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しおりを挟む痛みを感じるほど強く吸われ、治療行為だとわかっているが物凄く恥ずかしい。でも死にたくないから必死で耐える。
吸う時間が少し長くないか?まだかな?
一度離れたと思ったら舌先で舐められ、再び吸われた。声が出そうになったが、何とか我慢出来た。公爵様が離れ、やっと終わったと思い彼を見たら笑顔を浮かべている。
え、待って。この人吸った毒吐き出してないよね!?
コハルの真っ赤な顔が一気に青ざめた。公爵様の頬を両手で挟み、むぎゅっと潰したり、親指を口の中に入れて左右に引っ張り、口を開けてと言って中に毒がないか確認したところでわからないが必死で毒を探す。公爵様はコハルの勢いに驚き、しりもちをついた。それでもコハルは彼の足の間に割り込むように入り、口の中を確認している。
「毒出さなきゃ!みずっ、水はどこにありますか!?」
命を助けてくれた人が自分の毒で死ぬなんて嫌だ!
泣き出しそうな彼女の顔を見て、公爵様は自身の頬を離さないコハルの手首を掴み、頬から離した。
(奥ゆかしく恥じらう姿を想像したのに・・・こいつ・・・バカ可愛い)
急に無言で、無表情になった公爵様にコハルの焦りが増える。掴まれている腕をバタバタと動かし、水を探しに行くから離してくれと叫んでもその手は離れない。
「安心しろ。これくらいの毒には耐性がある。何事もない」
「・・・本当ですか?」
それでも心配だと疑いの目で見た。その目付きが気に食わないのか、公爵様は冷めた顔をして睨んできた。
「ああ。だが俺の身体に許可なく触れるとは、不敬だぞ。しかもあんな触り方、屈辱だ」
「ご、ごめんなさい!申し訳ございません」
深く頭を下げ許しを乞う。そんなコハルを公爵様は楽しそうに見ている。
「許す。見事な飛び蹴りも見れたからな」
「・・・見てたのですか?」
思い出したと笑っている公爵様をジト目で見た。
「見てたなら助けてくれても良かったのに」
「俺が見たのは、走っている女が飛び蹴りを男にくらわせていた瞬間だったからな。そう不貞てるな、ブサイクだぞ」
頬を指でつんつんされている。恥ずかしいけど、この人にとって自分は確かに不細工なのだろうと否定出来ないことが辛い。くっ性格悪イケメンめ。
「のいう゛ぁあんしゅたいん様、そろそろ戻られないと心配されるのではないですか?」
本当にふと思ったことを言葉にしたら、つんつんしていた指で頬を抓られた。痛い。
「この俺を追い払おうとはいい度胸だな」
「え?そういう意味で言ったんじゃ・・・」
「それに、その家名の言い方はどうにかならないのか。言いづらいならラウルと呼べ。俺の名だ」
ラウル様・・・名前もお洒落だな。ラウル様と呼んでみたら、とても満足そうな顔をされた。ああ、すごくかっこいい。
「ラウル様ってモテますよね」
「否定すると嫌味だと言われたことはある」
ですよね。その人の気持ちわかります。
漸く花を選び終えたのか、男の子が大満足といった顔をして戻ってきた。その手には暖色でまとめられた小さな花束があった。
「おーこれは凄く可愛い。きっとお母さん喜ぶね」
「うん!待たせてごめんね。早く帰らないとお姉ちゃんの夫達が心配するよね」
急いで帰ろう!と手を繋いで歩きだした男の子について行きながら首を傾げる。
夫〝達〟?
