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『まさか…当選!? 』

シエナ・ミュラーとハル・ハートリーとハンナ・ウェアーとマーリー・マトリン

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「…そうですか…今日はわざわざありがとうございました…お疲れ様でした…また何かありましたら、いつでも誰にでもご連絡下さい…何でも出来る限り対応します…」

「…分かりました…こちらこそ今日は、丁寧で詳細な説明とご案内をありがとうございました…面談要請への返信が届きましたら、すみませんが私かリサさんにメッセージか通話でお願いします…また近い内にお会いしましょう…皆さんにも、宜しくお伝え下さい…」

 そう言って立ち上がると、アランシス・カーサーと握手を交わす。

「…お帰りとなれば、皆でお見送りします…」

「…いや、そこまでお邪魔できません…皆さんこれからお忙しくなるでしょうから、私達の事はお気になさらずにどうぞお仕事に戻って下さい…気を付けて帰ります…」

「…そうですか…でも私は下までご一緒します…」

「…かりました…お願いします…じゃあ、帰りましょう…シエナさん、マネージャーの方は? 」

「…そうですね…探して連れて帰ります…」

「…あっ、いらっしゃる場所は承知していますので、お知らせして来ます…」

 そう言ってアランシスが出て行く。

「…じゃあ、下に降りて待っていましょう…」

 そう言って私達も応接室から出て下に降りた。

 私達4人が1階に降りてホールに出て行くと、アランシス・カーサーが受付の女性の1人と一緒に歩み寄って来る。

「…すみません、あちこちとお探ししたのですが、見当たらなかったものですから受付に確認しましたところ、急に行かなければならない用件が発生しましたので、失礼であるとは思いましたがお先に失礼させて頂きます、との言伝を預かっておりました…もっと早くにお伝えしなければならないところでしたが、今になってしまいました…申し訳ございません…」

「…そうですか…分かりました…」

 そう応えてシエナ・ミュラーを見遣る。

「…わざわざ伝えて頂きまして、ありがとうございます…お手数をお掛けしました…」

 そう応じてシエナ・ミュラーが頭を下げる。

「…置いて行かれましたね…大丈夫ですか? 」

「…大丈夫です…よくありますから…」

 笑顔で応える。

「…それでは、アランシス・カーサーさん…今日はお世話になりました…色々と見せて頂いて、ありがとうございました…また近日中に顔を見せる事になると思いますが、その際にも宜しくお願いします…皆さんにも宜しくお伝え下さい…」

 そう言って、今日最後の握手を交わす。

「…こちらこそ、今日はおいで頂いてありがとうございました…またいつでもいらして下さい…全員で歓迎させて頂きます…」

 そこで彼とは別れ、入口から外に出ながらシエナ・ミュラーを見遣って訊く。

「…私達は車で来ていますので、宜しければ、どこか都合の良い場所まで送りましょう…」

「…はい、お申し出は大変に有難いと思いますけれども、私がこの後に行く事を予定しています場所は、些か遠方でして途中でも幾つか経由したい場所もありますので、ご迷惑になりますから今日はご遠慮致します…お気持ちだけ、有難く頂きます…」

「…そうですか…分かりました…お気を付けていらっしゃって下さい…」

「…ありがとうございます…それで、ハルはどうするの? 」

「…私はこの後、この近くで1件打ち合わせがありますので、このまま歩いて行こうと思います…ですので、申し訳ありませんがここで失礼させて頂きます…」

「…そうですか…分かりました…今日は面談に応じて頂きまして、どうも有難うございました…ハートリーさんとお会い出来て良かったです…また何かありましたらご連絡を差し上げますので、ハートリーさんの方も何かありましたらいつでも構いませんので連絡を下さい…それではお気を付けて…」

 そう言ってハル・ハートリーと握手を交わす。

 リサ・ミルズも歩み寄って握手を交わす。

 シエナ・ミュラーとはお互いに右手を軽く挙げて挨拶を交わすと、彼女は入口の階段を下り、右手に折れて歩み去って行った。

「…あの…タクシーをお呼びしましょうか? 」

 ハル・ハートリーの姿が見えなくなってから、リサ・ミルズがシエナ・ミュラーに訊く。

「…ああ、リサさん…大丈夫です…お気遣いをどうもありがとう…自分の携帯端末で呼びます…これでも私、交通費は経費で落とせますから…」

「…失礼致しました…余計な事を言いました…」

「…どう致しまして…気にしていませんよ…」

「…じゃ、僕は車を取って来ます…シエナさん、また近日中にお会いする事になると思いますが、その際にはよろしくお願いします…ファイルをよく読んでおきましょうね…それじゃ! 」

