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地上界にて…
3月7日(土)……セカンド・ゲーム開始まで……
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アラーム・タイマーが響く……3回で目覚める……温かいエプソム・ソルト水溶液の中でゆっくりと起き上がり、レギュレーターを外してウィスパーも取る。
ハッチを開けて出て、ゆっくりと降り立つ……掛けて置いたタオルで軽く身体を拭い、サンダルを突っ掛けてバスルームに入る……熱いシャワーでエプソム・ソルトを洗い流し、頭から全身を丁寧に洗って髭も剃り上げる……あがってよく乾いたタオルで水気を吸わせて拭き取り、既に用意して置かれている下着を着けて靴下を履き、シャツを着る。
髪を乾かしてセットしてからネクタイを細く締め込み、カフスボタンを付けてネクタイピンを着ける。
そして自室に入り、アリソンが選んで吊して置いてくれたスーツを着る……バランスと外見を姿見に映して確認する……よし……コートを着てポケットに必要な物を入れる……左腕のクロノ・リストを観る……04:20……好い頃合いだ……携帯端末を取り出して、リサ・ミルズをコールする。
「……おはようございます……あと30分で着きます……」
「……おはよう……? 君も乗っているの? 」
「……はい……」
「……随分と早く起きたね……大丈夫? 」
「……昨夜は、早く寝みましたから……」
「……ご苦労様……タクシーだよね? 」
「……いえ、社用車です……」
「……もしかして、あのホテルに行った時に乗ったリムジン? 」
「……そうです……」
「……へえ……こんな早い時間によく出して貰えたね……」
「……頼まれた後で、直ぐに予約しましたから……」
「……そうなんだ……分かった……コーヒーを飲んで一服したら、外に出て待つよ……」
「……分かりました……」
「……どこかで、軽食を貰いたいんだけど?……」
「……はい…そう仰られるだろうと思って、マーリーに頼んで作って貰いました……お茶は、私のハーブティーです……」
「……そう……マーリーにも、手間を掛けさせたね……会ったらお礼を言うよ……」
「……では、後程に……」
「……ああ、宜しく……」
端末をポケットに仕舞ってキッチンに立ち、スペシャル・ブレンドでコーヒーを点てて淹れる……カップを持ってテーブルに着き、ゆっくりと飲む……飲み終えて片付けてから、灰皿を持って2階に上がり、ベランダでプレミアム・シガレットに点けた……風は殆ど無い……紫煙がたなびいて、薫りが拡がる……特に何も考えていない……出陣の朝か? そんなにドラマチックなものでもない……シガレットの残り……このBoxでは、あと3本か………よし……行くか……灰皿で揉み消して中に入り、片付ける。
靴を履いて外に出る……まだ早いか……あと8分で到着予定時刻だ。
まあ……暫く待とう………やがてリムジンのライトが観えて、目の前で停車する……左後部のドアが開いたので、乗り込んだ。
「……おはようございます……サッパリ、スッキリとされていますね……顔色も好いですよ……」
「……おはよう……朝早くから、ありがとう……ご苦労さんだね……何時くらいに着くかな? 」
この問いには、運転手さんが答えた……本社とあのホテルとの間での送迎でも、お世話になった人だ。
「……06:30から07:00の間には着きますね……もう少し、ゆっくり行きましょうか? 」
「……おはようございます……今日もお世話になります……取り敢えず、06:45を目標にしてお願いします……」
「……分かりました……」
彼の返答を聴いてから、手元で操作してインサレーション・シェードを上げる。
「……日曜日の22:00に、この車でまた一緒に来てくれないか? 」
「……分かりました……お帰りはどちらへ? 」
「……自宅に帰るよ……それで月曜日は休むから、ウィッシャー・フロアチーフに伝えてくれる? 」
「……分かりました…伝えます……」
「……退院の日程は出た? 」
「……はい……来週の水曜日か木曜日かで少し揉めましたが、父が水曜日で押し切りました……」
「(笑)……配信番組を、家で観たいって訳だね? 社長も、これで大丈夫だな……」
「……そうですね……ありがとうございました……ご心配をお掛けしました……」
「……いや……社長には、まだ社長で居て貰わないと困るからね……提携事業も、まだ始まったばかりだし……これから来る山を、乗り越えて貰わなけりゃならない……」
「……山…ですか? 」
