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4つの点がそこにある。出来上がるのは三角形5
しおりを挟む鳥になりたかったの、と儚げに笑う姿にアベルが何も言えなかったのは、共感と恐怖からのもの。
狂おしく求めるものが、どこか遠いものであるという共感と、触れれば消えてしまいそうで捕まえてしまいたいのに、そうすることで嫌われるかもしれないという恐怖。
アベルは、曖昧に笑った。
「……ねぇ、どうしていつも仮面をつけているの? 便利だから?」
「……いやー、僕ね、自分の顔、好きじゃないんだよ。」
誰かに問われても、なぁなぁにしてごまかしたり格好がいいからといって流したりするものに対して、正直に答えたのはそんな流れがあったからかもしれない。
誰にもいったことがないことを言ってしまったというどこか焦るような気持ち。
すっきりするようで、喉につかえたままのような、不思議な気持ち。
一色になれないマーブルな感情が、アベルの中に渦を巻いている。
「そうなんだ……でも、私は好きだよ、目の色とか、綺麗だと思うなぁ」
「……そうかな? 生意気な目とか、濁ってる何かしそうなやつとか、見るたびに嫌になるとか、結構言われてきたんだけど」
「いいえ、それは、その人たちは、きっと見たことがないんだよ。
だって、濁っている人はそんな目じゃあなくて、もっと嫌な臭いがするような、そういう目をしているんだもの。
貴方の目は、綺麗よ。快晴のよう。気持ちのいい、空みたいね」
「――はは、ははは! ありがとう。じゃあ鳥になったら、ぜひ飛んでくれよ!」
「ふふ、それは楽しそうね」
キールの従える武器であり、自信であり、自慢でもある数匹のドラゴンは、強いとはいえ少なくなっている敵などものともしなかった。
不穏な噂がでているいるからか、他のプレイヤーはあまりみない。
様子見であり、救出できるならそうするべく組まれたプレイヤーの消耗は限りなく抑えられたといって良い。
そして、そのいるらしい、ごつごつした岩山が無数にある広い空間が特徴である階層に足を踏み入れた瞬間に――全員の体に悪寒が走った。
高い難易度のプレイヤーなら、誰しも感じたことがある悪寒だ。
――自らよりも強い存在。簡単に、こちらの命を狩ってしまえることがわかる存在。
その感知。本能が呼びかけるもの。
「――マジか。想像よりやばくねぇか。姿も見えてねぇんだぞ」
譲司のつぶやきに、返せる声はない。
如月が率先して強化をかけ始めれば、みな、追従するように無言でできる限りのスキルやアイテムでバフをかけていく。
おそらく、感知されている。
隠れることができる、不意を打つことができるなどという楽観視をすることはできない。階層中を覆っているのかというほどに、どろりとまとわりつくような死と不吉の空気が漂っている。
知らず、体が震え出すのを抑え込むことができない。
逃げろ逃げろと、心を挫くように頭の向こうから叫び続けられているようだ。
「――準備はいいか?」
キールがそう声をかけると、幾人かは覚悟を決めたように頷き、半数はその声にはっとしたように頷き、それ以外は怯えるように頷いた。
ぎゃあぎゃあと、鳥が鳴くような声が聞こえる。
「……なっ!?」
「消えた? いいえ、落ちたのかしら……? あ――キールさん!?」
まず、先行させていた少し先で空を飛んでいたキールのドラゴンたちが全て消えた。
何かに攻撃されて、翼が傷つくなどして落ちた様子ではなく、まるで吸い寄せられるように下にそのままふらりとしたかと思えば消失したのだ。
慌てたようにキールが空中を走るようにスキルで向かおうとそこまで飛べば――先ほどの二の舞のように、途端に効果が打ち消されたように体が少し下に向いたと思えば消失した。
如月が困り顔で譲司を見る。つられるように、他のメンバーも譲司を見た。
「馬鹿がっ」
勝手につっこんだ、リーダーの役割をしていた人間に舌打ちをすると、譲司が先頭に立ってリーダの役割を自然と請け負う形で進む。
このダンジョンは、空を飛ぶなり、跳ぶなりの手段を持つのが当たり前だが――この場において、それをしようとするものはいなかった。恐らく、とぶのはまずいと推測できた。
「ひっ」
誰かが短い悲鳴を上げた。
少し抜けた場所についたと思えば、そこは鳥の山だった。
無数の鳥が、飛行系の翼をもつモンスター達が、目の前に壁のように並んでいて、それが、今岩々の隙間から出てきたプレイヤーたちを一斉にじぃっと見ていた。高さの異なる目が光っている。
攻撃をしてくる様子もなく、ただ、観察するように見ている。
キールがいようが、攻撃されれば抵抗むなしく殺されるだろう数。
それもあるが、なによりその佇まいがどうにも不気味だった。
何匹かの鳥がするすると移動を始める。
空間が空く。まっすぐに。
そこを通れと言わんばかりに。道ができた。
