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神戸にて‥発病
しおりを挟む「ミチルっ 久しぶりやん!なんで こんなとこにおるねん?」
相川君は、連れの女性にはお構いなしに私に話しかけてくる。
相川君の背後で 綺麗なその人は、私達の会話が終わるのを待っている。
「父が、この夏から、こっちに異動になってんな…そんで、戻ってきたんよ 」
相川君は、私をじっと見定めながら、私のテーブルにことわりなく座る。
(…わっ 大胆)
「レイコっ わりぃ ちょっと席で待っててくれへんか?」
さすがに彼女は、ムスッとした表情を一瞬だけ見せた。
そのあとは 直ぐ笑顔で
「ええよ…」自分達のテーブルの方へと行く。
「ミチル…東京行ってから二浪して T大の法学部へ入ったんやてなぁ 聞いてなぁ …すごいやん! おまえ」
( 相川君 自分がした事は、忘れているんだね… )
悪びれる様子も無い。
「タッチャンは 今、何してんのん?」
この展開…断ち切ることが出来ない。
「俺かぁ…おれは就職の内定もろたんでぇ、後は テキトーに遊ばんとなぁ~」
「そうなんだぁ 就職氷河期や ゆうてんのに、さすがやね 」
愛想良く答えたが、このまま このテーブルに居座りそうな勢い…。
(どうしよう)
「タッチャン…彼女、こっちみてはるよ 早く行ってあげへんと…」
私は、奥のテーブルの彼女と目が合い会釈した。
不安そうな彼女…あの日の私とだぶる。
タッチャンの彼女は、辛抱強く 彼を待っていた。
( それにしても…男の人って、好みのタイプは 変わらないんだ)
今の彼女も、あの時の彼女と雰囲気が似ている。相川君は チラッと彼女の方を見ると、
「そうやな 、久しぶりのお前があんまり綺麗…で、もっと話したかったけどなぁ しゃあないなぁ」
(タッチャン?あんたほんま、あほやな!だいたい 誰に向かって “ お前 ”呼ばわりしてんのん‼︎ ) 頭の中で 関西弁が渦巻く。
タッチャンは、去り際に躊躇しながら
「今度 二人で 会えへんか…?」
「はぁ―」 私は首を傾げる…
(何言うてんの 突然に)
「あっ…あのな 美味いお好み焼きの店…な………」
私と目が合ったタッチャンは、 ドギマギしながら誘ってきた。
(それって…彼女に対する背信行為やでぇ!アカンやろ…彼女いてんのに‼︎ )
頭では、怒り狂っていても…彼を目の前にして、私までドキドキする。 慌てて、私は…視線を泳がせた。 視線のその先――
無精髭…仕立ての良い黒のスーツ! 着崩した ジャケットの下のまっ白いシャツは 上からボタンを二つ外してる…。 ネクタイを緩めた首もとからは、太く隆起した喉仏と鎖骨筋 、あやしく艶めく生肌。
大胸筋の盛り上がりがスーツの上からも、はっきりわかる。成熟した男を主張するかのように エロスの匂いがプンプンしている。
女性なら…シャツの下を想像してしまう。まるで雑誌の表紙から、抜け出てきたかのようなひとコマ…。 周囲の視線を独り占めにしながら 私達の方に真っ直ぐ近づいて来る。何時に無く、厭味で不遜な笑が気になる。
(ったく、登場の仕方が派手すぎだよっ ただでさえ目立つのに …先生っ)
“エロフェロモン” 全開で 周りが、レストラン全体が黒崎先生の登場に 固まる。
あちこちからため息や囁きが聴こえてくる。
そんな事は先生にとっては日常茶飯事だろうが、それより真っすぐに私を見ている顔が恐い。
ずかずかと近づいてくる黒崎先生に、相川君は私に向かって座っていたせいで全く気がついていなかった。先生は 目の前のテーブルに リュックを 投げ出す。 危うくコーヒーがひっくり返るところだった。相川君の存在を全く無視し…
「メシは…?」と私に聞く。大人の癖に失礼な態度。
逢いたさに恋い焦がれていた、私の気分も吹っ飛ぶ…。
「その前に、言うべき事が あるんじゃないですか?」
私は突っ立ったままの先生を上目遣いに見据える。先生はそんな私を、フンと一瞥して なおも 言う。
「お前の せいで 仕事が山積みだ…メシ食ったら、お前の分な…朝までに仕上げて もらうからな!」
先生はそう言うと、ウエイターを呼び メニューをチョイスする。
「お前はもう食ったのか?」上から見下げながら聞く。
(バカ! 貴方をほって先に食べる訳ないじゃない…わざと厭味な態度してるんだ)
「…」私の視線が先生から相川君に移る。先生は その視線の先の相川君を見て、
「君も 一緒に どうだ?」と 、氏素姓も確かめる事なく、慇懃に誘う。
「あっ 、ありがとうございます…申し訳ありませんが 連れがいるんで…」
今の今まで、完全に無視されていた相川君は、慌てて 背後の彼女を見た。
先生は ニヤつきながら、相川君の彼女へ視線を向け
「そうか…彼女がいるなら邪魔しちゃ悪いな 、またの機会に しようか」厭らしい声色。
(ったくっ!!なんつう 人っ)
私が相川君に手こずってたのは 何だったんだ。
先生は 一言で追っ払う。
「ミチル 高校のみんなには俺から連絡しとくし…ほなまたな…」
相川君は 、先生に会釈すると、逃げるように彼女の待つ テーブルへ行った。私は、相川君の背中を目で追う。
「破れ鍋に閉じ葢ってとこか…お前も、随分と貧相な男と知り合いなんだなぁ~」
