58 / 71
第十六話 賞金稼ぎと剣士の国ドレル
③
しおりを挟む
ロックに逃げられたアシャは、ドレル城すぐそばにある、ドレル騎士団屯所に戻っていた。
「あの男……何者なんだ?」
ロックと剣を合わせたアシャは、屯所に飾ってある剣と盾を睨み付けながら、戸惑っていた。
見た目とは裏腹に、自分の放つ剣をことごとく防いだロックの剣技は見事だったのだ。
「アシャ様から逃げ切るなんて……あの青頭、只者じゃないですね」
部下も真剣な表情をしている。
すると屯所に誰が現れた。
「アシャはいるか?」
やって来たのは男性で、キリッとした顔立ちに、綺麗な法衣の様なものを纏った……いかにも育ちの良さそうな、若者だった。
男性の登場により、アシャとその部下は、サッと立ち上がり、男性に向かってひざまづいた。
「若っ!……わざわざこのような処に……」
アシャに若と呼ばれる、この品のある男性は、ケリー・ドレル……つまり現ドレルの首長、ドレル13世の息子であり、ドレルの王子だ。
「そう畏まるな……面を上げよ……」
ケリーはアシャ達にそう言うと、アシャはスッと顔を上げた。
「はっ!」
アシャはケリーに言った。
「若……姫様の婚礼の準備で、御忙しい身であられるというのに……」
ケリーはアシャに微笑んだ。
「フッ……だからこそ顔を出しに来たのだ。それに聞いたぞ……街で刀を持った男と、一悶着あったそうだな」
アシャは恐縮した。
「はっ!取り逃がしてしまい……面目ないしだいです」
部下が言った。
「指名手配の準備をしております。特徴的な髪の色をしておりますので……すぐに捕まるでしょう……」
ケリーは顎に手をやった。
「ふむ……特徴的な色?」
アシャが言った。
「青い頭の……チャラチャラとした男です。そのような者が崇高な刀を持つとは……許すまじき事です……」
ケリーは呆れた様子で言った。
「お前は相変わらず、侍の事となると見境がないな……」
アシャは誇らしげに言った。
「はっ!私はこの国のためを第一としておりますが……侍とはその最たる者であり、我が目標でありますっ!」
ケリーは再び微笑んだ。
「フッ……お前のそういう所が、信頼できる所だ……」
「明日には捕らえて見せましょうぞ……」
アシャとケリーが話をしていると、屯所に声が届いた。
「その必要は、ねぇでさぁ……」
ケリーは屯所に現れた声の主に、目を見開いた。
「これは……ジュノス殿……」
やって来たのはジュノスだった。
「お久しぶりですねぇ……ケリー王子殿……それにアシャ殿も……」
どうやらジュノスは、この二人と顔馴染みのようだ。
アシャはジュノスに一礼をした。
「ジュノス殿……お久しぶりです。しかし何故ここに?」
「ボスの命令でさぁ……」
ケリーが言った。
「我が妹の結婚前夜祭に関わる事ですね……。情報によるとテロリストも入港しているそうですが……」
「まぁ……そういう事です……」
アシャが言った。
「ところで先程の「必要はない」とは?」
ジュノスは苦笑いした。
「その青頭の不審者は……俺の先輩なんでさぁ……」
アシャは目を丸くした。
「なんとっ!それは真か?」
「特徴的な頭ですからねぇ……。それにアンタ程の手練れから逃げたとなると……ロック先輩しかいねぇでさぁ……」
ジュノスがそう言うと、ケリーは目を丸くした。
「ロック……ひょっとして……ロック・ハーネスト殿では?」
ジュノスが黙って頷くと、アシャが驚いた様子で言った。
「ロック・ハーネスト……あの人喰いの?」
ケリーは怪訝な表情でジュノスに言った。
「しかし……ジュノス殿はともかく、何故蒼鬼殿がここドレルに?退役されたと聞いたが……」
「先輩……今は飛空挺乗りでして……。補給にドレルに寄ったみてぇで……まぁついでに賞金稼ぎするみたいですけど」
アシャが言った。
「飛空挺乗りを?……それにしてもあの男が、人喰いの蒼鬼とは……信じられぬ……」
ジュノスは苦笑いした。
「見てくれも、あんなんですからね……」
アシャの表情は険しくなった。
(それもそうだが……あの男には『気』が感じられなかった……)
「つぅわけで……先輩は放っておいても大丈夫でさぁ……。まぁあの人が、何かやらかしたら、俺とこに連絡をくだせぇ。じゃ俺はこれで……前夜祭で会いやしょう……」
ジュノスはそう言うと、屯所を後にした。
ケリーはアシャに言った。
「ジュノス殿が警備に助力してくれるのなら……これほど心強い事はないな……」
「はっ!……しかし我々騎士団も負けてられませぬ」
ケリーは微笑んだ。
「フッ……そうだな……。期待しているぞ、アシャ……」