「……そう……状況が順調に……より善く肯定的に進んだとしても、それに対応して見合う規模での反動は……必ず来るものだよ……アイソレーション・タンクベッドを比較的に安価で売り捌いて販売シェアを拡大させ……同時にゲームの中でも上手く立ち回って優位性を確保して維持し続ける……その為に3社合同での業務提携事業として、立ち上げたのだろうと……言う人は…言うだろうからね……まあ冷静に観るなら…スルーしたって好いくらいの言い掛かりなんだろうけど……もう規模はかなり大きいし……3社それぞれでの立場もある……何らかの内容は、口頭にて発言しなければならないだろう……社長も含めて役員会は、もう既にそう認識していると思うよ……それに対して【『ディファイアント』共闘同盟】が、何をどうサポート出来るのかと言うなら……今日と明日で展開されるだろう【同盟】として初の組織対艦戦闘で……出来得る限りに効果的に…効率的に……相応の戦果を挙げること……ぐらいしか無いと思うよ……やあ、長く喋ったから喉も渇いたし、小腹も空いたな……サンドイッチとハーブティーを貰おうかな? 」
「……アドルさん、その前に……」
「……うん? 」
私が彼女の顔を観ようとして右に向けた顔の両側を両手で挟み……リサが自分の唇を私のそれに重ねて舌を差し入れて来た……私も直ぐに彼女を抱き竦めてそれに応じ……固く抱き締め合ってお互いの口を貪り合う……座る位置や体勢を入れ替えるような事はしなかったが……たっぷり90秒間……固く抱き締め合ってお互いの口と舌を貪り合っていた。
やっと動きを止めて口を離し、お互いの右頬を密着させ合う……呼吸を整えてから、ゆっくりとお互いの身体を離して…元の位置に戻る。
「……これが……今の私の気持ちです……」
「……ありがとう……君の気持ちは、しっかりと受け取ったよ……」
「……いきなり……我慢できなくなってしまって、すみませんでした……こちらです……」
そう言いながら小振りのバッグからランチ・バケットの包みを取り出すと、目の前のテーブルに置いて小さい保温ポットも、その傍に添えた。
「……ありがとう……それじゃ、頂きます……」
保温ポットのカバーカップを取り外して、ハーブティーを注ぐ……ポットを置いて香りを確かめる。
「……カモミールだね? 」
「……はい……今朝は、それだけで……」
「……ありがとう……」
息を吹き掛けながら、ゆっくり飲む……温かさが沁み渡る……そうして半分ほど飲んでから、カップを置く。
「……昨日は誰からも連絡は無かった? 」
「……はい…ありませんでしたが……」
「……そう……じゃあ、セットアップやら下拵えは…上手くいったようだね……」
言いながら、ランチバケットの包みを外して蓋を取る。
「……やあ…美味しそうなサンドイッチだ……食欲をそそる色合いだね……」
「……アドルさん……私にもいつか……マッサージの施術をお願いします……」
「……ああ…観たのか……うん……施術しよう……火曜日に終業したら、君のマンションに行こう……それで…するよ……」
「……ありがとうございます……必要なものは、用意しておきます……」
「……分かったよ……ありがとう……ご家族の皆さんにも挨拶したいけど、好いかな? 」
「……是非、お願いします……皆、喜びます……」
「……それと……手紙は読んだよ……あんなに熱烈なラブレターを貰ったのは、初めてだね……」
「……本当ですか? 」
「……本当だよ……10代は、硬派だったからね……」
「……その頃の写真、観せて下さい……」
「……自宅の何処かに、あると思うけどね……」
「……分かりました。奥様にお訊きします……」
「……あんまり根掘り葉掘り訊かないでよ? 」
「(笑)……分かってます……」
「……マルセルさんに会ったら、『ファン感謝デー』の企画を提案してみようと思うんだよ……」
「……『ファン感謝デー』……ですか? 」
「……時期を観て……土日の2日間を使ってね……20隻のスタッフ・クルーのご家族や、親しい関係者をそれぞれの艦に招待して……2日間を自由に過ごして貰おう…と言う企画だね……この企画が実現すれば……君も『ディファイアント』に招待できる……」
「……アドルさん……」
「……勿論…撮影されるんだけど……それでも好いなら…って話だけどね……」
「……私は勿論…喜んで行きます……」
「……ありがとう……うん……マーリーが作ってくれるものは……サンドイッチでもお弁当でも……何でも美味しいね……」
「……次は私が作ります💢 」
「…(笑)…そこまで対抗しなくても好いよ……君のハーブティーだって美味しいんだから……」
「……ありがとうございます……すみませんでした……」
「……好いよ……」
「……昨夜は……奥様と…されたんですか? 」
「……昨日はアリシアが、学校の友達を7人連れて帰ってね……一緒にお茶を飲んだり……夕食も摂って……配信番組も観たんだよ……終わってから勿論、タクシーで送って貰ったんだ……だからその気にならなかった……月曜日は休んでウチに居るから……ゆっくりやるよ……ああ、そうだ……『ヘルヴェスティア』と『レディ・ブランチャード』…それぞれの司令部に、ソリッド・ロッドは届いたのかな? 」
「……はい……歓迎昼食会終了直後に、メッセージ付きで正式に緊急発送しました……発送直後に通話でお伝えしましたし……到着直後には受領したとのご返答と、これからそれぞれの艦に直行するとのお知らせをも、通話で頂きました……」
「……ありがとう、リサさん……急な仕事で急がせたね……ご苦労さん……」
