十人十色の強制ダンジョン攻略生活

ほんのり雪達磨

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鬼の首6

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 やいやいといいながら中に入っていく。
 ホラースポットになっているだけあるというか、中はなかなかに不気味だ。
 埃が積もった椅子に、壊れた椅子。そして受付が見える。受け付けはガラス越しだったのだろうが、割れたか割られてしまったか。今は遮るものはない。
 しかし、啓一郎としてはそんなことよりも埃っぽさが気になった。

(しまったな。マスクを持ってくるべきだったか。廃墟で必要な道具など知らないからなぁ……)

 懐中電灯を照らしながら、人が入って空気が流れたか移動しながら光を反射している埃を見てうんざりする。

「うお! なんか光らなかった!? ねぇ!? 帰る!?」
「びびりすぎだろ工大……」
「というか、竹中君がいいだしたんじゃなかったですっけ……?」

 そう、この肝試しという、啓一郎からすれば無駄の極みでしかないようなイベントを提案したの竹中である。
 そんなやりとりも気にせずに、なんとなく啓一郎が受付を覗けば、床には古びたような紙が散らばっている。誰かがきてわざわざ散らばらしたのだろうか、そんな状況を考えるとちょっとシュールだなと思っていた。

「割と積極的ですね? やっぱりわくわくだったんじゃないですか?」
「ま、ヤローは探検とか好きなもんだしな……おっと」
「なんでそこで2人して俺をみるんですかっ!」
「なんでって、なぁ?」
「ねぇ? なんか可哀そうだなぁと思いまして……」
「憐れむのはヤメテ……?」

 その提案者1人だけが無駄に怖がっているという状況なのである。
 啓一郎はそういったものに恐怖を感じるタイプではない。
 女2人も、どうやら平気なタイプであるらしかった。
 幼馴染であるなら竹中もそういう人間であることは知っているだろう。もう片方も、小学校からの付き合いであるというから知っていておかしくない。頼りがいがある所が見せたい等という目的でもないように思える。

「そうか、――前は情けないところを見てもらって興奮するタイプのドMだったのか……難儀ではあるが、それに付き合わされるものの気分にもなって欲しかった……お前は蔑むような視線追加で楽しいかもしれないが、それを見せられる気にもなってみろよ……な?」
「な? じゃないよ!? 違うよ!? どういう思考でそうなったの!?」

 結論、フェチズムに付き合わされたのだという答えがでた。
 だからそういってみるが、心外といった様子で否定されてしまっていた。あと、声をのボリュームを抑えながら叫ぶのは器用だなぁとどうでもいい感想も抱く。
 仕方なく、啓一郎は続けて諭すように話しかけた。

「まぁ、性癖を隠したいのはわかるが……」
「ふっふー! おバカさぁん! 性癖って性的嗜好じゃないんでーすーよぉっ!」
「鬱陶しい。意味が通ればいいだろうが」
「ばっかだな。代子は可愛んだから黙っていうこと聞いとけや。代子、超可愛いよ代子」
「大事な部分置いてけぼりで話し進めるのヤメテ! 後なんか優し気な視線で見るのもやめてくれよ……こんな傷つき方するのは予想外だよ……」

 天井を照らすと、虫が逃げていく。
 蜘蛛か何かのように見えた。

「蜘蛛は苦手なんですよねー」
「ホラーとか平気なの知ってたけどさぁ……俺以外全員余裕すぎない……?」
「アタシらが怖がると思ってるのがおかしいし、このゴリラがこんなんでびびってたそら笑えっけど、ねぇってのくらいわかんだろうによ」
「なんだ、俺が怖がるところがみたかったのか?」
「ヒェッ笑顔怖い」

 はっきりいって、竹中以外は全員ただの散歩に等しい状態だった。
 怖がりもせずに次々に照らして、ためらいもなく進んでいく。
 奇妙な音が聞こえただの、あそこが光った! だの騒いでいるのも竹中1人である。

(まぁ、珍しくもないものの、アタリではあったようだが)

 啓一郎は、別にホラーめいたものが苦手ではない。
 苦手ではないというのは、いることを信じていないからという訳ではない。
 特に幽霊等といった、所謂死者に根差すようなものがそう強い存在でないという事を知っているからだ。

(人がいないと居やすいとか好みがあるのかね……濃い薄い、みたいなのがあるのはなんとなくわかるんだけれども。感覚でしかないしなぁ……)

 ちらちらと見える人。
 はっきりとそれは啓一郎の目に映っている。透けているわけでもない、ただそこにいる人が。
 見える者の中には見分けがつかないものもいるらしいが、啓一郎ははっきりと区別がつく。
 ちらほら見えているそれらが生きていないことははっきりとしていた。

(だからといって、どうだという話だ。ちゃんと姿を保って動き回れたところで、いうほどの力をもっていられるわけじゃないし、ずっと居座れるわけでもない。ほとんどのものは、怖がらなければいけないような力は発揮できない)

 残っているそれらが、ずっとそこにしがみつけるわけでもないという事を知っている。
 会話ができるような状態のものもいて、少々話したこともあるのだ。
 なんどか、終わりまで付き合ったことがある。
 終わり方は、いつも同じだ。
 それは――成仏等というような、綺麗なものであるとはとてもいえないものだ。

(そういう、はっきりわかるほど残っている奴だからこそ理解できた)

 吸い込まれるように、消えていく。
 見逃していただけだというように、何かにつかまったようにどこかに連れされれて消えていくのだ。
 啓一郎は直感も働いて、それがよくわかるのだ。
 捕まえられた先に、救いなどないということが。
 だから――そうなるしかなくなった、それを待つしかない状態のそれらを哀れには思えど、恐怖などすることはない。
 憑りつき行為なども、啓一郎には全く通じないこともあってなおさらだ。
 幽霊と呼ばれるような状態になったものは、鈍くない限り本能的にわかっているものばかりだ。
 やがてくる、恐怖というものが。
 本当の終わりというものが。
 それが、絶対に避けることができないということが。
 だから、他人を犠牲にしてもしがみつきたいものがでてくるのだ。

(まぁ、この辺りにいる奴らにそんな力はないようだ。吹けば消える程度の存在感だ。死んだ直後に流れでいくより、こうなるほうがよほど哀れだな。何もできず、ただ恐怖の瞬間を待つしかないというのは)

 少なくとも、啓一郎自身は20年も30年も存在し続けるといった幽霊など見かけたことはない。
 つまり、そういうことなのだろうと確信している。いたとしても、それは珍しすぎる者で、本来はそうでないのが当然の存在なのだと。

(昔ほど見える精度は悪くなっているし、話せなくもなっているにしたって……いつまでたってもいるなら、埋めつくほどいないとおかしな話だ。居続けるのが珍しくないなら、もっと頻繁に見えてもおかしくないことになるしな。だが、ちらほら見ることはあってもそう多くは見ない。死後はおそらく遠い未来だが――行く先は暗いな)

 父はどうだっただろうか、なんてことを考えたこともある。探したこともあった。
 結局は見つからなかった時点で考えるのはすぐにやめた。
 見つけたところで、わかったところで、今何ができるわけでもないのだから。
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