十人十色の強制ダンジョン攻略生活

ほんのり雪達磨

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鬼の首26

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 ようこそ、と笑う顔が胡散臭いと思うのは先入観からだろうか。
 能力開発協力団体をうたっている、『超人への歩み』。
 唐突に表に出てきたという印象のわりに、多くの場所にすでに支部を展開しているらしい奇妙なカルト団体、というのが世間の評価。
 そこにいけと言われてほいほいと来てしまったわけではある。

 ビル1つ持ってるのか借りているのか、その場所は思ったよりも立派で、『次の時代に適合する人間へ』等という怪しいキャッチフレーズにも関わらず、人は多くいて活発に活動しているように見受けられる。服装も、私服のものもちらほらいるもののスーツできっちりした人間も多く、知らなければただの一般的な会社ですでも通りそうな雰囲気である。
 あの、と唐突にアポイントメントをとらずに訪れた竹中を出迎えた受付は確かに柔らかい笑顔を浮かべている。
 竹中が聞いた話では、なんでもノリと勢いがあればおもしろいのだ、注目されるのだ許されるのだと勘違いしたやからに目をつけられて突撃された際、どうにも甘い対応だという事が漏れ出してからは悪戯に冷やかしのような訪れも多くなっているはずである。

 暇つぶしにいけば、いつもと違うちょっとした刺激と、退屈さと胡散臭い体験ができて推定カルトの雰囲気というものを比較的に安全に味わえながら話題にできるとあって、悪い意味でアホに大評判という状態であるはずである。ちなみに、竹中がよく話すネットワークの人間のほとんどは、わざわざそんな怪しいですといっているような場所に近寄ろうとしていない。すぐ知れ渡るだろうが、竹中が1人でこんな場所に来たと知れた時点で関係が切れる者も多くいるだろう。
 その割には、苛立ちやストレス等を少なくとも表向きは感じさせないような柔らかく、その悪戯の大半であろう若者学生というカテゴリのものに対してぞんざいな対応をしていない。

「今日はどうされましたか? お試しでのご参加でしょうか?」

 ふと、どういえばいいのか悩んでしまう。

(夢のお告げで、とか、どっちが胡散臭いんだよって話なんじゃ……?)

 そう告げれば良いという話ではあった。
 ただの夢ではないという確信も。
 だが、実際そんなことが迷わずできるかというと、自分を若干ながら取り戻している竹中には少し難しい話ではあった。
 和やかで弱弱しいが話を着てくれて受け入れてくれる、ジョークもその態度も場も和ませてくれて受け入れられやすい竹中、といういつもの状態ではなく、ただただまごまごとしてしまう。

「どなたかのご紹介によるものですか? それとも、御相談をオススメされましたでしょうか?」

 にこやかなまま、選択肢を提案してくれるのが逆に胸に来る。
 噂を聞いていただけなら明らかに胡散臭いのはそちらだと思っていたことも手伝う。

「……夢をですね?」
「夢」

 キョトンとした顔で反復するのやめてくれ。
 繰り返されると発言が恥ずかしくなる。
 と顔が赤くなっていくが自覚できる。
 夢の戦士を語ってなんとなく許されるのは中学生くらいまでの気がするよな、と現実逃避をついしてしまうがそれで恥ずかしさが軽減されるわけもなかった。

「……なるほど。ご用件承りました。ただいま、案内のものが参りますのでしばらくお待ちください」

 そのまま素通りするような言葉ではないのにもかかわらず、言われた内容を詳しく聞くわけではなく受け入れられてしまうと、むしろこちらの方が戸惑うなと竹中は所在なさげになってしまう。

(夢、で通じるようにできるならもっとこう、色々あったでしょうが。というか、こういう場所って素面でそういうこといってきそうな人いそうなんだから……っていうのは偏見かもしれないけどさぁ……)

 視線が怪しくあちらこちらと泳ぐのはどうにも抑えられそうになかった。
 そうしてしばらく待っていれば、きっちりとスーツを着込んだ壮年の男性と、逆にラフな格好をしたにこにことした笑顔の竹中とも年頃の近そうな女が1人。

 初めまして、ようこそ、よくいらっしゃいました。
 挨拶としては定番であり、竹中も無難に返す。
 男は本上ほんじょうと名乗り、女は蒲原かんばらと名乗った。

 どこかへ移動しながらの会話に特別な話は何1つないものでしかないように竹中には思われたが、そうしてある程度会話が進む中で――蒲原は、本上に『当りですね』とつぶやいた。
 立ち止まる。本上が一瞬真顔になるのがわかった。
 その流れで、竹中は今までの会話で『夢のお告げ出来ました』うんたらが本当かどうかを何らかの方法で確かめていたのだということがわかった。

「――申し訳ありません。気分を害してしまわれましたか?」
「いえ、その、そういう人もいるでしょうし?」
「そう言ってもらえるとありがたいですね」

 申し訳なさそうに――心底、演技抜きで、今まで交わしていた挨拶以上に急に丁寧に年上に謝られてしまっては、元から怪しい言葉だよなと感じていた竹中には試されて気分を害しましたという事をいう根性も、それを盾に自分を有利に持っていこうとしたり手札にしようとしたりする性根ももっていなかった。
 こちらへ、と案内された場所はどこにでもあるような特に珍しいものもないような応接室だった。

 能力開発といえばで、『ザ・怪しげな改造手術室』まではなくともそれに近いものを自動的に想像してしまっていた竹中としては少し拍子抜けでもあり、ほっとした気分にもなる。
 そんな部屋があるのならもっと話題になっているだろうことを思えば、少なくともそういうわかりやすいところにはそんなもの当然ない確率の方が高いことは理解していたが、どうにも夢という不確かなモノで突発的に来たという事もあってか悪い想像が強くなりすぎているらしい。

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