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 料理長に教わりながら夕食の準備をしている。正式名称は長くて覚えられないがラウルが好みの味付けの料理を作った。今回はもちろん双子の分も忘れずに。時間になり再び執務室へ料理を運ぶ。どうやらコハルが朝食の時に使用した部屋では殆ど食事をせず、普段から執務室で食事をとっているようだ。また料理を運んで来たコハルを見てラウルはため息を吐いた。双子は今度は自分達の分もあると喜んでいる。

「ラウル様、お食事です」
「いらない」

またしても即答されてしまった。

「お昼も召し上がっていないじゃないですか。ガリガリになったちゃいますよ」
「筆を動かすだけで筋肉が付くから問題ない」

どういう身体の仕組みをしているのだ。
だが実際にラウルはガリガリではない。全然食べていないのにも関わらず露出している腕は騎士達と比べると細いが、男性らしい筋が出ていてがっしりとしている。

さて、困った。今回も食べてくれなさそうだ。
コハルは料理を持ったまま立ち尽くす。クルトとアルトは美味しいと言いながら嬉しそうに食べてくれている。ラウルも食べてくれればいいのに。せっかく作ったのにこの料理達が可哀想だ。何より、食材を無駄にしている様で辛い。何を思ったのか意地でも食べさせたくなった。

「・・・ラウル様が食べないのでしたら、私も食べません!ラウル様が食べてくれないと私餓死しちゃいますよ!」

「くだらん。勝手にしろ」

コハルは食べて欲しいの一心で咄嗟に口走ってしまった。言ってしまったと後悔をしている。ご飯を食べることが大好きなコハルにとってとても辛い筈だ。ラウルは何を言ってるんだこいつはと白い目でコハルを見た。どうせ直ぐに終わるだろうとため息を吐き仕事に戻る。そんな態度がコハルの気持ちを逆上させた。

「ラウル様が食べないなら絶対に私も食べませんから!」

子供のように宣言をし、ぷんすかしている。絶対面倒な女だなと思われているだろう。だがここまで来たら後に引くことは無い。

しかし今回もラウルは食べる気配が全く無い。料理もすっかり冷めてしまった。どうした事かと双子が気を使ってコハルとラウルを交互にチラチラと見ている。これでは双子の仕事の邪魔をしてしまうと思ったコハルは心の中で今日のところはこの辺で勘弁してやると言ってやった。そしてそっぽを向きラウルが食べない料理を持ってその場を後にする。扉が閉まるのを確認したアルトがソファに雑に座り直しラウルに体を向けた。

「もう公ったら食べてあげればいいのに」
「あいつの顔見たか?この俺に不貞腐れるなんていい度胸だな」

面白い奴だなとラウルは陽気になり、引き出しにしまっておいた高級クッキーを取り出して食べた。それを見たクルトがため息を吐いていたのであった。


翌日。今日も天気は荒れていた。
本日も帰れないなと悟りコハルは朝食の準備を始めた。昨日夕飯を抜かした為お腹が凄く空いている。味見をするのも我慢し三人分の朝食と珈琲を用意した。味の保証はない。

「おはようございます!朝ご飯ですよ」

元気よく扉を開けて挨拶をする。直ぐに双子から朝のあいさつと共に頬にキスをされる。今日はコハルも双子の頬にキスをし挨拶をし返した。双子は一瞬驚いたが嬉しそうに微笑み自分達の朝食を運ぶ。コハルもラウルの朝食と珈琲を運んだ。予想通り今日も帰れないと言われてしまった。そして案の定彼は食べずに珈琲だけを飲んでいる。ずっとコハルは食べるのを待っているのだが彼は優雅に珈琲の嗜む。その表情が何だか嫌味ったらしく見えるのは気のせいだろうか。

グ~キュルルルル

「っつーー!!」

静かな部屋に響き渡るよう盛大にコハルのお腹が鳴った。コハルは顔を真っ赤にしお腹を押さえる。聞かれてしまったかと慌てて周りを見るとラウルは顔を背けて笑いを堪えていた。アルトは指をさしながら笑っていてクルトは微笑みながら自分の料理をコハルへ持って行く。

「コハル食べて?」
「だ、大丈夫!今のは何処かにいる虫が鳴っただけだよ」

んなアホなとクルトは困り笑顔をした。頑なに食べないコハルに仕方がないとクルトは諦め席に戻る。


昼食時

グオーキュルキュル

再び盛大にコハルのお腹が鳴り響く。
昨日の晩から何も食べていない。ラウルは食べていない筈なのにその顔はとても余裕そうだ。

「どうしたら食べてくれますか?」
「いらないと言っているだろ。執拗いぞ」

コハルの質問にラウルは何をそんなに意地になっているのだと溜息を吐く。コハルは何だか悔しい気持ちになり、再び意地でも食べないと誓った。

今回も食べてくれないラウルに負け、食事を片付ける為執務室を後にし厨房へ料理を運ぶ。その道中でクルトに話しかけられた。執務室から追いかけてくれたみたいだ。どうしたのだと聞くと彼はラウル攻略のヒントをくれた。どうやらラウルは食べる作業が手間だと言う。傍に居た爺やも頷いている。それでは食べさせれば、食べてくれるのだろうか。いや、食べやすい物だったらいいのでは?


