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第六章 方広寺
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慶長十八年(1613)四月 ───────
千姫は十六歳になった。
当時の女子は元服を迎えると、【鬢削ぎ】という、耳の辺りの髪の端を短く切り揃える儀式を迎える。
その役は本来、娘の父が果たすのであるが、二代将軍・徳川秀忠を大坂城へ登城させる訳にはいかなかった為、夫・豊臣秀頼が務める事となった。
夫が妻の鬢を削ぐのは極めて異例な事であった。見守る多くの家臣や侍女たちは驚きを覚えつつも、仲睦まじい二人の姿に心を動かされた。
二年前に起こった側室騒動は千姫の心優しい性格も相まって事無きを得た。秀頼は、改めて千姫に側室・小石の方と伊茶の方を対面させた。
当初、側室達と千姫を会わせる事を侍女達は恐れていた。ところが、その思いとは裏腹に、持ち前の千姫の優しさに触れた小石と伊茶の二人は恨みの念を持つ事は無く、団欒の様相を見せた。
その後すぐに、京極家から秀頼の嫡男・国松と長女・千代姫が大坂城に帰還した。初めて見た秀頼の子供たちを、千姫は愛おしそうに見つめた。
国松と千代姫の二人は、優しい笑顔を見せてくる千姫に警戒心を見せるも、心を開くのにそう時は掛からなかった。
特に千代姫とは心が通い、貝合わせをしたり、毬で遊んだりと楽しく過ごした。国松とは千姫と親子固めの盃を交わし、豊臣家の嫡男として、多くの学びを得る様になった。
子を持つことが無かった千姫にとって、初めて母の様な心持ちになったのだった。
京極家から国松と千代姫を送り出す際、介添え役として、淀殿の妹、お初が二人と共に大坂城に入った。
お初はこの頃、夫・京極高次を四年前に病で亡くし、出家して【常高院】と名乗っていた。
高次と側室との間に出来た子・忠高に家督を継がせ、かねてより姉の相談役を務めたいと願っていたという事もあり、介添え役を買って出た。
淀殿はこの時、千姫と秀頼の関係を認め始めていた。奥向きを取り締まる大蔵卿局によれば、千姫は徳川方の侍女達を説得し、徳川家へ内密に文を送る事を固く禁じ、豊臣家に一生を捧げる事を命じたという。これを知った淀は、千姫に対し蔑む事は無くなった。
ある日の夕刻、常高院が淀殿の部屋を訪ねた。姉妹共にこうして生活するのは約十年ぶりの事だった。
「千と秀頼が幸せそうで何よりでございます。豊臣家は安泰でございますな」
常高院が言うと、淀は脇息にもたれ掛かりながら空を見つめた、
「今は安泰でも、目を光らせて置かねばなるまい。気に掛かるのは家康の事じゃ。家康にこれ以上力を持たせとうは無い故のう……」
徳川幕府の大御所・徳川家康はこの頃、諸外国に目を向けており、各国と多くの盟約を交わしており、数多くの武器を買い付けていると聞く。
「その様な……姉上は考え過ぎでございます。家康殿は、そう容易く、豊臣を追い詰めようとはなさらぬはずでございます」
「どうだかのう……。幕府にとって豊臣は目障りなはずじゃ。いずれ何か仕掛けて来るに違いあるまい」
「姉上……」
常高院は、頭を垂れながら苦しみ喘ぐ淀の姿を見つめ、野心というものを感じた。妹としては、何かして差し上げたいと願うが、人の心はそう容易く変える事は出来ない。ただ、家康が何も起こさない様に祈るほか無かったのだった。
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大坂城・奥向・千姫の御殿 ───────
千姫と秀頼の仲睦まじさは、日に日に奥向き中に広がり、季節は秋になっていた。二人は堂々と互いの御殿を行き来する様にまでになり、夫婦として幸せな日々を過ごしていた。
『方広寺?』
「亡き太閤殿下が、以前都に建立されていた寺の事だ。十五年前に火災で焼失してしまった大仏殿があるのだが、六年前から再建を開始し、ほどなく日の目を見る事になろう」
慶長四年(1599年)の頃から、秀頼は父・秀吉の遺命を受け継ぐべく、様々な寺社の復興に力を注ぎ始めていた。その中でも、被害の大きかった【方広寺】の大仏殿を復興させようと、家老の片桐且元に命じて再建させていたのだ。
千姫は大仏については無知であったが、熱心に、豊臣秀吉が成して来た寺社の建立について話すキラキラとした秀頼の顔を愛おしそうに見つめていた、