たちってどういう事?素直にラウル様に聞くと酷く驚かれた。
「夫が複数いることは当たり前だろう・・・いや、遠い国から来たのだったな」
ラウル様は意外にも丁寧に教えてくれた。
どうやらこの国は本当に女性の割合が少なく、一妻多夫制らしい。そんな夢みたいな逆ハーレムが本当にあったなんて驚きだ。更に驚いたのが、なんとこの国では十四歳になったらほぼ全ての女性が最低一人と結婚すると言う。夫が一人もいないと言ったら二人は目玉が飛び出るんじゃないかってくらい驚愕された。街で見かけた一人の女性の周りに何人もいた男は大体がその女性の夫らしい。夫の人数制限もないと言う。
おいおい、奥さん大変じゃないか。一人の夫でさえ面倒見るのが大変だと言われているのに、それが何人もって・・・その生活の家事を想像しただけでお先真っ暗である。
この世界だと二十七歳で独身なのはどう思われるのだろう。行き遅れだと思われるだけで済むだろうか・・・怖い。
だが政略結婚は少なく、基本的には恋愛結婚のようだ。男も女が少ないからと言って好意を抱いていない相手に求婚されても断る事が出来るらしい。一生独身を貫く人も少なくなく、同性カップルも珍しくないそうだ。
「もしかしてお姉ちゃんって十六歳くらい?そしたら僕、お姉ちゃんの夫になりたい!」
・・・わお。人生初のプロポーズの相手がこんなに可愛らしい人だなんて幸せだ。じゃなくて、えっ十六歳に見えた!?そんなまさか、逆に怖い。
キラキラした瞳が突き刺さって痛い。こんな小さな男の子と結婚なんて、犯罪者になってしまう。子供に叶わない希望を与えてはいけない。ちゃんとお断りをしなくては。
「お姉ちゃん二十七歳なの。だから君から見たらおばさんだし、二十二歳より下は恋愛対象じゃないから、ごめんね」
「「 二十七歳!? 」」
男の子とラウル様が声を揃えて驚いた。
これはアレだよね、外国の人から見た日本人が幼く見えちゃうアレだよね。
しっかりとお断りをしたら男の子は俯いてしまった。ちょっと言い過ぎたかなと焦っていたら急に顔が上がり驚く。でもその表情はとてもいい顔をしていた。
「じゃあ僕が二十二歳になったら結婚しようね!公爵様、僕のお姉ちゃんをお家まで宜しくお願いします!それじゃあまたね!」
これ以上拒絶の言葉を聞きたくなかった男の子はコハルの呼び止めを無視し、逃げる様に家の中へと走った。いつの間にか彼の家にたどり着いていたらしい。赤レンガの可愛らしい家だ。結構大きいのは夫が多いからだろうか。
「・・・断れなかった」
「そうみたいだな。・・・なあ、本当に二十七歳か?」
信じられないと呟きながら下から上まで見られている。そんなに信じられない?
「本当です。ちゃんと楽しいことも辛いことも経験して二十七年間生きてきました。ラウル様はお幾つですか?」
「・・・二十六だ」
「なんだ、かわらないですね」
二十四歳を過ぎた頃から一つの歳の違いは同い年のようなものだ。
それからウォルトを置いていってしまった噴水広場まで道案内をしてもらった。ラウル様は基本的には無口だけど、質問にはしっかりと答えてくれるのでこの国の事をどんどん質問した。内容は大したものではなく何が盛んで、特産物は何だとかそういったことだが、ラウル様はとても詳しかった。きっと息抜きが頻繁なのだろうと思う。
少し先に大きな噴水が見え、ウォルトが立ってキョロキョロと周りを見る姿を発見した。まだ距離もあって此方に気づいていない様だが、たぶん自分を探してくれているのだと思う。
「ラウル様あそこにいる彼が知人です」
「・・・騎士のウォルト・デニスタインか。奴は大の女嫌いだった筈だが?」
そんな奴が女のお前を探しているのか?と首を傾げている。
どうやらラウル様はウォルトの事を知っている様だ。友達かな?
「彼はお仕事で私の相手をして下さっているのです。それに彼は頑張って女性恐怖症を克服中でして、私は彼のリハビリの先生なんです」
ドヤ顔で話すとラウル様はきょとん顔の後、口元に手を当てて笑いだした。何が面白いのか全くわからない。どうやら彼は笑いのツボが浅い上に控えめに笑うタイプの様だ。
「ご挨拶されますか?」
「いや、いい。奴とは顔見知りだ。抜け出したのがバレたら面倒だからな。俺はこのまま帰る」
「そうですか。本日は色々とありがとうございました。何処かでお会いしましたら御縁だと思ってまた付き合ってください」
社交辞令として言ってみた。次はもう無いかもしれない。
「どうして俺がお前に付き合わなきゃならん。お前が、俺に付き合うんだ」
微笑みながら穏やかに俺様発言をするラウル。風に靡く髪が艶っぽく、彼の魅力を引き立てた。
「・・・拐われないよう影から見てるから、安心してさっさと行け」
その言葉にキョトンとしてしまう。この短距離で拐われるだろうか。そもそもこんな私を拐いたいと思う人はいないと思う。いや、そんな事よりもちゃんと見届けようとしてくれるこの人はとても優しい人だな。
「ラウル様の優しいところ素敵だと思います。それでは、さようなら」
「・・・ああ」
そうして極上のイケメンと別れた。
コハルは知らない。
毒蜂の正体がラウルの爪だったということを。
彼はコハルに気づかれないように腕を伸ばし彼女の首の付け根に爪をたてた。あたかも毒蜂の仕業にしてコハルをからかっていたのだ。
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