7 / 62
入院3
しおりを挟む
「お姉さ~ん、ここにいたんですか!探しましたよっ 綾野君、手術終わりましたから、麻酔が覚めるまで時間がかかりますので…今夜は観察室で過ごして貰いますね」
只野先生の濃紺のスクラブは汗の染みが浮き上がり手術が大変だったんだと思わずにはいられなかった。
「ありがとうございましたっ」
先生にご苦労様の意味も込めて深々とお辞儀を返した。
「いえ~僕なんか…それで、ですね黒崎先生はまだこの後も三件の手術あるので手術後の説明が今夜遅くか、明日になってしまうかもしれないんですよ、もし帰られるのなら…」
私は只野先生の言葉を遮り
「いえ、今夜は弟の側に付いています」
「そうですかぁ~手術はね旨くいきましたので…明日には食事も摂れるって先生が言ってましたから…お姉さんも無理しないで下さい」
只野先生は巨体を揺らしながらエレベーターホールの方へ走っていった。私は観察室へ急いだ。
「お姉さんっ綾野君順調ですよ…この感じなら今夜には お食事ゼリーとか 摂れるんじゃないですかぁ?1時間おきにお熱はかりに来ますね~」
かわいらしいナースが部屋から出ていった。
(タダシ…手術も初めてじゃ無いから慣れてるよね)
1時間おきにナースが出入りし、弟はうわごとを繰り返していた。夜遅くになると
「姉ちゃん…喉渇いた…」
弟も言葉を発するようになってきた。この後の手順はわかっている。水に侵たしたガーゼで弟の渇いた唇を湿らす。
「まだね…飲み物、 オーケー出てないのよ…ゴメンね」
私が申し訳なく弟に話すと、
「いつもより楽なんだけどなぁ…喉が渇いたなぁ…」
お腹も空いているだろうに…丸一日食べていない。
「黒崎先生は、あんたの手術してから すぐに三件も手術してるんだってぇ… よく体力もつね…」
私は手元の時計で時刻を確認した。
午後9時…ノックの後観察室の扉が開き
「あのね―綾野君っ 先生から飲み物と軽い食事オーケー出たよっ」
只野先生はスクラブから真っ白いケーシーに着替えていた。
「只野先生…今日の手術は全て終わったんですか?」
黒崎先生の事が気になってしかたがなかった。もう帰宅したのだろうか…
「はい…一応予定は終了したんですがねぇ………… 教授の方の手術が長引いてまして…その応援で…黒崎先生はまだ手術室なんですよ… おそらくね、深夜までかかりそうです…」
「お医者さんって 大変な重労働なんですね…」
朝からもう12時間以上人の命と格闘しているなんて…なんだか‘奴’がカッコイイ…皆から頼りにされている…私には横暴で強引な男でも、人の命を何人も助けてる貴重な存在なんだ……
逢いたいよ…逢いたい…逢いたい、逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい…………………………
頭の中が黒崎先生でいっぱいに埋まってきた…
「いや~ね…そうでも無いっす~綾野君も、もう大丈夫ですね!明日は元の部屋に戻れますから…」
只野先生は自分の事を尊敬されたと勘違いし謙遜しながら観察室を出て行った。
(只野先生もいつか 名医と呼ばれる存在になって下さい)
弟はゼリー飲料を二本平らげてまた眠りについた。
午後10時…消灯時間…私は手元をスタンドで照らし1階のコンビニで買った本の続きを読む。
[…三人兄弟の末っ子は 兄弟の中で一番出来が悪いが心優しく、 一人暮らしの母親はいつも 末っ子の事を気にかけていた。末っ子は仕事も旨く行かず母親にも会わす顔なく公園のベンチで途方にくれる兄弟に会いに行って母親の病気を知り…その末っ子は母親をポンコツ車に乗せて名医のいる病院まで運ぶ]…物語
涙で文字が見えなくなってきた。文字が織り成す感動的なシーンは私の琴線を激しく揺らす。私はティッシュを引っ張りだし 後から後ら出てくる涙と鼻水を拭き取りながらも本から目が離せない。
病室の扉が開いた事に気がつかないまま床に座り込み涙を拭いていた。
「どうしたッ?」
「えっ…」
聞きたくて待ち焦がれていた声…涙で先生の姿が良く見えなかった。手の甲で目を擦る。
「………」
先生は私の脇から両腕を差し入れ私を立たせた。
(…ふらつくよ センセイ…)
片手で私を支えて 自分の方に向き直らせると暗闇の中のスタンドの明かりをたよりに私の顔を覗き込んできた。
不思議そうな表情
「なにぃ?…泣いてんのか?汚ったねぇ顔だな、不細工が 余計にひでぇぞ」
(逢いたかっよぉ…)
戦場から帰還した黒崎先生の戦いの汗をたっぷり吸収したスクラブに顔をくっつけて先生のオヤジ臭を胸いっぱい吸いながら泣いていた。でも------泣きすぎて鼻が詰まって匂いが解らない。
私は汚れたスクラブの上に羽織っている先生の白衣で顔を拭き鼻をかんだ。
頭上からカエルを踏み潰したような 先生の声がした。
「おいっ…弟が起きるぞっ、静かにして付いて来い!」
先生は観察室のドアから人の気配が無いか確かめると 私を関係者以外立入禁止区域へ引きずっていった。
深夜12時もとうに過ぎていた。
