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 賑わう酒場にて、仮面を取ったスーツ姿の騎士達五人は瞳をハートにした店員にボックス席へ案内をされていた。彼等の周囲にはその容姿端麗の姿を見続けようと蕩けた表情をする客や店員達。

彼等はそんな視線に気にする事なく先程団長のジョンから指示を受けた通り酒を頼み飲んでいるーーが、会話がない。

今日は大分大きな仕事をこなしたのだからあの時はどうだったとか思い巡らせながら会話をし、楽しく酒を飲み交わしてもいい筈なのに彼等は会話をせずにカウンターに座っている人物を見続けていた。

その視線の先に居るのはリリーだ。
彼女はボックス席へ案内をされたにも関わらず当たり前の様に騎士達から離れ、ひとりカウンター席へ座ってしまった。

リリーがカウンター席に座っているため、彼女の後ろ姿しか見えない。ボックス席へ着席をした騎士達に団長のジョンが「先に始めちゃってて」とだけ言いリリーの隣へ行くと、カウンターのテーブルへ背中を預けながら立ち飲みをしている。

こちらを向いているジョンの表情は穏やかに笑っていて会話を楽しんでいるように見えた。つまり、リリーも喋っているのだろう。何を話しているのか、どんな表情をしているのか、どんな声をしているのか全くわからない。いや、きっと無表情だろう。ジョンが穏やかに笑っているのはいつも通りなのだから。きっと彼女が無表情でも彼は気にしないと騎士達は思っていた。

裏カジノでの戦闘の際、彼女のとった冷静な行動と判断は間違いなく場馴れした相当の手馴れと見た。

だが後ろ姿しか見えない今の彼女はただの女だ。背中ががっつりと開いていて誘って下さいと言っているようなその姿に周囲の男達が彼女を狙う様にチラチラと視線を動かしている。自分達に集められている視線よりもリリーに向けた視線を持つ男達を不快に思うのは何故だろうか。

・・・まあ、もう関わる事はないだろう。

騎士達は自分の酒を飲みリリーから視線を外そうとしたが、ジョンがリリーの頭を撫でた後、彼女を置いて騎士達のいるボックス席へやって来た。

「やあ、お待たせ」

騎士達が座るコの字のボックス席へジョンが座った。騎士達は上司へ何の酒を飲むか聞くよりもリリーの事を気にしている。

「・・・リリーは来ないの?」

リヒャルトがジョンに問うとジョンは笑顔で頷くだけ。リヒャルトは咄嗟に立ち上がりリリーを見た。今にも数人の男がリリーに声を掛けようと近づいているのを見て、大股で移動をし彼女のグラスを取り上げた。

突然背後から伸びてきた腕にグラスを盗られたリリーは瞠目し振り返る。そこにはピンク髪にピンクの瞳を持つ見目麗しくも生意気そうな顔をしたリヒャルトが笑顔で立っていた。

「リリーも一緒に飲も?」

有無を言わせる隙もなくリヒャルトはリリーの手を引っ張り、彼女の酒を持ったままボックス席へ戻った。ジョンと向かい合わせに座っていたウィルフレッドを奥に押しやり、リリーを座らせてその隣にリヒャルトも座る。

何も話す事が無いと思っていたリリーは流れに身を任せる事に決めた。改めて全員で乾杯をし酒を飲む。

こうして全員が座るとリリーの小ささが際立つ。彼女は座高も低いのだろう。ウィルフレッドとリヒャルトに挟まれたリリーの頭の先は彼等の肩よりも少し低い。

仕事を終えたリリーは楽な姿勢になりたいのだろう。テーブルに両腕をつけたり、ソファの背もたれに体を預けたりと良いポジションを探している。

騎士達は不思議な生き物を見るような目でリリーの行動を見ていた。自分達の近くに来る女は少しでも良い女に見えるよう姿勢を正したり寄り添って来たりと女性らしいアピールをしてくる女しかいなかった。だからリリーの行動はとても新鮮なのだ。

リリーは疑問を抱いていた。

なにこの打ち上げ全然会話がない・・・。

話したい事は先程ジョンと二人の時に話した。だから今は話すことが無いので黙って会話を聞きながら酒を飲もうと思っていたリリーだが彼らは一向に話さない。むしろただ見られていて居心地が悪い。

警戒されているのが手に取るようにわかるとリリーは感じていた。

お喋り男のリヒャルトが話せばいい。

リリーはリヒャルトの顔を覗き込んだ。わかり易く話せと伝わる様に結構な至近距離に顔を近付ける。その突然の行動にリヒャルトは驚いてしまった。

「っ!びっくりした」

リリーの予想を裏切りリヒャルトはぱちぱちと瞬きを繰り返し瞳を合わせるだけ。

これが影以外で行う飲み会なのかと疑問に思うリリー。影の飲み会は基本煩い。どんちゃん騒ぎに喧嘩も常だ。こんな静かな飲み会はむしろ会議ではないか。まさかまだ任務中か?

そこまで考えたリリーは無言でジョンを見た。彼と目が合い、首を傾げてアピールをする。

帰っていい?

ジョンは相変わらず穏やかな笑顔でこの場を見ていたようでリリーと目が合うと生暖かい笑顔を向け黙って頷いた。

帰宅の許可を得たリリーは早々に帰ろうと自分の酒を一気に飲み干した。これで帰れる。そう思った矢先にウィルフレッドが口を開いた。

「あの時は助かった。ありがとう」

・・・あの時、とは甲冑の攻撃を食い止めた時の事だろうか。あの程度で礼を言うとは律儀だな。

リリーは律儀に礼を言ったウィルフレッドに体を向けた。リリーのピンクアメジストの瞳が彼の瞳を見つめる。

「大丈夫」

(((ッーー!?)))

リリーが騎士達の前で初めて喋った。
聞き慣れた言葉と声に瞠目する男達。

「今、なんて・・・」

震える声でウィルフレッドが喋った。
リリーは聞こえなかったのかと今度は先程よりも声を張った。

「大丈夫」

パリンッ ゴトンッ バシャッ

騎士五人全員が持っていたグラスを落とし酒をこぼした。

「!?」
「うわっ君達どうしちゃったの!?」

異様な光景に驚くリリーとジョン。
リリーを凝視する騎士達。

やがてこのボックス席のお世話が出来ると多数の店員がタオルを持ちやって来た。甲斐甲斐しく騎士達のこぼした酒を拭き、彼らの濡れてしまった衣服を妖艶な眼差しを向けながら世話をする店員に引いたリリーはジョンに近付き背伸びをして誰にも聞こえないよう彼の耳元で何かを喋った後、困り笑顔のジョンに同情し帰宅した。


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