「……どう致しまして……このくらい、何でもありません……」
「……それとリサさん……『ヘルヴェスティア』と『レディ・ブランチャード』の参謀と機関部長を、来週の何処かで本社に招きたいんだけど……いつが好いだろうか? 」
「……はい……それについても既に私から先方と連絡を執りまして……来週10日の火曜日、11:30にスカイ・ラウンジにてお迎えする、と言う予定として設定致しました……宜しかったでしょうか? 」
「……大変に結構です……ありがとうございました……」
「……どう致しまして……嬉しいです……」
「……そうだ……リサさん……さっき話した『ファン感謝デー』の企画だけど……実現する事になったら、エクササイズ・トレーニングデッキのプール・エリアを使って、『水上大運動会』をやろう……これはすごく盛り上がるだろうし…交流も進むだろうから……」
「……撮影されますから、参加はそれを承知して頂ける方ですね……」
「……そうだね……それは当然、そうなるだろう……」
「……でも、素晴らしいアイデアだと思います……」
「……ありがとう、リサさん……」
その後、5分でマーリー作のサンドイッチは食べ終えた……それからリサ・ミルズが点てて淹れたカモミール・ティーをチビチビと頂きながら、雑談して過ごす……そして丁度06:45に『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション社』の正門ゲートに滑り込んだ。
リムジンはガード・ステーションに横付けされたので、降りる……リサさんも降りた……ステーションの中に入り、通常のPID カードを提示する。
「……おはようございます……随分とお早いですね……」
「……おはようございます……まあ、気合いも入っていますので……」
「……分かりました……では、GFPID カードの提示をお願いします……」
GFPID カードも提示すると、スキャナーがふたつ出て来る。
「……こちらで掌紋のスキャンを両方と……こちらで網膜パターンのスキャンも両眼でお願いします……」
「……何だか、セキュリティ・ガードが厳重になってきていませんか? 」
「……お手数を煩わせてしまいまして、申し訳ございません……」
両方のパターン・スキャンニングを済ませると、PAD が出て来る。
「……こちらに、アクセス認証コードの入力をお願いします……」
入力を終えると、本人確認が終わる。
「…ようこそおいで頂きました…アドル・エルク様……2日間、お気を付けてお過ごし下さい……通常のPID カードは、お帰りまでこちらでお預かりします……あのお車は戻られますか? 」
「……はい……ですが、日曜日の22:30くらいには、私を迎えにまた来る筈です……」
「……承知しました……同じ運転手の方で来られますか? 」
「……はい、その筈です……」
「……分かりました。こちらでお車のナンバーと、運転手の方のPID カードのコピーを頂きます……」
そう言いながら私のGFPID カードを返してくれて、私と一緒に外に出た。
バッグから必須アイテムを取り出してコートのポケットに入れてから、それをリサさんに手渡す。
「……戻るまで、お願いします……」
「……分かりました……」
「……もう戻る? 」
「……皆さんにも、お会いしたいので……」
「……じゃあ、行こう……」
「……はい……」
ふたりで歩き出し、正面玄関前の階段を登って中に入る……向かって右側に拡がる、待ち合わせ用の待機ラウンジにふたりで座る……プレミアム・シガレットボックスとライターを取り出して1本を咥えて点けてから、それらもリサさんに渡した。
7分で喫い終える……揉み消して右手側を見遣ると、マルセル・ラッチェンス・マスター・プロデューサーが歩いて来るのが観えたので、立ち上がる。
「……おはようございます…アドルさん……リサさんもお早いですね……おふたりとも、随分と早いじゃないですか……どうしたんですか? 」
「……おはようございます…マルセルさん……いや、特に何がどうこうと言う訳でもないのですが……気合いが入っているのは確かですね……あと……もしもマルセルさんにお会い出来たら、提案したい事もありましたので……」
リサさんも交えてお互いに握手を交わし合って座る。
「……ほう…ご提案ですか?……宜しいですよ……まだ朝も早いですし、伺いましょう……飲み物は? 」
「……いや、飲み物は大丈夫です……提案したいのは企画案なんですよ……言わば『ファン感謝デー』とも言えるようなものなのですが……」
「……ほう……詳しくお願い出来ますか? 」
「……はい……ファースト・シーズンとセカンド・シーズンのインターバル期間中での開催が好いのではないだろうかと思います……20隻のスタッフ・クルーのご家族と親しい関係者の皆さんを、土日の2日間限定でそれぞれの艦にご招待しまして……それぞれの艦でのお持て成しで、楽しんで頂こうと言うものです……」