『左様でございますか! 見てみたいものでございますね』
「あぁ、出来上がったら共に見に参ろうぞ」
『はい!』
秀頼は千姫に微笑みかけながら約束を交わすと、徐に懐から四つ折りにした紙を広げた。そこには、様々な四文字の言葉が並べられていた。『これは?』と千姫が訊ねた、
「方広寺に奉納する鐘の鐘銘文じゃ。徳川殿に確認して頂く前に、わしにも確認して欲しいと片桐に言われてのう」
『お祖父様に確認? 何故、確認が必要なのでございまするか?』
「豊臣家が勝手な行いをしては、徳川殿から目を付けられるやもしれぬと、片桐が申すでのう。そんな事は無いとわしは言ったのだが、執拗に申す故、あやつの言う通りに任せる事にしたのだ」
『左様で……ございまするか』
千姫は、底知れぬ不安を感じた。秀頼は確か、二条城での会見で臣下には下らない姿勢を見せたと話していた。家康にご機嫌伺いをしては、臣下そのものだ。
千姫は鐘銘文を確認する秀頼の顔を見つめながら、この幸せな時間が再び訪れますようにと願った。
───────────────────────
翌年の慶長十九年(1614)四月十六日、梵鐘が完成した。
七月になり、大仏開眼と大仏殿供養が翌月の八月三日に行われる事が決まってしばらく経った後、家康から文が届けられた。
それは、且元が目を疑う内容だった。
「呪いの言葉?」
且元は、秀頼と淀殿に事の次第を報告した。淀は理解に苦しんでいる様子で且元の言葉を繰り返した。
「は! そちらに線引き致しましたる文字、【国家安康】は徳川殿の御名を分断し呪っており、【君臣豊楽】は『豊臣家を君主として楽しむ』とみなし、徳川家を冒涜していると申されまして……」
「しかし、鐘はとっくのとうに仕上がっておる! それに、鐘の問題と大仏開眼とは何の関わりも無い!!」
大野治長が訴えると、同時に淀も苦言を呈した、
「冒涜など、言い掛かりにも程がある! 且元、己が目でしかと確認した上に、家康も見たのであろう。そもそも、誰に文言を任せたのじゃ」
淀は、且元から受け取った銘文が書かれている紙をわなわなと震わせた。且元は、両手を付きながら、怒り心頭に達している淀殿の問いに答えた、
「南禅寺の僧・清韓なる者に起草を依頼致しましてございまする。清韓は漢詩や漢文にも長けておられ、僧侶の考えた文言を鐘に刻む事こそが最良の供養に相応しいかと存じまして」
「ならば、その清韓とやらに駿府へ出向かせ、罪を吐かせるがよい!」
「母上、落ち着いて下され。僧侶に然様な非道な行いをさせては再建して参った寺院の意味がありませぬ! 我々に天罰が下りまするぞ」
秀頼が淀をなだめた後、且元の方に向き直り、命令を下した、
「とにもかくにも、且元! 駿府へ出向き、徳川殿に弁明を述べに参れ」
「はは! 身命を賭して、無事、開眼供養が果たされますよう努めて参ります!!」
且元はそう言って一礼した後、大広間から去って行った。残された秀頼、淀、治長は内心、戦々恐々の心持ちになった。
注視して参った家康の逆鱗にとうとう触れてしまったと。
───────────────────────
翌、八月十八日、駿府に入府した且元だったが、家康と直に面会する事は叶わず、駿府城城内に留め置かれていた。家康の重臣・本多正純とは物別れに終わり、どう弁明しても聞き入れて貰えずにいた。
一方その頃、大坂の淀は十日以上経っても戻らない且元を不審がっていた。
「且元はまだ戻らぬのか。一体あの者は何をしておるのじゃ……」
「家康殿の言い掛かりを見抜かれぬよう、留め置かれておるのでしょう。このままでは疑いを晴らすばかりか、雲行きが怪しくなって参りまするな」
淀の憤り様を受け、治長は同調する様に不安を呈した。それを見た淀はいきなり立ち上がり、打掛を翻した、
「では、こちらから戦を仕掛けるのみじゃ……治長! 支度を進めよ!!」
衝撃的な言葉を聞いた秀頼は、淀を見上げた、
「それはなりませぬ! 無暗に戦をして何と致します! ここは弁明に務めるしか───」
「そなたは何故、事を安全に推し進めようとする!? 家康を潰さねば、こちらが潰されるのじゃぞ?」
淀は秀頼を見下ろしながら不満を漏らした。秀頼は戦を何よりも嫌っていた。方広寺の大仏開眼も、先の関ヶ原で亡くなって行った者達を弔う為の供養でもあった。戦を行えば、祟りが起こってしまうのではないかと案じていた。
「姉上、秀頼の言う通りでございます。無駄な血を流す事は決してなりませぬ。ここは平和に事を治めるのが第一と存じまする」
