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おまけ 後日談
魔神降臨
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これはユーリと結婚して数ヶ月ほど経った頃の出来事だった……。
「ね……ねえ……、お姉ちゃんやっぱりこういうのやめようよ……」
「ダメよ紗奈!男なんてものはキッチリと教育しないとすぐに調子に乗んるだからっ!」
わたしはお姉ちゃんとラウルの近くの森へとやって来ていた。
どうしてこうなったんだろう……。
話はほんの数日前に遡る……。
「今日もユーリ帰ってこないよ……」
ある日の夜、わたしは一人家で溜め息を付いていた……。
最近ユーリの帰りが遅い……。
そりゃ、ユーリも冒険者だから、どこか遠くに冒険に行って仕事をすることだってある。
でも、その時はあらかじめ知らせてくれていたし、時には手紙も出してくれたりしてくれていた。
でも、最近何の知らせもなく翌朝帰ってきたり、遅い時は数日後とかそう言うのが増えてきた……。
お義兄ちゃんがいるから、何か怪我をしてとかそう言うのは無いと思うけど、まさか……浮気……っ!?
いやいやいや……、大丈夫……ユーリは浮気なんかする人じゃないって言うのはわたしが一番良く知っている。
でも……浮気じゃないにしろ、エッチな事をするお店とかに行っていたら……?
この街にはスケベ店が多く立ち並ぶ「スケベ通り」と言うのがある。
まさか、そこにユーリが行っているとか……っ!?
「どうしよう……、わたし……飽きられたんじゃ……」
わたしの心をとてつもない不安が襲う……。
「明日お姉ちゃんに相談してみよう……!」
わたしは不安な気持ちを抑えながら眠りについた……。
「お姉ちゃん……ちょっと相談したいことがあるんだけど……」
次の日のお昼休み、食事を摂りながらわたしはお姉ちゃんに相談があると切り出した。
「紗奈どうしたの?」
「うん、実はね……」
わたしは最近ユーリの帰りが遅いこと、しかも時には朝帰りだったり遅い時は数日後に帰ってきたり……、もしかしたら浮気をしているのかも知れないと言うことも話した。
「え?ユーリが浮気をしてるかも知れない……!?」
「うん、ユーリの帰りが最近遅いんだ……。だからもしかして、わたしに飽きて別の女の人と浮気をしていたり、スケベ店に通い詰めているんじゃないかなって思って……」
わたしはお姉ちゃんに今の不安な気持ちを話した。
「え……?ユーリもなの……っ!?」
「え……?お姉ちゃんそれどういう事……?」
「最近ザクスの帰りも遅いのよ……、私の設けた門限を破ってどこをほっつき歩いているのかしら……!まさか……、ザクスがユーリをスケベ店に引き込んでいるんじゃ…!」
「え……っ!?それってもしかしてユーリがお義兄ちゃんに悪い遊びを教えられたって事……っ!?」
「その可能性が高いわね……」
「そんな……」
ユーリが毎晩わたし以外の女の人を抱いているってこと……?
例えそれがスケベ店の女の人でも、そんなの嫌だよ……。
わたしはユーリが他の女の人を抱いている姿を想像するととても胸が痛み、目からは涙が滲み出て来た。
「紗奈……。よし……!こうなったら二人を締めるわよっ!私達を怒らせたら……紗奈を泣かせたらどうなるのか私が教えてやるわ……っ!!」
お姉ちゃんは紙に何かをなぐり書きをすると、それを冒険者ギルドの受付のスタッフさんに渡していた。
そして現在、わたしは旅をしていた頃に持っていた魔法の杖と、学校の制服とローブを着て近くの森に来ていた。
一方のお姉ちゃんはというと、鉄の鎧に鉄の盾、そして鉄の剣を腰に差している。
たぶんお姉ちゃんはこの格好で旅をしていたのかも知れない、妙に様になっていた。
「ねえ、お姉ちゃん本当にやるの……?わたしやっぱり気が進まないよ……」
「何を言ってるのよ紗奈!調子に乗った男達を締め直すのよっ!今日という今日はギャフンと言わせてやるわっ!」
お姉ちゃんはそう言い、不敵な笑みを浮かべながら指をボキボキと鳴らしていた。
ギャフンって言わせるって言うけど……やっぱりわたしにはユーリを懲らしめるなんて出来ないよぉ……。
「はぁ~……」
憂鬱な気分に思わずため息が出る……。
なんとか穏便に済ませられないのかなとも思うけど、お姉ちゃんにその気は無さそうだ。
「おい、カナにサナ!これは一体どういう事だっ!」
近くの森で待つことしばらく、お義兄ちゃんとユーリが何か手に紙を持ってやって来た。
その紙を見てわたしは驚愕した!
