十人十色の強制ダンジョン攻略生活

ほんのり雪達磨

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鬼の首49

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(生きるため――生き残るために、終わりを迎える準備だ。繁栄から進化することができなくなると気付いた人間という種が――生き残るためにそれに特化したものを最後に産み出すのが、きっと完成なんだ)

 それは、それはつまり――

(完成品とは、来るらしかった――多分、この鬼みたいな――どうしようもないものから、その終わりから逃げることができる者なんだ。
救世、つまり世を救うための存在なんかじゃない。他の人間を救う為なんかじゃないんだ。
最初から、敵わないという前提で作られた、負け逃走の存在だ。
つまり――世界の外に逃げることができる力を持った人としての可能性を固めたもの。だから――自分本位になる。より自分勝手になるんだ。きっと、人間が種として己を残すために。躊躇う事で、逃げるチャンスを失わないために)

 そのための力だったということだ。

(完成により近いらしい天秤は……そう、確かに逃げに特化していた。
そして、俺もそうなんだ――似ている。似ていたんだ。同じ方向性で。優れたるは、天秤の方だった。近いのはきっとそうだったんだ……でもだから、俺はこんな風に傷つけない愛情を持てた。天秤よりも、優れてなかったからこそだ)

 啓一郎も、天秤も、他の全てさえ。

(完成に近づくほど利己主義でありながら――人への興味のようなものが決して失われないのは、こうして他の世界のものだろう完成品どもが協力して手を出してくるくらいに俺たちにとっては迷惑だろうが興味を持っていじるのは当然だったのだ。天秤が人をあれこれとしていたのも、つまりその方向性で――)

 種の保存存在として、恐らく老いも病もほぼ一定からはない存在なのだろう事も推測できた。安定を見つけるまで逃げ続けることを種としてできる限り実現した能力であることを。
 しかしそれでも、1人ではいつか終わってしまうかもしれない。先がない。繁栄も進化も1人では未来がない。
 だから、同じような――俗にいえば繁殖可能なような種には興味を持つように。

(――気付いたところで、それがなんだという話ではある。が、納得だ。納得はした。
俺が関われなかったのは――俺が自分の力にずっと自覚がなかったからだったんだな。ただ、身体能力だけじゃ、なかったんだ……多分それは、気付くことさえ危険に近づくという判断をしていたからだ。そういうところが、失敗たる所以なのかもしれん。俺も、天秤もな)

 どこに自分の鬼としての力があるのかがわかる。

 自覚した今、それはよくわかった。
 いつ切れるかわからないが今はまだある浅井の補助を利用して、それを制圧する。
 繋がった支配が切れたわけではないのだ。
 それを利用して――鬼としての自分を人間の部分が主導となっている今しかできないだろう支配をかけた。
 上手くいくかは賭けではあったが……ターゲットがしっかりしていたことや支配した者たちからのどうしてかされたらしい後押しから、うまくいったらしい。

 つまり、鬼でありながら中身は人であるという異物が産まれた。
 そうしてしまった以上、もう鬼としての純度は上げられないが――それでも、負ける気はしなかった。

 鬼になった瞬間覚えたような爽快さはなくなったが、それが良かった。
 その柵をこそ、人生の共にしていたのだから。
 それを厭っていたし、今なお嫌いたくなるけれど、それがあって出会って過ごした全てだという事も今は認められるようになっているから。
 苦痛も悩みも全て、捨ててはしゃげるほど軽く粗末に扱っていい荷物出ない事に改めて気付いたからだ。

『なんでこうなるっ、なんで俺が、俺ばかりがぁっ』

 天秤は消費されたエネルギーが想像より多かったか、動きは今だ緩慢のようで。

「浅井っ! ――引っ張れ! ちょっとでも申し訳なく思えるくらいマシになってんなら死ぬ気でやれよっ」

 だからチャンスは今だった。
 制御したとはいえ、純度が下がっている以上鬼の力は弱まっている。支配下に置いたとて、支配者となったわけではなく、力を完全に受け取っている等というわけでもないのだ。
 やりあっていれば、考え無しに正面から同じようにやり合えば、負けるだけだ。
 殺されても――こうなれば、ただリセットされるかどうかは疑問だった。