「……アドルさん……また素晴らしいアイデアをありがとうございます……今ここで、初めて伺ったばかりですが……私も…瞬時に惚れ込みました……是非とも実現したいと思います……これは早速、上層部に提案します……私の勘ですが……通ると思います……私もインターバル期間での開催が好いと思います……多分採用されると思いますので、暫くお待ち下さい……それで……どうされますか? アドルさん……まだ07:15くらいですね……セレモニー・ホールに降りても、あそこは座れませんので……」
「……設定した集合時間は07:45ですので、まだここで待ちますよ……処でマルセルさん……今日は最初に、何かのセレモニーがあるのですか? 」
「……いえ、特にはありません……08:00に艦への搭乗が解禁されますので、5分前にウチの副社長が簡単な挨拶を申し述べるだけですね……」
「……分かりました…ありがとうございます……」
「……08:00 になったら、直ぐに乗艦しますよね? 」
「……ええ、そして09:00 になったら、直ぐに出航します……今回は時間を無駄にできませんので……」
「……分かりました……頑張って下さい……ご無事での入港を、お祈りします……私はここで失礼させて頂きますが、お待ち合わせの上でセレモニー・ホールにおいで下さい……それと……また素晴らしいアイデアを本当にありがとうございました……これは実現に向けて強力にプッシュします……観ていて下さい……それでは……」
彼がそこで言葉を切ったので、3人ともまた立ち上がり、再び握手を交わして別れた。
それから5分間くらいで、20隻に乗艦する艦長も含めて、副長・スタッフ・クルーが続々と集まり始める……皆、私とリサさんが最初に来ているのを観て驚いていたが、私達に歩み寄って笑顔で握手を交わすと、あまり待たずに次々とチェックゲートを通り抜けて行く……『ディファイアント』のスタッフ・クルーも集まり始める……ラウンジがクルーで溢れ返る前にチェックゲートを通過するべきなのだろうが、私は暫く1人握手会を続けていた……が、流石に混んできたので後はカリッサ副保安部長に任せ、リサに手を振ってゲートを通り抜けた。
やや揉みくちゃにされながら、セレモニーホールに降り立つ……時刻は07:35……広いセレモニー・ホールとは言え、もう混み合い始めている……気が付くと右手にシエナとハル……左手にハンナとリーアがいる。
「……おはようございます。アドルさん……」
「……おはよう……もう全員集まっているのかな? 」
「……大体は確認しましたが、まだ全員ではありません……アドルさんとリサさんで、最初に来ていたんですって? どうしたんですか? 」
「……やっぱり気合いが入っているからさ……おかげでマルセルさんとも話せたしね……しかし……セレモニーホールをもっと広くするように、提案すれば好かったな……ナンバー・ワン……乗艦したら、全員で集まる必要はない……第2警戒配置に就くように通達を頼む……確認できたら、艦内オールで話をするから……」
「……分かりました……そのように通達します……」
「……やあ…やっぱりごった返すね……ざっと1600人以上が集まる訳だから……来週の何処かでクラムホルツ社長に通話を繋いで、直接に言ってみるよ……ちょっとこれでは混み過ぎだからって……」
いつの間にか私のぐるりをメインとサブのスタッフが取り囲んでいる……だから、他艦のスタッフ・クルーは観えない……ホール中央の演台にスポットライトが当たると、既にデボラ・ヴァン・フォルケンバーグ副社長が立っていた。
「……おはようございます……今日と明日で『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』の、セカンド・ゲームでございます……ご参加の皆様に於かれましては、朝早くからご参集を頂きまして…誠にありがとうございます……感謝申し上げます……08:00の時点を以ちまして、それぞれの艦への搭乗が解禁されますので……それぞれのゲートを経て、お進み下さいませ……ご無事での入港を心よりご祈念申し上げます……それでは…間も無くお時間です……」
「…すみません! 発言してもよろしいでしょうか?! 」
ヤンセン艦長の声だ。
「……はい、どうぞ…お名前から、お願いします……」
「……おはようございます! 『トルード・レオン』を預かる、ヤンセン・パネッティーヤです……要望をひとつ、申し上げます! 毎回の始めに於きましてこのように、全員で参集しますのは…大変に狭苦しくてつらいであろうと感じますので、是非ともご高配を頂きたいと思います……ここをもっと広く改修して頂くなり、参集する時間帯を複数で設定して頂くなり……鋭意のご検討を宜しくお願い致します……」
「……ご要望は確かに承りました…ヤンセン・パネッティーヤ艦長……直ちに持ち帰りまして、検討させて頂きます……貴重なご指摘・ご意見もともに、ありがとうございました……それでは皆様…お時間でございます……」
副社長と演台を照らし出していたスポットライトの光が消えて、ほぼ同時に20本のスポットライトがホールの最上階のぐるりを取り囲んで設置されている、20枚のドアをクッキリと鮮やかに照らし出す。
私達が通り抜けるべきドアは前回と同じ、シルバー・ホワイトに染め上げられている。
