十人十色の強制ダンジョン攻略生活

ほんのり雪達磨

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鬼の首18

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 苦笑するような顔は、やはりいつも通りとはいかない。
 いかないが、先ほどのぼんやりした顔よりはマシであるように感じる。

「まぁ――そんな感じだよ。それを気にしてるんだろ。ムカつくだろ。アタシは、別にそれでよかったってんのに、あいつは今逆に怒らせてまでそうし続けてる」

 自分を理由にするなら、心配かけるようなことはやめろという事だろうか。
 啓一郎はそう考えたが、何か少し違うような気もしている。
 何が、とは言えない。

「無理に、強くなろうとしなくったっていいじゃねぇか。別に、体が弱くたって、元々心は弱くねぇんだから」
「といってもな、まぁ、竹中の気持ちも俺はわかるわけで――なんとなく、ではあるけど」

 特に、子供だったなら。

「……アタシも、全くわからねぇとはいわないよ。でも、ムカつくんだ」
「ちなみに、そのいじめは結局どうなったんだ?」
「お前さぁ……ちっとはためらうってことをしないわけ? 人間関係もっと学ぼ? 地雷原に全力で突っ込むのやめよ?」
「竹中みたいなツッコミのいれかたするのやめろや。口調迷子になってるぞ」
「工大の奴、割と仲良くなると煽りっぽいツッコミしてくるよな」

 はぁーあ、とお互いため息のような長い息をつく。

「いじめ自体は解決したよ。っつっても、アタシが自力でってわけじゃねーけど。想像できねぇだろうけど、さっきから言ってるみたいに随分今とは性格が違ったからな。そこで代子が登場したわけよ」
「人間関係コンボだドンな」
「ゲームじゃねぇんだが……まぁ、あれよ。ゲームじゃねぇが、救世主ヒーロー舞い降りたって感じだよ……物理で解決って、場合にもよりはするけどすげぇ効果あるよな」
「そんなころから物理解決か……」
「ちっちぇーころから代子ちゃんは代子してたんだよ。勇ましかったぜ。超かっこよかった。すげぇと思ったし、ありがとうと思ったし、憧れもした。だって、そのまま友達にもなってくれて、不運でもぶち殺す! みたいに、アタシとは違ってずんずん進む感じでさ……引き上げてくれるみたいに、笑ってくれて。まさに、鬱屈した状態から救い出してくれた文字通りの救世主様って感じだった」

 あぁ。
 と、納得が走った。
 神田町に執着している浅井の理由も。
 竹中が、きっとトラウマのようにそれにとらわれているのも。
 それを、近くで見ていたからなんだろうな、と。
 口には出さないが、そう納得した。

 自分にできないことを、同じよな年齢の、好きだった人間と同じ性別の人間が、軽々と――かどうかは知らないが、神田町がそのままなら恐らく――問題をクリアしていくのを見て、何を思っただろう。思うだろう。
 憧れや感謝だけが、そこには残るだろうか。
 竹中は、啓一郎から見ても善人よりである。そう言い切ることにためらいはない。
 だが、善人と呼べるような人間であれば負の感情がないか? 思わないか? 考えないか? といえば、そんな馬鹿な話などない。

 しかも、当時はもっと子供である。
 何を思っただろう。
 ずっと身体的強者であった啓一郎には、それを孤独感等の感情としてしか置き換えて考えることはできない。できないが、それでも。
 きっとそこにあったのは、綺羅綺羅しい感情だけではなかっただろうということだけは、よくわかるのだ。
 同性で、近くにいて、性格をある程度把握してきたからこそ、それは間違っていないだろうと思える。

「代子は強い。アタシとは違う。面倒なことが起こっても、この野郎! って顔で解決するんだ。うじうじしない。本当に……きらきらしているんだ」

 遠くを見るような目。
 先ほどまでの、現と夢の境にいるような目。
 しかし、熱のこもった目でもある。

「……アタシも負けねぇように、そうしようって思ったこともあったけど、所詮真似は真似だ。それは振りでしかないんだよ。代子は、特別なんだ。誰が何というと、アタシにとって、とっても」
「竹中君のことも忘れないで上げてください」
「ですます口調キメェ」
「ぶっ殺すぞ」
「まぁ、忘れてるわけじゃねぇよ。むかつくけど、友達だし」

 ふっと笑う顔は、親愛が見られた。
 神田町の事を話すときにしていた恋焦がれるような表情に比べると、竹中の思いが実る可能性は低いのだろうな、と心の中で手を合わせずにはいられない。
 それは、きっと竹中が浅井に向ける視線のような意味に近いものに思えたから。

「……最近の代子は、幸せそうだ」
「そうか?」
「そうだよ。不運も、少なくなってる。それだけじゃなくて、楽しそうだ」
「いっつも楽しそうだったと思うが」

 苦笑のような、少し苦いものが走っているくしゃりとした笑い。

「違うよ……違う」
「俺には違いがわからないけどな……でも、幸せそうなら、悪い事じゃあないだろ?」
「あぁ……そうなんだよ。そうなんだ。幸せなのは、良い事なんだ……工大の事だって、そうなんだ。本当は、前向きにそうなるってなんなら、祝ってやったほうがいいよな……」

 何か、不安そうといういうのがわかる。

(不運続きといっていた。幸運であることによって、後の不運が怖かったりするのだろうか?)
「お前がもっと、わかりやすく嫌な奴とかだったら、こうはなってなかったかもしれねぇな」
「それは褒めてるのか? 文句言ってんのか?」
「幸せなのはいいことなんだ。なら、褒めてるんだろ、アタシは」
「褒めてるように聞こえないなぁおい……」

 その言葉に、啓一郎はどこか忌々しさに近いものを瞬間、感じとった。
 嫌悪感のような。
 嘲笑のような。
 誰に向いているのか、わからない。しかし、負のそれ。
 どうしてそういう風に思うのかも、啓一郎にはわかりそうにもなかった。

「ま、ジョークだよ。実際、お前のことも嫌いってわけじゃねぇんだ。最近代子と楽しそうにしてっからちょっとムカついてるけどなぁ! あぁ!? 代子の笑顔を独占宣言かオラぶっ殺すぞ! やっぱ嫌いだわ!!! 死ねや!!!!!」
「情緒ジェットコースターかよ。しっかりしろ」
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