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・・・『集結』・・・
・・カリーナ・・
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社宅に帰り着く10分ほど前から雨が降り始めた・・大分寒くなって来る・・室内に入った私は熱いシャワーを長い時間浴びて、身体を温める・・家事、食事、片付け迄済ませて、ビールを呑みながら配信ニュースを眺める・・。
今日の16時迄で運営本部が受け付けた艦数は、86874隻・・軽巡宙艦は58205隻・・67%と言ったところか・・21028隻が重巡宙艦・・7641隻が戦艦だ・・23日の午前零時で受け付けは締め切るそうだから、あと12日間・・まだ増えるだろうが、十万隻は超えないだろうな・・でもかなり大規模なバーチャル・バトルゲームにはなる・・モチベーションをどうやって保つのかも課題だな・・早目に経験値を獲得して僚艦から頭一つ抜け出るには、やはりミッショントライが重要になるだろう・・こうして観ると他の艦長達は結構インタビューを受けているが、私の所に来ていないのは会社の広報が代わって対応してくれていると言う事だ・・その点は感謝しなければならないな・・十万隻目の登録艦には特別特典がありますなんて、言わなきゃ良いがな・・。
と、そこまで考えたところで通話が繋がる・・カリーナ・ソリンスキー!・・出ると3ブロック手前までタクシーで来て歩いて来てるって・・誰から聞いたんだ・・?・・それより今は氷雨がかなり強い・・取り敢えずガレージの裏口を教えて通話を切る・・室内からガレージに入り照明を点けて裏口の鍵を開けて煙草を一本喫い終る頃合いでノックされたので、開けて彼女を中に入れ室内に上がって貰う・・。
傘は差して来ていたが結構服は濡れているし、オリーブベージュのロングボブも濡れそぼっている・・。
「・・どうしたの・?・こんなに雨が降っているのに・・誰かに言って来た・・?・・」
そう言いながら用意しておいたタオルを渡す・・。
「・・こんばんは、アドルさん・・夜分に突然、お邪魔して済みません・・どうしてもお詫びが言いたくて来てしまいました・・ここに来る事は誰にも言っていません・・」
「・・そう・・取り敢えずこっちに来て・・」
そう言って彼女の手を引いてバスルームの前まで来る・・。
「・・このカゴに服を入れて、シャワーを浴びなさい・・バスにもお湯を張って充分に温まる・・良いね・・服は乾燥機に入れて乾燥させておくから・・着替えもこのカゴに用意しておくから・・さあ、入って・・」
そう言って扉を開けて彼女を脱衣所に入れて閉める・・戻ると着換え用にシャツとトレーナーとパーカーを用意する・・濡れた彼女の服を乾燥機に入れてスタートさせ・・別のカゴに着換えを入れて脱衣所に置く・・。
キッチンに入って紅茶を点てる・・ティーカップも温めておく・・ミルクティーに仕上げるのは、彼女がバスから出てからだ・・素早く考えてメニューを決める・・卵とネギ・香菜と海老・貝を使ったカレー風味のリゾットにしよう・・スープストックを解凍してベースにする・・隠し味はニンニクひと欠けの微塵切りだ・・オリーブオイルとゴマ油と、幾つかの調味料で味を調える・・リゾットの決め手はライスの量だ・・多過ぎると食べ飽きる・・さっきの彼女の様子でライスの量を決める・・30分と少しで仕上げる・・保温モードに入れた頃合いで、彼女がバスルームから出て来た・・。
「・・お風呂、頂きました・・」
「・・温まったかい・・?・・」
「・・ええ・・ありがとうございました・・」
「・・よし・・じゃあ、座って・・」
椅子を引いて彼女を座らせる・・ミルクティーを仕上げて彼女の前に置き、皿にリゾットを盛り付けてそれも置くと対面に座る・・。
「・・さあどうぞ、召し上がれ・・」
「・・あ・・ありがとうございます・・こんなに美味しそうな・・突然押し掛けたのに・・」
