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しおりを挟むー 翌日 ー
ロイド達騎士三人は朝方コハルの元へ訪れた。昨日に続き本日も三人でやって来た事に驚いたコハルだが、その姿を確認すると自然と笑顔が浮かび彼等に喜んでほしくて珈琲を淹れた。
皆でテーブルを囲んで珈琲を飲んでいるとロイドから仕事の話が出た。凄く有難いことに第一騎士団寮で働かせて貰えることになったようだ。でも今は納屋を修繕中の為約半月後からお仕事をさせて貰えるらしい。当日は彼等の上司との面接があるみたいだ。久しぶりの面接を思うと、今からでも緊張してしまう。
彼等は明日から遠征に行く為暫く会いに来れないと告げられた。なんとその期間は2週間ほど。今日も明日の準備の為、珈琲を飲み終わったら帰ってしまうらしい。
「・・少し・・いや、結構寂しいですね。怪我がないようにお気をつけて下さい」
以前はたったの二日間彼等が来なかっただけで寂しくて不安になったのに、二週間も耐えられるだろうか・・・いや、前回はなんの前触れもなかったから不安になった訳で、今回は前もって言ってくれたからきっと大丈夫だろう。期間が分かっていれば問題ない。
三人は穏やかな表情をしていた。こちらの気も知らずにそんな表情が出来るのかと少しムッとしてしまう。
ルイスが今日の昼分のサンドウィッチと、携帯食糧を沢山持って来てくれた。
「軍備の物で申し訳ないのですが、長期保存が可能なので我々が帰る頃までにはもつでしょう。果物や木の実だけだと栄養が偏りますからね」
おお、大変ありがたい。
ルイスはコハルの為に色々と用意してくれていた。彼の心遣いと相変わらず優秀な彼の鞄に感謝の気持ちを込めて礼を言った。
「絶対に一人で街に行ってはダメだぞ」
「約束ですものね」
「本当に行かないでくださいね!」
「もう、大丈夫だってば」
ロイドとウォルトが何度も注意してくるので、どれほど信用がないのかと笑ってしまう。お返しに「怪我をしないで」と何度もお願いをした。
そして、彼等は行ってしまった。
***
一週間が過ぎた。
彼等と出会う前の生活同様、タロウとジロウ、そして動物達との触れ合いや、昼間からの長時間露天風呂を満喫していたが、いよいよ退屈だ。本当に三人の存在の大きさを実感する。早く帰って来てくれればいいのにと毎時毎分思う程だ。
そうだ、食材を探しに出かけよう。キノコや山菜を採って食べよう。健康にも良いはずだ。
そうと決まれば籠を持って敷地を出た。迷子防止の為に木に印をつけながら歩く。
見たことの無いキノコが沢山生えていた。よく分からないので全部採る。後でタロウ達に食べられるか確認してもらえばいい。とても安易な考えでどんどん採取した。籠もあっという間にいっぱいになったので帰ろうと立ち上がり振り返ると、二人の人間が立っていた。
「ぴぎゃあ!!」
その存在を見つけた途端、恐怖のあまり尻もちを着く。しかも可愛くない奇声を上げてしまった。腰が抜けるとはこの事か、全然動けない。怖くて顔を上げることが出来ず俯いたまま兎に角離れそうと後ずさる。
どうしよう、本物のお化けを見てしまった。次に顔を上げたら何も無いでほしい。
「ごめん、驚かせるつもりはなかったんだ」
「アンタ大丈夫?」
その声が優しくて、その言葉に人間味があって徐に顔を上げた。お化けではない人間だった事に安心したが、これまた驚く程のイケメンに固まってしまう。
二人とも項くらいの長さの白髪で、毛先が少し癖がある。顔のつくりがそっくりなので双子かな?瞳の色だけ違う。一人は黄檗色でもう一人は水縹色だ。完全ではないちょっぴりタレ目なのが、かっこよくて可愛い。散々イケメンを見てきたのにまた違うイケメンを見せてくれるなんて、なんて素敵な世界なんだ。
無言のまま見つめてしまっていた。彼等も何も言わずただコハルを見ていたが、次第に顔がほんのりと赤に染る。暫く沈黙が続きコハルの心も落ち着いたので、立ち上がり籠を持ち、彼等に簡単な挨拶をした。彼等も挨拶は返してくれたが、その後会話の発展がないので早々に帰宅しようと思い別れを告げ、去ろうとしたら呼び止められた。
「君と話がしたいんだ・・・その、近づいてもいい?」
「私とですか?いいですよ?」
どうせ暇だし断る理由はないだろう。
お互い自己紹介を始めた。彼等はやはり双子で瞳が黄檗色の彼が兄のクルト。水縹色の彼が弟のアルト。歳も同じなので友達口調でお互い話すことになった。自己紹介を終えるとアルトはコハルが持っている籠の中を見て眉間に皺を寄せた。
「なあ、アンタ夫に虐められてるの?」
「どうして?」
「こらアルト、女性にアンタはないだろう」
「別にいいじゃん。兄貴はいつもお堅いんだよ。・・・アンタの籠に入ってるの全部毒キノコだろ?しかも女独りに採って行かせるなんて、どうかしてるとしか思えないよ。兄貴もそう思うだろ?」
「・・・たしかに、いい夫ではないだろうな。コハル大丈夫か?俺、話聞くよ?」
「え!?これ全部毒キノコなの!?」