私は右手でシエナの左手を…左手でハンナの右手を握り、晴々とした笑顔で言った。
「……さあ! 行こう! 」
「……はい! 」
ハッチを開けて出て、ゆっくりと降り立つ……掛けて置いたタオルで軽く身体を拭い、サンダルを突っ掛けてバスルームに入る……熱いシャワーでエプソム・ソルトを洗い流し、頭から全身を丁寧に洗って髭も剃り上げる……あがってよく乾いたタオルで水気を吸わせて拭き取り、既に用意して置かれている下着を着けて靴下を履き、シャツを着る。
髪を乾かしてセットしてからネクタイを細く締め込み、カフスボタンを付けてネクタイピンを着ける。
そして自室に入り、アリソンが選んで吊して置いてくれたスーツを着る……バランスと外見を姿見に映して確認する……よし……コートを着てポケットに必要な物を入れる……左腕のクロノ・リストを観る……04:20……好い頃合いだ……携帯端末を取り出して、リサ・ミルズをコールする。
「……おはようございます……あと30分で着きます……」
「……おはよう……? 君も乗っているの? 」
「……はい……」
「……随分と早く起きたね……大丈夫? 」
「……昨夜は、早く寝みましたから……」
「……ご苦労様……タクシーだよね? 」
「……いえ、社用車です……」
「……もしかして、あのホテルに行った時に乗ったリムジン? 」
「……そうです……」
「……へえ……こんな早い時間によく出して貰えたね……」
「……頼まれた後で、直ぐに予約しましたから……」
「……そうなんだ……分かった……コーヒーを飲んで一服したら、外に出て待つよ……」
「……分かりました……」
「……どこかで、軽食を貰いたいんだけど?……」
「……はい…そう仰られるだろうと思って、マーリーに頼んで作って貰いました……お茶は、私のハーブティーです……」
「……そう……マーリーにも、手間を掛けさせたね……会ったらお礼を言うよ……」
「……では、後程に……」
「……ああ、宜しく……」
端末をポケットに仕舞ってキッチンに立ち、スペシャル・ブレンドでコーヒーを点てて淹れる……カップを持ってテーブルに着き、ゆっくりと飲む……飲み終えて片付けてから、灰皿を持って2階に上がり、ベランダでプレミアム・シガレットに点けた……風は殆ど無い……紫煙がたなびいて、薫りが拡がる……特に何も考えていない……出陣の朝か? そんなにドラマチックなものでもない……シガレットの残り……このBoxでは、あと3本か………よし……行くか……灰皿で揉み消して中に入り、片付ける。
靴を履いて外に出る……まだ早いか……あと8分で到着予定時刻だ。
まあ……暫く待とう………やがてリムジンのライトが観えて、目の前で停車する……左後部のドアが開いたので、乗り込んだ。
「……おはようございます……サッパリ、スッキリとされていますね……顔色も好いですよ……」
「……おはよう……朝早くから、ありがとう……ご苦労さんだね……何時くらいに着くかな? 」
この問いには、運転手さんが答えた……本社とあのホテルとの間での送迎でも、お世話になった人だ。
「……06:30から07:00の間には着きますね……もう少し、ゆっくり行きましょうか? 」
「……おはようございます……今日もお世話になります……取り敢えず、06:45を目標にしてお願いします……」
「……分かりました……」
彼の返答を聴いてから、手元で操作してインサレーション・シェードを上げる。
「……日曜日の22:00に、この車でまた一緒に来てくれないか? 」
「……分かりました……お帰りはどちらへ? 」
「……自宅に帰るよ……それで月曜日は休むから、ウィッシャー・フロアチーフに伝えてくれる? 」
「……分かりました…伝えます……」
「……退院の日程は出た? 」
「……はい……来週の水曜日か木曜日かで少し揉めましたが、父が水曜日で押し切りました……」
「(笑)……配信番組を、家で観たいって訳だね? 社長も、これで大丈夫だな……」
「……そうですね……ありがとうございました……ご心配をお掛けしました……」
「……いや……社長には、まだ社長で居て貰わないと困るからね……提携事業も、まだ始まったばかりだし……これから来る山を、乗り越えて貰わなけりゃならない……」
「……山…ですか? 」
「……そう……状況が順調に……より善く肯定的に進んだとしても、それに対応して見合う規模での反動は……必ず来るものだよ……アイソレーション・タンクベッドを比較的に安価で売り捌いて販売シェアを拡大させ……同時にゲームの中でも上手く立ち回って優位性を確保して維持し続ける……その為に3社合同での業務提携事業として、立ち上げたのだろうと……言う人は…言うだろうからね……まあ冷静に観るなら…スルーしたって好いくらいの言い掛かりなんだろうけど……もう規模はかなり大きいし……3社それぞれでの立場もある……何らかの内容は、口頭にて発言しなければならないだろう……社長も含めて役員会は、もう既にそう認識していると思うよ……それに対して【『ディファイアント』共闘同盟】が、何をどうサポート出来るのかと言うなら……今日と明日で展開されるだろう【同盟】として初の組織対艦戦闘で……出来得る限りに効果的に…効率的に……相応の戦果を挙げること……ぐらいしか無いと思うよ……やあ、長く喋ったから喉も渇いたし、小腹も空いたな……サンドイッチとハーブティーを貰おうかな? 」