 そう言って左手を挙げると、足早に私は駐車スペースに向けて歩き出す。

 その私の様子をシエナ・ミュラーは少し口を開けて見送る。

「…僕って言った…」

 リサ・ミルズが思わず含み笑いを漏らしたが、左手で口許を隠した

「…リサさん、貴女彼とキスしたの? 」

「…ええっ? シエナさん? 」

「…ああ、またやっちゃった…私って結構人の図星を突いちゃうのよね…御免なさいね、リサさん…貴女たちの事を詮索するつもりは全然ないのよ…御免なさい…」

「…シエナさん…」

「…リサさん…あたし、自信ない…」

「…はい? 」

「…他のクルーメンバーがアドルさんに惚れないように、私が観ていますって言ったけど…私がもう彼に惹かれ始めたみたい…」

「…シエナさん??! 」

「…リサさん…彼って自分の事については、鈍いわよね? 」

「…そうですね…確かに…」

「…そして彼の一番の問題は…自分の魅力に気付いてないと言うか…想像もできてない、と言うところよね? 」

「…その通りです…」

「…アドルさんがメインスタッフの配置案を教えてくれた時…鳥肌が立っちゃった…あの10人とはハルも含めて昔からの知り合いで、友達以上の仲間なの…だから私達はお互いにかなり深いレベルで今では解り合っているんだけど…アドルさんは私と会うのも今日が初めてなのに…まるで適材適所のお手本みたいなポストの配置案で…ちょっと震えちゃうぐらい感動しちゃった…アドルさんのスゴイところをひとつ、今日見たわ…他にもきっと、沢山あるんでしょうけどね…」

「…はい…私もそう思います…」

「…こんな事を言ったら、本当に失礼だと思うけど…彼ってパっと見のインプレッションは、大した事ないのよね…御免なさい…でも彼の本当の魅力は…話を聴いて、話し合いを始めて、一緒に同じ事に取り組んでいく中で、ひとつずつ見せ付けられていくんだろうなって思うの…だから、ファーストインプレッションが大した事なくったって…サードインプレッションではもう、彼への見方が全然違うようになっていて…フォースインプレッションではもう惹き込まれてしまっていて…フィフスインプレッションではもう虜になっている…その可能性が高いわね…」

「…はい…そうですね…」

「…でも、これも解っているのよ…艦外では貴女が…艦内では私が、一番気を付けて観ていかなくちゃいけないって事もね…私は…貴女と同じで…もう彼が好き…でも私の彼へのこの感情は…彼を守ると言う事で…顕していく事にするわ…だから、私と彼との関係では、安心していても良いわよ、リサさん…リサさんも…これから大変だよね…会社の中にもいるでしょ? 彼に想いを寄せる女性(ひと)が? 」

「…はい…そうですね…でも外の事は私が観ますから、任せて下さい…」

「…あーあ…貴女が副長で、あたしがカウンセラー辺りだったら、もっと楽なんだろうけどなあ…」

 そう言われてリサ・ミルズは、明るい笑顔で少し笑った。

 その時、私がエレカーを入口の階段の下に寄せて止めた。

「…それじゃあ、シエナさん…今日はありがとうございました…これからもよろしくお願いします…また近い内にお会いしましょう…」

 そう言ってリサ・ミルズが頭を下げると、シエナ・ミュラーは歩み寄って自分からリサの右手を握る。

「…こちらこそよろしくね、リサさん…何かあったら細かい事でも報せるから…」

「…はい…私もそうさせて頂きます…」

 交わした握手を解くとお互いに左手を軽く挙げて別れを告げ、リサは階段を降りて行ってエレカーの助手席に乗り込んだ。

 私がスタートさせたエレカーが表通りに合流するまで見送って携帯端末を取り出したが、タクシーアプリを起動させる前に通話が繋がる。

「…はい、シエナ・ミュラーです…」 

「…あたし~! あと1分で着くよ! 」

「…誰よ!? 」  

「…ハンナ! 」

「…ハンナ・ウェアー!? 」  

「…そう! 」

「…何やってるのよ?! 」

「…ちょうど終わる頃かなって思ってさ! 迎えに来たよ! 」

「…あんたって、妙にそう言うところで勘が働くわよね! 」

「…そうなのよ…あっ、もう入るよ! 」

 そう聴こえると同時に真赤なオープンタイプのエレカーが滑り込んで来るのが見えた。

 シエナ・ミュラーの眼の前でそのエレカーは横付けに止まり、助手席のドアが開く。

 運転席から左上のシエナ・ミュラーを見上げて敬礼の真似をしたのが、ハンナ・ウェアー。

 29才。ライト・マリンブルーのパイロットジャケットを着込み、首には厚手でベージュのスカーフを巻いて胸元まで拡げている。

 漆黒のサングラスを掛けた上に大きいパイロットゴーグルを着けて、真赤なヘアバンドでオレンジブラウンのナチュラルロングストレートをオールバックにして後ろに流している。

