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『まさか…当選!? 』

キャフェテリアにて・・・

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「・・お腹が空いたんですか・・?・・」

デッキ15へと向かうターボリフトの中・・最初に乗ったから壁を背にした状態で、隣からハンナ・ウエアーが訊く。

「・・そうだね・・やっぱり朝食がちょっと軽かったから、空いてきましたね・・ハンナさん・・ヘッドセット・サイコロジカル・スカウターはどうですか・・?・・」

「・・すごいツール・アイテムですね・・噂には聴いていましたけど、まさかあんなにコンパクトな形で実用化されているとは知りませんでした・・心理学者としては、衝撃的なツール・アイテムです・・」

「・・全乗員のpidメディアカードをセタッチするだけで、初期設定は完了しますよ・・」

「・・そうなんですか・・すごいですね・・」

「・・その上で、対象とする人物をスカウターを通して観るだけで、その人物のその時点での心理動向の概要が読み取れる、と言うものだそうですからね・・大したものですね・・」

「・・本当に、すごいですね・・」

「・・ハンナさん・・カウンセラーの席がキャプテンシートの隣でないのは、艦長の意図や意向の影響を受けずに、対象人物の心理動向を客観的に読み取って、司令部に助言する必要があるからじゃないですかね・・?・・」

「・・そうですね・・そう思います・・分かりました・・ありがとうございます・・」

(低声・小声で)「・・それでさ・・?・・」

「・・はい・・?」(小声)

「・・機嫌は治った・・?・・」(更に小声)

そう訊くと彼女は見る見る頬を染めて、プイっと向こうを向いてしまった。

デッキ15の通路を歩いて艦体外殻のエアロックハッチを開けて外に出る。

1階のロビーに戻った私達はそのままラウンジに入り、思い思いにだが近い距離で座る。

さすがに皆少々疲れた様子で座っている。

「・・アドルさん・・マスターに連絡しました・・今から、飲み物と一緒に持って来てくれるそうです・・」

と、シエナ・ミュラーが言いながら私の隣に座る。

「・ありがとう・・シエナさんとハルさん・・ブリッジでの端末はどうですか・・?・・コンソールは相互にリンクし合っているので、情報や問題の共有性はすごく高いですね・・」

「・・共通して装備されているOSは簡便なものですが、非常に耐久性能に優れるもので、情報の制御・処理に於いても、適性の高さと速い処理速度を誇るものです・・また、それぞれの端末に入れられているアプリも、それぞれの席での役割・任務に於いて適性が高く、高い専門性と情報の大量処理に於いても高速性能を誇るものです・・」

と、ハル・ハートリーが私の眼を視ながら説明する。

「・・リーアさん・・機関部の機器はどうですか・・?・・」

「・・はい・・把握と理解の範囲と程度がまだ半分程度ですので、私自身もまだまだなのですが・・すごいシステムである事は実感しています・・」

「・・ブリッジ後部の集中遠隔制御システムはどうですか・・?・・使いにくい所があれば、言って下さいね・・」

「・・はい・・もっと読み込んで実際に使っていく中で、把握や理解も深まるでしょうから・・私自身も慣れていくだろうと思います・・今は只、凄い席に着かせて頂いた事を改めて感謝しています・・」

「・・エマさん・・操舵席はどうですか・・?・・」

「・・最高の席です・・私も改めて感謝しています・・今は最高にエキサイティングな気分です・・」

「・・操舵・操艦の練度を早く上げて貰いたいのもそうですが・・シャトルの操縦にも習熟して貰いたいですので・・暫くは忙しくさせてしまうと思いますが、宜しくお願いしますね・・」

「・・はい、分かっています・・こう言う事で忙しいのは、苦にはなりませんので大丈夫です・・お任せ下さい・・」

ちょうどその時に、ピクニックランチのデリバリーが届いた。

自ら届けに来てくれたマスターと握手を交わし、謝意を述べて一緒に来てくれたお店のスタッフも共に、その労をねぎらう。

そして、リサ・ミルズが渡そうとする謝礼の受け取りを遠慮しようとするのを説得して受け取って貰う。

紅茶とスープのポットと紙カップも持って来てくれたので、ありがたくお預かりした。

「・・アドルさん・・ご案内致しますので我が社のキャフェテリアで昼食になさいませんか・・?・・ここでは人の出入りもありますので、なかなか落ち着けないでしょうから・・」

