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しおりを挟む爽やかな青空が広がる街中にて、コハルはロイドと以前約束をしていたデートをしている。彼はキャスケットを被り変装をしているのだが、コハルからしてみれば彼のイケメンの魅力を全く隠せていない。暗めのベージュのチェックのパンツに同じ色と柄のキャスケット。白いシャツを着用したロイドはいつもと雰囲気が違いとっても可愛いらしい。でもやっぱりかっこいいが強くて、隣にいるとドキドキしてしまう。
ロイドはコハルと手を繋ごうと努力をしているのだが恥ずかしくて行動におこせないでいる。先程から手は当たっているのだが緊張してしまい握る事が出来ないのだ。
広場にある大きな噴水を囲うベンチに二人で腰掛けた。だがロイドはそわそわと目を泳がせている。
そんな様子を遠くの生け垣から顔を出し覗いている男達がいた。
「団長頑張ってください!」
ルイスとウォルトが心配で見守っていたのだ。二人が見守っているのには理由がある。遡ること数日前、ルイスはロイドの執務室にてロイドから相談を受けていた。
「女性とデートをした事がない・・・ですか」
「ああ。何をすればいいのだ」
女性が少ないこの世界でデートの経験がある男は少ないのだろう。だがあの天下の氷の騎士と呼ばれる第一騎士団団長のロイドと言ったら女性に非常に、異常な程モテる筈なのに、彼は初デートに悩んでいた。
そう言えば今まで一度も色恋沙汰を聞いた事がなかった。いつも仕事一筋だったなとルイスは思いを巡らせる。
「デート中は手を繋いだり、相手が喜ぶ事をすれば宜しいのではないでしょうか」
「・・・彼女は何をしたら喜ぶ?」
「彼女なら何をしても喜んでくれると思いますよ。大切なのは気持ちです」
そして、現在に至る。
ルイスは心配していたのだが予想は的中した。尊敬する上司は好きな女性の前だとかなり奥手になってしまうらしい。
「なにあれ、焦れったいなー」
「見ていてイライラするな」
「いいなー。俺もコハルと二人きりでデートしたいな」
「・・・。(コクコクと頷いている)」
いつの間にそこに居たのか、公爵三人組とジークバルトの四人が隣の生け垣から顔を覗かせてロイド達を覗いていた。そんな彼等をジト目で見るルイスとウォルト。
「公爵様は暇なのですか?」
「ジークバルト、お前もなぜ一緒に?」
「俺達の情報力なめないでよねー」
公爵三人組は予めコハルから今日出かける事を聞いていた為心配で様子を見に来たが、ロイドの奥手ぶりを見てこれ以上の展開はなさそうだと安心をした。
ジークバルトは無言のまま公爵三人組を指差し、ゆっくりと口を開けた。
「・・・偵察」
「な!?アンタ害がないから一緒にいても気にしなかったのにスパイだったのか!」
こんにゃろーとアルトが騒ぐ。
そんな騒がしい彼等の存在に、ロイドは気がついていた。第一騎士団長の彼が見られている事に気づかないはずがない。ベンチに座りながら威圧を放ち生け垣を睨みつける。睨まれた男達はヤバいと思ったのか顔が強張る。
「そ、そろそろ戻った方が良いかもしれないですね」
ウォルトの言葉を皮切りに男達はその場を去った。
「ロイドさん、よかったら手を繋いでもいいですか?」
実は先程からロイドが手を繋ぎたかだっていることに勘付いていたコハル。二人で歩いている時にあれだけ手が当たったりしていたら誰でも気がつくだろう。コハルはロイドのプライドを守る為に敢えて自分からお願いをした。
険しい表情をしていたロイドの顔がぱああっと分かりやすく喜びへ変わっていくのを見て、コハルは可愛らしいとクスクスと笑う。
恋人繋ぎをした手をロイドはしっかりと握った。コハルは二人の手を観察する。コハルの手は女性の中でけっして小さい方ではない。絡まる彼の大きくて骨張る太い指が男らしくて、自分の手が女性らしく華奢に見えてそれが凄く嬉しく思えた。
笑顔の二人は正にお似合いのカップルだ。彼等は笑顔のまま、以前ロイド達に連れて行ってもらったデザートが美味しいお店へ移動した。店先には列が出来ていたのだがロイドが予約をしていてくれたらしく、すんなりと店中に入る事が出来た。こんな小さな事でも感動出来るほどロイドとのデートが楽しい。
甘い物が好きなロイドとは一緒にメニューを考える時間もとても楽しかった。二人は悩み抜いてケーキをなんと五品も頼んだのだ。運ばれて来たデザートを二人で瞳を輝かせ見つめ、その景色を楽しんだ後全部二人でシェアをして美味しいと喜びながら食べた。さすがにお腹がいっぱいになり、甘ったるい口の中に塩っぱい物が欲しくなる。
二人はデザート店をあとにし、出店へ向かった。肉の串焼き一つを二人で分けたり、色々な出店を物色しとても楽しい時間が過ぎた。
「見せたい場所がある」
ロイドの愛馬に乗って街から少し離れた丘の上にやって来た。丘の上から見える街の景色はとても絶景だ。空は綺麗なオレンジ色に染まり、綺麗な夕焼け空が街を輝かせる。
「うわあすっごく綺麗ですね!」
そのあまりの美景にはしゃぐコハルにロイドは温かい眼差しを向ける。
「好きだ」
ロイドは、はしゃぐコハルが可愛くて、喜んでくれたのが嬉しくて思わず感情が溢れ口から漏れてしまった。
彼は慌てて口を片手で隠し顔を逸らす。ロイドの言葉はしっかりと届いていたのだがあまりにも突然の事だったので驚き固まってしまうコハル。
「そ、その・・・ダメだな。色々と言葉を考えていたがどうもこういう事には慣れなくて」
ロイドはポケットから包箱を取り出し、それをコハルへ渡した。
「俺はコハルが好きだ。これを受け取ってほしい」
受け取ったコハルは開けていいか許可を取り、包み紙を広げた。綺麗な包装を破かないようにゆっくり丁寧に。箱を開けるとそこには綺麗な青色の宝石が付いているシンプルなネックレスだった。その宝石はとてもキラキラ輝いていて澄んでいる。色もまるでロイドの碧眼のようだ。ネックレスを手で持ち、ロイドの顔に近づけ瞳と比べると本当にそっくりだった。
「凄く嬉しいです!ありがとうございます。何だかこれ、ロイドさんみたいですね」
コハルが嬉しそうに破顔するとロイドはみるみる顔を赤くした。
自分の瞳と同じ色の装飾品を身につけて欲しいという願いがバレてしまったのかと内心焦る。
耳まで赤くしたロイドの内心を知らないコハルはそのネックレスを首にかけ心底嬉しそうに微笑んだ。
「似合っていますか?」
「ああ。凄く似合っている」
自分の色を身につけて喜ぶコハルが愛おしくて仕方がない。自分の心臓がうるさくて仕方がない。
ロイドは自分の心をここまで乱したコハルに完敗だと肩の力を落としへにゃっと破顔した。
「愛してる」
その笑顔があまりにも可愛らしくて、なのに凄くかっこよくって、愛していると言われた事が凄く嬉しくて、幸福感に胸を締め付けられた。
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