上 下
69 / 77
おまけ 後日談

魔神降臨

しおりを挟む
 これはユーリと結婚して数ヶ月ほど経った頃の出来事だった……。

「ね……ねえ……、お姉ちゃんやっぱりこういうのやめようよ……」

「ダメよ紗奈!男なんてものはキッチリと教育しないとすぐに調子に乗んるだからっ!」

 わたしはお姉ちゃんとラウルの近くの森へとやって来ていた。

 どうしてこうなったんだろう……。
 話はほんの数日前に遡る……。


「今日もユーリ帰ってこないよ……」

 ある日の夜、わたしは一人家で溜め息を付いていた……。
 最近ユーリの帰りが遅い……。

 そりゃ、ユーリも冒険者だから、どこか遠くに冒険に行って仕事をすることだってある。
 でも、その時はあらかじめ知らせてくれていたし、時には手紙も出してくれたりしてくれていた。

 でも、最近何の知らせもなく翌朝帰ってきたり、遅い時は数日後とかそう言うのが増えてきた……。

 お義兄ちゃんザクスさんがいるから、何か怪我をしてとかそう言うのは無いと思うけど、まさか……浮気……っ!?

 いやいやいや……、大丈夫……ユーリは浮気なんかする人じゃないって言うのはわたしが一番良く知っている。

 でも……浮気じゃないにしろ、エッチな事をするお店とかに行っていたら……?

 この街にはスケベ店が多く立ち並ぶ「スケベ通り」と言うのがある。

 まさか、そこにユーリが行っているとか……っ!?

