上 下
190 / 294
出航

始動・発進・出航

しおりを挟む
「運営推進本部から許諾コードが付与されました。そのままメインゲート・コントロールへ送信します…回線が繋がりました! 映像と音声でこちらに呼び掛けています」

「回線を同期。メインビューワへ」

メインビューワが点灯し、ジェア・インザー次長を少し柔和にしたような男性が映し出された。

「こちらはメインゲート・コントロール。貴艦の艦籍番号と艦種と艦名、艦長の姓名とアクセス承認コードを口頭にて申告されたい」

「062363、軽巡宙艦『ディファイアント』、私が艦長のアドル・エルクです。アクセス承認コード・αC2ΘX9」

「確認しました。出航申請を承認し、許可します。日曜日の午後11時迄に入港するように。健闘を祈ります。以上」

それだけで、映像通話は途切れた。

「艦長! メインゲートが開き始めます! 」

カリーナ・ソリンスキーが、そう告げる。

「副長、発進シークエンス、開始」

「了解、補助パワーをサブエンジンとリンク! 」

「了解、補助パワー、サブエンジンとリンクしてパワー伝達! 」

と、リーア・ミスタンテ機関部長。

「サブエンジン始動! 」

「サブエンジン始動。定格起動。臨界パワー30%から上昇…」

「艦内全システムにパワー伝達して供給開始」

「パワー供給レベル、レッドからオレンジへ…」

「生命維持システム、医療装備、システム起動」

「臨界パワー50%…」

「メインコンピューター起動、全センサーシステム、測定・分析システム起動」

「供給レベル、オレンジからイエローへ…」

「全兵装システム起動。ディフレクターグリッド起動。シールドジェネレーター起動。環境管理システム起動」

「外部接続コンジット、離断用意」

「了解」

「メインエンジン始動準備」

「了解。メインエンジン・スターターホイール起動」

「メインエンジン・スターターシステム確認」

「確認好し」

「サブエンジン臨界パワー80%」

「パワー供給レベル、イエローからグリーンへ…」

「外部接続コンジット、レベル5から3迄を離断」

「スターターホイール回転加速」

「了解、加速50%」

「タラップ収納、ハッチ閉鎖。艦内非常隔壁全閉鎖」

「サブエンジン臨界パワー90%」

「パワー供給レベル、グリーンからブルーへ…」

「外部接続コンジット、レベル2を離断」

「スターターホイール回転加速80%」

「サブエンジン臨界パワー100%」

「パワー供給レベル、ブルーからスカイブルーへ…安定供給領域に到達」

「スターターホイール回転加速120%」

「外部接続コンジット、レベル1を離断」

「メインエンジン、始動準備好し! 」

「スターターホイール、最大出力でメインエンジンにパワー伝達! 」

「パワー伝達! 始動!! ……  メインエンジン始動成功! 定格起動、臨界パワー20%。徐々に上昇」

「外部接続全コンジットの離断を確認。サブエンジン、臨界パワー120%、噴射出力40%、推力30%、メインエンジン臨界パワー40%、噴射出力30%、推力20%、ガントリー・ロック解除」

艦体が僅かに揺れる。この『ディファイアント』は、総てが撮影セットだ。揺れまで再現するとは。

「磁力接着解除。面舵1°、離岸します! 『ディファイアント』発進! 」

エマ・ラトナーが宣した。

ブリッジ正面のメインビューワの中で、周囲の景色が後方に流れ始める。

「センサー、パッシブ・スイープを開始! 赤外線と磁気も観測! 」

「出航完了まで40秒! 」

ハル・ハートリー参謀が宣する。

初出航で、やろうと決めていたひとつ目を行う。

「コンピューター! ライブラリー・データベースにアクセス! 」

【アクセス】

「連続配信ドラマ、『宇宙探査艦ランドール7』のフォース・シーズンからのメインテーマをフルスコアで流せ! 」

【ボリュームは?】

「7」

軽快な面もあり重厚な面もある、希望と楽観と緊張と躍動と期待を感じさせる、壮大な旅立ちのテーマが響き渡る。

「このドラマ、長く続きましたね。第8シーズンまででしたか。好きなんですか? 」

ハンナ・ウェアーが訊く。

「うん、好きだね。総てダウンロードしてあるよ」

「フォース・シーズンに出演しました。ゲストでしたが」

副長が応える。

「憶えてるよ。格好良い役だったね。切なくて、好い話だった」

「実は私、副長役としてのオファーを頂いていたんです。でも、役のイメージが定着するのは良くない、と言う助言を貰って、辞退しました。今考えれば、受けていれば良かったと思います」