「……アドルさん、その前に……」
「……うん? 」
私が彼女の顔を観ようとして右に向けた顔の両側を両手で挟み……リサが自分の唇を私のそれに重ねて舌を差し入れて来た……私も直ぐに彼女を抱き竦めてそれに応じ……固く抱き締め合ってお互いの口を貪り合う……座る位置や体勢を入れ替えるような事はしなかったが……たっぷり90秒間……固く抱き締め合ってお互いの口と舌を貪り合っていた。
やっと動きを止めて口を離し、お互いの右頬を密着させ合う……呼吸を整えてから、ゆっくりとお互いの身体を離して…元の位置に戻る。
「……これが……今の私の気持ちです……」
「……ありがとう……君の気持ちは、しっかりと受け取ったよ……」
「……いきなり……我慢できなくなってしまって、すみませんでした……こちらです……」
そう言いながら小振りのバッグからランチ・バケットの包みを取り出すと、目の前のテーブルに置いて小さい保温ポットも、その傍に添えた。
「……ありがとう……それじゃ、頂きます……」
保温ポットのカバーカップを取り外して、ハーブティーを注ぐ……ポットを置いて香りを確かめる。
「……カモミールだね? 」
「……はい……今朝は、それだけで……」
「……ありがとう……」
息を吹き掛けながら、ゆっくり飲む……温かさが沁み渡る……そうして半分ほど飲んでから、カップを置く。
「……昨日は誰からも連絡は無かった? 」
「……はい…ありませんでしたが……」
「……そう……じゃあ、セットアップやら下拵えは…上手くいったようだね……」
言いながら、ランチバケットの包みを外して蓋を取る。
「……やあ…美味しそうなサンドイッチだ……食欲をそそる色合いだね……」
「……アドルさん……私にもいつか……マッサージの施術をお願いします……」
「……ああ…観たのか……うん……施術しよう……火曜日に終業したら、君のマンションに行こう……それで…するよ……」
「……ありがとうございます……必要なものは、用意しておきます……」
「……分かったよ……ありがとう……ご家族の皆さんにも挨拶したいけど、好いかな? 」
「……是非、お願いします……皆、喜びます……」
「……それと……手紙は読んだよ……あんなに熱烈なラブレターを貰ったのは、初めてだね……」
「……本当ですか? 」
「……本当だよ……10代は、硬派だったからね……」
「……その頃の写真、観せて下さい……」
「……自宅の何処かに、あると思うけどね……」
「……分かりました。奥様にお訊きします……」
「……あんまり根掘り葉掘り訊かないでよ? 」
「(笑)……分かってます……」
「……マルセルさんに会ったら、『ファン感謝デー』の企画を提案してみようと思うんだよ……」
「……『ファン感謝デー』……ですか? 」
「……時期を観て……土日の2日間を使ってね……20隻のスタッフ・クルーのご家族や、親しい関係者をそれぞれの艦に招待して……2日間を自由に過ごして貰おう…と言う企画だね……この企画が実現すれば……君も『ディファイアント』に招待できる……」
「……アドルさん……」
「……勿論…撮影されるんだけど……それでも好いなら…って話だけどね……」
「……私は勿論…喜んで行きます……」
「……ありがとう……うん……マーリーが作ってくれるものは……サンドイッチでもお弁当でも……何でも美味しいね……」
「……次は私が作ります💢 」
「…(笑)…そこまで対抗しなくても好いよ……君のハーブティーだって美味しいんだから……」
「……ありがとうございます……すみませんでした……」
「……好いよ……」
「……昨夜は……奥様と…されたんですか? 」
「……昨日はアリシアが、学校の友達を7人連れて帰ってね……一緒にお茶を飲んだり……夕食も摂って……配信番組も観たんだよ……終わってから勿論、タクシーで送って貰ったんだ……だからその気にならなかった……月曜日は休んでウチに居るから……ゆっくりやるよ……ああ、そうだ……『ヘルヴェスティア』と『レディ・ブランチャード』…それぞれの司令部に、ソリッド・ロッドは届いたのかな? 」
「……はい……歓迎昼食会終了直後に、メッセージ付きで正式に緊急発送しました……発送直後に通話でお伝えしましたし……到着直後には受領したとのご返答と、これからそれぞれの艦に直行するとのお知らせをも、通話で頂きました……」
「……ありがとう、リサさん……急な仕事で急がせたね……ご苦労さん……」
「……どう致しまして……このくらい、何でもありません……」
「……それとリサさん……『ヘルヴェスティア』と『レディ・ブランチャード』の参謀と機関部長を、来週の何処かで本社に招きたいんだけど……いつが好いだろうか? 」
