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四章 姉の下へと続く道

別れ

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 翌日、それは起きた……。

「サナ、ユーリ。あたし達はここでお別れよ。ここから先は二人で行きなさい」

「え……?」

「姉さん、ルースさんどういう事……?」

 ムイスを発つ支度をしていると、エミリーとルースさんから別れを切り出された。

 突然の事でわたしとユーリは動揺を隠せなかった。

「言葉通りの意味だ。」

「あたしとルースはこのムイスのさらに先にあるサンドラという所に向かうことにしたの。だから、ラウルへはサナとユーリの二人で行くのよ」

「で……でも姉さん……僕は……」

「ユーリ、あなたももう独り立ちする頃よ。それに、今のあなたのパートナーはあたしじゃなくてサナでしょ?それに、いつまでも姉離れ出来ないようじゃサナから嫌われるわよ?」

「……わかったよ、姉さん」

 エミリーに諭されるように言われると、ユーリはそれに頷いた。

「それじゃあ、サナ。まだまだ頼りない弟だけど、ユーリの事をお願いね」

「エミリー……うん、わかったよ」

「なんなら、ユーリを尻に敷いても構わないわよ♪」

「ちょ……!姉さん……っ!?」

「あは……、あはははは……」

 エミリーの冗談にも似た言葉にわたしは苦笑いするしかなかった。

「あっと、そうそう忘れる所だったわ。はいこれ、二人のお祝儀代わりにこれをあげるわ」

 エミリーはそう言うと、自分のマジックポーチから大きな袋を取り出すと、わたしへと手渡した。

 なんだろうと思い、中を確認するとかなりの金額のお金が入っていた!

「エミリーこれは……っ!?」

「ランローズからロブスに行く途中にあたしが倒した野盗から巻き上げたお金よ。二人はいずれ結婚するんでしょ?だからお祝儀の前払いよ」

 わたしの問にエミリーはウインクをしながら答えた。

「姉さん……ありがとう……!」

「可愛い弟と義妹のためよ。その代わり、すぐに離婚なんかしたら怒るわよ!」

「うん、僕はサナを一生大切にするよ!」

「わたしも、ユーリを一生支えていくよ……」

「よろしいっ!」

 わたし達の答えに、エミリーは満面の笑みを浮かべていた。

「エミリー、本当にありがとうっ!」 

「それじゃあ、あたしとルースは行くわ」

「サナ、ユーリ……また会おう。今からサーミラに戻れば昨日乗ってきた船に間に合うはずだ。その船でリーツェに向かうといい」

「エミリー、ルースさん……今まで本当にありがとうございましたっ!」

「姉さん、元気でね!ルースさんもいろいろとお世話になりました!」

「じゃあね、二人共」

「今度あった時は二人の子供を見せてくれよ」

「んな……!」

「ちょ……!ルースさん……っ!?」

「はははっ!じゃあな!」

 そう言うと二人はムイスを発った。

「……行っちゃったね」

「……うん」

 二人がいなくなってから少ししてから、わたしとユーリもまたムイスを出ると、サーミラへと出発した。


 ◆◆◆


 ムイスを出発したわたしとユーリは無言で歩いていた。

 エミリーとルースさん……今頃どうしてるかな……。

 ルースさんは見た感じエミリーに好意を持っていたようだし、エミリーもまた面倒くさそうにしながらも満更ではない感もあった。

 例えるなら熟年の夫婦みたいに……。
 そう考えると、二人もまた落ち着く所に落ちたような感はある。 

 わたしは二人の事を考えながら、ふとユーリへと視線を向けた。

 ユーリもわたしと同じようにエミリー達の事を想っているのだろうか……?
 でも、ユーリの表情からはそれを伺い知れることはできない

「サナ、どうしたの……?」

 わたしの視線に気付いたのか、ユーリもまたわたしの顔を見ていた。

「どうしたっていうか、ユーリはエミリーと離れることになってよかったのかなっておもって……」

 そう言うと、ユーリはわたしを見つめたまましばらく黙り込んでしまった。

「……確かに、僕は奴隷として捕らえられていた時以外は姉さんとずっと一緒だった。でも、姉さんの言っていたように僕はもう姉さんから離れて独り立ちする時なんだと思う」

「そっか……、ユーリは強いんだね……」

「いや、僕なんかよりもサナのほうがずっと強いと思うよ。だって、別の世界から来て知っている人もいない中、たった一人でここまで来れたんだから」

「それは違うよ……。わたし一人だったら不安や寂しさに押し潰されて何もできなかったと思う……。わたしがここまで来れたのはエミリーと、何よりもユーリがいてくれたから……。だから、わたしはここまで来れたんだよ」

 わたしはそう言って、ユーリへと微笑んだ。

 わたし一人だったら、きっと今頃一人で泣いていただろう。
 たぶん、キーヴァの街で独り膝を抱えていたかもしれない……。

「だからさ、わたしがここまで来れたのはわたしを支えてくれたユーリのお陰だよ。だから、わたしもユーリの事を支えさせて……」

 わたしの言葉にユーリは照れたように顔を俯かせてしまった。

 そんなユーリが妙にかわいらしく思えて、わたしはクスリと笑ってしまったのだった。

 そして、少しするとわたしへと顔を上げて微笑んだ。

「ありがとう、サナ。そう言ってくれると僕も嬉しいよ。これからはサナの事は僕が守るから、何があっても」

 ユーリはそう言うと、わたしを真っ直ぐに見つめる。

「うん!わたしもユーリの事は絶対に守る!あなたの心の支えになってみせるよ!」

 わたしとユーリはそう言い合うと笑い合った。

 そんなわたし達を祝福するかのように草原に生い茂る草が風に揺れながら音を立てた。

「サナ……」

「ユーリ……ん……っ!」

 わたしとユーリはお互いに見つめ合うと、自然と唇を重ねた。

 長いキスを終えた後……わたし達はお互いに頬を染めながら笑いあった。

 そして、わたし達はサーミラへと戻ると船に乗り込み、リーツェへと向かったのだった。
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