 カーマインピンクのルージュは、寒さと乾燥にも耐え得る仕様のようだ。

 ライトブラウンで本革製のパイロットグローブも手にピッタリと馴染んで観える。

「…あんた…この寒いのに、なんでオープンなのよ?! 」

 言いながら階段を降りて助手席に乗り込む。

「…どうして? 風が気持ち良いわよ! 」

「…お肌に悪いわよ…ねえ、何か無いの? 」

 訊きながらニットベレーを深く被り直して、コートのボタンを総て留めて襟を立てる。

「…え~っとね…ああ、あった…これとこれ…着けといて…」

 そう言いながら、耳当てと同じようなゴーグルを手渡した。

「…しようが無いわね…」

 そう言いながら耳当てとゴーグルを着ける。

「…じゃ、行くわね…一度オフィスに戻るんでしょ? 」

「…そうね…」

 エレカーがスタートして、前の通りに合流する。

「…それで、どうだったの?! 」   

「…何が?! 」

「…アドル・エルクよ! 会ったんでしょ?! どんな感じなの?! 」

「…そうねえ…身長は178くらい…観た感じは学者が5割、エンジニアが3割、営業マンが2割ってところかしら…データでは係長って書いてあったけど、営業マンって感じはまずしないわね…体型は普通…脚はまあ、長めだったかしら…髪はライトウェーブでミディアム…色はダークディープブルー…眼の色はライトブラウンだったわね…顔はやや細めで顎は咎ってない…耳も普通…眉と唇は細め…こんなところね…」

「…へえ…随分細かく観察したじゃない…それに…結構あなたのタイプに近いんじゃない? 彼が妻子持ちじゃなかったら…これから大変になったかも? 」

「…何をバカ言ってるのよ…」

「…それで?! 何の話だったのよ!? 」

「…あたしに副長をやってくれって…」

「…へえ…受けたんでしょ? 」   

「…受けたわよ…」

「…もう惚れたわね? 」

「…だから、バカは言わないの!! 」

「…へえ…アドル・エルクさんて…まだ判らないけど、人を観る眼はあるわね…あなたを副長に据えようだなんて…さすがの眼の付け所だと思うわよ…」

「(小声で)こんな奴がカウンセラーですか? 」

「…ええ?! 何か言った!? 」

「…ううん、何でもないわよ! それよりアンタも面談のオファーを受けているんでしょ?! 早く返信しなさいよ! 」

「…分かってるわよ…オフィスに戻ったら、すぐに返信するから…でも、どうしてよ? 」

「…これだけは言って置くけど…会っておいて、損は無いわよ…」

「…やっぱり惚れたな…」

「…だからバカは言わない!! 」

 リサ・ミルズを助手席に座らせてエレカーを操る…幹線道路だが、それ程には混んでいない…真っ直ぐに走らせ続けて10分…ようやく車内が少し暖まってくる。

「…今日はありがとう…本当に助かったよ…僕1人だけだったら、ここまでできなかっただろうな…」

「…いいえ、どう致しまして…私達の仕事ですから…大丈夫ですよ…」

「…どこまで送ろうか? 出て来るのが先だったから、何のセットもしなかったけど…」

「…私がセットしても良いですか? 」

「…良いよ、どうぞ…」

 そう言うと彼女は自分の端末を観ながらナビゲーションシステムに入力した。

「…どこにセットしたの? 」

「…お店です…皆で夕食を摂ろうと思って、決めておいたんです…」

「…皆って? 」

「…グラハムさんとマーリーです…2人とも喜んで来ると言っていましたよ…」

「…そう…でも、夕食にはまだ早いよね? 」

「…2人が来るまでの間に、私は報告書を作りますから…アドルさんはファイルを読んで下さい…進めて行く間に、気付く事もあるでしょうから…その都度話して、どう対処するか決めましょう…」

「…そうだね…分かった…そうしようか…」

 彼女が目的地としてセットした店はスコットとマーリー、それぞれの自宅の丁度中間ぐらいの距離に当たる場所だった…そう言う点にも、リサ・ミルズの気遣いが垣間見えるようだ。

 100分ほど走行して目指していた店のパーキングに滑り込む。

 特に変哲となる特徴には乏しいレストランダイナーだが、家族やグループで気軽に来られるような雰囲気ではある。

 5人で着けるテーブルに対面で座ると私はマンデリンをブラックで、リサ・ミルズはカモミールのハーブティーを頼んだ。

「…アドルさん…預かった端末の中のファイルを総て私の端末に送って頂けますか? 」

 自分の端末を取り出して、報告書を作り始めながら言う。

「…分った…ちょっと待って…それで、2人は何時ごろに来るって? 」

「…19時前後じゃないかと思いますけど…」

「…そうなんだ…えっと…あれ? ちょっと待って? おかしいな? 選択できない…リサさん…このファイルはコピー出来ないね…このファイル全体にセレクトブロックが掛かっているよ! 」

「…そうなんですか? 」

「…うん…そうだね…それにこの端末はネットワークに接続できないし、通話も出来ない…起動にもファイルの読み出しにも私の生体認証が必要だし、つまりこの携帯端末が使えるのはゲームの中だけ…『ディファイアント』の中でだけって訳だね…」