『私も……そう思いまする』
常高院と千姫にそう言われ、淀は心を落ち着かせる様に、縁側に出て庭を眺めた。秀頼は、千姫と常高院の二人に向かって礼を述べた。
しばらくして、押し黙っていた大蔵卿局が打掛を捌きながら口を開いた、
「お殿様、お袋様。私を駿府に行かせて下さりませ!」
突然の発言に秀頼は驚き、淀も俯かせていた顔を上げた。大蔵卿は続けた、
「私が一心を持って、豊臣家が徳川家を呪うはずが無いという証を示して参りまする!」
「ならば、私も共に!!」
常高院が膝を進めると大蔵卿は止めに入った、
「常高院様に、然様なお手を煩わせる訳には参りませぬ。私と徳川殿は、太閤殿下がご存命の折に見知っている間柄でございまする。お力になれるかと存じます!」
「されど……女子が一人家康の下へ参れば、斬られるやもしれぬのだぞ?」
淀は駆け足で大蔵卿の元に駆け寄りながら言った。しかし淀の心配をよそに大蔵卿は微笑んでいた、
「大事ありませぬ。女子の身であればこそ、会っていただけるやもしれませぬ! どうか、お願い申し上げまする!」
大蔵卿局の懇願に、秀頼と淀は受け入れ、翌日早々に発つと決まった。事の次第を見つめていた千姫は、ある策を思い付き、急ぎ部屋へと戻り、お千代保を呼び寄せた。
翌朝、千姫は大蔵卿局の部屋へ向かった。そこは長局の中で一番大きい部屋だ。艶やかな調度品で飾り立てられたこの部屋は正に奥向き取締の威厳が感じ取れた。
大蔵卿は姫の突然の御成りに戸惑いを見せつつも、話を聞いてくれた。千姫は威勢ある風格を湛えながら口を開いた、
『大蔵殿、これなる千代保を、護衛として付き添わせて貰いたい』
「それは、大御所様のご様子を見張る為でございまするか?」
『さすがは奥向きの取締じゃな。その通りじゃ』
「私が、お袋様に口外せぬとでもお思いですか? この事を申せば、せっかくのお袋様のご機嫌を損ないます。お殿様と姫様が再び離れ離れになる事にも───」
『告げ口しても構わぬ』
千姫はまっすぐと大蔵卿の目を見つめた、
『ただ、私の生家である徳川が、一体何を考えているかを知りたいのじゃ。決して、豊臣を裏切る様な真似はせぬ。どうか、私の願いを聞いておくれ。この通りじゃ』
千姫は大蔵卿に頭を下げた。余りの強い覚悟の決めように大蔵卿は驚き、すぐに頭を上げさせた、
「承知致しました、姫君様。千代保殿を連れて行きます。千代保殿、何か事を起こせば、そなたは打ち首じゃぞ」
大蔵卿が千代保を一瞥して挨拶を交わした。千代保は少し大人びた口調で両手を付いた、
「ご安心くださいませ。どうぞ、宜しくお願い仕りまする」
『頼んだぞ?』
千姫が千代保を見つめながら言い含めると、無邪気ないつもの笑みを見せながらコクリと頷いた。
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その後、大坂を出た大蔵卿局は、秀頼の乳母・宮内卿局と千代保と共に駿府城へと辿り着いた。
当初は身構えていた三人であったが、到着後早々の九月八日、徳川家康との面会が許された。徳川幕府の大御所であり、豊臣家と敵対する者との対面に大蔵卿は人生の中で初めて、不安の渦に飲み込まれそうになっていた。
駿府城・家康の御殿 ───────
「わざわざの参府、ご苦労な事と存ずる」
上段之間から大蔵卿局・宮内卿局・千代保を見据えていた家康からの労いの言葉に、一同両手を付いて平伏した。大蔵卿は挨拶もそぞろに【方広寺】の一件を弁明した、
「家康殿に置かれましては、誠にご機嫌麗しゅう存じます。早速ではございますが、我らが主・豊臣秀頼は、決して徳川殿の御身の上を危うくするつもりは毛頭ございませぬ……それ故───」
家康は息巻く大蔵卿を手で制した、それは不気味にも満面の笑みだった、
「まぁまぁさように緊張召されますなぁ」
大蔵卿は家康の意外な反応に驚いた。家康は上段から下り立ち、大蔵卿と膝を尽き合わせた。
「わしに他意はござらぬ。亡き太閤殿下の十七回忌と大仏開眼。二つの供養が重なる以上、憂いの種は綺麗に取り除いて置きたかったまでの事じゃ」
家康は笑顔を見せたまま、広間に響き渡る様な大きい声で言い放った。
「安心して開眼が行われるよう、心の底から祈っておる。大坂へ戻ったら秀頼殿に伝えるが良い、「案じるには及びませぬ。家臣共には厳しく申し伝えておく」とな」
