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・・『開幕』・・
・・オンライン・オンタイム・セカンド・トップミーティング・・
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・・翌日・・(2/23・月)・・6:05・・
「・・おはよう・・」
・・彼女はもう髪は整え、服も隙無く着込んでエプロンを着けている・・袖を戻して整えながら、私を起こしに来た・・。
「・・おはようございます・・朝食の用意が出来ています・・コーヒーをお願いします・・」
・・美しい・・昨日までとはまるで違う・・満ち足りたような落ち着いた明るい美しさ・・何だ・・?・・まるで別世界に居る自分のような気がする・・まだ結婚して数ヶ月の新婚夫婦が迎える朝のような・・。
「・・ありがとう・・直ぐに淹れるよ・・君もコーヒーで好いの・・?・・」
「・・はい・・シャキっとしたいですから・・」
「・・分かった・・」
・・起き上がってローブを羽織り、キッチンでコーヒーを点てて2杯淹れる・・向い合ってテーブルに着き、あまり時間を掛けずに飲み干す・・バスルームに入ると熱いシャワーで全身を洗い流すだけで直ぐに出る・・手早く服を着込み、髪を整えてまた座る・・。
・・卵2個のターンオーバー・・ベーコン2枚・・ほうれん草、キャロット、ポテトのソテー・・ライス・・野菜ジュース・・オレンジジュース・・ミルク・・ポタージュスープ・・そして、少し多めに盛られたサラダ・・。
「・・このサラダは特製ですから、残さず食べて下さいね・・?・・」
「・・分かった・・」
・・2人で一緒に食べ始めたが、このサラダは本当に特製だ・・ニンニク、生姜、玉葱が、生で多めに混ぜられている・・オリーブオイルと酢と塩と醤油とカレーパウダーで香りを付けたドレッシングが、辛味を抑えていて食べやすい・・滋養強壮・強精に特化したサラダだ・・。
「・・今日のトップミーティングで使用する資料はあるんですか・・?・・」
「・・特には作ってないよ・・でも、PADとLAPTOPは持って行くから・・」
「・・分かりました・・」
「・・近くまで行ったら、降ろして下さい・・」
「・・一緒に入れば好いよ・・君は秘書なんだから・・別に不思議じゃない・・」
「・・ありがとうございます・・」
「・・これを渡しておくよ・・複製しておいたんだ・・」
・・そう言って、スーツの内ポケットから2つのスマートキーを取り出して手渡す・・この社宅の玄関のキーと、ガレージ裏口のキーだ・・。
「・・ありがとうございます・・」
・・そう言ってリサは、それを大事そうにバッグに仕舞った・・。
「・・会社で昼飯を食ってから出たんじゃ、ギリギリだな・・昨日入ったラウンジで昼飯にしよう・・?・・」
「・・そうですね・・それが好いでしょう・・」
「・・今日集まる9人の艦長に・・こちらから君を紹介はしない・・彼らが連れて来た誰かを、彼らから僕達に先に紹介したのなら・・返礼として君を紹介する・・それで好いかな・・?・・」
「・・はい・・それで好いと思います・・」
「・・配信が終わったら君をマンションに送って行って、お母様にご挨拶しよう・・お土産は何が好い・・?・・」
「・・それでしたら、帰る途中でハーブティーの専門店に寄りましょう・・色々と見繕って買って行けば、喜ぶと思います・・」
「・・そうだね・・そうしよう・・」
・・その後は2人とも・・特に話さずに食べ終えた・・サラダは美味しかった・・最後にミルクを飲み干してグラスを置く・・。
「・・ご馳走様・・とても美味しかったよ・・それじゃ、片付けて行こう・・」
「・・ありがとうございます・・はい・・」
・・食器をシンクに運び入れ、私が洗って彼女が拭き上げる・・収納は2人でやって終わらせると、洗面所で歯を磨いて顔を洗う・・コートを着てポケットに小間物を入れると、バッグにも色々と詰め入れて準備が整う・・。
・・ガレージに出る前に軽く抱き合ってキスを交わす・・車を出すと彼女は助手席でメイクを施す・・早目に出たので、会社の駐車スペースにもかなり早い時刻に滑り込んだ・・。