「…そうですか…分かりました…じゃあ、そのままファイルを読んでいって下さい…気になる所があったら、読み上げて下さい…」

「…分かったよ…」

 そう応えて私はマンデリンのカップを半分空けた。

「…ふん…SLC(スペース・ライト・クルーザー)ディファイアント…艦籍番号062363…冒頭に0が付くのは艦長役演者として選ばれた人の艦だそうだよ…それと…このゲーム大会は、土曜日・日曜日・祝日限定で開催されるそうだ…まあ、全乗員の9割が揃わなければ出航は認められないからね…平日に全乗員を揃えるなんて、まず出来ないだろうからな…土曜日・日曜日・祝日共に、朝8時から搭乗解禁…9時から出航が解禁される…それで、日曜日の夜11時までには入港するように、との事だ…へえ…艦体には戦果に応じて経験値が付与される…それに、乗員にも戦果に応じて賞金が授与されるって…」

「…幾らですか? 」

「…軽巡撃沈でひとり150万…重巡撃沈でひとり700万…戦艦撃沈でひとり1800万だってさ…」

「…凄いですね…」

「…安いよ…それに足元を見てる…」

「…艦長役演者も含めて全乗員には、その役職を演じた出演料として番組の配信会社から、役職に応じての出演料が支払われる…同時に『運営推進本部』からも、ポストに応じて役職報酬が支払われる…撃沈賞金は全員一律で同額だ…こりゃあ、一般の参加者からは随分と妬まれるだろうな…それに撃沈なんてそう簡単に出来るもんじゃない…本当に、安く見られてるよ…まあ、でもね…参加当選確率5億倍のゲームだから…僕としては選ばれて出られるだけでも充分だけどね…」

「…アドルさん…今後のスケジュールで、判っているところを読んで貰えますか? 」

「…解った…その前に2月7日の土曜日なんだけどね、午前中から女房と一緒にご近所さん廻りをしようと思っているんだ…まあ、お騒がせもしているようだからね…」

「…分かりました…何か…お土産のようなものをお配りしながら、廻られるのですか? 」

「…うん、まあ…簡単で失礼にならない範囲のものを、見繕って置くからって女房が言っていたから…」

「…その…お配りするお志のお品ですけれども…チームとして私に用意させて下さい…」

「…えっ…そこまで世話になるのはさすがにマズいよ…」

「…アドルさん…アドルさんのお宅のご近所様へのお気遣いも含めて…もうアドルさん個人の問題ではないんです…総てはチームで取り組んでいく、共同事業なんです…私から奥様にご説明させて頂いた上で…土曜日の朝に、お品を持参してお伺いしますので…宜しくお伝えの程をお願い致します…」

「…リサさん…こう言う展開になるとは思っていなかったから今迄言わなかったし、言う必要があるとも思っていなかったんだけれども、君が僕の秘書として就いてくれた事も、チームが結成された事もまだ女房には話していないんですよ…」

「…そうだったんですか…でも可能な限りアドルさんの負担は増やさないで進めようと言うのがエリック・カンデルチーフの指示ですので…では私からチーフにお話しして、奥様宛に親書を書いて頂きます…それをお届けしてその上で私が奥様に連絡を取ってお話をさせて頂きますので、この件については任せて下さい…何かあれば直ぐに報告しますから…」

「…うん…そうか…そうだね…分かった…取り敢えずは、それで宜しく頼みます…君が女房に連絡を取るまで…僕は女房と通話を繋がないでおくから…」

「…ありがとうございます…それでは…今後のスケジュールについて、読んで貰えますか? 」

「…分かった…現状で決まっている大きい予定は、リアリティ・ライヴ・ゲームショウの番組制作発表会見が2月22日、日曜日の18時から…全艦長と全副長が出席した上での総合共同記者会見が2月25日、水曜日の19時から…会見は総て生中継で配信される…後はゲーム大会の開幕が2月28日、土曜日の朝7時から…だけだね…その他の個別の要請とか企画へのオファーとかは、これから追々に届くんじゃないかな…」

 そこまで言った時に私の携帯端末に着信のコール…見ればアランシス・カーサーからだ。

「…ハンナ・ウェアーさんと、リーア・ミスタンテさんと、パティ・シャノンさんが面談のオファーに応じてくれたそうだよ…日時は明日の午前10時から…場所は今日と同じだって…」

 通話を終えた私は、リサ・ミルズにそう言った。

「…そうですか…分かりました…私も同行します…」

「…ちょっと待ってね…シエナ・ミュラー副長とハル・ハートリー参謀に連絡して、明日同席して貰えるかどうか訊くから…」

 重ねてそう言うと先ずシエナ・ミュラーと通話を繋ぎ、続けてハル・ハートリーとも通話して明日の面談の予定を伝えた上で同席を要請したところ、2人ともから快諾を得られ、同意・了承を貰えた。

