十人十色の強制ダンジョン攻略生活

ほんのり雪達磨

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イリベロトスドルイワ5

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 近所のあんちゃんと光太が呼ぶ少年とは、割と頻繁に顔を合わせていた。
 よく帰りがけなどに会う事があったのだ。

「暇そうだなー、あんちゃん」
「うん。貧乏暇なしっていう言葉があるって教えてもらったんだけど、嘘だったのかな?」
「いや、そういう言葉はあるよ」
「そっかー。例外なのかなぁー。あ、そうだ、こんなところで誰か待ってるの?」

 現在、光太は妹を待って小学校の近くの自販機の前にいた。
 そこで動かずにいたのを遠くから見て近づいたのだろう少年は、それが気になったらしい。

「妹が来るんだよ。だからお兄ちゃんである俺が待ってんの。ほら、なんか、結構近所で事件があったとからしいじゃん」
「事件? なにかあったっけ」
「妹でも知ってるクラスの出来事なんだけどなぁ……ニュースくらいは見とけよなぁ……というか近所で起きたことくらいは知っておいてくれよなぁ……」
「か、漢字とか苦手で……」
「内容じゃなくてそこで漢字とかいうあたりガチで普段気にしてない人っぽいなー」

 はーやれやれ! やれやれですなほんと! と、ため息をわざとらしくつく。
 どちらも冗談だとわかっているため、煽っても喧嘩は起きない。

「……殺人だよ。なんか、近くで知らないおっさんが死んでたんだって。しかも、なんか子供には濁される感じのアレな姿だったとかなんとか? 物騒な感じでしょ?」
「あー、だから迎えに来てたの? いいお兄ちゃんしてるんだねぇ」
「まぁねまぁねー! っていっても、毎日じゃないけどね。今日はよく一緒に帰る友達がいないっていうからだったのだ。というか、実際そんなやべーやつだったら2人でいたところでって話ではあるけどね!」
「それでも気を遣うお兄ちゃんであることには違いないしなぁー……あ、なんか照れてる? 顔赤いけど」
「うるせぇ、将来ハゲびたしになる呪いをかけるぞ。そんなだから友達できねぇんだよ」
「えぇ……ハゲに浸されるってどういうことなの……? あとそれはやめてください、とても傷がつきます」

 どういった想像をしているのかはわからないが、素直に言葉に反応してそれをを思い浮かべながらだろうとても嫌な顔をしているのを見て光太は愉快な気分になる。
 友達いないいじりを続けて、本気目に嫌がられているという事を続けていると、ふと背中に小さな衝撃があった。

「おぉん?」

 なんだ、と後ろを見れば、そこには光太の妹の姿がある。
 どうやら見つけて突撃してきたらしい。

(そういえば、このあんちゃんと会ったことはなかったっけ)

 知ってる大人の前では自分と一緒に相手を翻弄しがちなやんちゃに見える妹が、存外人見知りであることを知っている光太は、背に隠れるようにしているままの姿に納得する。兄とは話しているが誰かわからないから、とりあえず人見知りが発動してしまったのだろう。
 ずりずりとずれようとすると、同じくずりずりと背中についたまま移動する。
 それはさながら、もともと1つの生物であったかのような連帯感。

「新しい動物か何か……?」

 左右にカニのように無言でずりずり移動し続ける兄妹に、少年は困惑した様子だ。無表情で行われるそれは、ほほえましさというよりは割と不気味であるから仕方がないかもしれない。

「第1発見者は名付け親になれるらしいよ」
「そっかぁ……凄い困るなぁ……ふしぎカニ兄妹?」
「センスが1ピースもねぇな! ボケとしても微妙! カニ食って寝てろ! カニがないならカニ漁にいってセンスを釣りあげてこい!」
「凄いいい笑顔でぼこぼこにされた……」

 ずりずりしながらされたそんな提案に、つっこみをいれるでもなく素直に困っているへこんでいる様をみたからかどうかは知らないが、どうやら興味は持ったのかちらちらと妹は兄越しに少年を観察し始めた。
 チラ見されるだけで目が合うとひっこむ無言の少女という存在への耐性はないのだろう、少年はどこかおどおどとしている。

 ちらちら、おどおど。
 おどおど、ちらちら。
 光太を間に介して行われるやりとりは、どちらも歩み寄る気がないから止めねば割と長々と続いてしまいそうな空気が漂う。

「似たような動作しおって……兄妹か!」
「君たちでしょ!?」

 似たように見える行動に思わず光太がツッコミを入れてしまった。
 ちょっとイラッとしたか、カッ! と目を見開き、ふん! と力を入れて素早く妹を隣に引きずり出すことにも成功する。

「つまり……俺から妹を奪おうというのか……!」
「捕らわれる? 姫れる?」
「捕らわれるのだ……我が同胞……あの、ちょっと自分で姫とかいうのは高望みしすぎだと思わない?」
「思わない! 少女はいつでも自分の中の国のお姫様にクラスチェンジできる生き物なの!」
「独裁政治臭漂う」

 冗談交じりの会話に触発されたか、少年のツッコミをみて大丈夫だと思ったのか、妹がいつもの調子で絡んできた。
 光太が友人だと思っている大人はといえば、大体こういう時は対応に困った顔をするものが多いが、歳がそれよりも近いからか、それとも性格からか兄妹のその様子を少年はニコニコとしてみていた。

「仲良し兄妹なんだ?」
「そうとも、仲良し兄妹だ! ……ということで、妹です。妹よ、こちら、近所の噂のあんちゃんです。ほら、あの」
「噂まだあるんだ……」
「あ! 知ってる。バイト暮らしのあんちゃん。はじめましてー」
「はじめましてー」

 年頃の兄妹に対して場合によっては反発を招くような言葉を素直に返しながら、そこでようやくどちらも知っている光太が仲介をした。
 自販機の前でお互いぺこりとしっかりお辞儀する様子はどこかシュールでさえある。

「あんちゃんはこう見えて、友達がとても少ないとても寂しい人なので、よければとても友達になってあげてください……」
「そ、そうなんだけど、嘘は混じってないんだけどさ……そんなにとてもとてもって繰り返されると凄い複雑な気分になるんだけど……」
「じゃあ、とても友達になります!」

 言いながら、2人握手を交わす。光太もなんとなくそこに手を置いて混ざってみたりした。

「えへへ、ありがとう。とても友達の意味はよくわからないけど、てあんまりいないから嬉しいなぁ」
「えへへとか年上のあんちゃんがいってるのが気にならないくらい不憫」
「これは涙じゃないの、汗なのよ……」
「2人して悲しそうな目で見られても、その、困るよ……ていうか、光太君が最初に言い出したのに……」

 凄く理不尽なことを言われた顔の少年を指さして笑う兄妹は楽しそうだった。釣られてか、少年の困ったような顔もすぐ笑顔に変わる。
 それを見てチョロいな、とおそらく兄妹そろって思ったようないやらしいにやりという笑い方をした。悪魔かなにかかもしれない。

「しかし、高校生くらいが小学生の子供と友達になってクソほど喜ぶって、なんだかちょっぴり事件の臭いがするよね!」
「いきなり不穏なこといわないでくれる!?」
「つーほー案件? 事案け? 事案け?」
「それが現代社会の闇だから。さぁ、闇に包まれるがいい……」
「闇かぁ……ダークダーク……くくく、監獄の床はさぞ冷たかろうなぁ……」
「えっと、2人とも楽しそうなのは良いけど、冗談でもやめてね……? 本当にやばいことになるのは僕でもわかる、わかっちゃうやつだから……」
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