OVER-DRIVE

陽芹孝介

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第十九話 疑問と昔話

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  ロック・ハーネストの戦闘介入により、窮地を脱したドレル13世は、無事アデルにて会談を終える事ができた。
  アデルの右大臣……アドリア・ゼラフとの戦後を見据えた会談に、ドレル13世は胸を熱くした。
  高揚感の残るまま、ドレル13世はアデル会議室を後にし、本部の外廊で自分の衛兵と共に風に吹かれていた。
 「あのアドリア・ゼラフという男……中々の男じゃな……」
  ドレル13世の言葉に、衛兵は頷いた。
 「はっ!噂通りの穏健派でございました」
  ドレル13世は頷いた。
 「うむ……しかし、それだけではないぞ。この戦争の結果で、アデルの勢力圏は劇的に拡大する。しかしそれは、それらを纏め上げるのが困難だともいえる」
 「各国の信仰、文化は様々ですから」
  衛兵の言葉に、ゼラフは頷いた。
 「その通りじゃ……。しかし、あの男は武力でそれを支配せずに『法』により管理すると言いよった」
 「そのような事が可能なのでしょうか?」
 「アデルの法を押し付ければ、不可能じゃ……」
  ドレル13世は遠くを見据えた。
 「しかしあの男は「アデルで新法は制定するが、各国の行政はこれまで通り、各国で管理する」……。このような事を誰が発想しようか?」
  ドレル13世は両腕を腰の後ろで組んだ。
 「つまり自治権を尊重すると言うことじゃ……。法で支配するからこそ出来る、融和政策じゃ……これでは反対しようがないのぉ」
  衛兵も頷いた。
 「複雑なわだかまりが晴れたようです」
 「それも、あのアドリア・ゼラフの魅力なのかもしれんなぁ。しかも我々の命を救ったあの少年の師匠は、アドリア・ゼラフの弟らしいではないか……」
 「はっ!……弟君に命を救われ、兄君に感銘を受ける……。素晴らしい兄弟です」
  するとドレル13世と衛兵の背後に、誰か現れた。
 「おおっ!お主はっ!」
  現れたのはロック・ハーネストだった。
  ドレル13世はロックに礼をした。
 「先程は窮地を救ってもらい、かたじけない……」
  ロックはドレル13世と衛兵を、じっと見据えた。
  二人を見据えるその目は鋭く尖っていたが、その瞳の奥にどこか温かさも感じる。
  ドレル13世とは対照的に、衛兵はロックに対して少し怯んだ。
 「し、しかし……君のような少年が、あのアデル十傑とは……」
  するとロックはようやく口を開いた。
 「俺には政治の事はわからねぇ……。ただアイツが救えと言ったから救った」
  ドレル13世は優しい表情で言った。
 「アイツとは……右大臣の弟君の事かのぉ?」
  ロックは返事をしなかったが、ドレル13世は続けた。
 「お主のような少年が、命を賭けて儂を助けてくれるとはのぉ……。その弟君によほどの忠誠があるのじゃな」
  するとロックは不敵に笑った。
 「クククッ……忠誠?そんなもん俺にはねぇよ」
  ロックの不敵な笑いに、ドレル13世は目を丸くした。
 「では何故?」
 「アイツのためでも……ましてやアンタ個人の命を救うために、俺は剣を振るってるんじゃねぇ……」
  ロックは不敵な笑みを止めて、ドレル13世を見据えた。
 「俺は……『俺の大事な物』を守る為に、剣を振るってるんだ」
  そう言い張るロックの目は、真の通った力強い目だった。


  ……ドレル宮殿……

  アシャに昔話をしたドレル13世は、懐かしんだ表情をしていた。
 「あの時のハーネストの言葉の真意は、わからなかったが……。奴の今を見れば、何となくじゃが、わかった気がするのぉ」
  話を聞いたアシャは、感慨深い表情で黙っている。
  ドレル13世は続けた。
 「奴は『奴の価値観』で剣を振るってる……って事じゃろ。そして現在は、何のしがらみもなくな……」
  アシャは呟いた。
 「殿……」
  ドレル13世はアシャを見据えた。
 「結婚式は来月にでも宮殿で行う事にした……。テロに屈する訳にもいかんし、もう奴らが攻めてくる心配もないじゃろ」
  アシャは安堵の表情をした。
 「それはようございました」
 「アシャよ」
 「はっ!」
 「これでお前のしがらみも……なくなった……」
  アシャは思わず畏まった。
 「殿……その話は……」
 「そろそろ自分のために剣を振るってもいいのではないか?」
  アシャの表情は険しい。
 「あの男について行けと?」
 「そうとは言っておらんが……。ハーネストは己に正直じゃぞ」
  アシャは腰に掛けていた剣の柄を握り、再び険しい表情をした。
 (殿はあの男に何かを感じておられる……。私も確める必要があるのか)