・・いつものように1階のラウンジに入り、カウンターで自分のコーヒーを淹れようとしてポットを取り上げると、料理長が1杯のコーヒーをソーサーに乗せて差し出した・・。
「・・おはよう、エルク課長・・マンデリンで好かったかな・・?・・」
「・・おはようございます、コラントーニ料理長・・料理長自ら淹れて下さるとは恐縮なのですが・・私はまだ係長なので、そこは宜しくお願いします・・」
・・そう応えながら差し出されたコーヒーをソーサーごと受け取る・・。
「・・皆、知ってるよ・(笑)・君が課長になるって話はね・・?・・」
・・笑顔で言いながら料理長は私達を促して歩き出し、喫煙エリアのテーブルに着く・・。
「・・まあ・・噂はある程度広まっていると思いますが、まだ公式通達は出ていませんので私を役職名で呼ばれるのでしたら、係長でお願いします・・一服点けても宜しいですか・・?・・」
「・・どうぞ、ご自由に・・いや、少し・・冗談が過ぎたようだね・・申し訳ない・・実は、貴方にお礼が言いたくて待っていたんですよ・・アドルさん・・」
「・・ムッシュ・エンリコから連絡がありましたか・?・ラッサール・コラントーニ料理長・・?・・」
・・そう言って、カップに口を着ける・・旨い・・やはりこの人も、料理人としてはかなり高いランクの人だ・・。
「・・ええ・・ゆうべ弟から通話が繋がりましてね・・実に6年振りにあいつの声を聴きましたよ・・たった2人の兄弟なのに、些細な意見の違いとか、気持ちの擦れ違いからつまらない仲違いをしてしまいましてね・・お互いに我や意地も強いものだから、そのまま疎遠になってしまって・・この6年間は音信不通でしたよ・・全くお恥ずかしい話です・・それがアドルさん・・貴方のおかげで、思わぬ処から関係を修復する事が出来ました・・この通り・・心から感謝します・・」
・・そう言って料理長は向かいの席に座ったまま、深く頭を下げる・・。
「・・お顔を上げて下さい、料理長・・私はただ、お二人の姓が同じだったのが気になって、訊いてみただけなんです・・それが私にも思わぬ形で、お二人を久し振りに繋ぐ事が出来ました・・仰る通り、たった2人の兄弟がいつまでも仲違いをしたままじゃいけませんからね・・善い行いをさせて貰いましたので、こちらこそ感謝しておりますし、光栄にも思っていますよ・・」
・・そう言って、手に持ったままでいたシガーを口に咥えて火を点ける・・。
「・・アドルさん・・貴方が本社に来られてから、どのくらいになりますか・・?・・」
「・・19ヶ月になります・・」
・・と、少し深めに喫った一服を吐き出す・・。
「・・もっと早くから、貴方とこうして話をすれば良かった・・話してこなかったのが、悔やまれますよ・・貴方の素晴らしい人柄に、もっと早くから触れるべきでした・・」
「・・まあ、私に注目が集まったのは艦長に選ばれてからですし、それまでは・・いや今でもそうですが、ごく普通の営業マンですよ・・私自身も、ごく普通の男です・・」
・・コーヒーを二口飲み、もう一服喫って吐く・・。
「・・アドルさん・・貴方は普通の人とは違う・・普通の人だったら、艦長に選ばれた時点でもう自分を見失うだろう・・とても貴方のようには出来ないよ・・」
「・・私の周りの総ての人達に支えられました・・これまでも・・今も・・これからもね・・私が自分でやった事なんて、幾つもありません・・人と環境には恵まれました・・そうでなければ、仕事だけでもう潰れてます・・」
・・そう言ってまたコーヒーを飲み、一服喫って燻らせる・・。
「・・料理長が淹れて下さったマンデリンは、私が淹れたものより旨いですよ・・ご馳走様です・・」
「・・ありがとう・・その意味で言えば、リサさんは最高のサポーターだね・・?・・」
「・・全くその通りです・・彼女がいなかったら、私はもう潰れてます・・」
・・そう言ってコーヒーを飲み干し、シガーも最後の一服を喫って薫せ、揉み消した・・。
「・・エンリコはもう立派な料理人だし、マエストロ・ラウレンティスは最高のシェフだ・・それに君が艦長なら何の心配も無い・・宜しく頼みます・・開幕して暫く経ってからになるだろうが、ここにも訪ねて来てくれるそうだよ・・」