と、マルセル・ラッチェンスが申し出る。

私はリサ・ミルズとシエナ・ミュラーと、ハンナ・ウエアーの顔を見遣る。

3人とも微笑と共に頷いたので、申し出を受ける事にする。

「・・お申し出とご配慮に感謝します・・お言葉に甘えさせて頂きまして、御社のキャフェテリアをお借りします・・」

改めてマルセル・ラッチェンスと握手を交わす・・マスターとお店のスタッフが運び入れてくれたピクニックランチと紅茶とスープのポットと紙カップは、彼が呼んで来た5人の若いスタッフがキャフェテリアにまで運んでくれた。

キャフェテリアに入ると、奥の一角に6人で座っているグループに眼が留まる。

中の1人に見覚えがある、と言うか、知り合いだ。

(承知の上で私達をここに誘導したのなら、カメラが設置されている可能性があるな)

私はリサ・ミルズとシエナ・ミュラーとハル・ハートリーとハンナ・ウエアーに声を掛け、リーア・ミスタンテとエマ・ラトナーとカリーナ・ソリンスキーとパティ・シャノンには、先に席に着いているようにと言い置いて、5人でその彼に挨拶する為に歩み寄った。

「・・こんにちは、ハイラム・サングスターさん・・ご無沙汰しておりました・・先日はお世話になりましたのに、ご連絡もせずに申し訳ありませんでした・・ですが、お元気そうで安堵しました・・」

リサ・ミルズが素早くバッグから小箱を取り出すと、私に手渡す。

それを見て瞬時に諒承した。

ハイラム・サングスター氏は少し驚いた様子で私を観ると立ち上がり、私に歩み寄ると右手を差し出す。

テーブルに着いていた5人の女性達も立ち上がり、サングスター氏の後ろに並ぶ。

「・!・これは、アドル・エルクさん・!・・こちらこそご無沙汰しておりました・・私も何かと忙しく過ごしておりましてご連絡もできず、たった今の再会となってしまいましたが、貴方のご様子はニュースで拝見しておりました・・お元気そうですね・・」

そう言ってお互いの右手を力強く握り合う。

「・・ありがとうございます・・私なんぞは忙しさに感けてニュースを観る気にもなっておりませんでした・・先日はお世話になりましたのに、お礼も出来ずに心苦しく思っておりましたが・・今日はお会い出来て良かったです・・それでこれは、些少でお好みに合うかどうかも分りませんが・・私からの心ばかりの気持ちの品と言う事で・・どうぞ、お納め下さい・・」

そう言いながら右手を離すと、左手に持っていた小箱を手渡す。

サングスター氏はその小箱を観てまた少し驚いたような様子だったが、直ぐ破顔した。

「・・これは・!・私が差し上げた物よりも更にグレードの高いプレミアムシガーですね・・このような物をご用意できるとは・・私よりも造詣が深いようですな・・」

「・・いや・・これは私が選んだ物ではなくて、会社が秘書として私に就けてくれました彼女が、選んで用意してくれていた物です・・紹介しましょう・・今は私の同僚としても働いてくれていますが・・役員会と私とを繋ぐパイプ役としても頑張ってくれている、リサ・ミルズ女史です・・」

それを聴いてサングスター氏は自らリサ・ミルズの前に歩み寄り、右手を差し出して握手を交わした。

「・・アドルさんの廻りにも素晴らしい人材が集まりつつあるようですね・・折角の素敵なご厚意ですので、これは有難く頂戴致します・・ですが残念なことに、このボックスには20本のプレミアムシガーが入っているのですが・・私のシガレットケースには10本しか入りません・・ので、半数の10本は私からの御裾分けと言う事で、アドルさんに進呈させて頂きます・・今後とも・・ゲームが開幕しましても・・ご友誼を、宜しくお願いします・・」