「・・君も大事なクルーだ・・風邪をひかれちゃ困る・・寒くないか・・?・・もう1枚持って来よう・・」
「・・大丈夫です・・もう充分に温まりました・・頂きます・・」
そう言ってカリーナは黙ってゆっくりと食べ始める・・私は自分の為にコーヒーを淹れると、彼女の対面に座る・・。
「・・どうかな・・?・・口に合わなかったらごめんね・・」
「・・とても美味しいですし・・温まります・・」
「・・君が僕と2人きりになる為に、あれを言ったのだとしたら・・君の作戦は成功だね・・(笑)・」
「・・アドルさん・・」
「・・今夜は氷雨が強い・・あがって晴れるのは夜明け前だそうだから今日はここに泊りなさい・・せっかくお風呂で温まったのに、雨の中を帰らせる訳にはいかないよ・・客間を準備するからちょっと待っててね・・服が乾いたら出して掛けておくから・・明日の朝は早く出て、君をステーションで降ろしてから会社に行くから・・」
そう言って席を立つと、エマ・ラトナーにも振る舞ったヴィンテージ・モルトのボトルを取り出し、グラスにツーフィンガー分注いで彼女の前に置く・・。
「・・これは『ディファイアント』にも持ち込むつもりでいる取って置きの一本でね・・食べ終わったらこれを呑んで、歯を磨いたらすぐに寝なさい・・君は『ディファイアント』の目と耳だ・・君の体調が悪かったら戦いはおろか航行も出来ない・・冗談抜きで君の具合が悪かったら私は出航しないからね・・それぐらい君は大事なスタッフなんだよ・・カリーナ・・ここに来たかったら来ても良い・・でも雨の夜に来るのは禁止だ・・良いね・・?・・」
「・・了解・・しました・・」
「・・よし・・じゃ、客間の準備をするよ・・」
そう言って席を立つと客間に入ってベッドメイクをして、もう終わって止まっている乾燥機から彼女の服を出し、アイロンを掛けてからハンガーで吊るした・・。
カリーナは食べながら私がテーブルに置いたボトルを手に取って1分間ほど観てから、また同じ場所に置いた・・。
ダイニングに戻った私がまた対面に座って、飲み残していたコーヒーを飲み干すのを観てカリーナは微笑んだ・・。
「・・どう・・?・・リゾットのつもりだったけど、賄い料理でごめんね・・」
「・・いいえ・・とっても美味しいです・・ミルクティーも美味しいです・・」
「・・ありがとう・・僕が勤めている会社を初めて観たけど、どう思った・・?・・」
「・・すごく大きい会社ですね・・働いている人が沢山いて驚きました・・あの懇談会が開かれたのは、レストランなんですか・・?・・」
「・・課長以上の管理職がよく利用している、言わば食堂だね・・」
「・・そうなんですか・・高級レストランかと思いました・・それと・・あの常務さんと・・エリック・カンデルさんでしたっけ・・?・・そのお二人には、気を付けなきゃいけないように感じました・・」
「・・へえ・・君の観察眼も鋭いね・・僕もあの2人の前では、油断しないで話しているよ・・それと・・僕が出した宿題はどう・・?・・」
「・・すみません・・まだ見付かりません・・でも必ず見付けます・・」
「・・焦らなくて良い・・出航までに間に合わなくても良い・・君なら必ず見付けられると信じているから・・パティとは、話しながらやってる・・?・・」
「・・勿論です・・連絡を取り合いながらやっています・・」
「・・うん・・それで好いよ・・それでじっくりと腰を落ち着けて取り組んでいれば、必ず見付かるから・・」
「・・ありがとうございます・・」
観るともう完食している・・良かった・・どうやら口には合ったらしい・・。
「・・お替りする・・?・・まだあるよ・・」
「・・いいえ・・もうお腹一杯です・・ありがとうございます・・ご馳走様でした・・本当に美味しかったです・・」
「・・そう・・ありがとう・・良かった・・じゃあ、それを呑んで・・?・・」
そう言うと立ち上がり、皿とティーカップを取り上げてシンクで洗うと水切りバケットに入れる・・。
