利だとは言えないだろうね……」

「……だから……大質量誘導弾…ですね? 」

 シエナ・ミュラーが核心に入る。

「……そうだ……最少でも10基は欲しい……15基あれば…もう少し作戦を立てやすくなるだろうけどね……各グループが合流して…2次集結ポイントに向けて発進したら……大質量誘導弾作製についての指示は出す……まだ配信番組でも私達が使った事は紹介されていない……だから彼等はまだ知らない……それでどれだけ先手を取れるのかが…勝負処だな……」

「……そうですね……」

「……うん…『マキシム・ゴーリキー』と『レディ・ブランチャード』から、長距離偵察機は出たか? 」

「……『マキシム・ゴーリキー』からは間も無く……『レディ・ブランチャード』からは、あと数分と応答がありました……」

「……『A』の様子はどうだ? 」

「……半径第3戦闘距離の150%で、周回航行中……2分に1回の頻度でアクロバット・ターンをやってます……」

「……まあ……外に出たくて、ウズウズしてたんだろうしな……敵艦隊の交信を傍受していて、何か新しい情報はあったか? 」

「……特にはありません……あの……まだ交信の傍受を続けますか…艦長? あの人達…言葉使いが酷くって……」

「……ああ…済まなかったね、カリーナ……フィオナ……悪いが、保安部から3人……交信傍受要員として出してくれ……センサー・チームと一緒に…30分交替で交信の傍受を担当して貰う……」

「……分かりました……ブリッジに呼びますか? 」

「……頼む……」

「…了解…」

……長距離偵察機『A』……

 次々と迫り来る岩塊をひらりひらりと機体を捻ってギリギリで躱して飛ぶ『A』……

 時折り、急激なターンを機体に掛けて跳ねるように…擦り抜けるように躱して飛ぶ。

 コックピットでは引っ切り無しに接近・接触警報が鳴り響き続けている。

 エマ・ラトナーは時々煩わし気な表情を観せながらも楽しそうな風情で、スティックを前後左右に操っている。

(…これ…何とかして切れないかな……後でリーアに訊いてみよう……)

 右前方から迫る岩塊に対して、敢えて衝突コースを採る……ギリギリで反転するつもりで更に接近して行ったが、そのタイミングの2秒前だった……

(…えっ⁈ )

 至近距離発泡の警告シグナルが点き、警報も鳴った。

 左後方から来たヴァルカンの2連射を右に切って躱し、本当にギリギリで岩塊の右側面を擦り抜けて回り込む。

(…何⁈   誰⁈    )

 襲撃者も岩塊を右から回り込んで付いて来る……右後方…左後方からとヴァルカンの2連射に襲われるが、エマは機体を捻って躱わす……そんなに厳しい照準じゃない……迫る機影をモニターで観た。

(…シャトルファイター⁉︎    タンク付き⁉︎    )

 襲撃者の攻撃を上下左右に躱しながら、シークレットチャンネルでエマージェンシーを出す。

「…艦長! 『A』からエマージェンシーです‼️     」

「…何❗️    なぜ観えない……ミラージュ・コロイド! シエナ、ブリッジを頼む! ミラージュ・コロイドをlevel 4 で展開! 10%減速と増速…取舵10°に面舵10°…これらを5分毎に繰り返せ! 」

 それだけ言ってヘッドセットを掴むとブリッジを飛び出す……走りながらヘッドセットを付ける。

「…リーア、聞こえるか⁈    シャトル1機を戦闘機に緊急換装! エマ! 何とか振り切れ! 」

「…無理です…結構腕が良くて…タンクを付けたまま…くっ付いて来ます! 」

「…何とか避け続けろ! 直ぐに行くからな! 」

「…艦長が⁈    」

 エマの絶叫を無視して切り替える。

「…リーア! エマが襲われてる! 俺が援護して連れ帰るから急いでくれ! 」

「…了解! ミサイルは? 」

「…要らない! 必要最少限で良い! 」

「…了解! 」

「…カリーナ! 艦は観えないか? 」

「…観えません! 今は第5戦闘距離の78倍まで観えますが、観えません! 」

「…分かった! 」

 そう応えながら、機関室に飛び込む。

「…リーア! どこまでいった? 」

「…ファースト・ステップは終わりました…」

「…俺がセカンド・ステップをやるから、サード・ステップを段取れ! 」

「…了解! 」

……『A』コックピット……

 間断なく、リズミカルでもない……襲撃者のヴァルカン攻撃は正確に2連射で10発ずつ……左右上下に機体を捻って、5発に1発含まれる曳光弾の軌跡を見送りつつ……岩塊を回り込んで距離を取ろうとするが……襲撃者の機体は離れない……

