白衣の下 先生無茶振りはやめて‼️

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外泊‥‥先生の新居

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先生と病室を出ようとしたとき、笠原先生が、

「ちょっとお!…注意事項 言い忘れたわ」
先生の肘を引っ張り、顔をよせて何やら先生に耳打ちしているが、私には聞こえなかった。

「っ…煩せつうの ‼︎  おおきなお世話だっ」

先生は笠原先生の手を振り払うと、不安になる私の手を握り、目だけ覗くマスク顔で私を見て   「行くぞっ」 と囁いた。 私は見送る笠原先生に会釈した。

8階東病棟を出て 一般入院患者や見舞い客でごった返す エレベーターホールを避け 真っすぐ歩いていく。

一般立入禁止の職員研究フロアの8階エレベーターホールに出た。
先生はエレベーターの到着を待ちながら、

   「医局に寄ってく… いいな?」

    「えっ」     

 (いいな  って…?  )



先生は到着したエレベーターに私を引き入れ18階のボタンを押した。
エレベーターの扉が閉まると、ようやく密室に辿りついたとでもいわんばかりに、強く抱き締めてきた。

   (マスクが邪魔)

先生はマスクの息きぐるしさの中で 

「死ななくてよかった…もう二度と、俺に心配させるな!」

先生は 私の肩に頭を預けると僅かに震えている…

 「先生っ!死なないよ  大丈夫っ」

(こんなツンデレのやんちゃおやじ残して死んじゃったら―残された人達が大変だもん (涙))


エレベーターの扉が開くと、いつもの強引な先生に戻っていた。18階のフロアを 私の手を取り医局へと、二人で歩いていく。すれ違う白衣姿の職員の視線が、私達二人に注がれる。 医局の扉を開けると、私達二人の姿に 医局員や、出入りしていた看護師、秘書 、事務職員達全員が固まった。  その場の雰囲気を 解してくれたのは…

  「黒崎先生…お疲れさまぁ…は! ははぁ―ん!」  

原先生は、つかつかと私に近づくとじっと見つめ…
 「貴女が噂の黒崎先生の婚約者 ⁈ 確か――綾野タダシ君のお姉さんっ‼︎ 」
医局内が一瞬ざわついた。  医師が禁為を冒した。  しかも医局No.2が患者の身内に手を出した。  そのざわめきを、只野先生が拍手でうやむやにした。 絶妙のタイミング。拍手の合図は医局内の空気を御祝いモードに変えてくれた。


先生と一緒になるって事は…大学の教授や医師 、黒崎先生を取り巻く膨大な関係者との付き合いもしないといけない。

( ムリ!………えらいこっちゃ‼︎ )

パニック状態の私は、医局から出たあとの事、先生がすれ違い様に立ち止まり挨拶を交わした院内の人々を 走馬灯の朧げな画像のように…  全く覚えていない。研究棟から実験棟を経て、職員駐車場へ…
先生は、アルファロメオの助手席へ私を座らせ、シートベルトまで調整してくれる 王子様っぷり。


  ( 恥ッ……)


「お袋のとこで メシ 喰うか…なに 食べたい?」

先生はエンジンをかけると、マスクを外す。
左腕は私の肩に軽く回され、指先が 私の二の腕を辿る。


先生の “何食べたい?” にお腹が反応する。

 ( キュルル…)迷わず 「肉!」と私が答えると、先生は目を見開き 私の頭をおおきな手の平で  くしゃくしゃした。そして、 私の後頭 部を引き寄せ 髪に鼻を押し付けてきた。