「……はい……それについても既に私から先方と連絡を執りまして……来週10日の火曜日、11:30にスカイ・ラウンジにてお迎えする、と言う予定として設定致しました……宜しかったでしょうか? 」
「……大変に結構です……ありがとうございました……」
「……どう致しまして……嬉しいです……」
「……そうだ……リサさん……さっき話した『ファン感謝デー』の企画だけど……実現する事になったら、エクササイズ・トレーニングデッキのプール・エリアを使って、『水上大運動会』をやろう……これはすごく盛り上がるだろうし…交流も進むだろうから……」
「……撮影されますから、参加はそれを承知して頂ける方ですね……」
「……そうだね……それは当然、そうなるだろう……」
「……でも、素晴らしいアイデアだと思います……」
「……ありがとう、リサさん……」
その後、5分でマーリー作のサンドイッチは食べ終えた……それからリサ・ミルズが点てて淹れたカモミール・ティーをチビチビと頂きながら、雑談して過ごす……そして丁度06:45に『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション社』の正門ゲートに滑り込んだ。
リムジンはガード・ステーションに横付けされたので、降りる……リサさんも降りた……ステーションの中に入り、通常のPID カードを提示する。
「……おはようございます……随分とお早いですね……」
「……おはようございます……まあ、気合いも入っていますので……」
「……分かりました……では、GFPID カードの提示をお願いします……」
GFPID カードも提示すると、スキャナーがふたつ出て来る。
「……こちらで掌紋のスキャンを両方と……こちらで網膜パターンのスキャンも両眼でお願いします……」
「……何だか、セキュリティ・ガードが厳重になってきていませんか? 」
「……お手数を煩わせてしまいまして、申し訳ございません……」
両方のパターン・スキャンニングを済ませると、PAD が出て来る。
「……こちらに、アクセス認証コードの入力をお願いします……」
入力を終えると、本人確認が終わる。
「…ようこそおいで頂きました…アドル・エルク様……2日間、お気を付けてお過ごし下さい……通常のPID カードは、お帰りまでこちらでお預かりします……あのお車は戻られますか? 」
「……はい……ですが、日曜日の22:30くらいには、私を迎えにまた来る筈です……」
「……承知しました……同じ運転手の方で来られますか? 」
「……はい、その筈です……」
「……分かりました。こちらでお車のナンバーと、運転手の方のPID カードのコピーを頂きます……」
そう言いながら私のGFPID カードを返してくれて、私と一緒に外に出た。
バッグから必須アイテムを取り出してコートのポケットに入れてから、それをリサさんに手渡す。
「……戻るまで、お願いします……」
「……分かりました……」
「……もう戻る? 」
「……皆さんにも、お会いしたいので……」
「……じゃあ、行こう……」
「……はい……」
ふたりで歩き出し、正面玄関前の階段を登って中に入る……向かって右側に拡がる、待ち合わせ用の待機ラウンジにふたりで座る……プレミアム・シガレットボックスとライターを取り出して1本を咥えて点けてから、それらもリサさんに渡した。
7分で喫い終える……揉み消して右手側を見遣ると、マルセル・ラッチェンス・マスター・プロデューサーが歩いて来るのが観えたので、立ち上がる。
「……おはようございます…アドルさん……リサさんもお早いですね……おふたりとも、随分と早いじゃないですか……どうしたんですか? 」
「……おはようございます…マルセルさん……いや、特に何がどうこうと言う訳でもないのですが……気合いが入っているのは確かですね……あと……もしもマルセルさんにお会い出来たら、提案したい事もありましたので……」
リサさんも交えてお互いに握手を交わし合って座る。
「……ほう…ご提案ですか?……宜しいですよ……まだ朝も早いですし、伺いましょう……飲み物は? 」
「……いや、飲み物は大丈夫です……提案したいのは企画案なんですよ……言わば『ファン感謝デー』とも言えるようなものなのですが……」
「……ほう……詳しくお願い出来ますか? 」
「……はい……ファースト・シーズンとセカンド・シーズンのインターバル期間中での開催が好いのではないだろうかと思います……20隻のスタッフ・クルーのご家族と親しい関係者の皆さんを、土日の2日間限定でそれぞれの艦にご招待しまして……それぞれの艦でのお持て成しで、楽しんで頂こうと言うものです……」
「……アドルさん……また素晴らしいアイデアをありがとうございます……今ここで、初めて伺ったばかりですが……私も…瞬時に惚れ込みました……是非とも実現したいと思います……これは早速、上層部に提案します……私の勘ですが……通ると思います……私もインターバル期間での開催が好いと思います……多分採用されると思いますので、暫くお待ち下さい……それで……どうされますか? アドルさん……まだ07:15くらいですね……セレモニー・ホールに降りても、あそこは座れませんので……」