夕食時
コハルは一口サイズにカットをしたサンドウィッチを作った。夕食らしい食事とは言えないがこれならナイフやフォーク等を使わずに片手で済むから楽であろう。

再び元気よく執務室の扉を開け挨拶をした。またまた来たのかとラウルは嫌味たらしく盛大に溜息を吐く。今度は食べやすいぞ!と鼻の穴を膨らまし得意気に料理を運んだ。彼は横目で料理を見てくれたが直ぐに仕事に戻ってしまう。

双子はちゃんと食べてくれるのに何なのだ。コハルは空腹のせいか目の前に美味しそうな食事があるのにラウルのせいで食べられない事から段々と苛立っていた。そしてとうとう行動に出る。一口サイズに切り分けたサンドウィッチを一つ取り出しラウルの口元へ運んだ。食べる事が面倒なのであれば、食べさせよう。

目の前にサンドウィッチが現れ、仕事の邪魔をされたラウルは眉間にシワを寄せコハルを睨む。だがその表情は直ぐに崩れた。

コハルが目をギンギンに見開き自分で持っているサンドウィッチを物欲しそうに見ていたからである。ラウルのことは見ずに血眼でサンドウィッチを見ている。しかも口の端から少量の涎まで垂らしていた。これにはラウルも我慢出来ず大声を出して笑った。だがラウルが笑ってもコハルはサンドウィッチから目を離さない。ラウルは笑いながら口を開けそれを食べた。目の前の獲物が無くなり漸く我に返ったコハルはサンドウィッチを持っていた筈の手とラウルを交互に見る。

「え、食べた?幻かな?」

思った事をそのまま発言している事に本人は気づいていない。そのまま再びサンドウィッチを持ち彼の口へ運ぶと、今度はすんなりと食べてくれた。これは幻なんかじゃない。

「食べた、食べてくれた!」

あまりにも嬉しい出来事にコハルは爺やの元へ駆け寄る。そして二人は両手を合わせコハルはぴょんぴょんと跳ねた。爺やは微笑みながらそれに対応する。

「爺やさん、やりました!食べてくれました」
「ええ。驚愕です。おめでとうございます」

コハルが想像以上に喜ぶものだからラウルは困惑した。戻って来たコハルに対し首を傾げる。

「何でそんなに喜ぶんだ?」
「食べて欲しかったからです!」

そういう物なのだろうかと不思議に思う。ラウルからしたら食べただけなのだから。だがこんなにも喜ぶならそれも悪くはない。とラウルは次々運ばれる料理をマイペースで食べ進めた。

やっと自分も食べる事が出来るとにっこにこのコハル。水分も取ってもらわなくてはと水が入ったコップを持ち、手を添えながらラウルの唇に当て傾ける。彼の口から零れた水が添えていた手に垂れるとコハルは何も考えずにその手を舐めた。それをじーっと見ていたラウル。コハルは何も気にせず彼の口を拭き再び食べさせる。彼女の顔はずっとニコニコのままだ。

一部始終を見ていた双子はほっとしたり、羨ましそうにしていた。


翌日

今日は外が晴れている。これなら帰れると思い爺やに聞くが土砂災害で道路交通状況が悪く暫く帰れないと言われてしまった。

ならばラウルにご飯を食べさせよう!

昨晩で自信がついたコハルはポジティブだ。
料理長と共に料理を作る。今回は四人分だ。自分の分もしっかり用意した。今回は食べてくれるだろうか。少し緊張しながらワゴンの押手を掴む。

いざ、出陣!

「おっはようございまーす!」

テンションが高いコハルは元気よく挨拶をた。まずは双子の頬に挨拶のキスをする。双子は嬉しそうに挨拶をし返してくれる。その様子をラウルはじーと見ていた。

ラウルの傍へ移動ししゃがみ込む。まずはスープをスプーンで掬い口へ運ぶ。今回もすんなりと口を開け飲んでくれた。それが凄く嬉しくて、拳を握り両手を左右に振る。母性が溢れ、まるで親鳥が雛鳥に餌を与えるかのように次々と料理を口へ運び続けた。全て食べさせる事が出来、最後にラウルの口元を布で拭く。

「食べてくれてありがとうございます」
「・・・ああ。お前も食え」
「はい!ありがとうございます」

ラウルの食事を片付け終え、コハルは自分の料理を持ち双子の向かいのソファへ座った。すると双子が席を移動しコハルを二人で挟む様にして座る。何で隣に?と首を傾げる。

どうやら双子はコハルがラウルに食べさせている事が羨ましかった様で自分達はコハルに食べさせたいと懇願された。減るものじゃないし良いか。とコハルも彼等から食べさせてもらう事を受け入れた。

ぱく もぐもぐ

「おいしー!」

ぱく もぐもく

「これも美味しー!」

料理長直伝の料理は本当に美味しくって笑顔になる。食べさせがいのあるコハルの反応に双子はとても嬉しくなりどんどん与えた。そんな三人をラウルはじーと見つめる。

食べさせることはそんなにいいものなのだろうか⋯。

その後の昼食も夕食も、次の日もその次の日もコハルは嬉しそうにラウルにご飯を食べさせる事が出来た。そして決まって双子に食べさせてもらう事がお決まりの流れとなっていた。

しかしとある日の朝食時、いつもなら笑顔でやってくる筈のコハルが来ない。ここ最近毎日朝食を取ることが当たり前となっていたのでラウルのお腹が空く。

「おい、あいつはまだか?」
「あれ?もうこんな時間?」
「いつもなら来てるのにね」

これはおかしいぞと三人は混乱した。
ラウルは舌打ちをし、立ち上がる。

「様子を見に行くぞ」

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