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・・・『始動』・・・

帰宅 3

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そのランチ・ダイナーで若者達と過ごしていた90分程の間に6人から声を掛けられて、全員にサインを書いてあげた
・・6人で食事をしている席だから、気付いていても話し掛けて来る人はいないだろうと言う考えもあったが、甘い認識だったようだ・・それでもさすがにセルフィーを頼まれるような事は無かった・・これがマーケットの中でなら、こんな少ない人数で済むなんて事は絶対に無い・・。

会計は私が預かっているビットカードで済ませる・・若者達はビットカードを初めて観たようで驚いていた・・。

私が行って観たい楽器店は大きいショッピングタウンの中にある・・伊達眼鏡ぐらい掛けて来るべきだった・・。

「・・なあ、アリシア・・悪いけど、帽子とサングラスを買って来てくれるか・?・それぐらいしないと騒がれそうだからさ・・カード、貸すから・・」

と、ショッピングタウンの駐車スペースに車を滑り込ませて停めてから、助手席の娘に言う・・すると、アリシアが口を開くより早くアデリーンが後部ドアを開けた・・。

「・・アドルさん・!・それでしたら私達にお任せ下さい・・ご馳走して頂いたお礼も含めて、きっと似合うものを見立てて買って来ます・!・ほら!・アリシアも行くわよ!・・」

と、娘にも声を掛けて車から降りると、5人揃って行ってしまった・・なかなかの行動力だ・・リーダーシップはアリシアより上かも知れない・・私は駐車スペース脇のレストルームで用を足すと、喫煙室に入って一本を咥えて火を点けて燻らせ・・喫い終ると手と顔を洗い・・外に出てハンカチで顔を拭いている時に、戻って来た彼らと合流した・・。

彼等が選んでくれた帽子はツィード製のハンチングベレーで、色調は明るいグリーンでのタータン・チェックだった・・サングラスはフレームの無いタイプで、レンズは上下の幅が狭いタイプで、色は薄い茶色だった・・。

なかなかのセンスだと思う・・アデリーンに礼を言って幾ら払ったか訊いたが、代金は5人で出し合って購入したから気にしなくても好いと言う・・その時はそれ以上訊かなかった・・後でアリシアにお金を渡してご馳走させるとしよう・・。

私は受け取ってハンチングベレーを被り、サングラスも掛けて鏡で観た・・ちょっと軽いナンパ師のようにも観えたが、改めて皆に感謝の意を伝えた・・。

「・・さあ、それじゃ行こうか・・!?・・」

先頭に立って堂々と歩く・・その方が気付かれ難い・・目指す楽器店まで800歩程歩いたが、誰にも気付かれなかった・・その楽器店では楽譜や音楽映像ソフトも様々に販売している・・店内に入ると『リアン・ビッシュ』と『ミーアス・クロス』が初めて合同で発表した楽曲・・『マイン・キャプテン』のPVが流されていた・・。

弦楽器のコーナーに入り、展示・陳列されているギターを観始める・・男性店員が来たので私は直接彼を観ないようにして要望を伝え、ギターを幾つか手に取って試奏しても良いかと訊ね、諒承を得る・・まだ気付かれていないが時間の問題だろう・・。

飾られているギターの中から3本を降ろして貰う・・先ず手に取って一本ずつ観たり触ったりさせて貰い、店員に質問もする・・椅子を貸して貰い、座って一本ずつ構えチューニングして試しで軽く弾いて観る・・サングラスを外して観たりもしている内に、店員が3人に増えて控え目に私の顔を観ている・・声を出して歌ったりはしていないが、どうやら気付かれているようだ・・学生たちは取り巻いて私を観ている・・。

3本の内の1本を選んで、これを購入すると告げる・・この時点でアドル・エルクさんですかと訊かれ、認めるがあまり言わないで欲しいと頼む・・ハードケースに入れて貰い、メンテナンスキット一式と交換用の弦を5セットとソフトケースも一つ頼んだ・・ビットカードで支払いを済ませて梱包された品物を持って出て行こうとするが、サインとセルフィーを要請されたので応える・・3人とも激励壮行会を観ていたとの事で、最後に1曲お願いしますと懇願される・・学生たちと店員にあまり人が集まり過ぎないように観て欲しいと頼み、選ばなかった2本の内の1本を借りて壮行会で最初に歌った歌を弾き語りで披露する・・テレンス・カシオと店員の1人が携帯端末で動画を撮っていたが、くれぐれもネットには上げないようにと強く要請した・・店頭で流しても構わないかと訊いて来たので、1日に1回だけなら良いと答える・・。

テレンスとロヒスにも手伝って貰い、購入した物を持って店から出たのだが30人ほどに囲まれてしまって、車まで辿り着くのに往生した・・トランクに品物を収めると、今度は若者たちの買い物に付き合う・・2時間以上も付き合う間に、声を掛けられたり握手を求められたり身体を触られたり肩を叩かれたりサインやセルフィーに応えたりとしたが、嫌味を言われるような事は無かった・・それでも流石に疲れたのでカフェに入ったのだが、そこのカフェもまた鬼門だった・・殆どが女性客であり、ここでもまた軽くひと騒ぎとなる・・やや這う這うの体で車へと戻り帰宅した・・。

帰宅して少し休んでからギターのお披露目と微調整を兼ねて、妻と娘と4人の若者たちを前に6曲を弾き語りで披露する・・結果としてはすごく好評で、涙を誘うほどの出来映えでもあった・・。

日頃からギターを弾いて歌ってもいると言う男子学生2人に触らせている間、全員から注文を聞いてお茶や飲み物を用意して振る舞う・・これが女子学生2人には殊の外喜ばれたようで、大層に感激してくれていた・・。

「・・あたしの知る限りで、パパに出来ない事なんて無いんだよね・・」

最後は全員での画像撮影・動画撮影、ツーショット・スリーショットでの画像撮影などをして楽しみ、お開きとした・・タクシーを呼び、運賃を支払い、気を付けて帰るように言って送り出す・・たまには子供達の相手も好いものだ・・充分な娘へのサービスにもなった・・。

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