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 あれから数日が過ぎ三人が来る生活にも慣れた。当初、彼等は午前中か午後のどちらかにやって来て、二時間程で帰って行く程度だった。監視と言われたからには、ずっと居るのかと思っていたが、そうではないようで安心する。

 お互いが慣れた今は午前中に来た場合は仕事が始まるまで。午後から来た場合は夕方までの約半日程一緒にいる時間を過ごしている。

 大体がランチを共にする為、彼等は毎回美味しいご飯を持って来てくれる。お昼が過ぎる場合は珈琲豆等のティーセットを持って来てくれる。今まで木の実や果物しか食べていなかったコハルにとって何よりの楽しみとなった。

 タロウとジロウや動物達も彼等を認めた様で、もう逃げる事は無い。タロウとジロウは触れることも許していた。初めてタロウ達に触れた彼等は物凄く感動していて、その姿はとても微笑ましかった。

 でもこの二日間、彼等はやって来なかった。
順番だと予想ではルイスが来る予定なのにお昼を過ぎてもティータイムの時間が過ぎても、誰も来ない。空を見上げると暗い雲が見える。天気もどんより、心もどんより。

 今日も来ないのか。残念というか、心配になる。何かあったのではないか。

 今まで一人だったのに彼等が来る事が当たり前になって、いつの間にか依存している事に気づいて悲しくなる。恋人との自然消滅への兆候が始まる悲壮感に似ている。

 もう、来てくれないのかな・・・。んー!やめやめ!元々独りだったし。監視の為に来てるだけ。彼等は仕事で仕方なく来ているのだから、依存なんかしちゃダメ。独りに慣れなきゃ。

 気分転換に珈琲を入れようと準備を始めたところで馬の足音が聞こえた。考えるよりも先に身体が動き、気づけば外へ飛び出していた。

 森の中から馬に乗ったルイスがこちらへ向かってくる。嬉しさが込み上げてきて、まだ少し遠くにいるのに手を振って声をあげた。

「コーヒー淹れて待ってますねー!」

 聞こえた様でルイスは片腕を挙げて微笑む。コハルが満足気に家の中へ入ると、突然近くで雷の落ちた音が響いた。慌てて窓から外を見ると、強い雨が降っている。急いでタオルを手に取り玄関の扉を開けると、ずぶ濡れのルイスが立っていた。

「・・・やられました」
「ふふ。やられちゃいましたね」

 この一瞬で激しい雨にうたれてしまったみたいだ。背伸びをしてタオルを彼の頭にかけ軽く押さえる。服を乾かさないと風邪をひいてしまう。コハルは風呂に入ることを勧め、ルイスは戸惑ったがそれに従う。

 風呂の説明を終え、以前ルイスから貰ったままでいた白のシャツとバスタオルを2枚置いた。風呂に入っている間にコハルはルイスの服を絞り部屋干しをする。

 外はまだ凄い雨。これはやむのに時間が掛かりそうだ。

 露天風呂に繋がる外通路用の扉が開いた。

「ちょうどコーヒーができあがーー」

 ルイスがあがった様なので出来たての珈琲をコップに移し彼を見ると、白いシャツはボタンを留めていないので前開きになり、引き締まった身体が見える。バキバキに割れた腹筋は、普段優しい顔をしている彼からは想像出来ない程男らしい体つきだった。
片手には濡れたバスタオル。上半身からは湯上りの火照った身体から茹でが出ていて、色気が含むかっこいい姿に見惚れた。

だが下半身は大事なところをもう一枚のバスタオルで隠しているだけで、足は剥き出しだ。その何とも言えないアンバランスな格好が面白い。顔を反対に向け笑わないように堪える。チラリとまた見て、笑いを堪える。それを繰り返していると、頬を軽く抓られた。全く痛みのない、優しい抓り。彼と目線を合わせると怒ったような、恥ずかしいような、複雑そうな、初めて見る彼の表情。


 二人で椅子に腰掛け珈琲を飲む。会話がなくても、まったく気まづくはない。美味しい珈琲を味わう。

 「この二日間、なぜ来なかったか聞かないのですか?」
「・・・聞いたところで、ねえ?」

『関係ないでしょ』そんな言葉がルイスの頭の中で続き、彼は眉間に皺が寄らないよう顔に力が入る。

 コハルは困った顔で笑い同意を求めた。精一杯の距離感を出したつもりだ。自分がそう思ってるからか、急に気まづくなった。

「私もお風呂に入ってきますね」

 おそらくもう夕方頃だろう。外は暗いが家に誰かが居るうちに済ませた方が、夜の井戸に怯えることはない。
 
 逃げるように二階に上がり、服とタオルをとって露天風呂へ向か った。


 風呂からあがり、家の中へ入るとルイスは未だ椅子に座ったままだ。珈琲はもう無くなっているだろうから次の飲み物を伺った。しかし、返ってきた言葉は飲み物の名前ではなかった。

「今日は泊まることにします」

「・・・・・・え?」

 〝泊まり〟という言葉に心臓が跳ねた。だが直ぐに納得した。窓の外を見ると相変わらずの強い雨。帰りたくても、帰れないだろう。

 なんだか、今日のルイスは機嫌が宜しくないようだ。いつも無いはずの眉間に皺が寄っている。泊まりか、布団はどうしよう・・・。絶対この人椅子で寝るとか言いそうだ。客人に対してそれは嫌だ。

「お泊まりは全然構いません。でも、条件があります」
「条件?」

「絶っ対にルイスさんがベッドを使って下さい!」
「・・・それでは、コハルは何処で寝るのですか」

「私は何処でも寝れるので気にしないで下さい」
「・・・俺が気にする。・・・・・・コハルがベッドを使わないのなら、今すぐ帰らなくてはなりません」

 突然の一人称変更に驚いたが、この雨の中で帰るという発言にもっと驚いた。

「じゃあ一緒にベッド使いましょう。絶対に襲いませんから!」
「・・・コハルが襲うの?・・・ハハッ」

 声を出して笑うルイスが、少し可愛く見えた。


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