先生の毒吐きが 妙に心地好い…
私の胸深くに刺さっていた “トゲ”は、先生が簡単に抜き取ってくれた。最小侵襲の手術で…
元彼と久しぶりの再会をはたした私は、多少なりとも忘れていた失恋の痛手を思い出し 落ち込でいてもいいはずだったが、現実はそれどころではない。医学雑誌の原稿の手直しをしている。
先生の傍若無人な振る舞いは、結果的に私を救ってくれたが、原稿は溜まりに、溜まり…全部で80ページにも及んだ。
「よくもこんなに溜め込んで…」私を呆れさせる。
しかも 締め切りが (明日ぁ!?…)の、ものもある。文句が出てしまう。
(先生は 相川君の事を 知りたく無いのだろう…か…)
キーを打つ速度が落ちる。 “百万ドルの神戸の夜景”が見える窓際に
マッサージチェアを用意してもらい、そこに横たわり雑誌に目を通す 先生…低い電動音 、注意を払わないと殆ど聞こえない。
生原稿に目を通し 頭で先生の意図するところが、変わらないように 校正して 実際にキーで打ち込む。
出来上がりを プリントアウトする。
チツ チツ チツ チッィ……ーーー 印刷音が 部屋に響き、次々プリントアウトされた原稿が溜まってくる。先生は原稿の 仕上がりを 確かめる。
夜は更けていく。
仕上がり原稿に目を通し終わると、私の傍らに来て頭を撫でながら
「よし 優秀だ!成績はExcellentだ」
(クワ―ッ )私は背伸びした。
先生は座り込む私の後ろに、ピタリと張り付き、背伸びしていた私の無防備な胴体に腕を巻き付ける。いつもの “コアラポジション” 。密着してくる先生の独特の体臭にムラムラする。私は、そのポジションに身も心も全て投げ出した。
「お前と話してた 若いの…お前の 何だ?」
先生は 私の耳元で呟く…
( キタ―――ッ ヤキモチ~♪ )
「気になるんだ?」先生の回された腕を手の平で 撫でる。
先生に、五年前のいきさつを、包み隠さず 正直に話した。
がり勉で堅物で、遊びの知らない私の心は、粉々に砕けた事―
そんな仕打ちをされたのに 今夜の再会は ドキドキした事―
今の私なら タッチャンのしたこと程度なら どぅってことないと思える強さがあるって…言い張った。先生は黙って聞いていたが…
「ふっ―」と優しく微笑み・・・
「今夜は疲れた…お前の相手はまたこんど、さあ 寝るぞ!」
先生はパソコンを強制終了し 、立ち上がると 私の手を引っぱって、ベッドルームへ 連れて行く。服を脱ぎ捨て ブリーフ一枚になると一人ベッドへ先に潜り込み 、
「早くしろっ 寝ちまうぞっ!」
「あっ ヤダー 先に寝ちゃ ぁ!駄目ぇ―!駄目だってば‼︎ 私が先に寝るんだからぁ‼︎ 」
私もショーツ一枚になり、先生の横に滑り込んでスプーンポジションを取った。 裸で抱き合っても今夜に限ってエッチは無い。先生の身体から伝わる微かな心拍音に癒された。
( 二人一緒だよ この先もずっとだよ …私を裏切ったりしたら許ないからっ ‼︎ )
眠りの世界へ 落ちていく時も―いっしょ…だよ…
先生との神戸での逢瀬は 呆気なく過ぎてしまう。土曜日の夜、聚楽園の割烹でK大学医学部の向井医師と夕食を共にしていると、先生の携帯電話が振動し着信を知らせた。先生は非礼を詫び退席すると電話の主と話しだす。その間に、私は、K大学の向井先生から黒崎先生とは学生時代からの仲間で 、20年来の友人である事など、聞かされた。
「あいつ、ああ見えて淋しがりやねんな 、まあ いろいろと手の懸かる奴ですが 、お嬢さんっ!… 黒崎の事支えてやって下さい… 宜しくたのんます。」
(この先生…酔っちゃってる 頼まれても……)
「私が支えられてます―」
私の知る先生は、ほんの一部分。 世の中に先生を必要としている人、先生を知っている人が大勢いる。 私も人から必要とされる人間になりたい…
先生は、急遽大学へ戻らないといけない事になった と、向井先生に話しだす。 聚楽園から伊丹へ…最終の羽田行きの飛行機で帰京する。
私は、黒崎先生と店を後にした。タクシーに乗り込み、途中の駅で下ろして貰う事にした。先生は、私がタクシーから降車する寸前、いきなり、私の二の腕を掴むと、力任せに私を引き寄せ唇を奪った。
(タクシーの運転手さんが…見て…るよっ!)
唇を放すと熱い視線で私を見つめ………
「一緒になるか?」
(えっえっえ―――――ッ‼︎ )
私は そのあとどうやって 祖母の家に帰ってきたのか全く覚えていない。 そのまま 自分の部屋に入ってベッドに倒れ込む…。
夢心地で先生の顔を思い描く…。
(ダメだ… 好きすぎておかしくなりそう‼︎ “一緒になるか?” なるッ!なるッ!絶対なるぅ~) 頭がぼーとしだす。
魂が抜け出すように 深い睡魔が急に襲ってきた…眠りに 引きずり 込まれる…
ミチルちゃん っ ミチルちゃん……っ 遠くで お母さんの声のような… 私を 呼んでる… ミチルっ! 姉ちゃん! わけわかんない…
( 誰?誰が私を 呼んでるの?)
私は、目の前の ぼやけた状況が理解できない。
(誰の顔? お祖母ちゃん… ⁈ )
また意識が遠くに…(いっちゃう…よ…)
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