「…OKを貰えたよ…待ち合わせは明日の朝8時30分…場所は今朝朝食を摂ったあの店にしたよ…」

「…そうですか…分かりました…じゃあ私達の待ち合わせは、8時にしましょうか? 」

「…そうだね…そうしようか…今日と明日は出張扱い? 」

「…そうですよ…出張扱いで休日出勤です…日当も出ます…」

「…ありがたいね…」

「…当然ですよ、アドルさん…ウチのチームの仕事は、今や社内でもトップクラスのビッグプロジェクトなんですからね…」

「…確かにそうでした(笑)…これで、明日の予定も埋まったね…」

「…そうですね…ところでアドルさん…アドルさんが席を外していらっしゃる間に、シエナさんとライヴ・リアリティ番組についてお話を伺ったんですけれども…」

 そこで私は右手を挙げてリサの話を遮ると、その後を引き取った。

「…今回の企画は、場所が閉ざされた艦内…主要なメンバーで男性は僕一人…他はほぼ全員が女性…艦対艦の戦略、戦術のゲームではあるけれども…観客、視聴者に提供される描写は、ほぼ艦内での描写になるだろうし…観る側が期待するのは、たまにしか行われないであろう戦闘のシーンよりも…クルーに対する僕の姿勢や態度や言動…僕に対するクルー達のそれに…やがてはシフトしていくだろうし…そのまま戦い抜いて行けば行くほど…艦内での人間関係の変化や変遷…偏向や転換に、興味や関心が集まって行くだろう…でもそれらは充分に承知の上で…皆で心も力も合せて戦い抜いて行きたいし、そうして行く事に醍醐味を感じたいし、今もそれは感じているし、これからも感じたい…そう言う事だね…それにゲーム大会は週末だけだし、平日は君達と一緒だから、リサさんが心配するような事には多分ならないと思うよ…」

 言い終えてコーヒーの残りを飲み干す。冷めていてもマンデリンは旨い。

「…分かりました…変な心配をしてしまってすみませんでした…ゲームに参加されている時のアドルさんの心配をするのはもう止めます…(私が心配すべきはシエナさんの言った通り、平日のアドルさんですから)…それにしても、アドルさんのそう言うお話を聴くと…私の気持ちがますます強くなります…」

「…ありがとう(リサ・ミルズの好き好きアピールには敢えて言及しないで)…それで…スケジュールと言っても今はまだこんなところだし…もう少し、色々と読み進めてみるね…」

「…はい…報告書は…後20分くらいであがります…」

「…随分細かく書くんだね…明日の予定も書いた? 」

「…はい…それももう書きました…とにかく今日あった事は、全部細かく書きます…」

「…あんまり、誇張しないでね…」

「…分かっています…」

 それから10分程はお互いに言葉を切って、読み込んだり書き込んだりを続けた。

「…へえ…艦対艦の通信は制限されていない…と言う事は、通信さえ戦術の一環として捉えて良いんだと言う事と、総ての通信は大会の推進本部にも筒抜けになっていると言う事だな…それに、下手に平文で発信したりしたら自艦の位置を晒してしまう事になるから、迂闊には出来ないけどね…特定暗号通信も出来るけど、推進本部には聴かれるからあまり意味は無いかな…それと…大会が開幕して出港してから24時間は入港できないんだね…と言う事はおそらく日曜日の朝、8時か9時までは入港できないと言う事だな…それと…へえ…大会に出場する艦は、初出航後24時間以内に、『初出航記念親睦パーティー』を開催するように、と言う規定があるね…」

「…パーティー…ですか? 」

 珍しい言葉に、リサ・ミルズも顔を上げる。

「…そう…どうやらこのパーティーが、ゲーム大会とリアリティライヴショウ開幕後の初日に於ける、最初の山場になりそうな企画だな…各艦ともそのパーティーの模様が、こぞって放映されたり配信されたりするんだろうね…パーティーも開かない内に撃沈されちゃったりしたら…ちょっとカッコ悪いだろうけどね…」

「…色々と、人目を引くような企画を考えますね…」

「…そりゃあ、考えるだろうねえ…どれだけの人達に続けて観て貰えるのかが勝負だからねえ…インタビュー動画も、これからもっと収録が要請されると思うね…」

「…そうでしょうね…そうなると…もっと忙しくなりますね…」

「…ねえ、リサさん…シエナさんをどう思った? そして今はどう思ってる? 」

「…すごく感じの好い人ですし…感触の好い人だな、とも思いました…今も思っています…とても親しみやすい性格で…好感が持てますね…今日2人で話せたのは、全部でも短い時間でしたけど…友達になれました…ちょっと言葉を交わしただけで、シエナさんには見抜かれましたよ…私がアドルさんの事を好きで…キスした事も…そんな、すごく…豊かで幅広く…強い感受性を備えている女性ひとだから…副長として最適だと思いますし…シエナさんも選んでくれた事を感謝していました…シエナさん…言ってましたよ…私もアドルさんに惹かれ始めているって…でも、クルーの中にもっとアドルさんに惚れそうな人がいるから…私はこれ以上、アドルさんに惹き込まれないようにするって…でも…一緒に過ごす時間が長くなればなるほど…それも難しくなるかも知れないって言ってました…」