家康は決して憤りを覚えてはいなかった。すべては家臣のしでかした豊臣家に対する脅しであった事を知り、大蔵卿は胸を撫で下ろしながら、「承知致しましてございまする」と応えた。
千代保はじっと家康の顔を窺った。大蔵卿が頭を下げたその時、笑顔が翳った事に気付き、ハッとした。千代保は気取られない様に、大蔵卿に続けてゆっくりと頭を下げた。
大坂城・表・大広間 ───────
一行が大坂城へ戻ると、直ちに秀頼と淀に事の次第を報告した。二人も大蔵卿と同様、ほっと胸を撫で下ろした様子だった。
「そうか……ご苦労であった大蔵卿」
秀頼が労をねぎらうと、大蔵卿局は恭しく頭を下げた。
「これで済めば良いが……」
淀殿がぽつりと呟くと常高院がすかさず諫めた、
「姉上、家康殿は「案ずるには及ばぬ」と申しておるでは無いですか。悪い方へ考えすぎでございまするよ?」
久々に凝り固まった何かが解かれた心持になった一行だったが、そこで、新たな不安が押し寄せて来た。当の片桐且元が登城したのだ。
「ご免仕りまする。只今駿府より、片桐、戻りましてございまする」
且元が下段に座ると、淀は冷たく言い放った、
「随分と遅かったのう。駿府で物見でもしておったのか?」
「殿! お袋様! 一大事でございまする!! 徳川方より、難題を突き付けられましてございまする」
「難題?」
且元は震える手を懐に入れ、書状を広げて読み上げた。それは、耳を疑うような内容だった。
一、大坂城を明け渡し他国へ移る事
一、秀頼公または淀のお方様を江戸へ御身柄を送る事
一、秀頼公を江戸へ参勤させる事
「なんじゃと!!?」
且元が読み上げた、以上の三ヶ条を聞き、淀は声を荒らげた。
「いずれか一つを選び、徳川に対し二心無き証を示すべし!! これは風雲急を告げまする! 御返事を、急がれませ……。出なければ……事を荒立て、戦ともなり兼ねませぬ!」
秀頼はたじろぎもせず、且元を見据えながら訊ねた、
「その事、徳川殿自身から聞いたのか?」
「いいえ……家康殿の名代として、家臣から伝えられましてございます」
「おかしいのう……大蔵卿、如何思う」
秀頼が大蔵卿に聞くと、大蔵卿は声を張り上げてわざとらしく且元を睨みつけた、
「仰せの通り、おかしゅう存じまするなぁ。徳川殿は、「案ずるには及ばぬ」と、私と面と向かって仰せになられたのです。その様なおかしな約定、聞いた事もございませぬ!」
「家康殿にお会いになられたのですか?」
且元があっけらかんとした口調で大蔵卿に詰め寄った。大蔵卿は一瞥しながら且元に「ええ!」と返事をした。
「母上の乳母である大蔵卿は会えて、長らく豊臣の家臣を務めて参ったそなたには会えぬとは、愚かしい話じゃ」
秀頼は冷静に事の次第を見て呆れていた。下段に座りながら焦り出す且元を眺めていた千姫は、頭を抱えている夫を哀れに思った。
「お……お、お待ち下され……私をお疑いにございますか?」
「疑いの種はいくらでもある。寺の再建を推し進め、豊臣の財政を突き崩すそうとし、方広寺の鐘の銘文の一字を見抜けず家康に反感を持たせ、更には、弁明へ出向いたにも関わらず、ひと月も駿府に滞在し、挙句には豊臣にとって不条理な約定を持ち帰って来るとは。疑われても致し方あるまい」
「そ、そのような!!!」
大野治長は様々な出来事を並べ、まくし立てた。且元は反論しようとしたが、淀が一言強く言った。
「ならば、言う事がそこまで食い違うのは何故じゃ!!」
「そ、それは……。あ……大蔵卿殿と某、それぞれに異なる答えを持たせ、我々を混乱させる策やもしれませぬ!!私に豊臣家を裏切るつもりは毛頭──」
「何にせよ、そのほうが言うた事、どれも聞き入れるつもりは無い」
「されど、駿府へ応えを持ち帰らぬ事には……」
「勝手にせよ。駿府へ戻り、家康の犬でもなり下がればよい。立ち去るがよい」
「お、お袋様っ!!」
「くどい!!」
緊迫した場を目の当たりにした千姫は、眼前で口をパクパクとさせて狼狽える且元を気の毒に思った。しかし一方で、疑われても仕方ないと思うところもあり、同情する気も起きなかったのだった。
後日、且元は反論を繰り返すも納得して貰えることはなく、挙句の果てには暗殺の危険を感じて大坂城から人知れず去って行ったのだった。
ところが、この片桐且元の行動が発端となり、すぐに徳川方の知る所となった。
家康は、豊臣家が話し合いを拒んだとし、更には、大野治長が豊臣恩顧の大名衆に近付き、戦支度を始めているという報せを受けると、大御所として諸大名に出陣を命じ、豊臣家と戦う姿勢を見せた。