「・・本当に善かったですね、料理長・・ムッシュ・エンリコがいらした時には、皆で挙って歓迎しますよ・・常務とチーフの耳には入れておきますね・・?・・」
「・・ありがとう・・そちらは任せるよ・・さあ、今日も頑張ろうか・・?!・・」
・・料理長が右手を差し出したので、固く握り合う・・手を離すと彼は立ち上がり、右手を挙げてリサにも挨拶してから歩き出した・・その時に、スコット、マーリー、ズライも入って来る・・。
・・3人とも私達が座っているテーブルから料理長が立ち上がるのを観留めた・・厨房へ戻ろうとする彼に3人が会釈すると、彼も右手を挙げて応じる・・3人ともそのまま、私達の向かいに座る・・。
「・・おはようございます、先輩・・早いですね・・今、ここに料理長が座ってましたけど、何かありましたか・・?・・」
「・・おはよう、スコット・・いや、昨夜さ・・弟さんから連絡があって・・6年振りに話したそうだよ・・それで、俺のおかげで関係が修復出来ましたって事で、お礼のお言葉を頂いていた処さ・・」
「・・善かったですね、料理長・・」
「・・ああ、本当に善かったよ・・開幕して暫くして落ち着いたら、来社して下さるそうだよ、弟さん・・」
「・・そりゃ好い・・歓迎しないといけませんね・・?・・」
「・・ああ、挙って歓迎しよう・・リサさん・・コラントーニ兄弟の事は、報告書に書いて上げた方が口で伝えるよりも的確だろうね・・?・・」
「・・そうですね・・分かりました・・そうします・・」
「・・おはよう、リサさん・・ねえ、今日凄く綺麗だね・・見間違えそうだったよ・・?・・」
「・・おはよう、マーリー・・ありがとう・・昨夜は早く寝んだから、早い時間にスッキリ目覚めてシャワーを浴びられたので、サッパリ出来たんだと思うわ・・」
「・・そう言や、先輩もサッパリしてますよね・・?・・」
「・・昨日は色々と動いて疲れたからさ・・俺も早く寝たんだよ・・それで早く起きたから、朝風呂を頂いたって訳さ・・なあ、俺とリサさんはオンライン・トップミーティングに出たら、悪いけど退社するよ・・14:00から男性艦長10人が集められての、インタビューと対談の生配信がある・・多分それに先立ってPVも公開されるだろう・・観られるようなら観ておいてくれ・・ここで昼飯を食ってから出たんじゃギリギリだから、申し訳ないけど宜しく頼む・・本当に悪いと思ってるけど、正直に言ってもう開幕まで俺自身は殆ど仕事にならないと思う・・開幕したら、平日の日中は普通に仕事するよ・・俺が離席している事で何か言う人がいたら、後でその人の名前を教えてくれ・・俺が直接謝りに行くから・・それと今朝の朝礼でも一言言わせて貰うよ・・」
「・・大丈夫ですよ、先輩・・文句言う人なんていないスよ・・聴こえて来たって、チョットした愚痴ですから気にしなくて好いです・・確かに業務量はメチャクチャに増えてますけど、残業しなくてもこなせるぐらいに人員は投入されてますからその辺、ウチの職制と管理職は有能ですよ・・先輩がウチの社員であるってだけで、我が社の業績は右肩上がり処か鰻登りなんですから・・本当に今年のボーナスは楽しみですよ・・先輩が離席せざるを得ない状況について、謝る必要はありません・・黙っているのがベターで・・皆に何かを伝えるんだとしても、短い感謝で充分です・・正直、それがベストだと思いますね・・」
「・・そうか・・分かった・・スコット・・ありがとう・・そうさせて貰うわ・・お前、すごいな・!・もう俺が教える事は何も無いな・・」
「・・何言ってるんスか・・先輩・・まだまだ色々と教えてくれなくちゃ困りますよ・・僕なんか、まだまだ半人前なんですから・・先輩は、時々弱気が出るのが心配ですよ・・少し調子に乗って、超絶楽観でいる時の先輩が最高です・・ずっとそう言う調子でいて下さい・・」
「・・(笑)・チーフにも言われたよ・・お前は少し調子に乗っている方が、皆が安心するってさ・・」
「・・やっぱりね・・そう言うチーフも最高スよ・・」