「どうしよう……、わたし……飽きられたんじゃ……」

 わたしの心をとてつもない不安が襲う……。

「明日お姉ちゃんに相談してみよう……!」

 わたしは不安な気持ちを抑えながら眠りについた……。


「お姉ちゃん……ちょっと相談したいことがあるんだけど……」

 次の日のお昼休み、食事を摂りながらわたしはお姉ちゃんに相談があると切り出した。

「紗奈どうしたの?」

「うん、実はね……」

 わたしは最近ユーリの帰りが遅いこと、しかも時には朝帰りだったり遅い時は数日後に帰ってきたり……、もしかしたら浮気をしているのかも知れないと言うことも話した。

「え?ユーリが浮気をしてるかも知れない……!?」

「うん、ユーリの帰りが最近遅いんだ……。だからもしかして、わたしに飽きて別の女の人と浮気をしていたり、スケベ店に通い詰めているんじゃないかなって思って……」

 わたしはお姉ちゃんに今の不安な気持ちを話した。
 
「え……?ユーリもなの……っ!?」

「え……?お姉ちゃんそれどういう事……?」

「最近ザクスの帰りも遅いのよ……、私の設けた門限を破ってどこをほっつき歩いているのかしら……!まさか……、ザクスがユーリをスケベ店に引き込んでいるんじゃ…!」

「え……っ!?それってもしかしてユーリがお義兄ちゃんに悪い遊びを教えられたって事……っ!?」

「その可能性が高いわね……」

「そんな……」

 ユーリが毎晩わたし以外の女の人を抱いているってこと……?
 例えそれがスケベ店の女の人でも、そんなの嫌だよ……。

 わたしはユーリが他の女の人を抱いている姿を想像するととても胸が痛み、目からは涙が滲み出て来た。

「紗奈……。よし……!こうなったら二人を締めるわよっ!私達を怒らせたら……紗奈を泣かせたらどうなるのか私が教えてやるわ……っ!!」

 お姉ちゃんは紙に何かをなぐり書きをすると、それを冒険者ギルドの受付のスタッフさんに渡していた。


 そして現在、わたしは旅をしていた頃に持っていた魔法の杖と、学校の制服とローブを着て近くの森に来ていた。

 一方のお姉ちゃんはというと、鉄の鎧に鉄の盾、そして鉄の剣を腰に差している。
 たぶんお姉ちゃんはこの格好で旅をしていたのかも知れない、妙に様になっていた。

「ねえ、お姉ちゃん本当にやるの……?わたしやっぱり気が進まないよ……」

「何を言ってるのよ紗奈!調子に乗った男達を締め直すのよっ!今日という今日はギャフンと言わせてやるわっ!」

 お姉ちゃんはそう言い、不敵な笑みを浮かべながら指をボキボキと鳴らしていた。

 ギャフンって言わせるって言うけど……やっぱりわたしにはユーリを懲らしめるなんて出来ないよぉ……。

「はぁ~……」

 憂鬱な気分に思わずため息が出る……。
 なんとか穏便に済ませられないのかなとも思うけど、お姉ちゃんにその気は無さそうだ。


「おい、カナにサナ!これは一体どういう事だっ!」

 近くの森で待つことしばらく、お義兄ちゃんとユーリが何か手に紙を持ってやって来た。

 その紙を見てわたしは驚愕した!
 そこにはこう書いてあった。

 ー依頼書ー 

 果し状!
 依頼主 カナ、サナ

 場所 近くの森

 依頼内容 愚かなる夫であるザクスとユーリに対し、妻からの怒りの鉄槌を下す!
報酬 裁きの鉄槌

 と書かれていた。

「ぅええぇぇぇぇーーー……っ!?何これ……っ!?」

 よく見ればこれはこの前お姉ちゃんが殴り書いていた紙だっ!

 わたしこんなの知らないよ……っ!?

「何って見ての通りよっ!ザクスにユーリ!二人は最近調子に乗っているみたいだからここいらで私が締めてあげるわっ!特にユーリ!紗奈を泣かせるなんていい度胸してるじゃないっ!その罪は重いわよ……!」

「ま……待ってください義姉さん……!僕はそんなつもりじゃ……!」

「問答無用よっ!まずはザクス!あんたからよっ!あんたがユーリを悪い道に引き込んだんでしょっ!」

 お姉ちゃんは言うが早いか、ものすごい速さで走り出すとそのままの勢いでお義兄ちゃんの顔をぶん殴った!

「ちょ……ま……がは……っ!?」

 ぶん殴られたお義兄ちゃんは某バトル系マンガの主人公にぶん殴られたかのように何メートルもふっ飛ばされる!

 ぅえええぇぇぇーーー……っ!?

 お姉ちゃんあんなの鉄の鎧を着てあんなに早く走れるの……っ!?

 その後もお義兄ちゃんはお姉ちゃんに捕まると何度も何度も叩きのめされていた。

 お義兄ちゃん大丈夫かな……。

「あの……サナっ!」

「な……何?」

「本当にごめん……!僕の軽率な行動でサナを泣かせてしまうなんて……!」

 ユーリの方へと目をやると、ユーリは私に頭を下げてきた。

「ゴメンって言われても……わたしどうしたらいいのか分かんないよ……!だって……ユーリはわたしに飽きてスケベ店の女の人を抱いてたんでしょ……っ!?嫌だよ……!ユーリが……他の女の人を抱いている姿なんて……想像もしたくないよ……!ぐす……ううぅ……、うああぁぁぁーーー……っ!」

 わたしは堪えていたものが堰を切ったかのように涙となってあふれ出す。

「サナ……、ちょっと待ってよ……!」

「ユーリは……ユーリはそんな事しないって信じていたのにぃ~……!酷い……酷いよぉ~……!」

 わたしはその場に泣き崩れるように座り込むと、後から後からあふれ出る涙を手で拭っていた。

「サナ!僕の話を聞いてよ……!」

「イヤだ……!ユーリがスケベ店に行ったって話なんてわたし聞きたくないよぉーー……!」

 私を抱きしめようとするユーリの手を、わたしは必死になって振りほどこうと払いのける!

「サナ……っ!」

 しかし、結局はわたしはユーリに強く抱きしめられてしまった。

「なによぉ……、この裏切り者……!」

「だから違うんだ!僕はスケベ店何かに行ってないよっ!」

「ぐす……、本当に……?」

「うん!本当だとも!」

「ぐす……じゃあ……なんで帰りが遅かったのよ……?」

「それは……義兄さんにアリバイ作りを協力させられていたんだよ……。本当は僕も義兄さんにスケベ店に行くように誘われたんだけど、僕にはサナがいるし、サナを悲しませることは出来ないって断ると、義兄さんがスケベ店に行っている間、『俺のアリバイ作りに協力しろ!』って言われて宿屋に泊まらされていたんだよ……!」

「それ……本当……?」

「本当だとも!嘘だと思うのならラウル中の宿屋に聞いてみたらいいよ。記帳に僕が泊まっていたという証拠が残っている筈だ。それに、スケベ通りにも行っていないから誰も僕のことなんか知らない筈だよ!」

 嘘じゃ……ない……?
 ユーリは……スケベ店に行っていない……、わたし以外の女の人を……抱いていない……?