世に言う、「大坂の陣」の火ぶたが切られる事になるのだった。
千姫は十六歳になった。
当時の女子は元服を迎えると、【鬢削ぎ】という、耳の辺りの髪の端を短く切り揃える儀式を迎える。
その役は本来、娘の父が果たすのであるが、二代将軍・徳川秀忠を大坂城へ登城させる訳にはいかなかった為、夫・豊臣秀頼が務める事となった。
夫が妻の鬢を削ぐのは極めて異例な事であった。見守る多くの家臣や侍女たちは驚きを覚えつつも、仲睦まじい二人の姿に心を動かされた。
二年前に起こった側室騒動は千姫の心優しい性格も相まって事無きを得た。秀頼は、改めて千姫に側室・小石の方と伊茶の方を対面させた。
当初、側室達と千姫を会わせる事を侍女達は恐れていた。ところが、その思いとは裏腹に、持ち前の千姫の優しさに触れた小石と伊茶の二人は恨みの念を持つ事は無く、団欒の様相を見せた。
その後すぐに、京極家から秀頼の嫡男・国松と長女・千代姫が大坂城に帰還した。初めて見た秀頼の子供たちを、千姫は愛おしそうに見つめた。
国松と千代姫の二人は、優しい笑顔を見せてくる千姫に警戒心を見せるも、心を開くのにそう時は掛からなかった。
特に千代姫とは心が通い、貝合わせをしたり、毬で遊んだりと楽しく過ごした。国松とは千姫と親子固めの盃を交わし、豊臣家の嫡男として、多くの学びを得る様になった。
子を持つことが無かった千姫にとって、初めて母の様な心持ちになったのだった。
京極家から国松と千代姫を送り出す際、介添え役として、淀殿の妹、お初が二人と共に大坂城に入った。
お初はこの頃、夫・京極高次を四年前に病で亡くし、出家して【常高院】と名乗っていた。
高次と側室との間に出来た子・忠高に家督を継がせ、かねてより姉の相談役を務めたいと願っていたという事もあり、介添え役を買って出た。
淀殿はこの時、千姫と秀頼の関係を認め始めていた。奥向きを取り締まる大蔵卿局によれば、千姫は徳川方の侍女達を説得し、徳川家へ内密に文を送る事を固く禁じ、豊臣家に一生を捧げる事を命じたという。これを知った淀は、千姫に対し蔑む事は無くなった。
ある日の夕刻、常高院が淀殿の部屋を訪ねた。姉妹共にこうして生活するのは約十年ぶりの事だった。
「千と秀頼が幸せそうで何よりでございます。豊臣家は安泰でございますな」
常高院が言うと、淀は脇息にもたれ掛かりながら空を見つめた、
「今は安泰でも、目を光らせて置かねばなるまい。気に掛かるのは家康の事じゃ。家康にこれ以上力を持たせとうは無い故のう……」
徳川幕府の大御所・徳川家康はこの頃、諸外国に目を向けており、各国と多くの盟約を交わしており、数多くの武器を買い付けていると聞く。
「その様な……姉上は考え過ぎでございます。家康殿は、そう容易く、豊臣を追い詰めようとはなさらぬはずでございます」
「どうだかのう……。幕府にとって豊臣は目障りなはずじゃ。いずれ何か仕掛けて来るに違いあるまい」
「姉上……」
常高院は、頭を垂れながら苦しみ喘ぐ淀の姿を見つめ、野心というものを感じた。妹としては、何かして差し上げたいと願うが、人の心はそう容易く変える事は出来ない。ただ、家康が何も起こさない様に祈るほか無かったのだった。
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大坂城・奥向・千姫の御殿 ───────
千姫と秀頼の仲睦まじさは、日に日に奥向き中に広がり、季節は秋になっていた。二人は堂々と互いの御殿を行き来する様にまでになり、夫婦として幸せな日々を過ごしていた。
『方広寺?』
「亡き太閤殿下が、以前都に建立されていた寺の事だ。十五年前に火災で焼失してしまった大仏殿があるのだが、六年前から再建を開始し、ほどなく日の目を見る事になろう」
慶長四年(1599年)の頃から、秀頼は父・秀吉の遺命を受け継ぐべく、様々な寺社の復興に力を注ぎ始めていた。その中でも、被害の大きかった【方広寺】の大仏殿を復興させようと、家老の片桐且元に命じて再建させていたのだ。
千姫は大仏については無知であったが、熱心に、豊臣秀吉が成して来た寺社の建立について話すキラキラとした秀頼の顔を愛おしそうに見つめていた、
『左様でございますか! 見てみたいものでございますね』
「あぁ、出来上がったら共に見に参ろうぞ」
『はい!』
秀頼は千姫に微笑みかけながら約束を交わすと、徐に懐から四つ折りにした紙を広げた。そこには、様々な四文字の言葉が並べられていた。『これは?』と千姫が訊ねた、