「・・よし・・じゃ、朝礼が始まるから・・上がろうか・・?・・」
・・そう言って立ち上がり、5人でリフトに乗った・・。
「・・おはよう・・」
・・彼女はもう髪は整え、服も隙無く着込んでエプロンを着けている・・袖を戻して整えながら、私を起こしに来た・・。
「・・おはようございます・・朝食の用意が出来ています・・コーヒーをお願いします・・」
・・美しい・・昨日までとはまるで違う・・満ち足りたような落ち着いた明るい美しさ・・何だ・・?・・まるで別世界に居る自分のような気がする・・まだ結婚して数ヶ月の新婚夫婦が迎える朝のような・・。
「・・ありがとう・・直ぐに淹れるよ・・君もコーヒーで好いの・・?・・」
「・・はい・・シャキっとしたいですから・・」
「・・分かった・・」
・・起き上がってローブを羽織り、キッチンでコーヒーを点てて2杯淹れる・・向い合ってテーブルに着き、あまり時間を掛けずに飲み干す・・バスルームに入ると熱いシャワーで全身を洗い流すだけで直ぐに出る・・手早く服を着込み、髪を整えてまた座る・・。
・・卵2個のターンオーバー・・ベーコン2枚・・ほうれん草、キャロット、ポテトのソテー・・ライス・・野菜ジュース・・オレンジジュース・・ミルク・・ポタージュスープ・・そして、少し多めに盛られたサラダ・・。
「・・このサラダは特製ですから、残さず食べて下さいね・・?・・」
「・・分かった・・」
・・2人で一緒に食べ始めたが、このサラダは本当に特製だ・・ニンニク、生姜、玉葱が、生で多めに混ぜられている・・オリーブオイルと酢と塩と醤油とカレーパウダーで香りを付けたドレッシングが、辛味を抑えていて食べやすい・・滋養強壮・強精に特化したサラダだ・・。
「・・今日のトップミーティングで使用する資料はあるんですか・・?・・」
「・・特には作ってないよ・・でも、PADとLAPTOPは持って行くから・・」
「・・分かりました・・」
「・・近くまで行ったら、降ろして下さい・・」
「・・一緒に入れば好いよ・・君は秘書なんだから・・別に不思議じゃない・・」
「・・ありがとうございます・・」
「・・これを渡しておくよ・・複製しておいたんだ・・」
・・そう言って、スーツの内ポケットから2つのスマートキーを取り出して手渡す・・この社宅の玄関のキーと、ガレージ裏口のキーだ・・。
「・・ありがとうございます・・」
・・そう言ってリサは、それを大事そうにバッグに仕舞った・・。
「・・会社で昼飯を食ってから出たんじゃ、ギリギリだな・・昨日入ったラウンジで昼飯にしよう・・?・・」
「・・そうですね・・それが好いでしょう・・」
「・・今日集まる9人の艦長に・・こちらから君を紹介はしない・・彼らが連れて来た誰かを、彼らから僕達に先に紹介したのなら・・返礼として君を紹介する・・それで好いかな・・?・・」
「・・はい・・それで好いと思います・・」
「・・配信が終わったら君をマンションに送って行って、お母様にご挨拶しよう・・お土産は何が好い・・?・・」
「・・それでしたら、帰る途中でハーブティーの専門店に寄りましょう・・色々と見繕って買って行けば、喜ぶと思います・・」
「・・そうだね・・そうしよう・・」
・・その後は2人とも・・特に話さずに食べ終えた・・サラダは美味しかった・・最後にミルクを飲み干してグラスを置く・・。
「・・ご馳走様・・とても美味しかったよ・・それじゃ、片付けて行こう・・」
「・・ありがとうございます・・はい・・」
・・食器をシンクに運び入れ、私が洗って彼女が拭き上げる・・収納は2人でやって終わらせると、洗面所で歯を磨いて顔を洗う・・コートを着てポケットに小間物を入れると、バッグにも色々と詰め入れて準備が整う・・。
・・ガレージに出る前に軽く抱き合ってキスを交わす・・車を出すと彼女は助手席でメイクを施す・・早目に出たので、会社の駐車スペースにもかなり早い時刻に滑り込んだ・・。
・・いつものように1階のラウンジに入り、カウンターで自分のコーヒーを淹れようとしてポットを取り上げると、料理長が1杯のコーヒーをソーサーに乗せて差し出した・・。