「……設定した集合時間は07:45ですので、まだここで待ちますよ……処でマルセルさん……今日は最初に、何かのセレモニーがあるのですか? 」
「……いえ、特にはありません……08:00に艦への搭乗が解禁されますので、5分前にウチの副社長が簡単な挨拶を申し述べるだけですね……」
「……分かりました…ありがとうございます……」
「……08:00 になったら、直ぐに乗艦しますよね? 」
「……ええ、そして09:00 になったら、直ぐに出航します……今回は時間を無駄にできませんので……」
「……分かりました……頑張って下さい……ご無事での入港を、お祈りします……私はここで失礼させて頂きますが、お待ち合わせの上でセレモニー・ホールにおいで下さい……それと……また素晴らしいアイデアを本当にありがとうございました……これは実現に向けて強力にプッシュします……観ていて下さい……それでは……」
彼がそこで言葉を切ったので、3人ともまた立ち上がり、再び握手を交わして別れた。
それから5分間くらいで、20隻に乗艦する艦長も含めて、副長・スタッフ・クルーが続々と集まり始める……皆、私とリサさんが最初に来ているのを観て驚いていたが、私達に歩み寄って笑顔で握手を交わすと、あまり待たずに次々とチェックゲートを通り抜けて行く……『ディファイアント』のスタッフ・クルーも集まり始める……ラウンジがクルーで溢れ返る前にチェックゲートを通過するべきなのだろうが、私は暫く1人握手会を続けていた……が、流石に混んできたので後はカリッサ副保安部長に任せ、リサに手を振ってゲートを通り抜けた。
やや揉みくちゃにされながら、セレモニーホールに降り立つ……時刻は07:35……広いセレモニー・ホールとは言え、もう混み合い始めている……気が付くと右手にシエナとハル……左手にハンナとリーアがいる。
「……おはようございます。アドルさん……」
「……おはよう……もう全員集まっているのかな? 」
「……大体は確認しましたが、まだ全員ではありません……アドルさんとリサさんで、最初に来ていたんですって? どうしたんですか? 」
「……やっぱり気合いが入っているからさ……おかげでマルセルさんとも話せたしね……しかし……セレモニーホールをもっと広くするように、提案すれば好かったな……ナンバー・ワン……乗艦したら、全員で集まる必要はない……第2警戒配置に就くように通達を頼む……確認できたら、艦内オールで話をするから……」
「……分かりました……そのように通達します……」
「……やあ…やっぱりごった返すね……ざっと1600人以上が集まる訳だから……来週の何処かでクラムホルツ社長に通話を繋いで、直接に言ってみるよ……ちょっとこれでは混み過ぎだからって……」
いつの間にか私のぐるりをメインとサブのスタッフが取り囲んでいる……だから、他艦のスタッフ・クルーは観えない……ホール中央の演台にスポットライトが当たると、既にデボラ・ヴァン・フォルケンバーグ副社長が立っていた。
「……おはようございます……今日と明日で『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』の、セカンド・ゲームでございます……ご参加の皆様に於かれましては、朝早くからご参集を頂きまして…誠にありがとうございます……感謝申し上げます……08:00の時点を以ちまして、それぞれの艦への搭乗が解禁されますので……それぞれのゲートを経て、お進み下さいませ……ご無事での入港を心よりご祈念申し上げます……それでは…間も無くお時間です……」
「…すみません! 発言してもよろしいでしょうか?! 」
ヤンセン艦長の声だ。
「……はい、どうぞ…お名前から、お願いします……」
「……おはようございます! 『トルード・レオン』を預かる、ヤンセン・パネッティーヤです……要望をひとつ、申し上げます! 毎回の始めに於きましてこのように、全員で参集しますのは…大変に狭苦しくてつらいであろうと感じますので、是非ともご高配を頂きたいと思います……ここをもっと広く改修して頂くなり、参集する時間帯を複数で設定して頂くなり……鋭意のご検討を宜しくお願い致します……」
「……ご要望は確かに承りました…ヤンセン・パネッティーヤ艦長……直ちに持ち帰りまして、検討させて頂きます……貴重なご指摘・ご意見もともに、ありがとうございました……それでは皆様…お時間でございます……」
副社長と演台を照らし出していたスポットライトの光が消えて、ほぼ同時に20本のスポットライトがホールの最上階のぐるりを取り囲んで設置されている、20枚のドアをクッキリと鮮やかに照らし出す。
私達が通り抜けるべきドアは前回と同じ、シルバー・ホワイトに染め上げられている。
私は右手でシエナの左手を…左手でハンナの右手を握り、晴々とした笑顔で言った。
「……さあ! 行こう! 」
「……はい! 」
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