カリーナはグラスのウィスキーを三口で飲み干すと私にグラスを手渡す・・。
「・・へえ・・ウィスキー、大丈夫なの・・?・・」
「・・はい・・時々呑みます・・」
「・・そりゃ良かった・・今度もう一本買って来よう・・」
と、グラスも洗って仕舞うと、また彼女の対面に座る・・。
「・・それで・・?・・まだ話したい事はあるかな・・?・・」
「・・今日の懇談会の中で、あんな事を言ったのはアドルさんを困らせたかったからじゃありませんでした・・2人きりになりたかった・・と言う想いも確かにありました・・アドルさんの凄い所、素晴らしい所をもっと知って欲しかった・・と言う想いもありました・・驚かせてしまった事は謝ります・・本当にごめんなさい・・でも私も含めて、皆アドルさんが大好きです・・これからもずっと私達と一緒にいて下さい・・」
そう言いながら彼女は顔を赤らめて涙ぐむ・・。
「・・ありがとう・・君の想いはしっかりと受け取ったよ・・あの時はまあ、かなり驚いたけどね・・しかしお陰で改めて覚悟が決まったと言うか・・腹は括れたよ・・『ディファイアント』の中では、私が一番の見世物だ・・だったら徹底的に面白い見世物になってやるさ・・それで・・皆と一緒に出来るだけ長く過ごせるように、僕も頑張るけど皆にも君にも頑張って欲しい・・力を見せて欲しい・・僕は皆が無理なく頑張れるように環境を調えて・・勝てるように算段をするよ・・」
そう言いながら私はテーブルの上で、彼女の両手を包み込んで温めるように握る・・温かい体温が伝わる・・手を離してから立ち上がる・・彼女も一緒に立ち上がった。
「・・じゃ、歯を磨いてから寝んで・・歯ブラシ、新しいのを出すね・・明日は少し早く起こすから、よく眠って下さい・・」
「・・アドルさん・!・お願いがあります・・私をハグして・・キスして下さい・・それだけで良いです・・同じベッドで寝て欲しいとは言いません・!・お願いします・!・駄目ですか・・?・・皆の中で・・まだ誰ともキスしていないですか・・?・・」
「・・そう問われて・・まだ誰ともしていないと答えたら・・嘘と言う事になるね・・」
そう言ってカリーナの身体を覆うようにして抱き寄せ、お互いの右頬を接触させる・・。
「・・カリーナ・・僕は君や皆と出来得る限り一緒に過ごしたい・・皆で一緒に力を合わせて頑張って、出来るだけ長く過ごしたい・・君達は1人1人が掛け替えの無い最高の仲間だ・・大切に想っているし、愛してもいるよ・・でも女性として一番愛しているのは妻なんだ・・それは解って欲しい・・本当ならキスをするのもマズいんだろうな、と言う事も分る・・でも君達は僕にとって魅力的すぎる・・君も含めて皆を寝室に誘わない事・・これが今の僕が守れるギリギリの限界線だ・・解ってくれるね・・?・・」
「・・はい・・分かります・・」
顔を離し、腰を抱いて引寄せて唇を重ねる・・少し幼く観えるカリーナだが、接吻は情熱的だ・・惹き込まれそうになって強引に私から顔を離した・・40秒ほどだった・・。
「・・君がこれ程に情熱的なキスが好みだとは知らなかったよ・・」
言われてカリーナは、はにかむように微笑む・・顔は上気していて赤い・・彼女の身体を離した私は洗面所の収納棚から新しい歯ブラシを取り出して彼女に手渡す・・。
「・・はい・・僕はもう寝室に入るから、早く寝みなさい・・明日は早目に起こすから、携帯端末の電源は入れて置いて・・朝はコーヒーで良いね・・?・・」
「・・はい・・コーヒーで大丈夫です・・ありがとうございます・・アドルさん・・いきなり押し掛けて逢いに来たのに、泊めて下さって本当にありがとうございます・・明日もお世話になります・・」
そう言って彼女は私に頭を下げる・・私は左手を彼女の右肩に軽く置いてから、自分の寝室に入った・・。
翌日(2/11・木)・・激しく降り続いていた氷雨が、すっかりと晴れ上がって雲一つない・・風も微風で抜けるような青空なので・・気温はグンと冷え込み、彼方此方の道路に於いて路面凍結の警告情報が出ている・・。