「それは惜しかったね(実は知っている)でも今は立派に副長だから、好いじゃないか」

「ありがとうございます」

「その助言をしたのは、私でした。すみません」

カウンセラーが少し申し訳なさそうに言う。

「そうだったんだ(実はそれも知っている)女優としては自然な捉え方だと思うよ。気にしてないから、気にしなくていい」

「ありがとうございます」

「メインゲートから出ます! 」

と、エマが言う。

「センサー! オールレンジでパッシブスイープ! 感知したら直ちにエンジン停止! 」

『ディファイアント』がメインゲートから虚空に滑り出す。艦の全体が出てからゲートは小さくなり、閉じて消えた。

塗り直させたシルバー・ホワイトの艦体を、できるなら外から観てみたいと思った。

「『ディファイアント』出航完了! 」

「よし、ゲームフィールドデータをアップデート。現在位置を確認」

「了解…ゲームフィールドは38のクアドラント、ひとつのクアドラントは50のグリッド、ひとつのグリッドは80のパーセカル、ひとつのパーセカルは120のセクター、ひとつのセクターの広さは、太陽系の10倍程度です」

「『ディファイアント』現在位置、βクアドラント、M7グリッド、D8パーセカル、M24セクター、スペースポイント687・423マーク109・78です」

「了解だ…やはり予想通りの広さだな。これ程の広さの中で、出航ポイントをランダムに設定されたのなら、まず他艦とは出遭わない。今週と来週の4日間、上手くすれば単艦での訓練プログラムに集中できるだろう…センサー対物スキャン、比較的にデプリ密度の高い宙域を把握して、最寄りの宙域に針路を採ってくれ」

「了解…コースセット、357マーク208、ファーストスピードで発進! 」

よし、ここでやろうと決めていたふたつ目をやろう。

「コンピューター! 艦内オール・コネクト・コミュケーション」

【コネクト】

「続けて再びライブラリー・データベースにアクセス」

【アクセス】

「グループ名『リアン・ビッシュ』、楽曲名『ARIA』、ボリューム7で再生スタンバイ」

【スタンバイ】

「続けて再生プロセスをコミュケーションアレイとリンク、全ゲームフィールドに向けて、通常音声発信用意」

【完了】

「ブリッジから全乗員へ、こちらは艦長だ。これより『ディファイアント』としての名乗りを挙げる。どこで誰が聴いているか、判らんがね…スタート! 」

切々として物悲しいが力強さも感じさせる『ARIA』が、『リアン・ビッシュ』4人での素晴らしいハーモニー・コーラスとして艦の内外に響き渡る。

『リアン・ビッシュ』は4人ともそれぞれの部所で、配置に就いている。だからこの楽曲を選んだ、と言う事でもある。

4人とも初めの内は驚いていたが、やがて感情的に昂って来たのか、眼を瞠り口を両手で押さえて、その眼に涙を溜めながら聴いていた。

4人の内の2人(サラ・ペイリンとイリナ・スタム)が、医療部付き支援スタッフとして席に着き、声を殺して泣いているのを医療部長のアーレン・ダール博士が見遣る。

(アドル・エルク艦長って、見た目は普通+イケメンポイント5って処なんだけど、何でこんなにもクルーからモテるんだ? こう言う粋な計らいがサラっと出来るって以外にも、必ず何かがあるはずだな…)

『サライニクス・テスタロッツァ』ブリッジ…

「艦長、出航完了しました…やはりアドル艦長の予測通りで、途轍も無い広さですね…本艦の現在位置ですが…」

「待て、ローズ…この歌は何だ? 」

「はい? この歌は…確か…」

『トルード・レオン』ブリッジ…

「『リアン・ビッシュ』の『ARIA』ですね…」

「『リアン・ビッシュ』と言うと? 」

「『ディファイアント』のクルーですよ、艦長…」

『フェイトン・アリシューザ』ブリッジ…

「アドル・エルク艦長、名乗りを挙げたな…」

「ザンダー艦長…? 」

「アレクシア、音源の位置を確認してくれ? そこに『ディファイアント』が居る。それが判れば本艦との位置関係が判る」

「分かりました」

『ラバブ・ドゥーチェン』ブリッジ…

「アドル艦長…何とも粋な計らいをするもんだね…」

「多分、泣いていますよ。あの4人…」

「まあ、そうだろうな。ラクウェル副長、音源の位置を確認してくれ? そうすれば、こっちとの位置関係が判る」

「分かりました」

『ARIA』は切々と歌い上げられ、深い余韻を挽いてフェイドアウトした。

「副長、会議室の設定は? 」

「既に2つとも設定は完了しました。訓練プログラムプランもタイムラインにアップ出来ています」

「よし、ご苦労さん。暗号秘密通信で新規設置会議室のタイムラインを参照せよ。と、発信! 」

「了解」

「カリーナ、目標宙域迄の時間は? 」

「約20分です。あ? 艦長、運営推進本部から全参加艦に対しての通達です」

「何だい? 」

「『ファースト・チャレンジミッション』が発表されました! 」

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

処理中です...