「・・おはよう、エルク課長・・マンデリンで好かったかな・・?・・」
「・・おはようございます、コラントーニ料理長・・料理長自ら淹れて下さるとは恐縮なのですが・・私はまだ係長なので、そこは宜しくお願いします・・」
・・そう応えながら差し出されたコーヒーをソーサーごと受け取る・・。
「・・皆、知ってるよ・(笑)・君が課長になるって話はね・・?・・」
・・笑顔で言いながら料理長は私達を促して歩き出し、喫煙エリアのテーブルに着く・・。
「・・まあ・・噂はある程度広まっていると思いますが、まだ公式通達は出ていませんので私を役職名で呼ばれるのでしたら、係長でお願いします・・一服点けても宜しいですか・・?・・」
「・・どうぞ、ご自由に・・いや、少し・・冗談が過ぎたようだね・・申し訳ない・・実は、貴方にお礼が言いたくて待っていたんですよ・・アドルさん・・」
「・・ムッシュ・エンリコから連絡がありましたか・?・ラッサール・コラントーニ料理長・・?・・」
・・そう言って、カップに口を着ける・・旨い・・やはりこの人も、料理人としてはかなり高いランクの人だ・・。
「・・ええ・・ゆうべ弟から通話が繋がりましてね・・実に6年振りにあいつの声を聴きましたよ・・たった2人の兄弟なのに、些細な意見の違いとか、気持ちの擦れ違いからつまらない仲違いをしてしまいましてね・・お互いに我や意地も強いものだから、そのまま疎遠になってしまって・・この6年間は音信不通でしたよ・・全くお恥ずかしい話です・・それがアドルさん・・貴方のおかげで、思わぬ処から関係を修復する事が出来ました・・この通り・・心から感謝します・・」
・・そう言って料理長は向かいの席に座ったまま、深く頭を下げる・・。
「・・お顔を上げて下さい、料理長・・私はただ、お二人の姓が同じだったのが気になって、訊いてみただけなんです・・それが私にも思わぬ形で、お二人を久し振りに繋ぐ事が出来ました・・仰る通り、たった2人の兄弟がいつまでも仲違いをしたままじゃいけませんからね・・善い行いをさせて貰いましたので、こちらこそ感謝しておりますし、光栄にも思っていますよ・・」
・・そう言って、手に持ったままでいたシガーを口に咥えて火を点ける・・。
「・・アドルさん・・貴方が本社に来られてから、どのくらいになりますか・・?・・」
「・・19ヶ月になります・・」
・・と、少し深めに喫った一服を吐き出す・・。
「・・もっと早くから、貴方とこうして話をすれば良かった・・話してこなかったのが、悔やまれますよ・・貴方の素晴らしい人柄に、もっと早くから触れるべきでした・・」
「・・まあ、私に注目が集まったのは艦長に選ばれてからですし、それまでは・・いや今でもそうですが、ごく普通の営業マンですよ・・私自身も、ごく普通の男です・・」
・・コーヒーを二口飲み、もう一服喫って吐く・・。
「・・アドルさん・・貴方は普通の人とは違う・・普通の人だったら、艦長に選ばれた時点でもう自分を見失うだろう・・とても貴方のようには出来ないよ・・」
「・・私の周りの総ての人達に支えられました・・これまでも・・今も・・これからもね・・私が自分でやった事なんて、幾つもありません・・人と環境には恵まれました・・そうでなければ、仕事だけでもう潰れてます・・」
・・そう言ってまたコーヒーを飲み、一服喫って燻らせる・・。
「・・料理長が淹れて下さったマンデリンは、私が淹れたものより旨いですよ・・ご馳走様です・・」
「・・ありがとう・・その意味で言えば、リサさんは最高のサポーターだね・・?・・」
「・・全くその通りです・・彼女がいなかったら、私はもう潰れてます・・」
・・そう言ってコーヒーを飲み干し、シガーも最後の一服を喫って薫せ、揉み消した・・。
「・・エンリコはもう立派な料理人だし、マエストロ・ラウレンティスは最高のシェフだ・・それに君が艦長なら何の心配も無い・・宜しく頼みます・・開幕して暫く経ってからになるだろうが、ここにも訪ねて来てくれるそうだよ・・」
「・・本当に善かったですね、料理長・・ムッシュ・エンリコがいらした時には、皆で挙って歓迎しますよ・・常務とチーフの耳には入れておきますね・・?・・」