私は携帯端末のアラームをAM5:30にセットしていたのだが、キッチンからの物音に気付いて跳び起きた・・。
(もう起きたのか・・?・・)
寝室を出て洗面所で顔を洗い、髪を整えてキッチンに入る・・。
「・・おはよう・・早いね・・ああ、パジャマのままだった・・ごめん・・」
「・・!・おはようございます!・大丈夫ですよ・・女優は皆、朝に強いです・・」
「・・そうだったね・・そんな事も聞かされたな・・ああ、ごめん・・コーヒーを淹れるよ・・」
「・・お願いします・・」
パジャマのままでキッチンに立ち、彼女の隣でコーヒーを点てる・・。
「・・何を作っているの・・?・・」
「・・はい!・具沢山のお味噌汁です・・それと母から教わった玉子焼きと・・冷蔵庫を観させて頂いたら、ちょっと古い魚の開き干しがありましたので、味付けして焼いてみました・・」
「・・君は完璧な朝食が作れるんだね・・こんなのを出されたら昨夜の僕の賄い料理なんて恥ずかしくて出せないよ・・」
「・・いいえ・・アドルさんのお料理の方が美味しいです・・」
「・・ああ、そう言えば、昨夜のリゾットの残りを保存するのを忘れていたな・・」
「・・大丈夫です・・アドルさんが寝室に入られてから、お皿に移してラップを掛けて冷蔵庫に入れました・・勝手にやってしまいましたが、すみません・・」
「・・謝らなくて良いよ・・僕が忘れていたんだから・・どうもありがとう・・助かったよ・・」
「・・いいえ、どう致しまして・・」
コーヒーを2つ淹れて1つを彼女の近くに置くと、もう1つを持って飲みながら配信ニュースを見遣るが大した事は流していない・・明日の激励壮行会の事も流されていなかった・・尤も『ディファイアント』の事は、最近私がインタビューに応えていない事もあってあまり話題には上っていない・・まあ、ああだこうだ言われないのは確かに助かるが・・。
コーヒーを飲み干すとカップをシンクの中に置き、私室に入って出社用の服に着換えてから朝食のテーブルに戻ると、彼女は既に座っていたので対面に座る・・。
「・・美味しそうな朝食をありがとうございます・・これで1日また頑張りますので、宜しくお願い致します・・それでは、頂きます・・」
今日の16時迄で運営本部が受け付けた艦数は、86874隻・・軽巡宙艦は58205隻・・67%と言ったところか・・21028隻が重巡宙艦・・7641隻が戦艦だ・・23日の午前零時で受け付けは締め切るそうだから、あと12日間・・まだ増えるだろうが、十万隻は超えないだろうな・・でもかなり大規模なバーチャル・バトルゲームにはなる・・モチベーションをどうやって保つのかも課題だな・・早目に経験値を獲得して僚艦から頭一つ抜け出るには、やはりミッショントライが重要になるだろう・・こうして観ると他の艦長達は結構インタビューを受けているが、私の所に来ていないのは会社の広報が代わって対応してくれていると言う事だ・・その点は感謝しなければならないな・・十万隻目の登録艦には特別特典がありますなんて、言わなきゃ良いがな・・。
と、そこまで考えたところで通話が繋がる・・カリーナ・ソリンスキー!・・出ると3ブロック手前までタクシーで来て歩いて来てるって・・誰から聞いたんだ・・?・・それより今は氷雨がかなり強い・・取り敢えずガレージの裏口を教えて通話を切る・・室内からガレージに入り照明を点けて裏口の鍵を開けて煙草を一本喫い終る頃合いでノックされたので、開けて彼女を中に入れ室内に上がって貰う・・。
傘は差して来ていたが結構服は濡れているし、オリーブベージュのロングボブも濡れそぼっている・・。
「・・どうしたの・?・こんなに雨が降っているのに・・誰かに言って来た・・?・・」
そう言いながら用意しておいたタオルを渡す・・。
「・・こんばんは、アドルさん・・夜分に突然、お邪魔して済みません・・どうしてもお詫びが言いたくて来てしまいました・・ここに来る事は誰にも言っていません・・」
