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しおりを挟むあれから果物を食べ他愛ない会話を楽しみ、後は寝るだけとなったところで、コハルは申し訳なさそうな顔をする。
「あの、寝る時は楽な格好で寝たくて、以前着ていた丈の短い服を着たいのですがいいですか?」
「・・・俺もこんな格好だから好きにするといいよ。いや、いいですよ」
くずれた言葉になったと思ったら元に戻した。気楽に話してくれていいのに。
「ルイスさんは普段は自分の事を俺って言うんですね。いいじゃないですか。もう夜ですし、勤務時間は終わったのでは?気楽に話してください」
笑ってそう伝えると笑顔でお礼を言われてドキッとした。彼の笑顔は心臓飛び跳ね機能が付いているらしい。
二階にあがり服を着替え、もう寝ようと言った。
コハルはルイスを壁側で寝るように言い、少し強引に彼の体を押した。紳士な彼のことだから、自分が寝た後に気を使ってベッドから出て椅子で寝そうだから。
「私は眠りが浅いのでルイスさんが起きたら私も起きちゃいますよ?だから大人しく寝て下さいね」
少し眉を寄せ言うと彼は困り笑顔で頷いた。そのまま二人で横になり、一つの布団を二人で共有する。適切な距離を保てていると思うがダブルベッドの大きさでも何時もより近い距離にドキドキする。ダメダメ、平常心、平常心。
「・・・婚約者がいた事を、ウォルトから聞いてどう思いました?」
突然の話題に驚いた。どうしてそんな事聞くの?というかウォルト君話しちゃったんだ。
「・・・辛いだろうなって思いました」
それしか言えなかった。暫く沈黙が続いたので、この話はもう終わりだと思い、眠る為に瞼を閉じる。
「少し、話してもいいですか?」
「・・・はい。もちろんです」
彼の口からは婚約者と、どういった関係であったか、という話しだった。それはコハルが想像をしていた関係と全く異なる話しだった。
ルイスと相手の親同士が決めた婚約だった。婚約者は病弱だが、可愛らしい花の様な女性と聞かされていた。しかし当時のルイスは騎士団としての仕事が多忙の為、中々逢いに行く事が出来なかった。婚約の話が決まってからも顔を合わせた事はない。時々行う手紙のやり取りだけが彼女の事を知ることが出来る唯一の手段だった。
やっと仕事が落ち着き、逢う約束をした前日に彼女は他界した。初めて会った彼女は棺の中に居て、白い布で顔が見えなかった。顔を見る事が出来たのに、手が動かなかった。
こんな事になるなら無理にでも逢いに行けば良かったと後悔した。
「手紙のやり取りをしていたので愛せる自信はありました。愛してみたかった。会って、話をしたかったのに、今となってはどんな声をしていたのかも分からない。彼女の支えになる事が出来なかった。・・・心に閉まおうとしても、忘れられないんだ。彼女の事を思うと、俺が幸せになることは許されない気がして」
彼は後悔に縛られている。そんな彼を救う語彙力は、自分にはない。
「・・・忘れなくていいじゃないですか。私だったら、忘れないで欲しいです。忘れるんじゃなくて、思い出にしてほしい。・・・・・・それに、そうだな。幸せになる事を諦めないでって言っちゃうかも」
自分の事を気にしてずっと引きずられたら、成仏出来ないです。
あくまで自分に置き換えて思ったことをそのまま言ってしまった。違う言葉が欲しかったかな?不安に思い彼に目をやると、きょとん顔の彼がこちらを見ている。
そのまま何も言ってこない。気に触ることを言ってしまったかなと不安になり、でももうどうしようもないので、寝ることにして瞼を閉じた。
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・
・
眠れない。
あれから暫くたったが、全くもって眠れない。寝ようと思考をさ迷った結果、自分の過去の恋愛を思い出してしまった。