只野先生の濃紺のスクラブは汗の染みが浮き上がり手術が大変だったんだと思わずにはいられなかった。
「ありがとうございましたっ」
先生にご苦労様の意味も込めて深々とお辞儀を返した。
「いえ~僕なんか…それで、ですね黒崎先生はまだこの後も三件の手術あるので手術後の説明が今夜遅くか、明日になってしまうかもしれないんですよ、もし帰られるのなら…」
私は只野先生の言葉を遮り
「いえ、今夜は弟の側に付いています」
「そうですかぁ~手術はね旨くいきましたので…明日には食事も摂れるって先生が言ってましたから…お姉さんも無理しないで下さい」
只野先生は巨体を揺らしながらエレベーターホールの方へ走っていった。私は観察室へ急いだ。
「お姉さんっ綾野君順調ですよ…この感じなら今夜には お食事ゼリーとか 摂れるんじゃないですかぁ?1時間おきにお熱はかりに来ますね~」
かわいらしいナースが部屋から出ていった。
(タダシ…手術も初めてじゃ無いから慣れてるよね)
1時間おきにナースが出入りし、弟はうわごとを繰り返していた。夜遅くになると
「姉ちゃん…喉渇いた…」
弟も言葉を発するようになってきた。この後の手順はわかっている。水に侵たしたガーゼで弟の渇いた唇を湿らす。
「まだね…飲み物、 オーケー出てないのよ…ゴメンね」
私が申し訳なく弟に話すと、
「いつもより楽なんだけどなぁ…喉が渇いたなぁ…」
お腹も空いているだろうに…丸一日食べていない。
「黒崎先生は、あんたの手術してから すぐに三件も手術してるんだってぇ… よく体力もつね…」
私は手元の時計で時刻を確認した。
午後9時…ノックの後観察室の扉が開き
「あのね―綾野君っ 先生から飲み物と軽い食事オーケー出たよっ」
只野先生はスクラブから真っ白いケーシーに着替えていた。
「只野先生…今日の手術は全て終わったんですか?」
黒崎先生の事が気になってしかたがなかった。もう帰宅したのだろうか…
「はい…一応予定は終了したんですがねぇ………… 教授の方の手術が長引いてまして…その応援で…黒崎先生はまだ手術室なんですよ… おそらくね、深夜までかかりそうです…」
「お医者さんって 大変な重労働なんですね…」
朝からもう12時間以上人の命と格闘しているなんて…なんだか‘奴’がカッコイイ…皆から頼りにされている…私には横暴で強引な男でも、人の命を何人も助けてる貴重な存在なんだ……
逢いたいよ…逢いたい…逢いたい、逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい…………………………
頭の中が黒崎先生でいっぱいに埋まってきた…
「いや~ね…そうでも無いっす~綾野君も、もう大丈夫ですね!明日は元の部屋に戻れますから…」
只野先生は自分の事を尊敬されたと勘違いし謙遜しながら観察室を出て行った。
(只野先生もいつか 名医と呼ばれる存在になって下さい)
弟はゼリー飲料を二本平らげてまた眠りについた。
午後10時…消灯時間…私は手元をスタンドで照らし1階のコンビニで買った本の続きを読む。
[…三人兄弟の末っ子は 兄弟の中で一番出来が悪いが心優しく、 一人暮らしの母親はいつも 末っ子の事を気にかけていた。末っ子は仕事も旨く行かず母親にも会わす顔なく公園のベンチで途方にくれる兄弟に会いに行って母親の病気を知り…その末っ子は母親をポンコツ車に乗せて名医のいる病院まで運ぶ]…物語
涙で文字が見えなくなってきた。文字が織り成す感動的なシーンは私の琴線を激しく揺らす。私はティッシュを引っ張りだし 後から後ら出てくる涙と鼻水を拭き取りながらも本から目が離せない。
病室の扉が開いた事に気がつかないまま床に座り込み涙を拭いていた。
「どうしたッ?」
「えっ…」
聞きたくて待ち焦がれていた声…涙で先生の姿が良く見えなかった。手の甲で目を擦る。
「………」
先生は私の脇から両腕を差し入れ私を立たせた。
(…ふらつくよ センセイ…)
片手で私を支えて 自分の方に向き直らせると暗闇の中のスタンドの明かりをたよりに私の顔を覗き込んできた。
不思議そうな表情
「なにぃ?…泣いてんのか?汚ったねぇ顔だな、不細工が 余計にひでぇぞ」
(逢いたかっよぉ…)
戦場から帰還した黒崎先生の戦いの汗をたっぷり吸収したスクラブに顔をくっつけて先生のオヤジ臭を胸いっぱい吸いながら泣いていた。でも------泣きすぎて鼻が詰まって匂いが解らない。
私は汚れたスクラブの上に羽織っている先生の白衣で顔を拭き鼻をかんだ。
頭上からカエルを踏み潰したような 先生の声がした。
「おいっ…弟が起きるぞっ、静かにして付いて来い!」
先生は観察室のドアから人の気配が無いか確かめると 私を関係者以外立入禁止区域へ引きずっていった。
深夜12時もとうに過ぎていた。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
白衣の下 拝啓、先生お元気ですか?その後いかがお過ごしでしょうか?