「・・そう・・取り敢えずこっちに来て・・」
そう言って彼女の手を引いてバスルームの前まで来る・・。
「・・このカゴに服を入れて、シャワーを浴びなさい・・バスにもお湯を張って充分に温まる・・良いね・・服は乾燥機に入れて乾燥させておくから・・着替えもこのカゴに用意しておくから・・さあ、入って・・」
そう言って扉を開けて彼女を脱衣所に入れて閉める・・戻ると着換え用にシャツとトレーナーとパーカーを用意する・・濡れた彼女の服を乾燥機に入れてスタートさせ・・別のカゴに着換えを入れて脱衣所に置く・・。
キッチンに入って紅茶を点てる・・ティーカップも温めておく・・ミルクティーに仕上げるのは、彼女がバスから出てからだ・・素早く考えてメニューを決める・・卵とネギ・香菜と海老・貝を使ったカレー風味のリゾットにしよう・・スープストックを解凍してベースにする・・隠し味はニンニクひと欠けの微塵切りだ・・オリーブオイルとゴマ油と、幾つかの調味料で味を調える・・リゾットの決め手はライスの量だ・・多過ぎると食べ飽きる・・さっきの彼女の様子でライスの量を決める・・30分と少しで仕上げる・・保温モードに入れた頃合いで、彼女がバスルームから出て来た・・。
「・・お風呂、頂きました・・」
「・・温まったかい・・?・・」
「・・ええ・・ありがとうございました・・」
「・・よし・・じゃあ、座って・・」
椅子を引いて彼女を座らせる・・ミルクティーを仕上げて彼女の前に置き、皿にリゾットを盛り付けてそれも置くと対面に座る・・。
「・・さあどうぞ、召し上がれ・・」
「・・あ・・ありがとうございます・・こんなに美味しそうな・・突然押し掛けたのに・・」
「・・君も大事なクルーだ・・風邪をひかれちゃ困る・・寒くないか・・?・・もう1枚持って来よう・・」
「・・大丈夫です・・もう充分に温まりました・・頂きます・・」
そう言ってカリーナは黙ってゆっくりと食べ始める・・私は自分の為にコーヒーを淹れると、彼女の対面に座る・・。
「・・どうかな・・?・・口に合わなかったらごめんね・・」
「・・とても美味しいですし・・温まります・・」
「・・君が僕と2人きりになる為に、あれを言ったのだとしたら・・君の作戦は成功だね・・(笑)・」
「・・アドルさん・・」
「・・今夜は氷雨が強い・・あがって晴れるのは夜明け前だそうだから今日はここに泊りなさい・・せっかくお風呂で温まったのに、雨の中を帰らせる訳にはいかないよ・・客間を準備するからちょっと待っててね・・服が乾いたら出して掛けておくから・・明日の朝は早く出て、君をステーションで降ろしてから会社に行くから・・」
そう言って席を立つと、エマ・ラトナーにも振る舞ったヴィンテージ・モルトのボトルを取り出し、グラスにツーフィンガー分注いで彼女の前に置く・・。
「・・これは『ディファイアント』にも持ち込むつもりでいる取って置きの一本でね・・食べ終わったらこれを呑んで、歯を磨いたらすぐに寝なさい・・君は『ディファイアント』の目と耳だ・・君の体調が悪かったら戦いはおろか航行も出来ない・・冗談抜きで君の具合が悪かったら私は出航しないからね・・それぐらい君は大事なスタッフなんだよ・・カリーナ・・ここに来たかったら来ても良い・・でも雨の夜に来るのは禁止だ・・良いね・・?・・」
「・・了解・・しました・・」
「・・よし・・じゃ、客間の準備をするよ・・」
そう言って席を立つと客間に入ってベッドメイクをして、もう終わって止まっている乾燥機から彼女の服を出し、アイロンを掛けてからハンガーで吊るした・・。
カリーナは食べながら私がテーブルに置いたボトルを手に取って1分間ほど観てから、また同じ場所に置いた・・。
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「・・どう・・?・・リゾットのつもりだったけど、賄い料理でごめんね・・」
「・・いいえ・・とっても美味しいです・・ミルクティーも美味しいです・・」