 鬼になり切る前ならそうだったであろうが――人間の意識を取り戻そうが、鬼という存在になっているのは確かなのだ。
 決まりかけている。
 それがわかるのだ。繋がったからこそ。そして冷静になった今確信できるのだ。
 天秤が意識的に気付いているかは別として、殺そうと動いていることから――本能としては理解しているのだろう。

 『鬼』という存在通しで繋がってしまっているのだ。強固に。
 鬼というウィルスなり病原菌なりのような見えない元のようなものは、恐らく各鬼たちがもっているようで全てが繋がっているような存在でもあるのだろう。
 そして――

(それは、これは。ここの鬼というものはどこかしらの終わりの一部であり――一部であっても、完成品と呼ばれるやつらにも制御しきれるものじゃないんだろう)

 だから。システムで枷をつけるのが精いっぱいで。
 打倒すれば、相手を死という形をもって屈服させることに繋げることができるのだと。
 だから。
 リセットされる、なんて逃げを打つことももうできないのだと。

 今度の死は、終わりだ。終わりを意味する。このダンジョンでの啓一郎という存在の。
 死ななくとも、もう心が折れても終わりだろう。
 もう、啓一郎に折れるつもりはないけれど――それは、どちらにとっても。

「やっぱり、お前は哀れだな。あぁ、こういうのを――同類相憐れむっていえばいいのか? 反吐がでるけどな」

 啓一郎が、合図するように手を振ってから、ちゃんと聞こえるように言い放つ――天秤に。
 取り乱して竹中の残骸を蹴り飛ばさんとしていた天秤が一時停止したように静止する。
 そして、ぎし、と立て付けの悪い扉のようにゆっくりと啓一郎の方を向いた。

『あぁ? ……反吐が出るのは! こっちの台詞だろうがっ。なんだめてぇ、大体、どこが俺とてめぇが似てるってんだ? 狂ってんのかボケが!』
「似てるだろ」
『似てねぇ! ゴミ屑なんぞと俺が同じなどと、思い上がるなよ……! 鬼の力も弱まってることを見抜けねぇとでも――』

 天秤は啓一郎の現状を繋がりがある鬼から見抜いたか、それを起点に嘲笑う。
 いとも簡単に激情に包まれながら。

「似てるよ――御大層な力がある割に、周りより優秀だと自分でも思って無意識に周りを見下しているくせに、大事なところに、究極関われないしどうしようもない存在でしかないところとか」

 だが、止まる。言葉で。止まってしまう。
 啓一郎は、それを認められないからだろう、と確信と共に思った。
 天秤という存在は、認められないのだと。

『は、はぁ? 違う。俺は違う。お前と一緒にするなよ。俺は結局こうして掴んだんだ、お前とは違う。お前とは、違う! 俺は、確かに世界を、人間を救う一助となったんだっ』
「だから哀れといっている。縋って、縋って、縋りついて。その気持ちはわかるよ。自分じゃあどうしようもなかったんだよな? きっと、お前は俺より賢かったのかもしれないよな。言う通り、俺より優秀だったと思うよ。認めるよ、だからいつも逃げられた」
『そうだよ、そうだよ! 俺はてめぇなんぞよりよっぽど優秀で、てめぇなんぞ、俺の下位互換みてぇなもんだろうが! 俺に一生追いつけもしねぇ、下も下緒の下位互換だ!』

 自分以外の全てを認めていないのだ。
 自分が優秀でなければ、他に脅かされるという事だから。
 そして、自分すらも認められないのだ。
 ずっと自分すら騙し続けている。そう思い込み続けている部分が、今の啓一郎にはよく見えた。理解できてしまったともいう。

「あぁ、まるで上位互換だ――それって、土台が同じに他ならないって事でもあるんじゃないか? そう、もしかしたら……完成された存在というやつも、地続きだって」
『――』
「極論か? 無理やりか? ……だったら、どうして言葉に詰まったんだ、今そうして。いつもべらべら喋りまわしていたじゃあないか……そうしていないと、まるで不安に殺されそうというくらいに」

 表情が固まる。
 気付きたくない、そういう顔に見えた。

『……違う』
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