「うう……ぐす……、ひっく……!うああぁぁぁぁーーー……っ!ごめんなさい……!ユーリを疑ったりして……本当にごめんなさい……っ!」

 ホッとしたわたしは安堵感とユーリへの申し訳無さから再び目から涙があふれ出してきた。

 そんなわたしを、ユーリは優しく抱きしめてくれていた。

「僕の方こそサナに心配をかけるようなことをして本当にごめんね……。義兄さんの頼みを断れなかった僕が悪いんだ……」

「ユーリ……!ユーリィ……!ひぐ!うう……!あああぁぁぁーーー……っ!!」

 ユーリのライトアーマーを涙で濡らすわたしの頭をユーリは優しく撫でてくれていた。
 この人と……、ユーリと結婚して本当に良かった……!

「なるほどね……そう言う経緯があったのね。さて、ザクス、言い残すことは無い?ユーリを自分のアリバイ作りに利用した挙句、紗奈を悲しませた罪は重たいわよ?覚悟、出来てるよね……?」

「も……もう勘弁してくれ……」

 既にお姉ちゃんに半殺しの域までボコボコに殴られているお義兄ちゃんに対し、お姉ちゃんの身体からは目に見えて怒りのオーラがにじみ出ており、さらに言えばお姉ちゃんの目が赤く光っている……ような気がする……。

 その姿はさながら一人の魔神のようにも見えた。

「いっぺん死んで来いっ!!」

「がは……っ!?」

 お姉ちゃんはトドメと言わんばかりにお義兄ちゃんの顎へとアッパーを放つと、お義兄ちゃんの身体は数メートルほど宙へと舞い上がり、そして頭から地面へと落ちた。

 お……お義兄ちゃん……生きてるのかな……?

「さて……次はユーリの番よ……」

 お義兄ちゃんにトドメ(?)を刺したお姉ちゃんは今度はユーリの前に立ちはだかっていた。

「ま……待ってお姉ちゃん……!ユーリはお義兄ちゃんに利用されていただけで……!」

「ダメよ紗奈……、ユーリにも紗奈を泣かせたら責任は取ってもらうわ……!」

 わたしはユーリを庇うようにお姉ちゃんの前へと立ちはだかると、それを制するようにユーリはお姉ちゃんの前へと立った。

「サナ、いいんだ。義姉さん、覚悟は出来ています。僕もサナを悲しませたことには違いありません……」

「そう……いい覚悟ね。ならユーリには明日一日紗奈をデートに誘うことを命じるわ!勿論あなたのおごりでね!そして満足させることっ!紗奈を悲しませた分、しっかりとエスコートするのよ。あ、そうそうグレンさんに紗奈は明日休むって言っておくわ」

 お姉ちゃんはそう言うと、ユーリの前から去っていった。

「お姉ちゃん……」

「義姉さん……、ありがとうございますっ!」

「これからも夫婦仲良くね。さ、ザクスは帰ってから今度はお説教よ!二度とこんな気を起こさないようにみっちりと再教育しつけしてやるわっ!!」

 気を失っているお義兄ちゃんの襟首を右手で掴んだまま引きずって街へと帰るお姉ちゃんを、わたしとユーリは見つめていた。

「義兄さん、大丈夫かな……?」

「どうだろう……?お姉ちゃん怒らせると本当に怖いから……。それよりユーリ、わたしを裏切らないでくれたこと……本当に嬉しかった……」

「当たり前じゃないか、僕はサナが悲しむようなことはしないよ」

「ユーリ……」

「サナ……」

 そして、その後わたしとユーリは抱き合うとキスを交わしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

処理中です...