上 下
42 / 77
二章 旅立ち

開放された街

しおりを挟む
 バルザックが倒れ、ランローズの街へと戻ると女性達は歓喜の声を上げながらそれぞれの家へと帰って行った。

 そこら中から再会を喜び合う声を聞きながらわたし達とロニス達ゴブリンはライティスさんに呼ばれ、冒険者ギルドへと向かった。

「まずは改めて街の女達を助けてもらった事に礼を言う。そして、ロニスだったか、お前の協力がなければ女達を助けることもバルザックを倒すこともできなかった。本当に感謝する」

「オレ達ハ、謝罪コソスレド感謝サレル側デハナイ。オレ達ハバルザックノ言イナリニサレテイタトハ言エ、コノ街ノ女達ヲ監禁シテイタノダ。モシ報復ヲスルトイウノデアレバ、リーダーデアル、オレノ首ヲ取レ。ソノ代ワリ、他ノ仲間ニハコノ地ヲ去ルヨウニ伝エル。ダカラ手ヲ出サナイデクレナイカ?」

 ロニスはライティスさんの前で座り込んで目を閉じると、その言葉に他のゴブリン達は「リーダーッ!」と悲痛な声を上げていたが、ロニスはそれを制した。

「待ってっ!ロニスは僕の仲間なんだっ!悪いのはバルザックだったはずだ!ロニスが無関係だとは言わない……、でもロニスだってバルザックの被害者だっ!どうか彼を許してあげて欲しい……!お願いだ……っ!」

 しかし、ユーリはライティスさんとロニスの間に立つと、ロニスを庇うようにライティスさんの前に立った。

「ユーリ、オ前ノ気持チハトテモ嬉シク思ウ。ダガ、シテシマッタ事実ハ変ワラナイ。オレハリーダートシテソノ責任ヲ取ル務メガアル」

「ユーリ、そいつの言う通りだ。リーダーには責任を取る務めってヤツがある。だが、それは俺も同じだ。俺もバルザックの言いなりとなり女達が拐われるのを見て見ぬふりをしていた。そういう意味ではゴブリン達とやっていた事は然程変わらん……。そこでだロニス、俺から一つ提案かあるのだが……」

「提案……?ドンナ提案ダロウトオレ達ハ受ケ入レル覚悟ダ」

「そんな身構えなくてもいい、それに提案と言っても頼みのようなものだ。バルザックのせいでこの街はいろいろと警備やらなにやらガタガタだ。憲兵には俺から話を通しておく、共にこの街を守っていかないか?」

「……オレ達ヲ許スト言ウノカ?」

「許すも何も元々俺達は敵同士では無いはずだ。共にバルザックの被害者だ。それに、責任を取るというのであれば街を守る方向で責任を取ると言う手もある筈だが?」

「オ前達ハ優シイノダナ……」

「優しい……?少し違うな、仲間に手を貸すのは当然のことだろ?友よ」

 ライティスさんはロニスへと手を差し伸べて握手を求める。

「違イナイ……。喜ンデオレ達ハコノ街ヲ守ラセテモラウゾ友ヨ!」

 そして、ロニスはその手を掴むと二人は固く握手を交わした。

 後にランローズにゴブリン防衛隊が出来る事になるが、それはまた別の話だ……。



 ◆◆◆


 冒険記ギルドを後にしたわたし達は、ランローズの街中を歩いていた。

「サナ、次はどこに行くの?」

「えっと、靴を買いに……」

 ユーリの問に私は答えた。 
 というのも、元々の目的であった靴をまだ買っていない。

 買いに行こうとしていた時に、ユーリとケンカしてさらに拐われてしまったのだ。

 最初こそケンカしなければと思ったけど、ケンカしなければバルザックも倒せなかったし、拐われていた女性達もどうなっていたか分からない。

 そう思うと、ケンカしたのも無駄ではなかった……かもしれない。

「なら、俺とエミリーで宿を探してくるから、ユーリはデートのリベンジしてこい」

「はあっ!?あたしはあんたルースと行くなんて一言も言ってないわよっ!?」

「ほら、いいから行くぞ。ユーリ、折角なら手ぐらい繋げよ」

「ちょっと!引っ張らないでよ……っ!ユーリ!後であたしの匂いを辿って来なさいよっ!」

 エミリーとルースさんの二人は小競り合いをしながらも人混みの中へと消えて行った。

 そして、残されたわたしとユーリは少し気不味そうにお互いの顔を見合わせる。

「とりあえず行こうか、サナ」

「う……うん」

 わたしはユーリから差し出された手を取ると共に靴屋を目指して歩き出した。


 わたしはユーリと手を繋いだまま人混みの中を縫うように進んでいくと、目的の靴屋へとたどり着いた。

 場所はライティスさんから聞いていたので迷うことなく無事につけた。

「いらっしゃ……」

 店の中へと入ると、わたしとユーリは店の店主と思われる男性と目が合うとお互い固まってしまっていた。

 それもそのはず、この店の店主はわたしを睡眠薬を染み込ませた布で眠らせたあの男性だったからだ!

「お前はあの時の……っ!」

「あの時は本当にすみませんでしたーーーっ!!」

 ユーリとこの男性に面識があるのか、ユーリが指差すと男性は物凄い勢いでわたしへと土下座をしてきた。

「え……えっと……」

 わたしはそれを目を白黒させるさせながら見つめる。

「あなた方のご活躍でバルザックが倒されたと聞きましたっ!本日はわたくしの何の御用でしょうかっ!まさか……、報復ですか……っ!?」

「えっと……、わたしの靴を買いに来たんですけど……」

 わたしは店主の男性に今履いているボロボロの靴を見せる。

「わかりました!お詫びとお礼を兼ねてこの店にある最高の素材でお嬢さんの靴を作らせていただきます!もちろんお代はいりません!」

「え……っ!?そんなの悪いですよ!」

 いくら酷い目に遭わされたとは言え、代金をいらないと言われては流石に気が引ける……。

「いえ!こうでもしないと私の気が収まりません!では早速足の採寸をさせていただきますっ!!」

 そう言って男性はわたしの足のサイズを計り始める。

 わたしは困惑した顔でユーリを見ると、諦めろとばかりに肩をすくめている。
 わたしはこの店主の男性の勢いに負け、靴を作ってもらうことにした。

 そして、出来上がりの日にちを聞いたわたし達はユーリの鼻を頼りにエミリー達のいる場所へと向かうことにしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...