そう言って私の眼の前でボックスの封を切ると、自分のシガレットケースを取り出して10本をケースに納めてポケットに仕舞い、丁寧にボックスを閉めて私の右手に手渡した。

「・・ご丁寧なご配慮に感謝します・・こちらこそ、今後とも変わらぬご友誼を宜しくお願い致します・・続けて紹介させて下さい・・私が指揮を執ります艦には『ディファイアント』と命名したのですが・・彼女が『ディファイアント』の副長を務めます、シエナ・ミュラー女史です・・続きまして彼女が『ディファイアント』の作戦参謀を務めます、ハル・ハートリー女史です・・そして彼女が『ディファイアント』のカウンセラーを務めます、ハンナ・ウエアー女史です・・他のメンバーも一緒に来ているのですが、今は向こうの席で待機して貰っています・・」

「・・これは・!・・アドル・エルクさん・・そこまでご紹介を頂けるとは・・今日は本当に好い日です・・当然の返礼として、こちらからも紹介致しましょう・・『ディファイアント』程の自主独立の気風と気概に溢れる艦名には及びませんが・・私が指揮を執る艦には、『サライニクス・テスタロッツァ』と名付けました・・そしてこちらが副長を務めて頂く、ローズ・クラーク女史です・・隣の彼女が作戦参謀を務める、サリー・ランド女史・・こちらの彼女がカウンセラーに着任しました、マーラ・ウッドリー女史です・・そしてウッドリー女史の左の方が、メインパイロットのイリヤ・カーラー女史・・その左の彼女が、機関部長に就任しました、セレーナ・サイラス女史です・・他のメインスタッフもほぼ決定しておりますが、今日はこのメンバーで撮影セットの見学と・・インタビュー動画の収録ですか・・それをしに来ました・・私は当初・・重巡宙艦を希望していたのですが・・やんわりと執拗に軽巡宙艦を勧められ続けましてね・・軽巡の艦長席に座る事にしました・・どうやら我ら20人に与えられるのは、総て軽巡になるようですね・・」

私も頷いて応じた。

「・・その話は私も昨日聴きました・・実はここへの訪問は、昨日今日とで連日でしてね・・昨日聴いた時にはまだ案だとか言っていましたが、どうやら本決まりになったようですね・・『テスタロッツァ』・・赤の一番ですか・・艦のカラーリングも想像がつきますね・・『サライニクス』とは確か、ご生誕の地ではありませんでしたか・・?・・」

「・・これは・・もはや隠し事などできませんな・・?(笑)・」

「・・そんな(笑)・・国民的英雄の生い立ちは、殆どの人の知る所でしょう・・実は私達も撮影セットの見学と、インタビュー動画の収録に来たのです・・見学は先程に終えまして、昼食後に収録に臨みます・・」

「・・そうでしたか・・我々とは逆の行程ですね・・動画の収録は先程に終えまして・・撮影セットには午後から入ります・・」

「・・そうですか・・いや、お昼時にお邪魔してしまいまして、申し訳ありません・・近い内にご連絡を差し上げたいと思いますので・・どうぞ、昼食の席にお戻り下さい・・お時間を拝借させて頂きまして、ありがとうございました・・また近い内にお会いしましょう・・それでは、失礼致します・・」

そう言うと、もう一度握手を交わして頭を下げる・・彼も頷く・・彼の5人のメインスタッフに対しても会釈をすると、彼女達も会釈を返したので私達は踵を反して自分達の席に向かった。

「・・アドルさん・・私達を紹介したのは、どうだったのでしょうか・・?・・まあ、あちらも紹介してくれましたから、お互い様ではありましたけれども・・?・・」

席に着いて全員でピクニックランチを開いたり、飲み物の準備をしたりしている時にハル・ハートリーが訊いた。

「・・うん・・彼が紹介してくれなかったら、ちょっとマズい事になったかも知れないね・・彼自身は私への友誼心から紹介してくれたんだろうけれども・・当然、君達の事は調べるだろうね・・まあ、こちらとしても調べるけれどもね・・ハルさん・・これからは、少なくともこちらから先に他の艦の人間に対して、君達を紹介すると言う事はしないよ・・リサさん・・彼が紹介してくれた5人を、民間レベルのベクトルで調べて下さい・・シエナさん、ハルさん、ハンナさん・・こちらのスタッフへの連絡と話が終ってからで良いですから、彼が紹介した5人を芸能界レベルのベクトルで調べて下さい・・あの中で、誰か知っていますか・・?・・」