「・・ありがとう・・そちらは任せるよ・・さあ、今日も頑張ろうか・・?!・・」
・・料理長が右手を差し出したので、固く握り合う・・手を離すと彼は立ち上がり、右手を挙げてリサにも挨拶してから歩き出した・・その時に、スコット、マーリー、ズライも入って来る・・。
・・3人とも私達が座っているテーブルから料理長が立ち上がるのを観留めた・・厨房へ戻ろうとする彼に3人が会釈すると、彼も右手を挙げて応じる・・3人ともそのまま、私達の向かいに座る・・。
「・・おはようございます、先輩・・早いですね・・今、ここに料理長が座ってましたけど、何かありましたか・・?・・」
「・・おはよう、スコット・・いや、昨夜さ・・弟さんから連絡があって・・6年振りに話したそうだよ・・それで、俺のおかげで関係が修復出来ましたって事で、お礼のお言葉を頂いていた処さ・・」
「・・善かったですね、料理長・・」
「・・ああ、本当に善かったよ・・開幕して暫くして落ち着いたら、来社して下さるそうだよ、弟さん・・」
「・・そりゃ好い・・歓迎しないといけませんね・・?・・」
「・・ああ、挙って歓迎しよう・・リサさん・・コラントーニ兄弟の事は、報告書に書いて上げた方が口で伝えるよりも的確だろうね・・?・・」
「・・そうですね・・分かりました・・そうします・・」
「・・おはよう、リサさん・・ねえ、今日凄く綺麗だね・・見間違えそうだったよ・・?・・」
「・・おはよう、マーリー・・ありがとう・・昨夜は早く寝んだから、早い時間にスッキリ目覚めてシャワーを浴びられたので、サッパリ出来たんだと思うわ・・」
「・・そう言や、先輩もサッパリしてますよね・・?・・」
「・・昨日は色々と動いて疲れたからさ・・俺も早く寝たんだよ・・それで早く起きたから、朝風呂を頂いたって訳さ・・なあ、俺とリサさんはオンライン・トップミーティングに出たら、悪いけど退社するよ・・14:00から男性艦長10人が集められての、インタビューと対談の生配信がある・・多分それに先立ってPVも公開されるだろう・・観られるようなら観ておいてくれ・・ここで昼飯を食ってから出たんじゃギリギリだから、申し訳ないけど宜しく頼む・・本当に悪いと思ってるけど、正直に言ってもう開幕まで俺自身は殆ど仕事にならないと思う・・開幕したら、平日の日中は普通に仕事するよ・・俺が離席している事で何か言う人がいたら、後でその人の名前を教えてくれ・・俺が直接謝りに行くから・・それと今朝の朝礼でも一言言わせて貰うよ・・」
「・・大丈夫ですよ、先輩・・文句言う人なんていないスよ・・聴こえて来たって、チョットした愚痴ですから気にしなくて好いです・・確かに業務量はメチャクチャに増えてますけど、残業しなくてもこなせるぐらいに人員は投入されてますからその辺、ウチの職制と管理職は有能ですよ・・先輩がウチの社員であるってだけで、我が社の業績は右肩上がり処か鰻登りなんですから・・本当に今年のボーナスは楽しみですよ・・先輩が離席せざるを得ない状況について、謝る必要はありません・・黙っているのがベターで・・皆に何かを伝えるんだとしても、短い感謝で充分です・・正直、それがベストだと思いますね・・」
「・・そうか・・分かった・・スコット・・ありがとう・・そうさせて貰うわ・・お前、すごいな・!・もう俺が教える事は何も無いな・・」
「・・何言ってるんスか・・先輩・・まだまだ色々と教えてくれなくちゃ困りますよ・・僕なんか、まだまだ半人前なんですから・・先輩は、時々弱気が出るのが心配ですよ・・少し調子に乗って、超絶楽観でいる時の先輩が最高です・・ずっとそう言う調子でいて下さい・・」
「・・(笑)・チーフにも言われたよ・・お前は少し調子に乗っている方が、皆が安心するってさ・・」
「・・やっぱりね・・そう言うチーフも最高スよ・・」
「・・よし・・じゃ、朝礼が始まるから・・上がろうか・・?・・」
・・そう言って立ち上がり、5人でリフトに乗った・・。
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