「方広寺に奉納する鐘の鐘銘文じゃ。徳川殿に確認して頂く前に、わしにも確認して欲しいと片桐に言われてのう」
『お祖父様に確認? 何故、確認が必要なのでございまするか?』
「豊臣家が勝手な行いをしては、徳川殿から目を付けられるやもしれぬと、片桐が申すでのう。そんな事は無いとわしは言ったのだが、執拗に申す故、あやつの言う通りに任せる事にしたのだ」
『左様で……ございまするか』
千姫は、底知れぬ不安を感じた。秀頼は確か、二条城での会見で臣下には下らない姿勢を見せたと話していた。家康にご機嫌伺いをしては、臣下そのものだ。
千姫は鐘銘文を確認する秀頼の顔を見つめながら、この幸せな時間が再び訪れますようにと願った。
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翌年の慶長十九年(1614)四月十六日、梵鐘が完成した。
七月になり、大仏開眼と大仏殿供養が翌月の八月三日に行われる事が決まってしばらく経った後、家康から文が届けられた。
それは、且元が目を疑う内容だった。
「呪いの言葉?」
且元は、秀頼と淀殿に事の次第を報告した。淀は理解に苦しんでいる様子で且元の言葉を繰り返した。
「は! そちらに線引き致しましたる文字、【国家安康】は徳川殿の御名を分断し呪っており、【君臣豊楽】は『豊臣家を君主として楽しむ』とみなし、徳川家を冒涜していると申されまして……」
「しかし、鐘はとっくのとうに仕上がっておる! それに、鐘の問題と大仏開眼とは何の関わりも無い!!」
大野治長が訴えると、同時に淀も苦言を呈した、
「冒涜など、言い掛かりにも程がある! 且元、己が目でしかと確認した上に、家康も見たのであろう。そもそも、誰に文言を任せたのじゃ」
淀は、且元から受け取った銘文が書かれている紙をわなわなと震わせた。且元は、両手を付きながら、怒り心頭に達している淀殿の問いに答えた、
「南禅寺の僧・清韓なる者に起草を依頼致しましてございまする。清韓は漢詩や漢文にも長けておられ、僧侶の考えた文言を鐘に刻む事こそが最良の供養に相応しいかと存じまして」
「ならば、その清韓とやらに駿府へ出向かせ、罪を吐かせるがよい!」
「母上、落ち着いて下され。僧侶に然様な非道な行いをさせては再建して参った寺院の意味がありませぬ! 我々に天罰が下りまするぞ」
秀頼が淀をなだめた後、且元の方に向き直り、命令を下した、
「とにもかくにも、且元! 駿府へ出向き、徳川殿に弁明を述べに参れ」
「はは! 身命を賭して、無事、開眼供養が果たされますよう努めて参ります!!」
且元はそう言って一礼した後、大広間から去って行った。残された秀頼、淀、治長は内心、戦々恐々の心持ちになった。
注視して参った家康の逆鱗にとうとう触れてしまったと。
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翌、八月十八日、駿府に入府した且元だったが、家康と直に面会する事は叶わず、駿府城城内に留め置かれていた。家康の重臣・本多正純とは物別れに終わり、どう弁明しても聞き入れて貰えずにいた。
一方その頃、大坂の淀は十日以上経っても戻らない且元を不審がっていた。
「且元はまだ戻らぬのか。一体あの者は何をしておるのじゃ……」
「家康殿の言い掛かりを見抜かれぬよう、留め置かれておるのでしょう。このままでは疑いを晴らすばかりか、雲行きが怪しくなって参りまするな」
淀の憤り様を受け、治長は同調する様に不安を呈した。それを見た淀はいきなり立ち上がり、打掛を翻した、
「では、こちらから戦を仕掛けるのみじゃ……治長! 支度を進めよ!!」
衝撃的な言葉を聞いた秀頼は、淀を見上げた、
「それはなりませぬ! 無暗に戦をして何と致します! ここは弁明に務めるしか───」
「そなたは何故、事を安全に推し進めようとする!? 家康を潰さねば、こちらが潰されるのじゃぞ?」
淀は秀頼を見下ろしながら不満を漏らした。秀頼は戦を何よりも嫌っていた。方広寺の大仏開眼も、先の関ヶ原で亡くなって行った者達を弔う為の供養でもあった。戦を行えば、祟りが起こってしまうのではないかと案じていた。
「姉上、秀頼の言う通りでございます。無駄な血を流す事は決してなりませぬ。ここは平和に事を治めるのが第一と存じまする」
『私も……そう思いまする』