そこにはこう書いてあった。
ー依頼書ー
果し状!
依頼主 カナ、サナ
場所 近くの森
依頼内容 愚かなる夫であるザクスとユーリに対し、妻からの怒りの鉄槌を下す!
報酬 裁きの鉄槌
と書かれていた。
「ぅええぇぇぇぇーーー……っ!?何これ……っ!?」
よく見ればこれはこの前お姉ちゃんが殴り書いていた紙だっ!
わたしこんなの知らないよ……っ!?
「何って見ての通りよっ!ザクスにユーリ!二人は最近調子に乗っているみたいだからここいらで私が締めてあげるわっ!特にユーリ!紗奈を泣かせるなんていい度胸してるじゃないっ!その罪は重いわよ……!」
「ま……待ってください義姉さん……!僕はそんなつもりじゃ……!」
「問答無用よっ!まずはザクス!あんたからよっ!あんたがユーリを悪い道に引き込んだんでしょっ!」
お姉ちゃんは言うが早いか、ものすごい速さで走り出すとそのままの勢いでお義兄ちゃんの顔をぶん殴った!
「ちょ……ま……がは……っ!?」
ぶん殴られたお義兄ちゃんは某バトル系マンガの主人公にぶん殴られたかのように何メートルもふっ飛ばされる!
ぅえええぇぇぇーーー……っ!?
お姉ちゃんあんなのを着てあんなに早く走れるの……っ!?
その後もお義兄ちゃんはお姉ちゃんに捕まると何度も何度も叩きのめされていた。
お義兄ちゃん大丈夫かな……。
「あの……サナっ!」
「な……何?」
「本当にごめん……!僕の軽率な行動でサナを泣かせてしまうなんて……!」
ユーリの方へと目をやると、ユーリは私に頭を下げてきた。
「ゴメンって言われても……わたしどうしたらいいのか分かんないよ……!だって……ユーリはわたしに飽きてスケベ店の女の人を抱いてたんでしょ……っ!?嫌だよ……!ユーリが……他の女の人を抱いている姿なんて……想像もしたくないよ……!ぐす……ううぅ……、うああぁぁぁーーー……っ!」
わたしは堪えていたものが堰を切ったかのように涙となってあふれ出す。
「サナ……、ちょっと待ってよ……!」
「ユーリは……ユーリはそんな事しないって信じていたのにぃ~……!酷い……酷いよぉ~……!」
わたしはその場に泣き崩れるように座り込むと、後から後からあふれ出る涙を手で拭っていた。
「サナ!僕の話を聞いてよ……!」
「イヤだ……!ユーリがスケベ店に行ったって話なんてわたし聞きたくないよぉーー……!」
私を抱きしめようとするユーリの手を、わたしは必死になって振りほどこうと払いのける!
「サナ……っ!」
しかし、結局はわたしはユーリに強く抱きしめられてしまった。
「なによぉ……、この裏切り者……!」
「だから違うんだ!僕はスケベ店何かに行ってないよっ!」
「ぐす……、本当に……?」
「うん!本当だとも!」
「ぐす……じゃあ……なんで帰りが遅かったのよ……?」
「それは……義兄さんにアリバイ作りを協力させられていたんだよ……。本当は僕も義兄さんにスケベ店に行くように誘われたんだけど、僕にはサナがいるし、サナを悲しませることは出来ないって断ると、義兄さんがスケベ店に行っている間、『俺のアリバイ作りに協力しろ!』って言われて宿屋に泊まらされていたんだよ……!」
「それ……本当……?」
「本当だとも!嘘だと思うのならラウル中の宿屋に聞いてみたらいいよ。記帳に僕が泊まっていたという証拠が残っている筈だ。それに、スケベ通りにも行っていないから誰も僕のことなんか知らない筈だよ!」
嘘じゃ……ない……?