「・・サリー・ランドさんと・・ローズ・クラークさんぐらいしか知らないですね・・その2人にしても、女優として目立つようなキャリアはまだ無いように思います・・芸歴とは別に・・何か訳ありの選抜なのかも知れませんが・・」

シエナ・ミュラーが紅茶を飲みながら言う。

「・・私が所属する心理学会派とは違うのですが・・マーラ・ウッドリーさんの論文を読んだ事があります・・彼女の周辺からは、新進気鋭の若手心理学者と持て囃されているようですが・・私の印象では斬新な論調も、画期的な論理展開も見受けられませんでした・・」

スープカップを両手で持って、立ち昇る湯気を顎に当てながらハンナ・ウエアーが言う。

「・・ねえ、あの娘って・・イリヤ・カーラーじゃないの・・?・・」

エマ・ラトナーがサンドウィッチを一つ頬張って、スープを飲みながら顎で彼女を指し示して訊く。

「・・どうして知ってるの・・?・・」

シエナ・ミュラーがその無作法さを咎めようとして声を上げるより先に、私が訊いた。

「・・私が所属している国際スピードポッドレースチームは、エクセレントフォーミュラ・クラスに属していますが・・そのすぐ下にプロフェッショナルフォーミュラ・クラスがあって・・彼女は、そのクラスに属しているレースチームの・・確か昨年度までセカンドパイロットだった筈です・・彼女が芸能人であると言う事は、知りませんでした・・」

「・・だから、どうして知っているのよ・・?・・」

と、シエナ・ミュラーがちょっとキツく訊く。

「・・ああ、彼女と私は学年は違うんですけれども、出生地が直ぐ近くなんです・・同時期に同じ学校に通っていたと言う事が無かったので・・レースチームに入るまで、彼女の事は知りませんでした・・出生地が直ぐ近くだったと言う事で・・勝手に親近感を持っていました・・」

「・・そうですか・・おそらく彼女も、君の事は知っているだろうね・・」

「・・はい・・私もそう思います・・」

「・・サングスター氏と挨拶を交わし、話をして判った事の一つは・・選ばれた20人の一般人艦長に与えられたクルー候補者リストに、重複する名前は無いと言う事です・・私が貰ったリストに彼女達5人の名前はありませんでした・・おそらく彼が貰ったリストにも、皆さんの名前は無いでしょう・・もしもあれば彼からも皆さんに、オファーが入った筈です・・もう一つは、もしも戦う事になるならば・・『サライニクス・テスタロッツァ』は、一番の強敵となるでしょう・・」

そう言い終えて私は大き目の紙皿にバゲットサンド2つと数種類のサンドウィッチを乗せて目の前に置くと、スープカップにスープを注いで置く。

そこでもう一つ思い出したので、口を開いた。

「・・おそらくこのキャフェテリアには今、カメラが設置されているね・・サングスター氏と彼のスタッフが居るのを承知で私達をここに誘ったんだから・・挨拶の一つもするだろうとは、予想していただろう・・放映素材として使うかどうかは判らないけどね・・」