今まで付き合った人達は釣った魚に餌はやらないタイプだった。最初こそは好き好き言ってくれていたが、それなりの時間が過ぎれば恋人からそばにいて当たり前の〝お母さん〟扱い。
私から好きになって付き合った事はなかった。それでも心が冷めるまで、私はちゃんと好きになっていた。
ルイスの婚約者が羨ましい。お付き合いをしていた彼等は私が死んだら、ルイスみたいに思ってくれただろうか。・・・・・・いや、絶対思わないな。そんな人達だから別れたのだ。
瞼を開け寝返りをしてルイスを見ると、綺麗な顔で寝ていた。起こさないようにそっと手を伸ばし、瞼に当たりそうな前髪を撫でた。
「幸せになってほしいな・・・」
コハルは音を立てないように、そっとベッドから離れリビングへ向かった。
いつの間にか雨はやんでいて綺麗な星空が見えたので、もっと見たくなって外へ出た。
カラオケがあったら失恋ソングをたくさん歌いたい気分だ。
空からタロウが淡く輝きながら近づいてきた。神獣だから夜は光るのだろうと勝手に解釈し、特に気にせず傍まで来たタロウを撫でる。
~♪~♪♪~~
貴方に逢いたくて仕方ない。でも逢うことは出来ない。今まで素敵な思い出をありがとう。私は前へ進むから、さようなら。
そんなバラード曲。
コハルの中での失恋定番曲を歌った。
歌い終わると、だいぶ気持ちが落ち着いた。
暫くタロウへ寄り添い時間を潰した。欠伸が出たところでタロウに「おやすみ」と言いベッドへ戻る。
変わらず寝ているルイスにほっとした。起こしてしまったのではないかと思っていたので。
そっと布団に入り、彼に背中を向けて今度こそ眠りにつく。
おやすみなさい。
***
幼い頃からずっと好きだった猫型ロボットが私を呼んでいる。愛くるしいロボットに抱き着くと、愛くるしく体をくねらせる。猫型なのに耳がないロボットの顔に頬擦りをしたら、機械なのに暖かかった。あまりに愛おしくて頬にキスをした。顔が真っ赤になるロボット。かわいい。好き。大好き。
ロボットはポケットから道具を出そうとごそごそし始めた。何を出してくれるのだろうと期待する。突然、顔に布を押し付けられた。この布は時間を遡ったり、進めたりする事が出来る風呂敷だ。叶うことならピチピチの十代の肌にしてほしい。そう願いながら暫く布を被っていると、急に息苦しくなり悶える。布がとれると、ロボットが超絶可愛く、暖かい目でこちらを見ているので堪らず口元が緩む。
ーーるーーはるーーコハルーー
すごく心地の良いイケボで私の名前を呼ぶロボット。顔とのアンバランスが面白くて笑える。
「コハル、起きてください、コハル」
「うーん・・・・・・!!?!?!?」
煩いなと思い、重い瞼を開けると視界いっぱいにルイスの顔があった。視線が交わると、綺麗な翡翠色の瞳に引きずり込まれそうになる。
どうして私はルイスと密着しているのだろう。
ルイスの背後には直ぐに壁がある。つまりコハルが壁までルイスを追い詰め、彼の片足に自分の足を絡め、抱きついていたのだ。
状況を把握し、無言で再び彼と目を合わせると困った様に笑うルイス。
全身の血が一気に顔に集まった感じがする程顔を赤く染め、謝罪しながら離れた。
「本っ当にごめんなさい!」
コハルの誠心誠意を込めた謝罪に対し、ルイスはクスクスと笑いながらベッドメイキングをしている。
「コハルは、意外と積極的ですね」
ーーッ!!?
ルイスの言葉にコハルの羞恥心が掻き立てられる。コハルは謝ることしか出来ず、生乾きの服を着て身支度をするルイスの手伝いをしながらも、ずっと謝り続けていた。
「もう謝らないで。ただ、俺だけにして。他の人にはしないで下さいね。それでは行ってきます」
「は・・・い。い、行ってらっしゃい」
コハルの見送りの言葉を聞いたルイスは笑顔で去っていった。
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