「…驚いたな…そんな事まで話していたんだ…これじゃあ…何かを隠しておこうとしても…無駄な事だね…でもそれなら僕も…最初から率直に話せるし、接する事も出来るし…仲間として遠慮せずに付き合えるってものだね…ある意味で覚悟が決まったと言うか…吹っ切れたみたいな感じだよ…」

 そこまで言った時に、ダグラス・スコットとマーリー・マトリンがダイナーに入って来た。

 すぐに気が付いたので立ち上がって右手を挙げると、彼等もすぐに気が付いた。

「…!お帰りなさい~…お疲れ様でした~…」

「…お疲れ様でした…」

 マーリー・マトリンがそのまま私の隣に座ったので、ダグラス・スコットはリサ・ミルズの隣に座る。

「…2人とも随分早いじゃないか? まだディナーメニューが出ないよ…」

「…早く話が聴きたいから早く行きましょうって、彼女が言いますんでね…」

「…お前の車で一緒に来たのか? 」

「…そうですよ…」

「…だって早く聴きたいじゃないですか…今日はリサさんだけ一緒に行けてズルいんだから…」

「…彼女が今日一緒に行ってくれたのは仕事の一環だよ、マーリー…心配しなくてもチームの皆で一緒に見学出来るようなイベントはあるから…一緒に行けるように頼むからさ…」

「…フフッ…冗談ですよ、アドルさん…本気じゃありません…」

「…それで、どうだったんですか? 先輩…撮影セットは? 」

「…ああ、その前にさ…訊かれた事には答えるけど…俺が言った事をネットに挙げないでくれよ…まだ制作発表会見もやってないんだからさ? 」

「…分かりましたよ…どこにも書きません…」

「…私もです…」

「…良かった…撮影セットは、そりゃあ大きくて凄かったよ…まさに圧巻だね…それに実際に使える設備や装置だし、使い易く合理的・効率的・効果的にレイアウトされていて、コンパクトにブラッシュアップされている設備や装置のように観えたね…」

「…へえ、早く僕らも観てみたいですよ…」

「…ああ、早く一緒に見学に行こうな…それと、画像の撮影は遠慮してくれって事だったんだけど、特別に艦長の個室は許可を貰ったんで撮って来たよ…でもネットへのアップは勿論、画像を他人に譲渡するのもやめてくれって念押しされたんでね…悪いが肉眼で観るだけな…それと…何か頼んだらどうだ? 」

 そう言いながら、自分の携帯端末をスコットに手渡してウエイターを呼ぶ。

 私はマンデリンのブラックでホットを、リサはロシアンティーを、スコットはノンアルコールのライトビアー、マーリーはピーチツリーフィズを頼んだ。

「…!ええっ! これが艦長の個室なんですか!? 冗談でしょ!? こんな豪華なところに住めるんですか?! すごいですね…超豪華なホテルの個室と言うか…大邸宅の内部みたいですね…」

「…だろう? 実際、マジでそう思うよ…」

 マーリーも観たそうにしているので、スコットが端末を手渡してやった。

「…それで? 他の撮影セットも気に入ってるんでしょ? 先輩? 」

「…ああ…やっぱり気に入ったのは、ブリッジとバーラウンジだな…あのブリッジの気に入り加減は…とても言葉じゃ言い表せられない…無理だね…観ないと分からん…でもなスコット…あのバーラウンジなら、お前も絶対気に入るはずだ…あそこは最高だよ…どんな飲み食いもできるし…やろうと思えばどんなエンターテインメントも楽しめるだろうな…まあ、実際に観て貰えればすぐに解るよ…」

「…そんな風に言われたら今直ぐにも観に行きたくなるじゃないですか…罪ですよ、先輩…」

「…悪いな…」

「…! ええ~!? これが艦長さんの個室なんですか?! すごいですね…一ヶ月で良いから、こんな部屋に住んでみたいですね…」

 マーリーが溜息と一緒にそう言いながら、端末を私に返す。

 気持ちは解るよ、と言う表情で受け取る。

 頼んだ飲み物がそれぞれに来たので、皆受け取って口を付けた。

「…それはそうと先輩…今日、ここに来る前にウチのフロアのサーバーにアクセスしてみたんですけど…先輩を名指ししての新規申し込みが…眼を剥く増え方ですよ…とにかく昨日までの増加率とは全く違う様相でしたんで…一応メッセージで課長には伝えました…」

「…課長の返事は? 」

「…ここのパーキングに入る直前に通話で、カンデルチーフと相談するとは聴きました…」

「…そうか…残業になりそうかなあ? 来週からは平日でも終業後に面談の予定を入れざるを得ない状況になるだろうと思うんだけどね…」

「…もうあそこのフロアに新しいデスクを入れるのは難しいかと思いますが…リモートで業務を手伝ってくれるメンバーを増やす事は、出来ると思います…営業本部傘下のフロア・オフィスに広く募集を掛ければ…応じてくれる社員はいるでしょう…」