「・・まあ使われるとしても、然程の影響は無いでしょう・・」

と、ハル・ハートリーが冷静に言う。

「・・アドルさんは、煙草を喫われるんですね・・?・・」

と、エマ・ラトナーがまた食べながら訊く。

「・!あんたねえ!・食べながら喋るのは止めなさい!・・」

今度はハンナ・ウエアーが鋭く声を挙げる。

「・・ごめんなさい・・」

「・・まあまあ・・うん・・喫うけどね・・他の人と一緒にいる時には喫わないよ・・」

「・・お酒は、何を飲まれるんですか・・?・・」

と、ハンナ・ウエアーが訊く。

「・・ウィスキー・・できればモルトで少しだけね・・」

そこで私は話題を変えてエマ・ラトナーを見遣る。

「・・エマさん・・最近は飛んでます・・?・・」

「・・え、?・・あ・はい・・この2ヶ月は飛んでないですね・・」

「・・どっちが好きです・・?・・レシプロとジェットでは・・?・・」

「・・空はゆったりと飛びたい派なので・・レシプロですね・・たまにエア・レースにも出るんですが・・レシプロのクラスで出ます・・」

「・・一つお願いがあるんですが・・良いですかね・・?・・」

「・・何でしょう・・?・・私に出来る事でしたら・・」

「・・ゲームは原理としてはVRなので物理的な実際の体験とは違うのですが、それでも実際現象の体験に準じるスピード感覚であろうと思います・・操艦でもシャトルの操縦でもエマさんには最高速に慣熟して貰う必要があると思います・・そこで、所有されているプライベートジェットを操縦して、空での最高速にも慣れて貰いたい・・ゲーム大会の開幕までに、何度か飛んで貰えませんか・・?・・」

「・・分かりました・・気軽に、と言う訳にはいきませんが・・出来得る限り飛びましょう・・」

「・・ありがとう、エマさん・・リーアさん・・エマさんがプライベートジェットで飛ぶ前に、彼女の機体を整備してあげて貰えませんか・・?・・」

「・・分かりました・・喜んで・・」

「・・パティさんとカリーナさんにも課題を出したいんですが・・良いですか・・?・・」

「・・ありがとうございます・・嬉しいです・・大丈夫です・・」

と、パティ・シャノン。

「・・実は期待して・・ワクワクしてました・・何でもやります・・」

と、カリーナ・ソリンスキー。

「・・では、ゲーム大会の開幕までに・・2人で協力して・・新彗星でも新小惑星でも良いですから、1つ発見して下さい・・宜しくお願いします・・」

「・・分かりました・・ありがとうございます・・絶対に発見します・・」

と、パティ・シャノン。

「・・嬉しいです・・2人でなら絶対に発見できます・・お任せ下さい・・」

と、カリーナ・ソリンスキー。

そこで言葉を切って暫く食事に取り組んでいたがふと気付くと、シエナ・ミュラーが私の顔を観ている。

「・・どうしたんですか・・?・・しっかり食べておいて下さいね・・残す訳にはいかないんですから(笑)・・」

「・・あ・・いえ・・何か・・改めてアドルさんてすごいなあ・って・・」

「・・煽てたって何も出ませんよ・・そうだ・・シエナさんとハルさんにも宿題を出しましょう・・良いですか・・?・・」

「・・はい・・何でしょう・・?・・」と、シエナ・ミュラー。

「・・お願いします・・」と、ハル・ハートリー。

「・・軽巡宙艦の構造とメカニズムと機能についてのマニュアルファイルを精読して貰ったうえで、今から言う問題について考察してゲーム大会の開幕までに解答を出して下さい・・問題は・・メインエンジンとサブエンジンを完全に停止させたうえで、どうすれば操艦できるか・?・です・・よく読んで考えて貰えれば、解答は出せますよ・・」

「・・分かりました・・」

「・・やってみます・・」

また言葉を区切り、スープカップに口を付ける・・旨い・・。

「・・リサさん・・このスープも旨いね・・あのマスターは料理人としてもかなりの腕だ・・もし許されるなら、マスターを『ディファイアント』のメインシェフに雇いたいぐらいだよ・・」

「・・本当に、美味しいですね・・母のスープとは、また違いますが・・」

そこでハンナ・ウエアーがスープポットを取って私のカップに注いでくれ、サンドウィッチをふたつ、私の紙皿に取ってくれる・・。

「・・ありがとうございます・・ハンナさんもしっかり食べて下さいね・・」

「・・ねえ、アドルさん・・私への課題は、何も無いんですの・・?・・」

微笑みながらでの流し目を観せる・・。

「・・そうですね・・ハンナさんには全クルーの心理動向データベースの作成をやって貰いますけれども・・その最初として、私のデータベースを作成して下さい・・その為でしたら、私に対してのどのような質問も・・私を知る人へのどのような質問も許可します・・そうだ・・もしもハンナさんのスケジュールが許すようなら・・ご近所さん廻りに同行して貰うのも良いかも知れないね・・どう思う・?・リサさん・・?・・」