  「よしっ “ いい子だ”」

 (んったくぅ…)  私は先生の手を振り払った。

  「子供じゃ無いんだからっ」  ちょっと拗ねてみる…

先生は、意に返さずに電話をかけだす。


  「もし もし黒崎です、あ…俺、ん、ん、  わかってますっ、 はい、今から向かいますから、“あれ”  が、肉が食べたいって、はい、…じゃぁ  お願いします」


春先に初めてのデートで連れきて貰った鎌倉の料理旅館。先生のお母さんが営んでいる。 青いアルファロメオは竹林の細い一本道の突き当たりで静かに止まった。 入口では従業員の年配の男性が車の鍵を預かりに近づいてくる。先生は車から素早く降りると、助手席側へ回り込む。私は自分でドアノブを開けようとしてたので、同時に不意を
つかれ開いたドアにつられて車外に放り出されそうになった。
先生は全く動じる事なく私を受け止めると抱き抱えて立たせてくれた。

  「えへへ、ごめぇ―ん」  私は先生に謝る。

先生はやれやれと言いたげに 眉間に皴をよせただけで、何もいわず…いつ用意したのか 黒いカシミヤのコートを助手席側の後部席から引っ張り出して私をすっぽり覆う。 

    (先生の匂い…)

出迎えの従業員に 鍵を手渡すと、私の手は恋人握りで先生に捕まった。
12月の鎌倉は相当に冷え込む。肩からコートで包まれたまま玄関先に急ぎ足で入る。玄関では、女将さん  仲居さんが三つ指で出迎えてくれた。

   「いらっしゃいませ」  女将さんの優しい笑顔にほっとする。

   「おっ、お世話になります」  私を包んでいたコートを女将さんが脱がしてくれた。
「ヒカルさん、今日は離れじゃない方がいいでしょ?」

仕事で泊まる時以外は、離れを利用しない先生は…

「お任せしますよ」 と、答えた。


「華の間にご案内して…」 女将さんは仲居さんに指示し、

「すぐに お食事 用意させますね  、ミチルちゃん!」


女将さんが 一瞬、先生のお母さんに変わった。…

先生ときたら、座敷に通されるや パタンと 青畳の上に倒れ込み 大の字になって伸びる。
 
「失礼します」女将さんが 仲居さんを従えて すき焼きの用意を 手配しだす。仲居さんたちは テキパキとガスホースを装着し 座卓に仕込まれたコンロに着火する。

「ミチルちゃん いいお肉が 手に入ってますからねっ 、沢山食べて頂戴」

(…女将さん 今夜は嬉しそうですね  ―イイコとあったのかな?)


「女将さん  有難うごさいます さっきから グー グ―鳴っちゃて…」


( お腹空きすぎ…)


「ミチルちゃん!今度から  “ 女将さん”は 禁止」

女将さんが 拗ねたような 恨めしげな視線をよこす。

「へっ」

「“母さん”って  呼んで頂戴」

女将さんは ポッと頬を染める。


(  はあぁ…いきなりぃ  このシチュエーションで…)

ちょっと、返事を躊躇して俯く…

 (黒崎ヒカル 助けてっ)  内心、助けを求めた。


「母さん、  いきなり…まだ  婚約もしていませんから…」

(Nice timing!)

「新年には、正式に 神戸のお父さんに 挨拶に行きたいと 思っています。それまでは…」


(ええっ! 挨拶ぅ!つうかぁ……なっ 、…聞いてない)

私は俯いたまま先生を睨みつけた。

(何でもかんでも  独りで決めて―)

 〝グゥ~〟  お腹が鳴った。

 (腹の虫黙れっ)



( ったくぅっ 無理… 何が 婚約よ もう!)


 〝私に了解とってから行動してよっ〟

私は お腹が空きすぎてイライラが頂点に…
出された 好き焼きをどこのブランド牛やら 何やら 構わずに食べまくった。空腹をみたせば 怒りは何処かへ 飛んでいって無くなる。