  ……ウィングフリースペース……

  飛空挺ウィングのフリースペースでは、ロックとジン、ユイが何やら話し込んでいた。
 「ギルは何処行ったんだ?」
 「ボランティアだ。宮殿で負傷者の治療にあたっているぞ」
 ロックの問にそう答えるジンに、ロックは微笑した。
 「そっか……。良いことじゃねぇけど……アイツの力が役にたってんだな」
 「ガラは悪いけど、医者だもんね……」
  ユイがそう言うと、ジンはエリスの話をしだした。
 「それにしても……ますます謎だな。エリスの能力は」
 「ああ……俺も意識が朦朧としていたからな」
  険しい表情のロックに、ユイが言った。
 「生き返った敵が……また死んだなんて……。信じらんないよ」
 「そもそも生き返ったって事が不思議だ」
  ジンの言葉にロックが反応した。
 「それに関しては……気になる事がある」
  ジンは目を丸くした。
 「なんだ?」
 「『蛇』の野郎……眼が『赤かった』んだよ……」
  ユイは目を見開いた。
 「それって……」
  ロックは渋い表情をした。
 「ああ……。エリスと同じだ」
  ジンは言った。
 「それは……本当か?」
  ロックは頷いた。
 「ああ……。昔戦り合った時には、あんな眼の色じゃなかった」
  ユイが言った。
 「どういう事?」
 「野郎の眼は……昔俺が潰したんだ。あの傷は俺が付けたもんだ」
  ロックは続けた。
 「それに昔の野郎は確かに強かったが……あんな動きはしなかった。あの……瞬間移動みてぇなよ……」
  ジンが言った。
 「お前が言いたいのは……その眼が関係していると?」
 「だとすれば……辻褄が合う」
  ロックとジンの話に、ユイは身震いした。
 「じゃ、じゃぁ……誰かの眼を盗ったって事?」
  ユイの言葉に、二人は思わず黙ってしまった。
  誰かの赤い眼を奪って、それを自分に移植した……。考えただけでも常軌を逸した行動だ。
  しばらくフリースペースは沈黙に包まれたが、やがてジンが口を開いた。
 「つまり……エリスの力も、その眼によるものだというのか?」
  ロックは頷いた。
 「そんな気がするよ……。エリスの力は誰よりも優しい力と思っていたが、錬金術だけで片付けられねぇのかもな……」
  ジンは顎を撫でた。
 「それはどうだろうか……」
  ロックは怪訝な表情をした。
 「なんでだ?」
 「錬金術は、錬成陣を身体に宿せば……錬成陣を新たに画かなくても、発動できる」
  ロックは目を見開いた。
 「ジン……お前……」
 「その赤い眼に錬成陣が宿っていれば?」
  ユイも目を見開いた。
 「術が発動できる」
  ジンは肩の力を抜いた。
 「まぁ、あの力が錬金術だったらの話だが……。どちらにせよ確める必要はある」
  ユイは怪訝な表情をした。
 「どうやって?」
  ジンはロックに言った。
 「エリスの力は、まるで命を司ったようだ」
  ロックはハッとした表情をした。
 「ジン……テメェ……」
 「私とお前は、命を司った錬金術を研究していた奴を知っているだろ?」
  ジンのしてやったりとした表情に、ロックはげんなりした。
 「元アデル十傑にして、最強の錬金術師……」
  ジンは二人に言った。
 「『リリー・リンガード』……この世の錬金術を極めた者……」
  ロックは言った。
 「でも、アイツの居場所なんてわかんねぇぞ……」
  ジンは不敵に笑った。
 「次の目的地は『ダルム神殿』だ。奴に関する情報が得られるかもしれん」
  ロックは立ち上がった。
 「元々の目的地だからな……。奴に会うのは気が進まねぇが……仕方ねぇな」
  するとジンは何かを思い出したかのように言った。
 「ところで……ジュノスは何処に行った?」
  ロックとユイは目を丸くして、互いを見合わせた。
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