「――似たようなものなんですかねぇ」
ぽつりと、如月がつぶやく声が譲司とアベルの耳に届く。
「は? そりゃどういう――」
「思い出した。君、もしかして由紀子ちゃんが相談してたっていう――」
「あ゛っ!?」
2人が別々の理由で話しかけようとしたとき、後ろから声が響いた。
譲司ほか多数が振り向けば――怖気づいたか逃げようとしていたらしく少し離れた位置で――プレイヤーの1人が腹をいつの間にか鳥に貫かれていて臓物を垂らしている姿があった。
そして――そのまま止めを刺すということはせず、なぜか飛び立って――鳥でできた壁の向こうに運ばれていったしまった。譲司などトップ勢から遠すぎるし――攻撃した瞬間に周りの飛空系モンスターに攻撃されてしまう可能性もありためらってしまった。その時間が致命的で、飛ぶことは危ういと予測で来ている以上、救出は難しかった。
ぎゃぁぎゃぁと鳥が鳴いている。はやし立てるように。
早くいけ、そういっているように見えた。
――逃げ場がないことを悟らざるを得なかった。
何人かは、デスリセットの準備を始めてさえいる。連れていかれるよりはマシだろうという判断だ。
「あらまぁ、お話ししている暇はなさそうですね?」
「ちっ――いくぞ」
不満げな譲司と、アベルが先頭に立った。少しでも、後方の不安を和らげるためである。
攻撃等されることはなく、進めばすぐに視界は開けた。
そして、鳥の壁はどうやら円を描く柵であることに気が付いた。
ぐるりと、開けた空間を囲むように鳥や飛行系モンスターが並んでいる。広く、広く。
中心に、怖気が走る存在がいるのはわかるが、視界が遮られていてよく見えない。
見覚えがあるドラゴン数匹が、その巨体でその先を見えなくしているのだ。
相対するように人間が1人――キールだ。
「キール!」
呼ぶ声にも反応しない。
『―――!?』
なぜか、ペットであるドラゴンと向き合って何か叫んでいるようだ。
「――だ! お前たちは、俺の――!」
急いで近寄ろうとすれば――声が聞き取れる距離にたどり着いたと思った瞬間に、キールはドラゴンの尻尾で吹き飛んだ。
鈍い音が数メートル離れた譲司たちの耳に届く。
ボールのようにキールが地面を、だん、だん、と、バウンドしていく様子を、ほとんどのものが間抜けに、唖然として、その目で追った。
「はぁっ?」
それはあり得ないものを見たような声で、表情だ。
ペットが反乱することは珍しい事ではない。
ただ、それは力量が足りない場合だ。
ペットは戦闘で強くなるし、主人が強くもできる。そうして、力量の範囲を超えた時には従わなくなるのだ。
しかし、キールはそれをよく見極めている人物だ。ドラゴンが好きで、共にいたい、しかしそれは危うい事だし自分勝手な事だとも考えている。だからこそ、そのあたりはしっかりと管理していた。欲望のままに強化などもせず、自らの力量を自他ともに確認し、バランスを取り続けて居た。例えば、ドラゴンたちが一斉に何かの機会にある程度急に強さを得たとしても大丈夫なように、安全マージンもしっかりととっていたのだ。条件も何もかもをキールという人物が熱心に調べ、実証し続けて居たことをこの場にいるものは知っている。
だから、それは、プレイヤーから見ればおかしなことに見えたのだ。予想の外にあることだったのだ。それだけ、ドラゴンというものに対する執着と情念めいたものをプレイヤーたちは知っていたから。
「やっば――」
ドラゴンたちが、吹き飛ばしたキールには興味はないとでもいうように、譲司たちの方を向いた。
キールが育てたドラゴンは、このダンジョンの敵と比べてもかなり強い。
そのすべてに襲われたならば、周りのモンスターがもし手を出さないとしてもほとんどのプレイヤーがやられかねないほどに。
譲司が思わずといった調子で声を上げ、アベルやまだ冷静さが残っているものはようやく唖然とした状態から抜け出して、スキルの準備に入るなど戦闘態勢に。
「いえ……大丈夫そうですよ?」
「あぁ!? んなわけ――」
ここまで囲まれている時点で死んでいるも同然なのだが、目の前のドラゴンというのは、わかりやすく死の雰囲気というものがあった。
しかし――攻撃してくる様子は、ない。
ドラゴンたちは、なぜか飛び上がることもなく、囲む輪に加わるようにそちらに歩くように移動していくだけだった。
お前らなぞどうでもいい、そう言いたげに。
「なんだ? ……何がしたいんだ、これ、は――」
と、言葉を最後まで紡ぐことはできなかった。
その姿が、あらわになったからだ。
「――ぎっ」
化け物がいる。
初めてここでそれらを見たよりも強烈な、異物を見た恐怖と困惑と、色々ないまぜになったような気持ち。
後ろから、鶏でも絞めたような音がいくつか鳴く声が聞こえた。
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