給仕の 仲居さん達は 私の食べっぷりに飽きれ…女将さんにいたっては 、固まってしまっている。先生は 意に介さずマイペースで 食事を楽しんでいる。


「ミチルちゃん  よほどお腹が空いてたのね  どう? 少しは満足したかしら?」

女将さんが 私にお茶を入れながら尋ねる。


「は~い もう美味しすぎてぇ~見て下さい よぉ お腹パンパン 」

私はお腹を 突き出してパンパン叩いてみせた。呆気にとられる女将さん。仲居さん達は クスクス笑いだす始末ー

女将さんは 仲居さん達に

「あなた達  板場で余計な事 言うんじゃないですよ 」と、たしなめる。

(はぁ なんかマズかったですかね  )
場の空気が全く読めない。女将さんが、私の様子を仲居達が噂の種にしないように牽制したことにも、気が付かなかった。


帰りの 車中…私は満腹でうとうとしていた。

先生は いつものように 私の手を恋人握りしながら 、越したばかりの タワーマンションに向かう。


「おいっ 起きろっ着いたぞ…」


( うぅ…もう…着いた…?)

低血圧では すっきり目覚められない。先生は 私の頬に手を当てる。
熱がないか 確かめるために  … 暫くの間エンジンを止め 私が覚醒するのを待っていた。


(  うぅん …おきますぅ~ )
寝ぼけながら 隣の先生に抱き付きにいくが、シートベルトが邪魔して 先生に届かない。〝ううぅん〟 必死でもがく… 体をねじる。


「お前   何やってんだ」

(先生をハグしたい んだよ!)
少しづつ状況が 理解できてくる。先生は運転席から私に被さり シートベルトを外してくれる。ついでにシートをゆっくり倒した。


コツ  コツ   コッ‥

『キャハハ  あ は は  は 』足音に続く笑い声。
マンションの地下入口から住人が、駐車場へ入って来た。


先生は、オールバックの黒髪を乱しながら私の胸から顔を上げた。私も、快感に朦朧としながらも 羞恥心を何とか取り戻した。 
顔が、カッと熱くなる。


「 ちぇっ! いいところだったのにぃっ…」
先生は運転席で仰向く… 「はぁ…ぁ」   深いため息を吐き出した。
私は、急いで着衣の乱れを直しながら座席を起こす。 

何食わぬ顔で通り過ぎる住人をやり過ごすと…急に 二人の滑稽さに可笑しくなって来た。先生をチラッと見ると、

〝クックック 〟と、笑いを堪えている。
私だって 〝うふふっ〟と笑ってしまう。



ウハハハッハ~ハァ

先生は、私を引き寄せてから、耳元に唇を押し付け、軽く耳たぶを甘噛みした。 
  「ん…痛いって!」

「中に入るか…」    
私は素直に頷いた。体調は嘘みたいに安定していた。  体中に血が行き渡り一気に火照る。  じっとりと汗ばむ。

     (生きてる…!)


54階建ての超高層複合型マンション。



地下は駐車場。 メトロに通じる地上6階までは 商業施設。 

7階から10階までは、賃貸オフィス。 
10階から20階までシティホテルが入居している。

21階からマンションとして建設され 分譲初日で完売となる人気物件だった。  先生が、人気不動産を抽選までして取得するはずもなく、先生の実母である料理旅館を経営している早瀬カオルが知人を介して  取得に協力した。


マンションエントランスは、21階にあり このフロアでは 住人用の様々な厚生施設、フィットネスジム 診療所などが 完備されている。もちろん、階下の商業施設も住人優待の特典があった。


新居は47階の一角にあった。


先生に連れられ 21階のエントランスで、私の認証手続きをした。 
高速エレベーターで47階まで一気に昇る。

今夜は、クリスマスイヴ。

階下の商業施設は、派手なイルミネーションでクリスマスナイトを華やかに演出している。  施設内の演劇ホールでは、クリスマスコンサートの開演前の長蛇の列。  ホテルのディナーショウ。 こけら落としは、有名な女性歌手。


マンション下のオープンカフェは、イヴの冷え込みにも、ものともしない熱い恋人達が、思い思いに愛を語り 幸せを分かち合っている。
先生は47階東南の角の重厚な木彫ドアの前で私に 

「開けて みろ…」


[カチッ]

私の顏を認証して、解錠音が聞こえた。



これから…此処が 二人の住まい。








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