「・・え?・あ、・はい・・私としては、差し支えありません・・ハンナさんが宜しければ・・」

「・・分かりました・・その・・ご近所さん廻りと言うのが、よく承知できていませんけれども・・心理動向データベースの作成については、喜んで承ります・・パーソナルでプライベートな質問でも宜しいでしょうか・・?・・」

「・・勿論許可します・・只まあ・・ちょっと生々しい質問は、あまり人のいない所でお願いしますね・・ご近所さん廻りについては、リサさんが説明します・・リサさん・・お願いしますね・・?・・」

「・・あ、はい・・分かりました・・」

そう言ってリサ・ミルズは、小声でハンナ・ウエアーに説明を始める。

私はまた食事に意識を戻したのだが、サングスター氏達のグループが昼食を終えたらしく、席を立ってキャフェテリアから出て行こうとしている。

私達のテーブルの近くを通って出口に向かおうとするところで、先頭のサングスター氏が私に右手を挙げて笑顔を見せたので、私も右手を挙げて返礼した。

5人のスタッフ達も笑顔で会釈しながら通っていく。

エマ・ラトナーがイリヤ・カーラー女史に向けて手を振ったら、彼女は立ち止まって頭を下げて行った。

「・・どうやらエマさんの事を知っているようだね・・」

「・・そうですね・・」そう言いながら彼女達を見送る。

「・・ゲームについて言及しないなら・・彼女と個人的に話しても構いませんよ・・こちらとしても、情報収集になりますからね・・」

「・・そうですか・・あまり機会は無いだろうと思いますが・・時間が空くようでしたら、やってみます・・」

そこでリサ・ミルズの説明が終わったらしく、ハンナ・ウエアーが立ち上がる。

(・何・?・)と言う感じで皆見上げる・・私も含めて・・。

「・・皆ちょっと聴いて!・・実は今度の土曜日の午前中に・・アドルさんと奥様と、リサさんと私とアドルさんの同僚の女性社員の方の5人で・・アドルさんご一家のお宅の・・ご近所さん廻りをします・・何故それをするのかと言うと・・アドルさんが艦長に選ばれて一躍有名になって・・お宅の周りも少々騒がしくさせてしまったので・・お詫びかたがたお土産もお配りしながらの・・ご挨拶廻りですね・・そこで、『ディファイアント』の司令部も成立しましたし、私達はアドル艦長の部下であり艦長を支える立場ですから・・アドル・エルクさんの知名度と好感度アップの為にもお手伝いをするべきだと思いますので・・スケジュールが許すなら、一緒に参加して下さい・・宜しくお願いします・・」

これにはえらく驚かされた・・何かを口に入れていたら吹いたか咽ていただろう。

リサ・ミルズも眼を見開いて、口を片手で押さえている。

「・・ちょっと待って下さい・!・・ハンナさんが参加するだけでもかなりに目立って、騒ぎにまではならないまでも、話題に上る事は止むを得ないと思っていたのに・・ここにいる人達が集まったら、間違いなく騒ぎになって人だかりができます・!・そんな事態はマイナスにしかなりませんので、許可はできません・・止めて下さい・・お願いします・・」

「・・大丈夫です!・私達はプロの女優です・!・人への対応力や誘導力や説得力には自信があります・!・例えどんなに沢山の人が集まったとしても・・ここにいる私達なら完璧に捌いて、アドルさんの知名度と好感度のアップに貢献できます・・それには私達の人数が多い方が効果的ですし、スムーズにできます・・それは、ここにいるメンバーなら分る筈です・・どうなの!?・・私達のアドルさんを支える戦いは、もう始まっているのよ・!・・シエナ・・貴女は来なきゃダメよ・・副長なんだから・・」