「・・ありがとう・・僕が勤めている会社を初めて観たけど、どう思った・・?・・」
「・・すごく大きい会社ですね・・働いている人が沢山いて驚きました・・あの懇談会が開かれたのは、レストランなんですか・・?・・」
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「・・そうなんですか・・高級レストランかと思いました・・それと・・あの常務さんと・・エリック・カンデルさんでしたっけ・・?・・そのお二人には、気を付けなきゃいけないように感じました・・」
「・・へえ・・君の観察眼も鋭いね・・僕もあの2人の前では、油断しないで話しているよ・・それと・・僕が出した宿題はどう・・?・・」
「・・すみません・・まだ見付かりません・・でも必ず見付けます・・」
「・・焦らなくて良い・・出航までに間に合わなくても良い・・君なら必ず見付けられると信じているから・・パティとは、話しながらやってる・・?・・」
「・・勿論です・・連絡を取り合いながらやっています・・」
「・・うん・・それで好いよ・・それでじっくりと腰を落ち着けて取り組んでいれば、必ず見付かるから・・」
「・・ありがとうございます・・」
観るともう完食している・・良かった・・どうやら口には合ったらしい・・。
「・・お替りする・・?・・まだあるよ・・」
「・・いいえ・・もうお腹一杯です・・ありがとうございます・・ご馳走様でした・・本当に美味しかったです・・」
「・・そう・・ありがとう・・良かった・・じゃあ、それを呑んで・・?・・」
そう言うと立ち上がり、皿とティーカップを取り上げてシンクで洗うと水切りバケットに入れる・・。
カリーナはグラスのウィスキーを三口で飲み干すと私にグラスを手渡す・・。
「・・へえ・・ウィスキー、大丈夫なの・・?・・」
「・・はい・・時々呑みます・・」
「・・そりゃ良かった・・今度もう一本買って来よう・・」
と、グラスも洗って仕舞うと、また彼女の対面に座る・・。
「・・それで・・?・・まだ話したい事はあるかな・・?・・」
「・・今日の懇談会の中で、あんな事を言ったのはアドルさんを困らせたかったからじゃありませんでした・・2人きりになりたかった・・と言う想いも確かにありました・・アドルさんの凄い所、素晴らしい所をもっと知って欲しかった・・と言う想いもありました・・驚かせてしまった事は謝ります・・本当にごめんなさい・・でも私も含めて、皆アドルさんが大好きです・・これからもずっと私達と一緒にいて下さい・・」
そう言いながら彼女は顔を赤らめて涙ぐむ・・。
「・・ありがとう・・君の想いはしっかりと受け取ったよ・・あの時はまあ、かなり驚いたけどね・・しかしお陰で改めて覚悟が決まったと言うか・・腹は括れたよ・・『ディファイアント』の中では、私が一番の見世物だ・・だったら徹底的に面白い見世物になってやるさ・・それで・・皆と一緒に出来るだけ長く過ごせるように、僕も頑張るけど皆にも君にも頑張って欲しい・・力を見せて欲しい・・僕は皆が無理なく頑張れるように環境を調えて・・勝てるように算段をするよ・・」
そう言いながら私はテーブルの上で、彼女の両手を包み込んで温めるように握る・・温かい体温が伝わる・・手を離してから立ち上がる・・彼女も一緒に立ち上がった。
「・・じゃ、歯を磨いてから寝んで・・歯ブラシ、新しいのを出すね・・明日は少し早く起こすから、よく眠って下さい・・」
「・・アドルさん・!・お願いがあります・・私をハグして・・キスして下さい・・それだけで良いです・・同じベッドで寝て欲しいとは言いません・!・お願いします・!・駄目ですか・・?・・皆の中で・・まだ誰ともキスしていないですか・・?・・」
「・・そう問われて・・まだ誰ともしていないと答えたら・・嘘と言う事になるね・・」
そう言ってカリーナの身体を覆うようにして抱き寄せ、お互いの右頬を接触させる・・。
