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  腕の中ですやすや眠るリリーの温もりを、瞼を閉じながら感じているウィルフレッド。

彼女は横になると直ぐに眠ってしまった。
お互い服を着ている為肌と肌が触れ合っている訳では無い。リヒャルトの時程密着もしていない。

近くに居るだけなのにどうしてこんなに穏やかな気持ちになれるのだろうか。

リリーは寒さを感じたのか少し震えた後、暖を探すようにウィルフレッドへ擦り寄る姿はまるで猫のようだ。普段懐いていない猫が気を許してくれた時の温かみを感じる。

寒くないように腕を乗せ体をよりくっついてみるが、どうもしっくりこない。

何とかして寒さを和らげないかと考えを巡らしてハッとした。

何故そんな事を考えるのか。
彼女は強い。一人で生きていける程に。
誰かに守られるような人では無い。
こんな状況、きっと慣れているだろう。

どうして彼女を目で追ってしまうのかウィルフレッドは疑問を抱いていた。
賊に襲われた村の助けをしていた姿を見たからか、自分よりも強い女が初めてだからか・・・指名していた娼婦だったからか。

娼館では添い寝を頼んだ事は一度も無い。
して欲しいとも思わなかった。
だがノエルが話す行為以外の内容や先程抱き合っていた姿、昨晩のリヒャルトと彼女が一緒に寝ている姿を見て、素直に羨ましいと思ってしまったのだ。

まるで、親に愛情を求める子供のように。


 ウィルフレッドは自分の過去を思い出した。
彼は侯爵家の次男。上に兄と下に妹がいる。兄は優秀で高い評価を受け人気を集めていた。妹はその美しい容姿や待望の女の子ともあり周囲から甘やかされていた。両親からの寵愛を受けている兄妹の姿を遠目で見る中、ウィルフレッドは孤独だった。迫害はされていないものの常に自分は後回し。話を聞いて欲しくても割り込まれて大人しく身を引いた。両親と一緒に寝たいと思っても言えない。そんな幼少期を過ごしていた。


 腕の中で眠るリリーはちゃんと自分を見てくれる。訓練中もダメなところは注意をし、自分を磨き上げてくれる。師弟関係なのにもっと身近に感じる。今回の遠征の移動も一人一人見て離れそうになれば待っていてくれる。彼女は、優しい。そんな彼女になら甘えてもいいんじゃないか?

自分の裸体を晒した事がある相手だからか、最後まではしていないがそういう行為をした事がある相手だからか、気を許したくなる気持ちが芽生えたウィルフレッドであった。



「ノエルもリリーと寝たがってるよ?反対側入れてあげれば?」

 突然エレンが話しかけてきた。いつの間にそばに近付いていたのか、しゃがみこみウィルフレッドを覗き込んでいる。

エレンに言われたのでノエルを見ると、彼は体育座りをしながらチラチラと此方の様子を伺っていた。わかりやすく呼んで欲しそうなその態度に舌打ちをしたくなったウィルフレッドだが、それを抑え尻目に彼を見た。

「ノエル、来るんだ」

呼ばれたノエルはパアッと顔を喜ばせリリーの隣へ移動をし横になった。彼女に触れることはなく、嬉しそうに笑いながら横に居る。

「随分と気に入ってるな」

(・・・それは、そっちもでしょう)

本当は最初からリリーと寝るつもりだったノエルは内心そう思いながら、ウィルフレッドの言葉に気恥しくなり視線を逸らした。

「気を使わなくていいからか、不思議と居心地がいいんですよね・・・」

居心地がいい・・・か。

まさにウィルフレッドが思っていた事を口にしたノエル。彼も同じ気持ちかと思い瞼を閉じた。

「ウィルフレッド僕と交換してくれないかな?」

半目を開けエレンを睨んだウィルフレッド。

「なぜだ・・・お前は興味無いと言っていただろう」

(興味無いとは言ってないけど、むしろ言ったのそっちじゃん)

裏カジノを取り締まった日の飲み会での発言を思い出したエレンは遠い目をしてウィルフレッドを見つめた。

「人肌恋しくなっちゃった」

「リヒャルトに頼んだらどうだ?あれは・・・可愛い顔をしているだろう」

「ちょっと!気持ち悪いんだけど!この中で可愛い顔はノエルだろ」

いきなりとばっちりを受けたリヒャルトが吠えた。彼の容姿は中性的でかっこよさの中に可愛らしさも含まれている。

だがリヒャルトの発言も正しい。彼の言う通りこの中では幼さと可愛らしさが重なるノエルが一番可愛らしい顔つきをしているのは間違いない。

「別に可愛さ求めてないんだけどな・・・リリー無表情だから普通の女の子とかけ離れてると言うか・・・皆触れられてるのに僕だけ触れてないからちょっと寂しい・・・かな?」

「毒虫に刺された時口付けし合ってたじゃないか」

「あれは・・・人命救助だし数のうちに入らないよ」

いつまでも話し合っているのに痺れを切らしたのはルークだ。

「うるさいぞ。さっさと寝ろ」

彼の文句にエレンは大人しくリヒャルトの隣へ移動した。「何で来るんだよ」と文句を言っている彼を「まあまあ」と落ち着かせ横になる二人。何だかんで言って仲良しなのである。

「・・・リリーも笑うのかな?」

エレンの問にリヒャルトは欠伸をしながら答えた。

「無いんじゃない?二ヶ月くらい一緒にいるけど笑顔なんて見た事ないし。反応が面白くて笑顔が癒しになってくれる女いないかな・・・リリーには無理だろうなあ」

「そんな女の子いっぱいいるんじゃない?確かにリリーは女の子って感じしないよね・・・ふふっ僕達先生に対して何言ってるんだろね」

リリーに対しとっても失礼な発言をするエレンとリヒャルト。それじゃあどうしてリリーを対象に話をするんだと突っ込みたくなったルークであった。

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