 リサ・ミルズがそう言ってロシアンティーをゆっくり飲む。

「…そうだね…そうなってくれると有難いな…その話、カンデルチーフに言ってみるよ…」

 私もそう応じて、マンデリンのブラックを半分飲んだ。

「…ねえ、アドルさん…それであとは何をされたんですか? 」

 マーリー・マトリンがピーチツリーフィズを半分ほど飲んで訊く。

「…2人のプロデューサーと3人のディレクターに出迎えられてね…ゲームルールの説明を受けたんだよ…艦長として何が出来るのか、とかね…それで私にゲームの中でだけで使える携帯端末とgpadとgpidメディアカードが貸与されたんだ…ゲームルール、艦長として出来る事、艦長として知って置くべき事、艦長として知りたければアクセス出来る事、艦長でもアクセス出来ない事、今後の予定について、とかは携帯端末とgpadに全部入っているから、よく読んでおいてくれってね…それで君達が来るまで、読み進めていたって訳さ…」

「…ルールの中で、面白いものはありましたか? 」

 スコットがライトビアーを呑み乾し、ウエイターを呼んでお代わりを頼みながら訊く。

「…先ずちょっと驚いたのが、艦対艦の通信・交信が全面的に許可されているって事だね…通常このような公開されているゲーム大会の場合、個別の通信・交信は許可されない…参加者がなあなあに馴れ合えば、ゲーム大会の進行速度が異常に停滞してゲームが終局に辿り着くまでに、物凄く時間が掛かってしまいかねないからね…それを許可していると言う事は、このゲームが終了するまでに時間が掛かっても構わないと運営本部は考えていると言う事と、参加者から観れば通信・交信を戦術に組み込めると言う事だ…通信・交信一つで、相手艦・敵艦の動きを制御できる可能性が生まれる…どんなピンチに陥っても、口先一つで切り抜けられるかも知れない…通信・交信に制限が掛からないと言う事は傍受も自由にできるって事だから、どこかに隠れて聴き耳を立てている艦の存在も想定して回線を開く必要も出て来るだろう…」

「…離れていても交信できるんですか? 」

 半分ほどまで飲んだロシアンティーのカップを置いて、リサ・ミルズが訊く。

「…交信できるのは相手艦の様々な存在反応をセンサースイープの範囲内で検知して、その位置を特定して確認できた艦だけだね…それが確認できれば艦名と艦籍番号が判るから…その後はその艦をロストしたとしても、交信しようと思えば回線は開ける…艦名と艦籍番号が複数で判っているなら、センサースイープの範囲内にいなくても交信を傍受できるし、交信に参加してグループミーティングにする事も出来る…」

 話を切ってコーヒーを飲み干した。

「…他に面白いルールはありましたか? 」

 スコットが2杯目のライトビアーを半分まで飲んで訊く。

「…戦い抜いて行けば、艦体には経験値が付与される…それと同様にクルーには賞金が授与される(笑)…」

「…へえ、すごいですね…いくら貰えるんですか? 」

 ピーチツリーフィズを飲み干してマーリー・マトリンが肩を寄せて来る。

「…軽巡撃沈でひとり150万…重巡撃沈でひとり700万…戦艦撃沈でひとり1800万だってさ…(笑)」

「…何ですか、そりゃ(笑)…随分安いじゃないですか…足許を見られてますね…」

 スコットが呆れて言う。

 リサ・ミルズが顔を上げてスコットを観た。

 私と同じ感想を吐いた事に、少し驚いたようだ。

「…まあ、当選確率5億分の1を突破して選ばれた艦長職だ…その後の注目度やチヤホヤされようは天文学的だろうから、撃沈賞金がこんなものでも良かろうよって考えは解らないでもないけどな…それでもこの安さは抗議運動を呼ぶかも知れないな…」

「…もっと好景気を呼び込むような企画は無いんですか? 先輩? 」

「…そうだな…大会に参加する全艦は、初出港後24時間以内に『初出港記念艦内親睦パーティー』を開催するように、とのお達しがあったな…」

「…へえ~…そりゃ豪勢ですね…アドル・エルク艦長の関係者として、是非とも参加させて頂きたいですね…」

「(笑)気持ちは解るけどな…残念だけどパーティーの模様は、ストリーミング生配信を観て貰う他に方法は無いようだね…パーティーを開催できて、無事に終われるならまだ良いよ…パーティーを開催するまでに撃沈されちまう可能性だってあるし…パーティの最中に攻撃される可能性もある…最低限、そんな事にはならないようにしなきゃな…」