(…こいつ! 墜とす気がないのにしつこい! )

「……あなたがエマ・ラトナーね? 流石に『ディファイアント』のメイン・パイロット……かなりの腕ね? 」

(…こいつ…私を知ってる…)

【…エマ! ノーマル・チャンネルは封鎖中だ! 応えるなよ! 】

【…了解…】

「……でもあなた……もしかして自分が1番速いとか……1番上手いとか……思ってない? 」

(…こいつもレーサー? )

「……いくら貴女が【E・X・F】(エクセレント・フォーミュラ)」…エクスペリエンス・クラスに属するクラブ・チームのマスター・パイロットだと言っても……所詮は地上にへばり付いて走るだけのポッドレーサー……スピードでもターンでもパワーでも……エア・レースのそれとは比べ物にならないって事ぐらい……分かるわよね? 」

(…こいつ…エア・レーサー? )

「……あら? でもあなた……エア・レースにも出てるわね? 私から観て…確かふたつ下の、パワフル・ハヤブサ・ランクだったかしら? でもあなた……かなり好いセンいってるわよ……ランクふたつ下にしてわね……」

(……こいつ! 舐めてるんじゃないわよ! )

 エマにしては瞬時の…かなり急角度で急激なターンを機体に強いて襲撃者の後ろを取ろうとしたが、襲撃者もそれを見越したかのように…急速・急角度なターンをスムーズに行って反転し、エマの後ろに着く……

【……レベッカ……そろそろパーティーはお開きだ……お迎えが来るぞ……】

【……了解……】

「……エマ・ラトナーさん? もう少しあなたと遊びたかったけど、そろそろ帰らなくちゃいけないわ……もう直ぐ貴女を迎えに来る、アドル・エルク艦長さんによろしくね? また機会があったら、遊びましょう? 次はお互いに戦闘機の仕様でね? ……私の名前は、レベッカ・スロール……貴女と同じメイン・パイロット……調べれば艦名も、艦長の名前も判るわよ……それじゃあね? 」

 目にも止まらぬような反転で追跡コースから離脱すると、3秒で再びミラージュ・コロイドを展開して姿を消す……その5秒後に、私は『A』の左翼に着いた。

【……大丈夫か⁈ ケガは⁈ ダメージは⁈ 】

【……大丈夫です……ケガも…ダメージもありません……】

【……そうか……遅れてすまない……帰還するぞ……】

【……了解……】

 そうは言ったものの……『A』もこちらもミラージュ・コロイドは装備していない……が、まあ……やりようはあるか……

【……シエナ、聞こえるか? コースを戻してくれ……艦と機体のナビゲーションA I を同期して、オートで着艦する……ミラージュ・コロイドは解除するなよ……速度はこのままで好い……】

【……了解ですが、艦長……襲撃機体の母艦が近くにいるのでは? 】

【……ああ…居るとは思うが、彼らの意図がまだ分からない……過剰な反応は控えよう……ただいきなり撃たれた場合には即時に反撃できるよう、最低限の準備は頼む……】

【……了解しました…では、同期します……】

【……エマ…私の後ろに着いてくれ……オート・コントロールで着艦する……大丈夫だな? 】

【……大丈夫です…艦長……迎えに来て下さって…ありがとうございます……】

【……当然だろ? 気にするな……】

 その後、10分少々で2機とも着艦した……オートだからスムーズに終わる……手動じゃとても無理だ……止められた機体から降りる……泣きじゃくりながら抱き付いてきたエマをなだめて…自室でしばらく休むように言い、ブリッジに戻る。

 キャプテン・シートに座って5秒でお客さんが姿を顕した。

「…! 艦です! 軽巡! 右舷90°  同方位で併走…距離、第1戦闘距離……」

「……まるで測ったかのようだな……遮蔽は解除していないのに、なぜ判る?……彼がそうだよ……私を遥かに超える天才艦長……これほどに見せ付けられると、一昔前に流行った形容詞を思い出してしまうな……おそらく6th・ステージをクリアした、6隻の内の1隻だろう……こんなに早く出逢うとは……これもフィールドが狭いせいかな? 」