ユーリは……スケベ店に行っていない……、わたし以外の女の人を……抱いていない……?
「うう……ぐす……、ひっく……!うああぁぁぁぁーーー……っ!ごめんなさい……!ユーリを疑ったりして……本当にごめんなさい……っ!」
ホッとしたわたしは安堵感とユーリへの申し訳無さから再び目から涙があふれ出してきた。
そんなわたしを、ユーリは優しく抱きしめてくれていた。
「僕の方こそサナに心配をかけるようなことをして本当にごめんね……。義兄さんの頼みを断れなかった僕が悪いんだ……」
「ユーリ……!ユーリィ……!ひぐ!うう……!あああぁぁぁーーー……っ!!」
ユーリのライトアーマーを涙で濡らすわたしの頭をユーリは優しく撫でてくれていた。
この人と……、ユーリと結婚して本当に良かった……!
「なるほどね……そう言う経緯があったのね。さて、ザクス、言い残すことは無い?ユーリを自分のアリバイ作りに利用した挙句、紗奈を悲しませた罪は重たいわよ?覚悟、出来てるよね……?」
「も……もう勘弁してくれ……」
既にお姉ちゃんに半殺しの域までボコボコに殴られているお義兄ちゃんに対し、お姉ちゃんの身体からは目に見えて怒りのオーラがにじみ出ており、さらに言えばお姉ちゃんの目が赤く光っている……ような気がする……。
その姿はさながら一人の魔神のようにも見えた。
「いっぺん死んで来いっ!!」
「がは……っ!?」
お姉ちゃんはトドメと言わんばかりにお義兄ちゃんの顎へとアッパーを放つと、お義兄ちゃんの身体は数メートルほど宙へと舞い上がり、そして頭から地面へと落ちた。
お……お義兄ちゃん……生きてるのかな……?
「さて……次はユーリの番よ……」
お義兄ちゃんにトドメ(?)を刺したお姉ちゃんは今度はユーリの前に立ちはだかっていた。
「ま……待ってお姉ちゃん……!ユーリはお義兄ちゃんに利用されていただけで……!」
「ダメよ紗奈……、ユーリにも紗奈を泣かせたら責任は取ってもらうわ……!」
わたしはユーリを庇うようにお姉ちゃんの前へと立ちはだかると、それを制するようにユーリはお姉ちゃんの前へと立った。
「サナ、いいんだ。義姉さん、覚悟は出来ています。僕もサナを悲しませたことには違いありません……」
「そう……いい覚悟ね。ならユーリには明日一日紗奈をデートに誘うことを命じるわ!勿論あなたのおごりでね!そして満足させることっ!紗奈を悲しませた分、しっかりとエスコートするのよ。あ、そうそうグレンさんに紗奈は明日休むって言っておくわ」
お姉ちゃんはそう言うと、ユーリの前から去っていった。
「お姉ちゃん……」
「義姉さん……、ありがとうございますっ!」
「これからも夫婦仲良くね。さ、ザクスは帰ってから今度はお説教よ!二度とこんな気を起こさないようにみっちりと再教育してやるわっ!!」
気を失っているお義兄ちゃんの襟首を右手で掴んだまま引きずって街へと帰るお姉ちゃんを、わたしとユーリは見つめていた。
「義兄さん、大丈夫かな……?」
「どうだろう……?お姉ちゃん怒らせると本当に怖いから……。それよりユーリ、わたしを裏切らないでくれたこと……本当に嬉しかった……」
「当たり前じゃないか、僕はサナが悲しむようなことはしないよ」
「ユーリ……」
「サナ……」
そして、その後わたしとユーリは抱き合うとキスを交わしたのだった。
「ね……ねえ……、お姉ちゃんやっぱりこういうのやめようよ……」
「ダメよ紗奈!男なんてものはキッチリと教育しないとすぐに調子に乗んるだからっ!」
わたしはお姉ちゃんとラウルの近くの森へとやって来ていた。
どうしてこうなったんだろう……。
話はほんの数日前に遡る……。
「今日もユーリ帰ってこないよ……」
ある日の夜、わたしは一人家で溜め息を付いていた……。
最近ユーリの帰りが遅い……。
そりゃ、ユーリも冒険者だから、どこか遠くに冒険に行って仕事をすることだってある。
でも、その時はあらかじめ知らせてくれていたし、時には手紙も出してくれたりしてくれていた。
でも、最近何の知らせもなく翌朝帰ってきたり、遅い時は数日後とかそう言うのが増えてきた……。
お義兄ちゃんがいるから、何か怪我をしてとかそう言うのは無いと思うけど、まさか……浮気……っ!?
