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 あの日から毎日クルトとアルトはコハルに会いに来た。薬草に使える植物や食料の調達、魚釣りや魚の捌き方を教えて貰ったりと随分と仲良くなり、彼等の性格も分かってきた。

 クルトは真面目で面倒見がいい。いつもアルトの事を気にかけている。時々細すぎる気もするけど兄弟を大事にしている家族想いの人。少し天然さんなところが可愛い。

 アルトは生意気で口は悪いけど、根は優しい。クルトの事を目障りだと言っているわりには凄く彼のことを気にしている。この前なんて少しクルトがはぐれてしまった時、短時間離れていただけなのにかなりソワソワしていた。兄想いのいい子なのだ。

 二人は職場も同じで貴族に仕える執事兼護衛をしているらしい。今回が初めての長期休暇をとったと言っていた。そして、何と今日までが休暇期間だと言われた。悲しい。

 彼等と過ごしたこの数日間は今思い出しても笑ってしまう。昔テレビで見ただけの知識で得意げに木の枝を使って火をおこそうとして失敗し、落胆していたらクルトに励まされ。アルトが木に登り、子供の頃にやっていた事なので挑戦したら落ちそうになったのをクルトに助けられ。巨大な虫に追いかけられていたところを二人に助けられ・・・あれ?私こんなに出来ない人だったっけ・・・唯一二人に自慢出来ていたのはキノコの焼き加減が絶妙に上手いということだ。・・・私、仕事も真面目にちゃんと出来た人だった筈なのにどうしてこんなダメ人間に・・・。

 二人を家に招待もした。夫がいなく、一人暮らしをしていると言ったら予想通り驚かれた。あのアルトでさえ一緒に暮らそうなんて提案してくれた時は驚いたけど、丁重にお断りをした。タロウとジロウにも会わせた。なんと、タロウ達の方からクルト達に近付いて来たのだ。ロイド達よりも最短で仲良くなったと思う。

 楽しい思い出がいっぱいだ。

  二人はいつも朝方に来て夕方頃に帰る。つまり毎日長時間一緒にいたのだ。それなのに嫌だと思った事は一度もない。最終日の今日も朝から来てくれた。ああ、今日で最後なんだな。最後のお別れって悲しくて寂しい。


 今はクルトと二人で小川の流れを静観している。今日で最後だからちゃんと会話をしたいのに、話題がない。こういう時にアルトが居てくれると助かる。アルトは意外にもお喋りだから。
 
 寂しいからいっその事、手を繋いで充電させてほしい。・・・やっぱり止めよう。またアルトに変態だと言われてしまう。クルトも何も話題がないのかな?隣に座る彼を見ると、視線に気づかれ目が合った。柔らかい笑顔を向けられ、地面につけていた手に彼の手が重なった。大きな手の温もりと、彼の笑顔に胸が高鳴る。

「コハル 俺の話を聞いてほしい」

 なんだろう。今まで楽しかったよ、ありがとう的な話かな?そんな話聞きたくないな・・・。

「・・・俺、一目惚れだったんだ」
「・・・え?」

 彼の予想外の言葉に固まってしまう。

「少し前、街で子供が大人に暴力を振るわれていた時、助けに行こうとしたら俺より先にその子を助けた女性がいた。それが、コハルだった。
 
 黒い髪がキラキラしていて綺麗だなって・・・子供を助けることに必死な顔を見た時、凄く真心がある人だと思った・・一瞬で心惹かれたんだ。

 でも当時俺は仕事中で、屋敷を抜け出した主人を探さなくてはならなくて、コハルを追いかけられなかった。後悔していたけど確保した主人を馬車に乗せた時、またコハルの姿を見ることが出来た。コハルはその時、門から出ようとしていた。本当は直ぐに屋敷に戻らなくちゃいけないのに、今度はコハルを追いかけていた。主人に注意されるまで追いかけ続けていた・・・結局最後まで追うことは出来なかった。

 少し時間がかかったけど、休暇が取れたからコハルを探した。何ヶ所か小さな村に聞き込みをしていたらこの森に辿り着いたんだ。

 コハルの姿をまた見れた時は凄く嬉しくて、でも目が合ったら緊張して何も喋れなかった。情けないなって思ったんだけど・・・。

 コハルと過ごしていくうちに、どんどん惹かれた。おっちょこちょいなところも、一生懸命なところも、全部が可愛い。ずっと大事にしていたい。

 貴女が好きだ。結婚してください」




 頭が真っ白になった。
 彼の最後の言葉が頭の中に染み込むように聞こえた。

 クルトのことは嫌いじゃない。好意を抱いていないと言えば嘘になる。でも、結婚をする程かと言われればまだそこまでではない。

 ・・・恋人からではダメだろうか。今までの恋愛も、最初から愛情深い感情を持って付き合ったことはなかった。付き合ってみてから相手の善し悪しを見て、それが愛情になり深く好きになれる。コハルはそういうタイプの人なのだ。

「ごめんなさい。結婚はまだ考えられなくて・・・」

  断りを告げ彼を見上げると、クルトが今まで見たことの無い程の傷ついた顔をしていて、胸が押し潰される。私がさせてしまった表情だ。でもちょっと待ってほしい。結婚は早いというわけであって・・・。

「恋人からというのは・・・」
「男同士の恋愛のこと・・?」

 え、この世界での恋人は同性同士でしかないことなのだろうか・・・じゃあ結婚してる人は付き合うことも無く直ぐに結婚ということ?それって上手くいくのかな・・・。

 頭が回らず沈黙してしまい、それが彼の中で結論づけた。クルトは立ち上がり少し落ち着きたいとだけ言ってどこかへ行ってしまった。

 一人で小川の流れを見続ける。クルトの傷ついた顔が頭から離れない。・・・これって彼のことが好きってことなのかな。それとも傷つけてしまったことへの罪悪感?彼が戻ってきたら思いきって恋人から始めようって言ってみる?・・・でもクルトは恋人は同性同士だけだと思っているみたいだし・・・だからっていきなり結婚は無理だよ。

 ロイド達よりクルトが好きかと聞かれたらどちらも同じくらい好き。今はそれくらいの好意でクルトが特別なわけではない。付き合ってみて、合わなければ別れればいいという考えでは不誠実なのだろうか・・・。

 唸るように暫くの間悩んでいると、いつの間にかアルトがそばに来ていた。

「兄貴のことふったんだって?はい、コレ。ふる方も大変だよな」

 こちらの心境を理解してくれるのか、アルトは慰める様な口調で飲み物を渡してくれた。コップに入っていた飲料は桃色をしていて何のジュースかと問えば、何種類かの果汁が入っているらしい。飲んでみると、味は甘酸っぱいが悪くない。美味しくはないけど。

 そうだ、アルトに相談すればいいじゃないか。クルトの事を良く知っているし、一番良い相談相手じゃないか。

 彼と話をする為、向き合おうと体を動かしたら突然全身に痺れるような違和感が走り、熱くなった。

「っ!?なん、で・・・」

 立ち上がろうとしても身体に力が入らない。助けを求めアルトを見ると、彼は酷く苦しそうな顔をしていた。

「アルト・・・?」
「コハルが悪いんだよ。コハルが、兄貴を・・捨てたから」

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