常高院と千姫にそう言われ、淀は心を落ち着かせる様に、縁側に出て庭を眺めた。秀頼は、千姫と常高院の二人に向かって礼を述べた。
しばらくして、押し黙っていた大蔵卿局が打掛を捌きながら口を開いた、
「お殿様、お袋様。私を駿府に行かせて下さりませ!」
突然の発言に秀頼は驚き、淀も俯かせていた顔を上げた。大蔵卿は続けた、
「私が一心を持って、豊臣家が徳川家を呪うはずが無いという証を示して参りまする!」
「ならば、私も共に!!」
常高院が膝を進めると大蔵卿は止めに入った、
「常高院様に、然様なお手を煩わせる訳には参りませぬ。私と徳川殿は、太閤殿下がご存命の折に見知っている間柄でございまする。お力になれるかと存じます!」
「されど……女子が一人家康の下へ参れば、斬られるやもしれぬのだぞ?」
淀は駆け足で大蔵卿の元に駆け寄りながら言った。しかし淀の心配をよそに大蔵卿は微笑んでいた、
「大事ありませぬ。女子の身であればこそ、会っていただけるやもしれませぬ! どうか、お願い申し上げまする!」
大蔵卿局の懇願に、秀頼と淀は受け入れ、翌日早々に発つと決まった。事の次第を見つめていた千姫は、ある策を思い付き、急ぎ部屋へと戻り、お千代保を呼び寄せた。
翌朝、千姫は大蔵卿局の部屋へ向かった。そこは長局の中で一番大きい部屋だ。艶やかな調度品で飾り立てられたこの部屋は正に奥向き取締の威厳が感じ取れた。
大蔵卿は姫の突然の御成りに戸惑いを見せつつも、話を聞いてくれた。千姫は威勢ある風格を湛えながら口を開いた、
『大蔵殿、これなる千代保を、護衛として付き添わせて貰いたい』
「それは、大御所様のご様子を見張る為でございまするか?」
『さすがは奥向きの取締じゃな。その通りじゃ』
「私が、お袋様に口外せぬとでもお思いですか? この事を申せば、せっかくのお袋様のご機嫌を損ないます。お殿様と姫様が再び離れ離れになる事にも───」
『告げ口しても構わぬ』
千姫はまっすぐと大蔵卿の目を見つめた、
『ただ、私の生家である徳川が、一体何を考えているかを知りたいのじゃ。決して、豊臣を裏切る様な真似はせぬ。どうか、私の願いを聞いておくれ。この通りじゃ』
千姫は大蔵卿に頭を下げた。余りの強い覚悟の決めように大蔵卿は驚き、すぐに頭を上げさせた、
「承知致しました、姫君様。千代保殿を連れて行きます。千代保殿、何か事を起こせば、そなたは打ち首じゃぞ」
大蔵卿が千代保を一瞥して挨拶を交わした。千代保は少し大人びた口調で両手を付いた、
「ご安心くださいませ。どうぞ、宜しくお願い仕りまする」
『頼んだぞ?』
千姫が千代保を見つめながら言い含めると、無邪気ないつもの笑みを見せながらコクリと頷いた。
───────────────────────
その後、大坂を出た大蔵卿局は、秀頼の乳母・宮内卿局と千代保と共に駿府城へと辿り着いた。
当初は身構えていた三人であったが、到着後早々の九月八日、徳川家康との面会が許された。徳川幕府の大御所であり、豊臣家と敵対する者との対面に大蔵卿は人生の中で初めて、不安の渦に飲み込まれそうになっていた。
駿府城・家康の御殿 ───────
「わざわざの参府、ご苦労な事と存ずる」
上段之間から大蔵卿局・宮内卿局・千代保を見据えていた家康からの労いの言葉に、一同両手を付いて平伏した。大蔵卿は挨拶もそぞろに【方広寺】の一件を弁明した、
「家康殿に置かれましては、誠にご機嫌麗しゅう存じます。早速ではございますが、我らが主・豊臣秀頼は、決して徳川殿の御身の上を危うくするつもりは毛頭ございませぬ……それ故───」
家康は息巻く大蔵卿を手で制した、それは不気味にも満面の笑みだった、
「まぁまぁさように緊張召されますなぁ」
大蔵卿は家康の意外な反応に驚いた。家康は上段から下り立ち、大蔵卿と膝を尽き合わせた。
「わしに他意はござらぬ。亡き太閤殿下の十七回忌と大仏開眼。二つの供養が重なる以上、憂いの種は綺麗に取り除いて置きたかったまでの事じゃ」
家康は笑顔を見せたまま、広間に響き渡る様な大きい声で言い放った。
「安心して開眼が行われるよう、心の底から祈っておる。大坂へ戻ったら秀頼殿に伝えるが良い、「案じるには及びませぬ。家臣共には厳しく申し伝えておく」とな」
家康は決して憤りを覚えてはいなかった。すべては家臣のしでかした豊臣家に対する脅しであった事を知り、大蔵卿は胸を撫で下ろしながら、「承知致しましてございまする」と応えた。