「…それで、撮影セットの見学の後には、何をされたんですか? 」

 左腕を私の右腕に、意識的にほんの瞬間接触させて、マーリー・マトリンが訊く。

「…このゲーム大会の宣伝PVの一部として使える、インタビュー動画を撮影したんだよ…」

「…へえ、どんな質問があったんですか? 」

 スコットがウエイターから貰ったディナーメニューを読みながら訊く。

「…質問内容は、この前社内で開いた記者会見の時に出された質問に、少々プラスアルファした位のものだったけどな…クルーの誰かに惚れるような可能性はあるのかとか、クルーの誰かから惚れられたらどうするのかとか、クルーの誰かを食事に誘うのかとか、クルーから食事に誘われたらどうするのかとか…そんな下らない質問もあったな…」

 リサ・ミルズは顔を上げずに報告書の作成に没頭していたが、スコットとマーリーは私の顔を短時間観てから、お互いに顔を見合わせていた。

「…さて、もうディナーメニューも来ましたし、注文しませんか? 僕はもう決めましたから…」

 そう言ってスコットがディナーメニューをテーブルの中央に置く。

「…俺はお前と同じで良いよ…」

「…えっ、結構ボリュームありますよ? 」

「…好いよ…少し残してテイクアウトで貰って帰るから…」

「…そうですか…分かりました…お2人はどうします? 」

「…私はスペシャルミートサラダで…」

 と、マーリー・マトリン。

「…マーリー…私もそれでお願い…」

 リサ・ミルズは顔を上げずに言う。

「…ですって…」

 そう言って、マーリーがメニューをスコットに返す。

「…はい、かしこまりました…」

 そう応えてウエイターを呼ぶ。

「…それで、そのインタビューの後はどうしたんですか? 」

 マーリー・マトリンが訊く。

「…実はインタビューの撮影を配信会社役員会のお歴々が見学していてね…何でもリアリティ・ライヴショウで選ばれた20人の艦長の中で、撮影セットの見学に来たのは俺が最初だったそうでさ…撮影の後で見学していた人達全員と挨拶してカードを交換したよ…それでそのまま交流昼食会に参加したって訳さ…」

「…へえ、そこの社長とかも来ていたんですか? 」

 ウエイターに注文し終わってメニューを返したスコットが訊いた。

「…ああ、会長は来ていなかったが社長以下殆どの役員は来ていたようだったし…配信番組制作本部のトップスタッフも来ていたな…おかげでメディアカードが足りなくなりそうだったよ…」

「…へえ、またグッと人脈が拡がりましたね、アドルさん…」

 マーリー・マトリンが私の顔を覗き込むように言う。

 この娘の好き好きアピールも少しヤバいレベルになってきたかな。

「…それで、午後からはアポを取っていたシエナ・ミュラーさん、ハル・ハートリーさんと面談したんだよ…」

「…2人とも先輩の要請には応じてくれたんですか? 」

「…うん…快く応じて貰えてね…緊張してたんだけど、安心したよ…」

 そう言った時にリサ・ミルズが顔を上げた。

「…報告書が挙がりました…それと、カンデルチーフへの要請文も書きましたので、そちらから確認して下さい…」

 そう言って自分の携帯端末を私によこす…私は受け取って要請文から読み始める。

「…カンデルチーフへの要請文って? 」

 と、スコットが訝しむ。

「…ああ、俺がうっかりしていてね…リサさんが俺の秘書として就いてくれた事も、俺の業務をサポートしてくれるチームができあがった事も、まだ女房に言ってないんだよ…それで今度の土曜日、午前中から女房と一緒に粗品を持ってご近所さん廻りをする予定でいるんだけどさ…お騒がせもしているだろうからね…その事を君達が来る前にリサさんに話したら、チームとしてもそれには責任を持って取り組む必要があると言う事でね…リサさんが粗品を選んで、土曜日の朝にウチに持って来てくれて、ご近所さんにも一緒に廻ってくれるって言う話になって…俺がちょっと、今更女房に言いづらいってのと…女房が変に遠慮したりしないようにって事で…カンデルチーフから女房に宛てて、その事を内容に盛り込んだ上での親書を書いて貰おうって事で…それをチーフにお願いする要請文だよ…」

「…そうなんですか…じゃあアドルさん! 私もリサさんと一緒に土曜日の朝、お宅に伺います! 」

 そう言ってマーリー・マトリンが私の顔を覗き込む。

「…どうして私が貴女と一緒にアドルさんのお宅に行くのよ?! 」

 私が口を開くより早く、リサさんが少々気色ばんで言う。

「…リサさんはアドルさんの秘書として行動して下さい…私はチームの代表として同行し、チームの業務として遂行します…カンデルチーフへの要請文にもその旨を盛り込んで下さい…」

 マーリー・マトリンが真っ直ぐに背筋を伸ばして顔を上げ、リサ・ミルズの眼を真っ直ぐに見返して直言する…その堂々たる姿勢…正当・正論のような直言…責任感、使命感に溢れるかのように観える物言い…リサ・ミルズも二の句が告げなくなったようで、こう応えた。

「…解ったわ…一緒に伺いましょう…」



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