「……艦長! あの艦からレーザー・ラインが届いています……何のつもりでしょう? 」

「……レーザーでの交信を要請しているんだな……それなら誰にも傍受されないから……」

「……どうしますか? 」

 シエナは少し不安そうだ。

「……好いだろう……総ての遮蔽を解除して、レーザー通信回線を接続……」

 程なくしてメイン・ビューワに映し出されたのは、年の頃は私より数才若く観える……何とも形容し難い男性だ……私に似ているような印象も受ける……が…一見してのインプレッションは、ファイター・タイプだ……髪は黒い短髪でカールが掛かり、眉は太い……虹彩の色は珍しいが、青緑色だ……今は柔和な表情で眼も優しく観えるが、眼力は強い……バスト・ショットで映っているが、適度な筋肉に覆われている。

「……おはようございます……初めまして……こちらは、軽巡宙艦『ラムール・ハムール』……私が艦長の、ブラッドフォード・アレンバーグです……どうぞ、お見知り置きを……『ディファイアント』のアドル・エルク艦長とお見受けします……先程は本艦のメイン・パイロットが、大変に失礼な物言いを致しました……この通り、伏して謝罪申し上げます……」

「……初めまして……おはようございます……ブラッドフォード・アレンバーグ艦長……『ディファイアント』のアドル・エルクです……やや衝撃的なファースト・コンタクトでしたが、艦長の謝罪は受け入れます……宜しければ……好いお付き合いが出来ればと…願います……」

「……ご丁寧なご返答にて謝罪を受け容れて頂き、ありがとうございます……アドル艦長……私も…そう願っております……」

「……どう致しまして……時にアレンバーグ艦長……このファースト・コンタクトには、どのような意図や目的があるのでしょう? 」

「……はい……おそらく明日になるであろうとは思いますが……【『ディファイアント』共闘同盟】が……初めての組織的集団対艦戦闘に臨まれる……始まれば、本当に大変な戦いになるでしょう……その戦いの中で……宜しければ本艦も…微力ではありますが、『同盟』にとっての一助となれれば…と、考える次第です……」

「………宜しいでしょう……アレンバーグ艦長……貴方方が我が『同盟』に対して敵対しない……我々の作戦を邪魔しない……我々の作戦が意図する事……目的とする状態を理解して……最大限に尊重して頂けるのなら……ご自由に……ご随意になさって下さい……今、私から言える事は…それだけです……」

「……了解致しました……期待以上のご返答は頂きました……お時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした……またいずれ、お会いしましょう……それでは……」

 接続は向こうから切れた……ほぼ同時に『ラムール・ハムール』が面舵を切って離脱して行く……そして約10秒後には、再びミラージュ・コロイドを展開させて姿を消した。

「……(息を吐いて)…コースを戻してくれ……30%増速して60分走ったら、ファースト・スピードで固定……」

「……はい……しかし……あれが天才艦長ですか? それにしては、やろうとしてる事がどうにも……」

 ハル・ハートリーがそう応えて息を吐く。

「……まあ……そうなんだろうな……いくら天才でも、煩悩には勝てないんだろうさ……如何にもセコイし…淺ましい……我々の戦場を草刈り場にしようってんだから……副長……この事をシークレット・チャンネルを通じ、全艦に配付して注意喚起……強調するべきは……これからの戦闘で我々が不利だと彼らが観た場合……彼らは躊躇なく手の平を返して我々を攻撃するだろう……だから余計に負けられない、と言う訳だ………ハンナ……エマは今自室で休んでるんだが…ちょっと話をして、出て来られるようなら来て貰ってくれ……フィオナ……長距離偵察機『B』を発艦させたいから…パイロットを選んで派遣してくれ……」

「……分かりました……」

「……いやはや……驚かされたな……6th・ステージをクリアした6隻で……天才なのは、艦長を含むスタッフの全員だ……だからこそ……いや…でなければ、あそこまでのクリアは出来ない……だがメンタリティや煩悩は我々と変わらないから……そこから観るなら、読み易い面もある……それでも天才なものだから……それだけに扱いは非常に厄介だ……やっぱり出来るなら、関わり合いにはなりたくない……あまり出逢いたくないキャラクターだ……でも……彼等が軽巡の中では先んじて、重巡を撃沈するだろうな……エマを襲ったパイロット……かなりの腕だな……調べてくれ……リモート・アナライズ・チェンバー……マジで作る必要が出て来たな……ナンバー・ワン……暫くブリッジを頼む……ラウンジで、何か軽く食べて来るから……」

「……分かりました……ごゆっくり……」

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