上 下
33 / 77
二章 旅立ち

ランローズの街

しおりを挟む
 ギャロル村を出発してから数日経った頃、わたし達はランローズという街へと辿り着いた。

 大きな街だと言っていた通り、老若男女問わず様々な種族の人々、そして冒険者なのか鎧を着込んだ人たちの姿が多数見える。

 街並みはと言うと、白を基調とした大小さまざまな建物が立ち並んでいた。

「久しぶりの街ね。どうせならどこかメシ屋で食事でもしたいわね」

「そうだね、どこがいいかな?」

「あ、エミリー、ユーリ。食事を済ませたあとでいいから、わたし靴を買いたいんだけどいいかな……?」

 わたしはそう言い、二人にボロボロになった学校指定の革靴を見せる。

 この靴はこの世界に来てからずっと履いていたためかなりボロボロとなってしまっていた。

「結構消耗が酷いわね。この靴でこの先を旅するのは危険ね」

「その時は僕も一緒について行ってあげるよ」

「ありがとう、ユーリ」

 ユーリと一緒に街を歩ける、そう思うと不思議と心が弾む。

「サナ、口元がにやけてるわ」

「えっ!?」

 慌てて口元を隠すわたしを見て、エミリーは不敵な笑みを浮かべた。

 ユーリと一緒にいられるのが嬉しくて無意識のうちにニヤけていたみたい……。

「はいはい、ごちそうさま。ならその間あたしは宿を探しておくわ」

「うん、分かったよ」

 適当な店で食事を済ませた後、わたしとユーリはわたしの靴を買いに、エミリーは宿探しへと向かった。


 ーエミリーー

「さて、あの二人はどんな感じで街を歩くのかしらね……」

 サナ達と別れたあたしは、宿屋を探すフリをして付かず離れずの距離を保ちつつ二人の後を付けることにした。

 弟の恋愛に興味がないといえば嘘になる。
 関係が進みそうで一向に進まない二人がどんな感じでデートするのか、とても気になる。

 もっとも、そもそもこれをデート思っているのかどうか甚だ怪しいという説もある訳だが……。

「まあ、ぶっちゃけ傍観者としては面白ければなんでもいいのよ」

 あたしは誰に言うわけでもなくコソコソと二人の後をつける。

 この街には以前来たことがあるため宿屋の場所はだいたい分かる。
 宿屋を探すのはこのデートの結末をみてからでも遅くはない。

「それにしてもあの二人……、手すら繋がないわね……」

 二人の間には一メートルと少しの距離が空いている。

「たく、ユーリったら手ぐらい握りなさいよ……!相変わらず奥手なんでから……!」

 二人の後をつけていると、サナは一軒の店を指さすと、ユーリと共に一軒の店へと入っていった。

 あたしもそ~っと近づいてみると、ここは靴屋ではなく雑貨屋だった。

 何か雑貨でも買うのかしらね……。

 あたしも雑貨屋へとバレないように入ると、二人の会話に聞き耳を立ててみた。

「あ、これ可愛い~!ユーリもそう思わない?」

 サナは商品棚にあった猫がモチーフのキーホルダーを右手で取ると、目を輝かせていた。

「え……?あ……ああ、そうだね……」

「あ!こっちも可愛い!ねえ、ユーリはどっちがいいと思う?」

 すると、今度は別の物を見つけたのか、左手に犬がモチーフのキーホルダーを持っている。

「え……っ!?え……、えぇ~っと……」

 ユーリはサナの問に、両方を見比べながらどちらがいいか決めかねている様子だった。

(もう……!ユーリそこはハッキリと決めなさいよ……!ほんとヘタレね、あいつは……)

 ユーリがあんなんだからたぶん二人の関係が一向に進まないのだと思う。

「もう……!ユーリ、はっきりとしてよ……っ!もういい、次行くよ……!」

「え……?ああ……!待ってよサナ……っ!?」

 優柔不断なユーリに腹が立ったのか、サナはキーホルダーを棚へと戻すと雑貨屋を出ていったため、ユーリは慌てて後を追っていく。

 あれじゃあサナが怒って当然よね……。

(さて、次はどこに行くのかしらね)