いやいやいや……、大丈夫……ユーリは浮気なんかする人じゃないって言うのはわたしが一番良く知っている。
でも……浮気じゃないにしろ、エッチな事をするお店とかに行っていたら……?
この街にはスケベ店が多く立ち並ぶ「スケベ通り」と言うのがある。
まさか、そこにユーリが行っているとか……っ!?
「どうしよう……、わたし……飽きられたんじゃ……」
わたしの心をとてつもない不安が襲う……。
「明日お姉ちゃんに相談してみよう……!」
わたしは不安な気持ちを抑えながら眠りについた……。
「お姉ちゃん……ちょっと相談したいことがあるんだけど……」
次の日のお昼休み、食事を摂りながらわたしはお姉ちゃんに相談があると切り出した。
「紗奈どうしたの?」
「うん、実はね……」
わたしは最近ユーリの帰りが遅いこと、しかも時には朝帰りだったり遅い時は数日後に帰ってきたり……、もしかしたら浮気をしているのかも知れないと言うことも話した。
「え?ユーリが浮気をしてるかも知れない……!?」
「うん、ユーリの帰りが最近遅いんだ……。だからもしかして、わたしに飽きて別の女の人と浮気をしていたり、スケベ店に通い詰めているんじゃないかなって思って……」
わたしはお姉ちゃんに今の不安な気持ちを話した。
「え……?ユーリもなの……っ!?」
「え……?お姉ちゃんそれどういう事……?」
「最近ザクスの帰りも遅いのよ……、私の設けた門限を破ってどこをほっつき歩いているのかしら……!まさか……、ザクスがユーリをスケベ店に引き込んでいるんじゃ…!」
「え……っ!?それってもしかしてユーリがお義兄ちゃんに悪い遊びを教えられたって事……っ!?」
「その可能性が高いわね……」
「そんな……」
ユーリが毎晩わたし以外の女の人を抱いているってこと……?
例えそれがスケベ店の女の人でも、そんなの嫌だよ……。
わたしはユーリが他の女の人を抱いている姿を想像するととても胸が痛み、目からは涙が滲み出て来た。
「紗奈……。よし……!こうなったら二人を締めるわよっ!私達を怒らせたら……紗奈を泣かせたらどうなるのか私が教えてやるわ……っ!!」
お姉ちゃんは紙に何かをなぐり書きをすると、それを冒険者ギルドの受付のスタッフさんに渡していた。
そして現在、わたしは旅をしていた頃に持っていた魔法の杖と、学校の制服とローブを着て近くの森に来ていた。
一方のお姉ちゃんはというと、鉄の鎧に鉄の盾、そして鉄の剣を腰に差している。
たぶんお姉ちゃんはこの格好で旅をしていたのかも知れない、妙に様になっていた。
「ねえ、お姉ちゃん本当にやるの……?わたしやっぱり気が進まないよ……」
「何を言ってるのよ紗奈!調子に乗った男達を締め直すのよっ!今日という今日はギャフンと言わせてやるわっ!」
お姉ちゃんはそう言い、不敵な笑みを浮かべながら指をボキボキと鳴らしていた。
ギャフンって言わせるって言うけど……やっぱりわたしにはユーリを懲らしめるなんて出来ないよぉ……。
「はぁ~……」
憂鬱な気分に思わずため息が出る……。
なんとか穏便に済ませられないのかなとも思うけど、お姉ちゃんにその気は無さそうだ。
「おい、カナにサナ!これは一体どういう事だっ!」
近くの森で待つことしばらく、お義兄ちゃんとユーリが何か手に紙を持ってやって来た。
その紙を見てわたしは驚愕した!
