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絡む先生‥‥その魂胆

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‥‥声に出せない!

「ど アホ…かっ」

固まった視線の先に 私の背伸びした腕を捕まえた黒崎先生が厭味に笑っていた。
私は離せと体を目一杯くねらせたが 無駄な抵抗だった。


「メシ 喰うぞ!」

先生は私の腕を離し背後から器用に上半身を私の体に沿わせるように回り込むと たくみに私の唇を奪う…

甘くとろけるようなキス…


私はパソコンが膝から落ちないように抑えるのが精一杯。


「んゥん ん …」 

脳天の芯が痺れる。


パッと唇が離れた。


(~ん!もっとぉ…)
がっ、ダメ ダメ!

私の体は黒崎先生を正直に求める。

(…オペ?だった?そういえばムンと鼻をつく私の好きなセンセイだけのおやじ臭…)

…ん~

鼻腔をくすぐる…先生はうっとりしている私にはお構いなしに、職員専用のIDカードがないと入れない研究棟へ私の手を引き ずんず歩く。

片手のパソコンと参考書が 邪魔だ。
廊下の先に数人の白衣の一固まり。

「おい、手ぇ離すけど黙って 俺の後からついて来いっ よそ見すんじゃねぇぞ!」

私は先生から解き放された。

(…ちぇっ!命令だよったくぅ~)


先生の後をトボトボついて行く。私を手放した先生は、歩みの速度を落とし大学の研究者に素早く戻ってみせた。
すれ違う白衣の集団は 今をときめく有名ドクターに深々とお辞儀していく。すれ違い様に一人が…

「先生 オペでしたか?」

と、話しかけてきた。

先生が突然立ち止まるものだから、私は先生の背中に顔からぶつかり、よろけてしまった。
先生は 素早く私が倒れないように 二の腕を支え、
“チッ…”  小さな舌打ち。イライラしている。

「君達は?」


黒崎先生は私の事には構わず、白衣集団に声をかける。
  いかにも指導教官らしく…


「はい…〇〇ゼミの…今六年です」


「先生、臨床希望なんで院では是非、 先生のゼミを取りたいです! 競争率高いですが 頑張ります!よろしくお願いします」


(将来は外科志望の女医さんか…それにしても先生って、意外と人気あるんだぁ)

他の男子学生も黒崎先生のゼミがなかなか取れないとこぼす。

先生は

「頑張りなさい」
と愛想無く 答え、    再び歩きだした。私も慌てて後をついて行く。

私の耳に

『新しい秘書かな』

『何だか鈍臭そうじゃねぇ』

『シッ聴こえるぜ』

『クスクス』

(聴こえてますよ)

「何でアタシが秘書なのよっ!地獄に堕ちてもお断りっ」

私の悪態を先生は無視した。



研究棟の広い廊下の突き当たりを曲がり奥から二番目の扉にIDカ―ドを差し込む。中は四畳半ほどのこじんまりとした 空間だった。

(意外と狭い‥)

「ちょっと、待ってろ」

先生はさっとスクラブを脱ぎ、素っ裸でしかも私の前を デカ物をぶら下げながら素通りし、 脱いだスクラブを足元の脱衣かごにほうり込んだ。

私は先生の行動から目が離せない。

(ムスコ  デカっ)

あんなのが入ったら私の壊れちゃうかも…
(何ぃぃ?妄想してんだぁ私…ってば)

エレクトした代物をすりすりしたはずだけど、生で見ちゃうと迫力ある。

「おまえ さっきから俺の何ガン見してんだぁ」

先生はニヤつく


知らん顔する…


腰のゴム部分がグレーの黒いブリーフに素早く両足を通すとひといきに腰まで引き上げて  “おもむろに”  右手をブリーフの中に突っ込んだ。 モゾモゾと大きな物の位置を整えている。
お父さんと一緒だ!私は思わず 笑ってしまった。

先生は私には目もくれず 水色のシャツに袖を通しながら 机のパソコンを開いた。

電源をオンにし  片手で コ~ドレス電話のボタンを押す。
一連の動作も流れるようにさまになっている。

(格好いいおじさん…)

どこかに電話しだした。

「おいっ 昼メシ 何でもいいか?」

って…私の返事聞く前に
「あ~〇〇外科の黒崎ですっ 、出前頼んますぅ…
え~と、ラーメン二つぅっと、餃子、生ビール…」

と、言いいかけて私の目を見る。


私は、わたし?と鼻先に指さして先生がビールを飲む仕草を見せるので、オッケーサインを送った。

「生ビール 二つ」

先生は受話器を机に置くとパソコンの画面をマジ顔で見つめている。
「おまえもそっちの机で宿題済ませろっ」

(あ…知ってたのね…私のレポート…)


お恥ずかしい…

私も先生もしばらくお互いのすべき事に没頭した。


ピ~


「お 、ラーメン来たぞっ」



先生が入口まで取りに行けば、私は使ってるいる応接机を明け渡す。白衣のおじさんが、おかもちの中身を慣れた手つきで取り出しながら、
「先生 よ、今度の秘書さんえらく若いじゃないの~」

 私をジロジロと観察する。

(見るなっオヤジっ  ウザッたい!)