「・・カリーナ・・僕は君や皆と出来得る限り一緒に過ごしたい・・皆で一緒に力を合わせて頑張って、出来るだけ長く過ごしたい・・君達は1人1人が掛け替えの無い最高の仲間だ・・大切に想っているし、愛してもいるよ・・でも女性として一番愛しているのは妻なんだ・・それは解って欲しい・・本当ならキスをするのもマズいんだろうな、と言う事も分る・・でも君達は僕にとって魅力的すぎる・・君も含めて皆を寝室に誘わない事・・これが今の僕が守れるギリギリの限界線だ・・解ってくれるね・・?・・」
「・・はい・・分かります・・」
顔を離し、腰を抱いて引寄せて唇を重ねる・・少し幼く観えるカリーナだが、接吻は情熱的だ・・惹き込まれそうになって強引に私から顔を離した・・40秒ほどだった・・。
「・・君がこれ程に情熱的なキスが好みだとは知らなかったよ・・」
言われてカリーナは、はにかむように微笑む・・顔は上気していて赤い・・彼女の身体を離した私は洗面所の収納棚から新しい歯ブラシを取り出して彼女に手渡す・・。
「・・はい・・僕はもう寝室に入るから、早く寝みなさい・・明日は早目に起こすから、携帯端末の電源は入れて置いて・・朝はコーヒーで良いね・・?・・」
「・・はい・・コーヒーで大丈夫です・・ありがとうございます・・アドルさん・・いきなり押し掛けて逢いに来たのに、泊めて下さって本当にありがとうございます・・明日もお世話になります・・」
そう言って彼女は私に頭を下げる・・私は左手を彼女の右肩に軽く置いてから、自分の寝室に入った・・。
翌日(2/11・木)・・激しく降り続いていた氷雨が、すっかりと晴れ上がって雲一つない・・風も微風で抜けるような青空なので・・気温はグンと冷え込み、彼方此方の道路に於いて路面凍結の警告情報が出ている・・。
私は携帯端末のアラームをAM5:30にセットしていたのだが、キッチンからの物音に気付いて跳び起きた・・。
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「・・!・おはようございます!・大丈夫ですよ・・女優は皆、朝に強いです・・」
「・・そうだったね・・そんな事も聞かされたな・・ああ、ごめん・・コーヒーを淹れるよ・・」
「・・お願いします・・」
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「・・何を作っているの・・?・・」
「・・はい!・具沢山のお味噌汁です・・それと母から教わった玉子焼きと・・冷蔵庫を観させて頂いたら、ちょっと古い魚の開き干しがありましたので、味付けして焼いてみました・・」
「・・君は完璧な朝食が作れるんだね・・こんなのを出されたら昨夜の僕の賄い料理なんて恥ずかしくて出せないよ・・」
「・・いいえ・・アドルさんのお料理の方が美味しいです・・」
「・・ああ、そう言えば、昨夜のリゾットの残りを保存するのを忘れていたな・・」
「・・大丈夫です・・アドルさんが寝室に入られてから、お皿に移してラップを掛けて冷蔵庫に入れました・・勝手にやってしまいましたが、すみません・・」
「・・謝らなくて良いよ・・僕が忘れていたんだから・・どうもありがとう・・助かったよ・・」
「・・いいえ、どう致しまして・・」
コーヒーを2つ淹れて1つを彼女の近くに置くと、もう1つを持って飲みながら配信ニュースを見遣るが大した事は流していない・・明日の激励壮行会の事も流されていなかった・・尤も『ディファイアント』の事は、最近私がインタビューに応えていない事もあってあまり話題には上っていない・・まあ、ああだこうだ言われないのは確かに助かるが・・。
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忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
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