千代保はじっと家康の顔を窺った。大蔵卿が頭を下げたその時、笑顔が翳った事に気付き、ハッとした。千代保は気取られない様に、大蔵卿に続けてゆっくりと頭を下げた。
大坂城・表・大広間 ───────
一行が大坂城へ戻ると、直ちに秀頼と淀に事の次第を報告した。二人も大蔵卿と同様、ほっと胸を撫で下ろした様子だった。
「そうか……ご苦労であった大蔵卿」
秀頼が労をねぎらうと、大蔵卿局は恭しく頭を下げた。
「これで済めば良いが……」
淀殿がぽつりと呟くと常高院がすかさず諫めた、
「姉上、家康殿は「案ずるには及ばぬ」と申しておるでは無いですか。悪い方へ考えすぎでございまするよ?」
久々に凝り固まった何かが解かれた心持になった一行だったが、そこで、新たな不安が押し寄せて来た。当の片桐且元が登城したのだ。
「ご免仕りまする。只今駿府より、片桐、戻りましてございまする」
且元が下段に座ると、淀は冷たく言い放った、
「随分と遅かったのう。駿府で物見でもしておったのか?」
「殿! お袋様! 一大事でございまする!! 徳川方より、難題を突き付けられましてございまする」
「難題?」
且元は震える手を懐に入れ、書状を広げて読み上げた。それは、耳を疑うような内容だった。
一、大坂城を明け渡し他国へ移る事
一、秀頼公または淀のお方様を江戸へ御身柄を送る事
一、秀頼公を江戸へ参勤させる事
「なんじゃと!!?」
且元が読み上げた、以上の三ヶ条を聞き、淀は声を荒らげた。
「いずれか一つを選び、徳川に対し二心無き証を示すべし!! これは風雲急を告げまする! 御返事を、急がれませ……。出なければ……事を荒立て、戦ともなり兼ねませぬ!」
秀頼はたじろぎもせず、且元を見据えながら訊ねた、
「その事、徳川殿自身から聞いたのか?」
「いいえ……家康殿の名代として、家臣から伝えられましてございます」
「おかしいのう……大蔵卿、如何思う」
秀頼が大蔵卿に聞くと、大蔵卿は声を張り上げてわざとらしく且元を睨みつけた、
「仰せの通り、おかしゅう存じまするなぁ。徳川殿は、「案ずるには及ばぬ」と、私と面と向かって仰せになられたのです。その様なおかしな約定、聞いた事もございませぬ!」
「家康殿にお会いになられたのですか?」
且元があっけらかんとした口調で大蔵卿に詰め寄った。大蔵卿は一瞥しながら且元に「ええ!」と返事をした。
「母上の乳母である大蔵卿は会えて、長らく豊臣の家臣を務めて参ったそなたには会えぬとは、愚かしい話じゃ」
秀頼は冷静に事の次第を見て呆れていた。下段に座りながら焦り出す且元を眺めていた千姫は、頭を抱えている夫を哀れに思った。
「お……お、お待ち下され……私をお疑いにございますか?」
「疑いの種はいくらでもある。寺の再建を推し進め、豊臣の財政を突き崩すそうとし、方広寺の鐘の銘文の一字を見抜けず家康に反感を持たせ、更には、弁明へ出向いたにも関わらず、ひと月も駿府に滞在し、挙句には豊臣にとって不条理な約定を持ち帰って来るとは。疑われても致し方あるまい」
「そ、そのような!!!」
大野治長は様々な出来事を並べ、まくし立てた。且元は反論しようとしたが、淀が一言強く言った。
「ならば、言う事がそこまで食い違うのは何故じゃ!!」
「そ、それは……。あ……大蔵卿殿と某、それぞれに異なる答えを持たせ、我々を混乱させる策やもしれませぬ!!私に豊臣家を裏切るつもりは毛頭──」
「何にせよ、そのほうが言うた事、どれも聞き入れるつもりは無い」
「されど、駿府へ応えを持ち帰らぬ事には……」
「勝手にせよ。駿府へ戻り、家康の犬でもなり下がればよい。立ち去るがよい」
「お、お袋様っ!!」
「くどい!!」
緊迫した場を目の当たりにした千姫は、眼前で口をパクパクとさせて狼狽える且元を気の毒に思った。しかし一方で、疑われても仕方ないと思うところもあり、同情する気も起きなかったのだった。
後日、且元は反論を繰り返すも納得して貰えることはなく、挙句の果てには暗殺の危険を感じて大坂城から人知れず去って行ったのだった。
ところが、この片桐且元の行動が発端となり、すぐに徳川方の知る所となった。
家康は、豊臣家が話し合いを拒んだとし、更には、大野治長が豊臣恩顧の大名衆に近付き、戦支度を始めているという報せを受けると、大御所として諸大名に出陣を命じ、豊臣家と戦う姿勢を見せた。
世に言う、「大坂の陣」の火ぶたが切られる事になるのだった。
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