 あたしも雑貨屋を出ると引き続き二人の後を付けていく。


 雑貨屋を後にした二人は今度はアクセサリーショップに足を止めていた。

 あたしもこっそりと物陰から二人の様子を伺う。

「あ!見てユーリ!この髪留め可愛いと思わないっ!?」

 サナは小さなハートの形をした髪留めを手に取ると試しに自分の髪へと付けてみる。

(さあユーリ!そこで『可愛いね』とか『似合ってるね』って褒めるのよっ!)

「ねえ、ユーリこれ似合う?」

「う、うん……そうだね、いいんじゃないかな」

「なによ、ハッキリしないわね……」

 ハッキリしないユーリの返事にサナは少し不機嫌そうな顔をしている。

 あちゃ~……。

 なんであの子ちゃんと褒めてあげれないのよ……。

「あ!こっちにはブレスレットやリングネックレス!素敵~、いつかわたしもこう言うのが似合う女性になりたいなぁ~」

 サナが手にしたブレスレットやリングネックレスは派手さこそないけど、シンプルながらもオシャレなアクセサリーだった。

 ユーリ、今回こそ名誉を挽回するのよ……!

 しかし、いつまで経ってもユーリの返事がない。
 どうしたのかしら……?

 あたしは不思議に思いながらユーリの方へと目をやると、なんとユーリは他の女性客へと視線を向けていた!

「ちょっと、ユーリ……っ!?」

 ユーリの様子にサナの不機嫌度がさらに上がっているのが手に取るように分かる……。

 ユーリ……、無いわ……。
 さすがにそれは無いわ……。

 もしあたしが男から同じような事をされたら絶対にぶん殴っている!

「え……?あ、ゴメン……!サナなんだっけ……?」

「ああそうですかっ!もういいっ!どうせわたしといても楽しくないんでしょっ!!」

 サナは商品を戻すと肩を怒らせてアクセサリーショップを出ていった。

「あ~あ……、あの子とうとうサナを怒らせちゃったわね……」

「あ……!サナ待ってよ……!」

「もういい!付いてこないでっ!!」

 二人の関係が進むことを期待していたけど……、とんだ事になったわね……。

 あたしはポリポリと頭を掻きながら二人が去った方を見つめる。

 仕方ない、ここはあたしが一肌脱いでユーリをフォローしてやるとしますか……。

 あたしは二人の後に付いていこうとすると急に誰かに肩を掴まれた!

「ちょっと誰よ!」

「よ!久しぶりだなエミリー!どうだ?一杯やっていかねえか?」

 そこにいたのはルースという年齢にして五百歳くらいの昔馴染みのエルフの男だった。

 彼は爽やかな笑顔を浮かべながらすぐ近くにある酒場へと親指を向ける。

「ちょっと……!何よルース!今あたし急いでるんだけど……っ!」

「まあ良いじゃねえか。ここであったのも何かの縁だ。楽しく飲もうぜ!」

「ちょっと……!離して……!離してってばっ!!」

 あたしは必死に抵抗をするも、それも虚しくルースによって酒場へと引きずり込まれたのだった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

メイドの方が可愛くて婚約破棄?

岡暁舟
恋愛
メイドの方が好きなんて、許さない!令嬢は怒った。

王子様、あなたの不貞を私は知っております

岡暁舟
恋愛
第一王子アンソニーの婚約者、正妻として名高い公爵令嬢のクレアは、アンソニーが自分のことをそこまで本気に愛していないことを知っている。彼が夢中になっているのは、同じ公爵令嬢だが、自分よりも大部下品なソーニャだった。 「私は知っております。王子様の不貞を……」 場合によっては離縁……様々な危険をはらんでいたが、クレアはなぜか余裕で? 本編終了しました。明日以降、続編を新たに書いていきます。

処理中です...