「・・判っているわよ・・ハンナ・・アドルさん・・私もお邪魔させて頂きますので、宜しくお願い致します・・」

そう言いながら、シエナ・ミュラーは起立した。

「・・来れる人は起立して・!・」と、ハンナ・ウエアーが呼び掛ける。

私とリサ・ミルズを除いて、全員が起立した。

「・・アドルさん・・ここに来ていないスタッフメンバーにも全員声を掛けて・・出来得る限り参加して貰うようにしますので・・宜しくお願い致します・・」

諦めるしかないようだ・・。

「・・分かりました・・こちらこそ、宜しくお願い致します・・改めて詳細はリサさんから聞いて下さい・・リサさん・・改めて教えてあげて下さい・・メンバーと人数が決まったら、それだけ教えて下さい・・」

「・・分かりました・・」

「・・了解しました・・座って良いわよ・・」

「・・へえ~・・やった・・アドルさんの奥様とお嬢さんにお会いできるんですね・・」

と、エマ・ラトナーが嬉しそうに言う。

「・・エマ!・失礼な事を言うんじゃないわよ!・・」

と、ハル・ハートリーが釘を刺す。

「・・言う訳ないでしょ!・子供じゃないんだから・!・・」

と、食べながらふくれる。

「・・ねえ、リサさん・・マーリー・マトリンって娘・・貴女のライバルなんでしょ・?・」

と、ハンナ・ウエアーが流し目をくれながら訊く。

「・・えっ・?・・ライバルって・・?・・」

「・・ホラっ・・アドルさんに対しての・・」

皆、リサ・ミルズを見遣る。

「・・え、ああ・・私はそんなに彼女を意識してないんですけれども・・彼女は私を意識しているみたいですね・・」

「・・ねえ、リサさん・・平日のアドルさんの事は・・貴女に任せてお願いするしかないんだから・・あたし達はリサさんを応援しているからね・・」

「・・そのくらいにしておきなさいよ、ハンナ!・・アドルさんが話せなくなっちゃうでしょ!?・・」

と、ハル・ハートリーが言う。

「・・分かったわよ・・ハル・・アドルさん・・少し出過ぎました・・申し訳ありません・・お許し下さい・・」

「・・ああ、ええ、いや、大丈夫です・・心配しないで下さい・・問題ありません・・」

確かに・・かなり話し難くなってきたな・・だがまあおかげで・・ピクニックランチも残り少なくなってきた・・これなら残さずに済みそうだな・・。

「・・午後に行われる、インタビュー動画の収録ですけれども・・基本的に質疑に対する応答については・・皆さんに任せます・・私よりインタビューには慣れていらっしゃるようですからね・・スタイリストやメイクアップアーティストについても、自由に申し出て下さい・・総て皆さんの判断に委ねて、一任しますので宜しくお願いします・・」

「・・安心してお任せ下さい、アドル艦長・・女優としての腕の見せ所です・・」

シエナ・ミュラーがそう応えて、自信あり気に微笑んだ・・。

それから10分少々掛かったが、ピクニックランチは全員で平らげた・・。

ナプキンで口と手を拭いながら、紅茶のティーカップに口を付ける。

「・・皆さん、デザートはどうですか・・?・・リサさん・・受付の人を呼んで・・」

「・・アドルさん・・大丈夫です・・皆、良いわね!?・・今甘いものを食べたら、後で眠くなります・・さあ、ここを片付けたら・・インタビュー動画の収録準備が整うまで・・それぞれお時間を頂きます・・その後で、女優のお仕事をお見せ致します・・」

シエナ・ミュラーが皆を見渡し、自信あり気に言い切った。

テーブルの上を片付けてキャフェテリアから出ると、取り敢えず1階のラウンジに戻る。

シエナ・ミュラーの発案でセカンドプロデューサーのミンディ・カーツ女史を呼んで貰い、ハンナ・ウエアーとエマ・ラトナーも交え、4人で話し合っている。

話し合いは20分ほどで終わり、カーツ女史は退がった。

「・・アドルさん・・インタビュー動画の収録は、90分後からと言う事になりました・・私達はやはり、スタイリストとメイクアップアーティストに少々見立てて貰い、収録に備えて準備します・・リサさん・・アドルさんの準備をお願いします・・シャワーを浴びて貰って、その間にこの服をプレスし直して・・着直して貰えれば良いかと思います・・昨日の収録ではネクタイは外しましたか・・?・・」