 ----
先生は 私の顔色をうかがって 、機嫌を損ねない前に…

(キレ時がわかるほど仲良くなっちゃったって事か…)

「あ~秘書じゃないよ、親戚の娘だ…ここの法学部の学生さ」



(そこまで言い訳がましく説明する必要が…あるんだろうか、ド素人だね…犯人も過剰に説明しすぎて墓穴ほるんだよ…センセ)

「ふ~ん、あんまり似てないけど… まあ、先生の血筋なら きっと凄腕の女弁護士さんになるんだろうね~」

(おじさんに他人だって事がバレバレだよ…センセ)

「いくら?」

先生は履き替えた チノパンの尻ポッケから くしゃくしゃの一万円札を出した。

「またぁ お釣り小銭しか持ってないや~」

先生は慌てて 

「すまん ちょっと待ってくれっ」
ロッカーの背広をガサガサしだした。

私は 
「おいくらですか?」と尋ねた。

「あっ 二千六百五十円ね」

私の財布から、きっちりお釣りが必要ないように代金を渡した。

「はい 確かに  」代金を受け取った店主は、

「さすが、法学部のエリートだね、 先生みたいなオタクとはちがうよ」

ラーメン屋のおじさんはいつも、小銭でもたつく先生になにげにいらついていたのだ。 私は 吹き出した。

「ぷッ“ オタク”  だってぇ!」


(ヤ~イヲタクゥ~)
と、心の声が先生を馬鹿にした。

(聞こえたかな?)

「食え!」

先生はビールを半分ほど飲みラーメンを啜った。 

「食えっだって ‼︎私がお金出したんだからね!」

「ぐずぐずしてたら冷めるぞ」

(勝手な奴)
私は 汁を啜った。

「あ~おいしい~」
すぐに麺に取りかかり がつっいた。
そういえばまともに食べたのは今だ。

「ここの餃子がまた美味いんだっ! おやじは…もう一つだが」

(またあんな事言って…気に入っているくせに…どんだけ偉そうなの)

お腹が落ちついた所でビールを一口飲んだ。
先生は ラ~メン鉢を持ってパソコン前に移動していた。

「先生 なに 見てるの?」

私も、ビールジョッキを持って先生が覗いている画面を見る。

(メール?)

(イギリスってか?)


先生は 何も言わないのでざっと盗み読んだ。
専門用語は解らないが、 何か 先生は探している?

先生の横に 椅子を運び 先生のパソコンのモニターをチラ見する。

(ん 芳しくない 返事かも…先生  何探しているの?症例?
  専門用語は テキトーに訳して…症例の対応かぁ…ふぅん  )

横に座っている先生を観察する。モニターを睨み 肘をついて おでこを手の平に載せる。細く長い指が 黒い髪の間をさまよう。
眉間に縦皴…が深く刻まれ、キーを素早く叩くと、相手から返事が返ってきた。
そして また、違う相手に何かを問い合わせる。
 
静まり返った先生の部屋は、マウスが カチカチ 動き回る音だけが響いていた。

「先生の症例って、遺伝子レベルの難病なんだね…」 

なにげに呟く私…
私も つい 届くメールが 開かれると、先生のモニターを覗いてしまう。先生は 別段 嫌がる風でもなく 返事を手早く打ち込んでいく作業を延々とくりかえす。

(うわっ、残りのラーメンを素早く 胃に流し込んだよ!早っ 先生 胃に悪いよ…)
医者の不養生とは、よく言ったものだ。

「おいっ  暇なら郵便物開けて 中身確認してくれっ!」

先生はせわしなく キーボードを打つ。
マウスが シャカシャカと移動しまくる。
私が郵便物を探してキョロキョロしてると 、先生は立ち上がり束を私の目の前に置いた。

(エアメールばかり…)
「今時、手紙?」


「講演の招待とか、なんやかや、通過儀礼なんだよ、だいたい問い合わせは、電子メールだがな」


こっこれ 全部?私で判るかな?」

ざっと30通ぐらいある。

「ざっとだ! ざっと 勧誘か商品宣伝か講演の案内か、 俺宛てかぐらいで いい」

先生はモニターから視線を逸らすことなく 何か打ち込みだした。

「開封するよ?いい?」
念押しした私に


「おまえ…バカ? 開けなきゃ 解らんだろったくぅ!」


モニターに向かっているのに私を バカよばわりする。

(先生が おバカだよ)

「ちょっとぉ!ハー〇ードだよっ 、学会のお誘いだよ‼︎ センセ~凄ぉぉいっ  ずっと前、サ〇デル教授の白熱Japan教室に潜り込んだんだぁ私ぃ~♪」

自慢したかった…のに、

「ったくぅ どこまでミーハーなんだ、出席してもちんぷんかんぷんだろうが…どうせ」

(チッ) 

人の話しの 腰をすぐに折る。

「ふんっ   ひねくれ者ぉっ」

先生がワードしている間も、電子メールはどんどん溜まり、開封が間に合わない。メールのなかには、怪しげな物も紛れ混んでいそうで、見ている方がハラハラする。
ボックスを開けて確認する度に私も気になり先生の顔近くに顔を寄せてモニターを見る。改行していた、指先が止まる。

「あったじゃん!」    つい声に出す私。

頭をフル回転して 英文を同時解読した!
もちろん私の頭の中で…どんなもんだと主張したが先生は片手で顎をさすりながら、私を横目で厭味ったらしくチラ見したあと意味深に、ニヤつく…

「なによっ 良かったじゃない!先生の症例に数値が近いよっ、ねっ、ほらっ」

私はモニターのグラフを指さす。

「よく みてみろ! おまえ、さ救いようないな…  “バカメダカ”」


(網にもかからないバカってこと?)

先生へのメールを読み返す。

解らない…難し過ぎる。私は先生に向かって手をヒラつかせ 

「わかんな~い」

と、わざと可愛らしい降参の言葉を口にしてみた。


「解らないなら早く郵便物の仕分けしろ!役立たず!」

「………」

何故に私が八つ当たりされなきゃいけないのか、しかも、仕事まで押し付けられ、ラーメンの代金もこのままじゃ踏み倒す勢いだ。
先生は私には見向きもせず、パソコンに集中しなにやら 論文らしき文章を作成しだした。











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