そこにはこう書いてあった。
ー依頼書ー
果し状!
依頼主 カナ、サナ
場所 近くの森
依頼内容 愚かなる夫であるザクスとユーリに対し、妻からの怒りの鉄槌を下す!
報酬 裁きの鉄槌
と書かれていた。
「ぅええぇぇぇぇーーー……っ!?何これ……っ!?」
よく見ればこれはこの前お姉ちゃんが殴り書いていた紙だっ!
わたしこんなの知らないよ……っ!?
「何って見ての通りよっ!ザクスにユーリ!二人は最近調子に乗っているみたいだからここいらで私が締めてあげるわっ!特にユーリ!紗奈を泣かせるなんていい度胸してるじゃないっ!その罪は重いわよ……!」
「ま……待ってください義姉さん……!僕はそんなつもりじゃ……!」
「問答無用よっ!まずはザクス!あんたからよっ!あんたがユーリを悪い道に引き込んだんでしょっ!」
お姉ちゃんは言うが早いか、ものすごい速さで走り出すとそのままの勢いでお義兄ちゃんの顔をぶん殴った!
「ちょ……ま……がは……っ!?」
ぶん殴られたお義兄ちゃんは某バトル系マンガの主人公にぶん殴られたかのように何メートルもふっ飛ばされる!
ぅえええぇぇぇーーー……っ!?
お姉ちゃんあんなのを着てあんなに早く走れるの……っ!?
その後もお義兄ちゃんはお姉ちゃんに捕まると何度も何度も叩きのめされていた。
お義兄ちゃん大丈夫かな……。
「あの……サナっ!」
「な……何?」
「本当にごめん……!僕の軽率な行動でサナを泣かせてしまうなんて……!」
ユーリの方へと目をやると、ユーリは私に頭を下げてきた。
「ゴメンって言われても……わたしどうしたらいいのか分かんないよ……!だって……ユーリはわたしに飽きてスケベ店の女の人を抱いてたんでしょ……っ!?嫌だよ……!ユーリが……他の女の人を抱いている姿なんて……想像もしたくないよ……!ぐす……ううぅ……、うああぁぁぁーーー……っ!」
わたしは堪えていたものが堰を切ったかのように涙となってあふれ出す。
「サナ……、ちょっと待ってよ……!」
「ユーリは……ユーリはそんな事しないって信じていたのにぃ~……!酷い……酷いよぉ~……!」
わたしはその場に泣き崩れるように座り込むと、後から後からあふれ出る涙を手で拭っていた。
「サナ!僕の話を聞いてよ……!」
「イヤだ……!ユーリがスケベ店に行ったって話なんてわたし聞きたくないよぉーー……!」
私を抱きしめようとするユーリの手を、わたしは必死になって振りほどこうと払いのける!
「サナ……っ!」
しかし、結局はわたしはユーリに強く抱きしめられてしまった。
「なによぉ……、この裏切り者……!」
「だから違うんだ!僕はスケベ店何かに行ってないよっ!」
「ぐす……、本当に……?」
「うん!本当だとも!」
「ぐす……じゃあ……なんで帰りが遅かったのよ……?」
「それは……義兄さんにアリバイ作りを協力させられていたんだよ……。本当は僕も義兄さんにスケベ店に行くように誘われたんだけど、僕にはサナがいるし、サナを悲しませることは出来ないって断ると、義兄さんがスケベ店に行っている間、『俺のアリバイ作りに協力しろ!』って言われて宿屋に泊まらされていたんだよ……!」
「それ……本当……?」
「本当だとも!嘘だと思うのならラウル中の宿屋に聞いてみたらいいよ。記帳に僕が泊まっていたという証拠が残っている筈だ。それに、スケベ通りにも行っていないから誰も僕のことなんか知らない筈だよ!」
嘘じゃ……ない……?