「・・はい・・昨日は外しました・・」

「・・そうですか・・ネクタイについては、お任せします・・外しても、締め直しても良いと思います・・髪型は・・私としてはあまり弄らない方が良いかと思います・・」

「・・分かりました・・ありがとうございます・・」

「・・それでは・・控室で会いましょう・・」

そう言ってシエナ・ミュラー、ハンナ・ウエアー、エマ・ラトナーとは別行動になった。

ハル・ハートリーとリーア・ミスタンテが他の2人を集めて話し合っていたが、終わったようで私の所に来た。

「・・アドルさん・・私達4人はこれから別室にて、他のメンバーに対しての連絡と対話の作業に入ります・・収録が始まる前までには、スタジオに入ります・・そこで会いましょう・・」

「・・分かりました・・宜しくお願いします・・」

と言う事で、彼女達とも別行動になった・・。

「・・リサさん・・すみませんが数分貰います・・その後でシャワーを浴びます・・」

そう言ってコートと上着と外したネクタイを彼女に渡して、喫煙室に向かう。

サングスター氏からお裾分けされたプレミアムシガーが脳裏を掠めたが、そんなに気軽に喫えるものではないので、自分の煙草を喫う事にする。

喫煙室から出ると彼女からバスローブと紙袋を貰ってロッカールームに入り、総て脱いでローブに着換え、脱いだ服を紙袋に入れて外で待っている彼女に渡し、先ずはゆったりとバスに浸かる。

充分に温まってから身体を洗い、洗髪し、軽く髭も能ってからシャワーで流し、もう一度バスで充分に温まってから出る。

比較的に早い時間で出たとは思っていたが、服のプレスは既に仕上げられていた。

ウォーターサーバーから出した冷水のグラスを片手にして、

「・・早いですね・・」

「・・ちょうど機械が空いていましたから・・」

「・・さすがです・・」

一口冷水を飲んで、休憩室の椅子に座る・・彼女も座った。

「・・しかし・・最初は控え目なご近所さん廻りのつもりだったのに・・大変な事になって来たね・・」

「・・そうですね・・」

「・・ああ、そうだ・・チーフ・カンデルに連絡を執って・・事態の急変経緯を伝えて・・私の奥さんへの親書の内容を・・書き換えて貰うように要請して下さい・・」

「・・分かりました・・収録している間に要請します・・」

「・・宜しくお願いします・・別にどこにも事前の連絡が必要・・と言う訳でもないよね・・?・・まあ自治会長さんと班長さんには、2日前くらいに通話で言おうと思っているけどね・・」

「・・そうですね・・私もそれ以上は、必要ないと思います・・」

「・・よし!!・それじゃ、準備します・・」

「・・お願いします・・」

冷水を呑み干してグラスを置き、両膝を強く叩いた勢いで立ち上がって言う。

「・・ネクタイはどうしようか・・?・・」

「・・そうですね・・思い切り細く締められるなら、締めて下さい・・」

「・・了解・・」そう応えて服を持つと、ロッカールームに入る。

まるで新品同様に仕上げられた服を順番通りに着る。

バランスを整え、確認しながら着込んでいく・・思いっ切り細くネクタイを締め込む・・ネクタイピンを着けて、カフスボタンも着けて、クロノメーターも着けてから髪型を整える。

最後に全身を自分なりに確認して休憩室に入り、リサさんに観て貰う。

「・・どう・・?・・」

「・・好いですね・・似合っていますし、格好良いですよ・・大丈夫です・・」

「・・ありがとう・・じゃ、これで行こうか・・?・・」

「・・はい・・」

ミンディ・カーツ女史に通話を入れて、準備が出来た旨を告げる。

カーツ女史は直ぐに来て、私達を昨日案内してくれた2階のメイクルームに連れて行った。
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