アーキテクト
恋愛
その後の先生 相変わらずの破茶滅茶ぶり、そんな先生を慕う人々、先生を愛してやまない人々とのホッコリしたエピソードの数々‥‥‥ 先生無茶振りやめてください‼️
人生を諦めた私へ、冷酷な産業医から最大級の溺愛を。
海月いおり
恋愛
昔からプログラミングが大好きだった黒磯由香里は、念願のプログラマーになった。しかし現実は厳しく、続く時間外勤務に翻弄される。ある日、チームメンバーの1人が鬱により退職したことによって、抱える仕事量が増えた。それが原因で今度は由香里の精神がどんどん壊れていく。
総務から産業医との面接を指示され始まる、冷酷な精神科医、日比野玲司との関わり。
日比野と関わることで、由香里は徐々に自分を取り戻す……。
My Doctor
west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生
病気系ですので、苦手な方は引き返してください。
初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです!
主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな)
妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ)
医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)
イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜
和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`)
https://twitter.com/tobari_kaoru
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに……
なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。
なぜ、私だけにこんなに執着するのか。
私は間も無く死んでしまう。
どうか、私のことは忘れて……。
だから私は、あえて言うの。
バイバイって。
死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。
<登場人物>
矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望
悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司
山田:清に仕えるスーパー執事
お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
4人の王子に囲まれて
*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。
4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって……
4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー!
鈴木結衣(Yui Suzuki)
高1 156cm 39kg
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。
母の再婚によって4人の義兄ができる。
矢神 琉生(Ryusei yagami)
26歳 178cm
結衣の義兄の長男。
面倒見がよく優しい。
近くのクリニックの先生をしている。
矢神 秀(Shu yagami)
24歳 172cm
結衣の義兄の次男。
優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。
結衣と大雅が通うS高の数学教師。
矢神 瑛斗(Eito yagami)
22歳 177cm
結衣の義兄の三男。
優しいけどちょっぴりSな一面も!?
今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。
矢神 大雅(Taiga yagami)
高3 182cm
結衣の義兄の四男。
学校からも目をつけられているヤンキー。
結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。
*注 医療の知識等はございません。
ご了承くださいませ。
好きだった幼馴染に出会ったらイケメンドクターだった!?
すず。
恋愛
体調を崩してしまった私
社会人 26歳 佐藤鈴音(すずね)
診察室にいた医師は2つ年上の
幼馴染だった!?
診察室に居た医師(鈴音と幼馴染)
内科医 28歳 桐生慶太(けいた)
※お話に出てくるものは全て空想です
現実世界とは何も関係ないです
※治療法、病気知識ほぼなく書かせて頂きます
冷たい外科医の心を溶かしたのは
みずほ
恋愛
冷たい外科医と天然万年脳内お花畑ちゃんの、年齢差ラブコメです。
《あらすじ》
都心の二次救急病院で外科医師として働く永崎彰人。夜間当直中、急アルとして診た患者が突然自分の妹だと名乗り、まさかの波乱しかない同居生活がスタート。悠々自適な30代独身ライフに割り込んできた、自称妹に振り回される日々。
アホ女相手に恋愛なんて絶対したくない冷たい外科医vsネジが2、3本吹っ飛んだ自己肯定感の塊、タフなポジティブガール。
ラブよりもコメディ寄りかもしれません。ずっとドタバタしてます。
元々ベリカに掲載していました。
昔書いた作品でツッコミどころ満載のお話ですが、サクッと読めるので何かの片手間にお読み頂ければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる