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二章 旅立ち

ギャロルの宴

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 フォルストバルチャーを倒したわたし達は、証拠であるフォルストバルチャーの死体をハングストリングでぐるぐる巻きにして縛り上げた状態でのまま全て持ってギャロル村へと戻ってきた。

 重さ的にはかなりの重量なんだけど、浮遊魔法レビテートで浮かせて持っていたため、かなり軽かった。

「フォルストバルチャー倒してきました」

 わたしはそう言い、レビテートを解いてフォルストバルチャーの死体の山をハングストリングとスパイダーネットで縛り上げたものを村のど真ん中へと置いた。

「こりゃぁ……たまげた……。これをお前さん達で倒したのか……?」

 それを見たオムルさんは驚きのあまり腰を抜かしてしまっていた。

「一先ずはこんなものでいいかしら?探せばまだフォルストバルチャーはいると思うけど、残りは明日にでも探してみるわ」

「イヤ……フォルストバルチャー、全滅サセテモラッテハ困ル。森ノ生態系ガ崩レテシマウ。数ガ多スギルノハ問題ダガ、少ナスギルノモ困ル」

 エミリーの言葉にドラムロさんは難色を示していた。

 どうやら数が減りすぎてもマズイようだ。

 そう言えば、元の世界でも人間が良かれと思って特定の動物を駆除し続けた結果、生態系が崩れて問題になっているというのを学校の授業で習ったことがあるし、テレビのドキュメントや本なんかでも見たことがある。

 森に囲まれた村だからこそ、自然と調和した生き方を重視しているのかもしれない。

「そういう事なら分かったわ。ところで、このフォルストバルチャーの死体はこちらで処分したほうがいいかしら?」

「いや……、処分はこちらでしよう。これだけの数じゃ、うまく行けば冬を越せるやもしれぬ」

「え……?それって食べるって事ですか……?」

「やってみなければ分からんがの……。ドラムロはフォルストバルチャーを食べたことあるかの?」

「イヤ、オレモ食ッタコトハナイ。ダガ、試シニ食ッテミルノモ悪クハナイ。フォルストバルチャーデ冬ヲ越セルノデアレバ、オレ達モ助カル」

「と言う訳じゃ。ほれ、お前さん達が倒したんじゃ、お前さん達も食っていけ」

「は……、はあ……」

 食べると聞き、わたしは内心驚いた。

 これって一応魔物なんだよね……?
 魔物って食べれるのかなぁ……。

 変な毒とか……無いよね……?

 わたしは一抹の不安を感じながらフォルストバルチャーの死体を眺める。

「食べるのはいいけど、こいつらは強酸性の唾液を持っているから気をつけたほうがいいわよ」

「分かった、村の者たちに伝えておくとしよう」

「オレ、村二戻ッテ仲間ヲ呼ンデクル。今日ハコノ村デ皆デ楽シム」

「おう。連れてこい、連れてこい。その間ワシ等は宴会の支度をしておくわい!」

 ドラムロさんが自分の村へと向かうと、わたしはフォルストバルチャーの死体を縛っていた魔法を解除する。

 すると、この村の人達が集まりだしフォルストバルチャーを捌き始めた。

 その様子を見ていると、黒っぽい羽の下からは鶏肉のような赤い身が現れ、首を切り落としては血抜きをし、内臓を取り出していっていた。

 わたし達も手伝おうとしたのだけど、倒してきてくれたのだからと言われ、やんわりと断られてしまった。

 そのため、フォルストバルチャーが捌かれていく様子をただ見つめていた……。


 ◆◆◆

 
 日が昇り、お昼くらいに差し掛かろうとした頃、気が付けばいつの間にか村の中にオーク達の姿も多く見られ、村の人達とオーク達とでフォルストバルチャーのバーベキューが行われていた。

 肉の焼ける美味しそうな匂いと共に村の人々やオーク達は互いに笑いながらその肉を食べている。

「サナ、僕達も食べてみようよ」

「う……、うん……。ところで、エミリーは……?」

「姉さんならとっくにあの中に混じって食べてるよ」

 ほらとユーリが指差す方向を見ると、両手にフォルストバルチャーの串焼きを持ち、美味しそうに齧り付いているエミリーの姿があった。

「ほら、僕達も行こうよ!」

「うんっ!」

 わたしはユーリに手を引かれ、みんなの所へと向かう。

「あ!サナ、ユーリ、こっちよ」

 わたし達の姿を見つけたエミリーは、串焼きを両手に持ったまま手招きをし、わたし達は彼女の隣へとやってきた。

「二人共はい、これ」

 エミリーが肉が刺さった串をわたしに差し出す。

 わたしはそれを受け取り、恐る恐る一口齧る。
 口の中に入れた途端、舌に広がった肉汁に思わず目を見開く。

「おいしい……っ!」

 思わず出た言葉にエミリーは嬉しそうに笑い、それを見たユーリも自分の分のフォルストバルチャーの串焼きに齧り付き、エミリーと同じ様に無邪気な笑みを浮かべる。

 最初こそ毒の心配をしていたけど、みんな食べているし、その心配は無さそうだ。

「ほら、サナももっと食べなよ」

 わたしが持っていた肉が無くなるのを確認したユーリはそう言ってわたしの分の串を持ってきてくれた。

「うんっ!」

 わたしはそれを受け取り、再び肉に齧り付くと、わたしとユーリはお互いに思わず笑みを浮かべながら食事をしていた。

 そんなわたし達をエミリーは優しく微笑みながら見つめるのだった。


 ◆◆◆


「も……、もうわたしお腹いっぱい……」

「僕も美味しかったからつい食べすぎちゃったよ」

「ところで、エミリーは?」

「姉さんならほら、まだ食べてるよ……」

 ユーリの指差す方へも目をやると、確かに今だ食べているエミリーの姿があった。

 あんなにもよく食べれるものだと思わず感心してしまう……。

 宴会が始まって数時間ほど経った頃、村の人達もオーク達もお腹が満たされたのか肉を食べる人の姿は少なくなっていた。

 かく言う私もかなりの量を食べてしまい、もう満腹状態となっていた。
 というか、食べ過ぎた……。

 どうしよう……、これじゃあ確実に太っちゃう……。

 わたしはこの後自身の身に訪れるであろう最大の敵脂肪に恐怖した……。

「お前さんこんな所におったのか。ずいぶん探したわい」

 わたしとユーリが村の隅の方で座って休んでいると、オムルさんとドラムロさんがやって来た。

「オムルさん、ドラムロさん」

「今日はお前さん達のお陰で本当に助かった。フォルストバルチャーの肉もまだまだ大量に残っておるし、これで無事冬を越せそうじゃ。その礼と言ってはなんじゃが、この賢者の腕輪と言うのを受け取って欲しい。」

 オムルさんはそう言うと二つの腕輪をわたしへと差し出してきた。

 その腕輪は、美しくも深い緑色をしており、真ん中には青い宝石のようなものが埋め込まれている。
 そして、上下の縁や宝石の周りには銀色の美しい装飾がほどこされていた。

「これは……?」

「この腕輪はこの村の宝物庫に納められていたもので、魔法使い用の物だと聞く。しかし、扱える者がおらず、箱にしまったままじゃったのじゃ」

「そ……、そんな村の宝物なんてわたし受け取れません……!」

「どうせここに置いておいても誰も使い手がおらんのじゃ。宝の持ち腐れになるよりはお前さんに使ってもらったほうがこの腕輪も喜ぶ」

「サナ、受け取っておきなよ。これは魔道士の腕輪よりも魔力容量キャパシティを大幅に上げてくれる、きっとサナの役に立つよ!」

「……分かりました、では大切に使わせて頂きます」

 わたしはオムルさんから賢者の腕輪を受け取ると、魔道士の腕輪を外し、これを身に着けた。

 でも、これを着けたからと言って何かが変わったような感じは全くしない……。

「オレカラハ、コレヲ渡ス」

 今度はドラムロさんがわたしへと何かを手渡してくれた。

 それは何か不思議な模様が刻まれているお守りのようなものだった。

「これは……?」

「コレハ、オレ達オークノ友好ノ証。コレヲ持ッテイレバオークヤ、ゴブリンニ襲ワレル事ハナイ。オレ達ノ村モ、オマエ達二助ケラレタ。ダカラコノ証ヲオマエ二渡ス」

「ドラムロさん、ありがとうございます」

 友好の証を受け取ると、それをマジックポーチへと仕舞った。

 わたしの知る物語とかではオークはほとんどの場合が悪者として描かれ、人間に倒される魔物となっていたけど、人間とオーク、種族が違ってもこうして分かりあえる事が出来るんだ……。

 わたしのした事は無駄じゃなかった、この村とオークの村を助けることができた。

 そう思うと勉強で満点を取った時以上の達成感にも似たものがわたしの心を満たしていた。

「ソレヨリオマエ、身体ガ細イ。モットイッパイ食ワナイト、ソノ男ノ子供ヲ産メナイ。子供ヲ産厶ノニ体力ヲ使ウ。腹ノ子二アゲル栄養モ足リナクナル。ダカラ、モット食エ」

 ドラムロさんは何を勘違いしたのか、わたしとユーリを見てそう言い放った!

 ふあ……っ!?

 こ……、子供……、赤ちゃん……っ!?

 わたしと……ゆ……、ゆゆゆ……、ユーリの……っ!?

 赤ちゃんを作るってことはその……、つまり……っ!

 ユーリも同じことを考えていたのか、お互い顔を真っ赤にさせながら顔を見合わせる。

「わ……、わたし達はそういう関係じゃないんで……っ!」

「そ……、そうそう……!ただの旅の仲間っていうか……!」

 わたし達は思わずなぜか必死に誤解を解こうと訴える。

 しかし、ユーリに「ただの旅の仲間」と言われ、なぜだか少し胸が痛んだ。

「これこれ、ドラムロ。それは野暮ってもんじゃ。見た所二人はまだそこまで関係が進んでおらん。じゃが、そこがまた実に初々しいのぉ~!」

 オムルさんはドラムロさんを連れ、笑いながらこの場を去っていった。

 ドラムロさんのせいでお互いを変に意識してしまったわたし達は、ただ無言のままその場に座っていたのだった。

 そして、この村で一晩過ごした翌日、わたし達はフォルストバルチャーの肉を少し分けてもらうとこの村を後にした。
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