ユーリは……スケベ店に行っていない……、わたし以外の女の人を……抱いていない……?
「うう……ぐす……、ひっく……!うああぁぁぁぁーーー……っ!ごめんなさい……!ユーリを疑ったりして……本当にごめんなさい……っ!」
ホッとしたわたしは安堵感とユーリへの申し訳無さから再び目から涙があふれ出してきた。
そんなわたしを、ユーリは優しく抱きしめてくれていた。
「僕の方こそサナに心配をかけるようなことをして本当にごめんね……。義兄さんの頼みを断れなかった僕が悪いんだ……」
「ユーリ……!ユーリィ……!ひぐ!うう……!あああぁぁぁーーー……っ!!」
ユーリのライトアーマーを涙で濡らすわたしの頭をユーリは優しく撫でてくれていた。
この人と……、ユーリと結婚して本当に良かった……!
「なるほどね……そう言う経緯があったのね。さて、ザクス、言い残すことは無い?ユーリを自分のアリバイ作りに利用した挙句、紗奈を悲しませた罪は重たいわよ?覚悟、出来てるよね……?」
「も……もう勘弁してくれ……」
既にお姉ちゃんに半殺しの域までボコボコに殴られているお義兄ちゃんに対し、お姉ちゃんの身体からは目に見えて怒りのオーラがにじみ出ており、さらに言えばお姉ちゃんの目が赤く光っている……ような気がする……。
その姿はさながら一人の魔神のようにも見えた。
「いっぺん死んで来いっ!!」
「がは……っ!?」
お姉ちゃんはトドメと言わんばかりにお義兄ちゃんの顎へとアッパーを放つと、お義兄ちゃんの身体は数メートルほど宙へと舞い上がり、そして頭から地面へと落ちた。
お……お義兄ちゃん……生きてるのかな……?
「さて……次はユーリの番よ……」
お義兄ちゃんにトドメ(?)を刺したお姉ちゃんは今度はユーリの前に立ちはだかっていた。
「ま……待ってお姉ちゃん……!ユーリはお義兄ちゃんに利用されていただけで……!」
「ダメよ紗奈……、ユーリにも紗奈を泣かせたら責任は取ってもらうわ……!」
わたしはユーリを庇うようにお姉ちゃんの前へと立ちはだかると、それを制するようにユーリはお姉ちゃんの前へと立った。
「サナ、いいんだ。義姉さん、覚悟は出来ています。僕もサナを悲しませたことには違いありません……」
「そう……いい覚悟ね。ならユーリには明日一日紗奈をデートに誘うことを命じるわ!勿論あなたのおごりでね!そして満足させることっ!紗奈を悲しませた分、しっかりとエスコートするのよ。あ、そうそうグレンさんに紗奈は明日休むって言っておくわ」
お姉ちゃんはそう言うと、ユーリの前から去っていった。
「お姉ちゃん……」
「義姉さん……、ありがとうございますっ!」
「これからも夫婦仲良くね。さ、ザクスは帰ってから今度はお説教よ!二度とこんな気を起こさないようにみっちりと再教育してやるわっ!!」
気を失っているお義兄ちゃんの襟首を右手で掴んだまま引きずって街へと帰るお姉ちゃんを、わたしとユーリは見つめていた。
「義兄さん、大丈夫かな……?」
「どうだろう……?お姉ちゃん怒らせると本当に怖いから……。それよりユーリ、わたしを裏切らないでくれたこと……本当に嬉しかった……」
「当たり前じゃないか、僕はサナが悲しむようなことはしないよ」
「ユーリ……」
「サナ……」
そして、その後わたしとユーリは抱き合うとキスを交わしたのだった。
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