驚いた。気にせず採っていたけど、まさか全部毒キノコだったなんて・・・私って見る目ないなー。
自分の不甲斐なさに落胆しているとアルトがコハルから毒キノコが入った籠を取り上げた。
「俺がアンタの夫に文句つけてやるよ」
「え!?大丈夫だよ」
「大丈夫だよ!俺たちこう見えて結構強いんだぜ」
親指で自分を指さして得意げな顔をしている。彼等の服装は白シャツにシンプルな焦げ茶のパンツでとてもスマートだ。どちらかと言うと力強くは見えない。
「アルト、何事もすぐに暴力で解決しようとするな。俺たちが動いてもその後はどうなる?俺たちに話したコハルが後に夫から暴力を振るわれる可能性もあるという事を考えるんだ」
クルトの的確な言葉にアルトは反論出来ず舌打ちをした。
どうしよう・・・この二人、私が夫にDVされていると思っている。そもそも夫もいないなのに・・・どうする?夫はいないって言っちゃう?でも求婚してると思われるのも・・・。
この世界で男性に独身だと伝えると求婚していると勘違いされてしまう事を先日教えてもらったのでなるべく控えたい。・・・迷った時は逃げるのが一番だ。
「私虐められてないから大丈夫だよ。そろそろ帰ろうかな・・・」
アルトから籠を返してもらおうと取っ手を掴み引っ張るが彼の手が離れない。どうしてだと首を傾げ彼を見ると、嘘を見抜こうとしている真剣な眼差しを向けられている。水縹色の瞳が綺麗で思わず胸が高鳴る。でも手を離してほしいので彼の指を一本一本剥がそうと思いその指に触れたら、彼は顔を赤くし雑に籠を振り払われた。
「驚かせちゃった?ごめんね」
「うっうう、うるさい変態!」
まさかの変態発言にショックを受けていると籠を持っていない反対の手をクルトに握られる。
「ちゃんと食べられるキノコを教えるからまだ居てほしい。ダメ?」
うっ・・・可愛い。
首を傾けてあざと可愛い表情をしているクルトにダメじゃないので大丈夫だと伝えた。
その後三人で食料用のキノコ狩りをし、収穫は大量で籠に入りきらない物もある。これらのキノコはどうしようかと顔を傾けて考えていると、突然クルトが着ていた白いシャツを脱いで地面に広げた。
クルトは着痩せタイプのようで、白い肌に綺麗な男らしい鎖骨が出ていて、筋肉もしっかりある。腕も太くて筋が程よく出ていた。しかも腹筋も割れていて、はっきりと出ている喉仏も、全てのパーツがかっこいい。
見惚れてしまい、まだ見たいけど我慢して両手で顔を覆い見ないように心がけた。
「く、クルト?何で服を脱いでるのかな」
「ん?これに包めば運べるだろ?」
「でもそれだとクルトの服が汚れちゃうよ」
「・・・たしかにそうだな。まあ、叩けばいくらか汚れは落ちるだろうから気にしないよ」
「いや私が気にするから、とにかく服を着てほしいな」
二人のやり取りを見てアルトはため息を吐きながら床に置かれたクルトのシャツを拾い汚れを落とした。
「兄貴ってそういうとこ天然バカだよな。嫌だろ。ふつーに考えて白いシャツだぞ、洗うの面倒だろ」
「・・・コハルが喜ぶと思って」
じゃあどうすれば良かったんだと俯いてしまった。体育座りで顔を膝で挟み、前後に揺れている。なんだか可愛いと思い彼の肩をポンポン叩いて慰めた。
「その気持ちが嬉しいよ。ありがとう」
クルトは何も言わないまま前後に揺れているのを続けている。彼の耳が少し赤くなっているから照れてるのかな。かわいい。だけど目のやり場に困るので服を着てください。
「服着ようか。風邪引いちゃうよ」
「んーどうしよう」
「え、なんで悩むの」
「・・・だってコハルこっちをずっと見てたから、好きなのかなって、俺の身体」
「っー!!?」
全身から湯気が出そうな程の羞恥心が込み上げた。なんて事を言うのだこの男はっ、たしかに見ていたけど、素敵な身体だと思っていたけど、そんな堂々と言わないでよ。
「めちゃくちゃガン見してたくせに何恥ずかしがってるの?茹でダコみたい。変態タコちゃん」
呆れた様にジト目を向けてきたアルトに対し地団駄を踏んだ。
「じゃあ私・・・もしくはボンッキュッボンの美人なお姉さんが裸でいたら君達も見ちゃうでしょ?絶っ対見ちゃうよね?」
「・・・あーそれは・・・」
「・・・否定は出来ない」
女性の裸でも想像しているのだろう、彼等はふむふむと顎に手を当てている。
そうだよ、見てしまったのは不可抗力で自然現象。空気を吸うのと一緒であって、決して私は変態じゃない。
「着せるから服をちょうだい」
「え、コハルが着せてくれるの?」
「自分で着てくれるなら別にしないよ?」
「・・・お願いします」
アルトからシャツを受け取りクルトに着せる。前のボタンも留めた。ちょっとワイルドに第二ボタンから上は留めないで開いてみたら、物凄く艶っぽいので魅力に耐えきれないと思い第一ボタンまで留めた。大丈夫かなとクルトを見たら穏やかな表情をしていた。熱の篭った視線に胸の高鳴りを感じ、視線を逸らす。
神様、この世界に連れてきてくれてありがとうございます。
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