アシャは背筋を伸ばして、ケリーに敬礼した。
「はっ!有り難き御言葉っ!」
……飛空挺ウィング……
ウィングに残ったギルは自室で一人、エルサ草や他の薬品の手入れをしていた。
「大方の薬は揃ったが……もう少しいる物があるなぁ……」
ギルは立ち上がって深く溜め息をついた。
「ふぅ……俺もアイツらについてきゃよかったな……」
すると部屋のドアから、コンコンとノックがし、ジンが部屋に入ってきた。
「少しいいか?」
珍しい客に、ギルは少し戸惑った。
「なんだぁ?珍しいなぁ……なんの用だ?」
「先程バルバル夫婦から、情報が入ってな……」
ギルは怪訝な表情をした。
「情報だぁ?」
「ああ……それも穏やかでない情報だ」
「まぁ、適当なところに座れよ」
ギルに促されたジンは、ギルのデスクの椅子に座った。
ギルは自分のベットに腰をかけた。
「で?なんだよ、その情報って……」
ジンは軽く顎を撫でた。
「我々や賞金稼ぎ……賞金首の他に……。多くのテロリストが入港してるらしい……」
ギルの表情は険しくなった。
「テロリストだぁ?」
ジンは頷いた。
「テロリストが入港しているのは、手配書で知ってはいたが……どうも団体で来て
いるようだ」
「つまり……祭典に乗じて、大規模なテロが起こると?」
「可能性はあるな……。その情報ありきで、ノイアー将軍はジュノスを我々に同行させたのだろう」
ギルはしかめっ面をした。
「気に入らねぇな……。で?なんで俺にその話を?」
「お前は医者として、事態に備えて準備をしておいてくれ」
ギルは目を丸くした……それはジンの口からそのような言葉が出るとは、思ってもみなかったからだ。
ギルのジンに対する印象は、研究にしか興味のない変人……そういった印象だったからだ。
目を丸くするギルに、ジンは怪訝な表情になった。
「どうした?目を丸くして?」
ギルは微笑した。
「へっ……テメェ……そんなキャラだったか?」
ジンは怪訝な表情のまま、椅子から立ち上がった。
「何を言っている?……とにかく伝えたからな……」
ジンはそう言うと、ギルの部屋を後にした。
「変わり者が多い船だ……。まぁ、俺も相当だが……」
一方……ドレル騎士団から警戒しつつ、必要な物を買い揃えたロックとエリスは、あまり街をうろつかずに、飛空挺ウィングに戻っていた。
フリースペースにはユイと、バルバル夫婦がおり、それぞれくつろいでいた。
ロックが帰ってくるなり、リキはロックに街の様子を聞いた。
「どうだった街は?」
ロックはしかめっ面でリキに言った。
「どうもこうもねぇよ……。危うく俺らがしょっぴかれるところだったぜ」
エリスも疲れた表情で言った。
「前夜祭当日まで大人しくしとくしかないわ……」
ユイは顔をひきつらせた。
「留守番してて良かった……」
リキが言った。
「俺らもさっきまで、街に出てたが……どうも様子がおかしい」
ロックは怪訝な表情をした。
「どういう事だ?」
カレンが代わりに答えた。
「騎士団やハンターは、そこらをブラついてたんだけど……。肝心の獲物はナリを潜めてねぇ……」
エリスが言った。
「それが普通じゃないの?」
リキが言った。
「確かに目立った行動はしねぇが……。それにしても気配がなさすぎる」
リキの表情は険しく、何かを感じ取っているようだった。
ロックが言った。
「確かに暗殺者共はそれぞれが個性的だからな……。それが足並み揃えてナリを潜めてるってのは……解せねぇなぁ……」
ユイが言った。
「そもそも暗殺者なんて来てないんじゃないの?」
カレンは呆れた様子で言った。
「だとすればアタイらは商売あがったりさ……」
エリスは不安な面持ちでロックを見た。
「ロック……」
そんなエリスの不安な面持ちを、ロックは笑って流した。
「へっ……当日になりゃわかんだろ」
……とある地下室……
正方形の薄暗いとある地下室は、殺伐としていた。
その部屋には物のなく、殺伐と表現するより、シンプルと言った方が良かったのかも知れないが……。
部屋の奥に座る一人の人物が、その殺伐さを象徴していた。
薄暗い部屋に溶け込むようなその人物の風貌は……フード付きの黒いマントを覆っており、それだけで堅気の者では無いことがわかる。
「首尾は……どうですか?」
誰もいないはずの部屋に、その人物が語りかけると、何処からか返事が返ってきた。
「問題なく……」
黒マントは返事を確認すると、語りを続けた。
「暗殺者共を纏めるのは、骨が折れますね……」
するとまた何処からか返事が返ってきた。
「はっ!……しかし奴らも、こう警備が厳重ですと、こちらに従わざるおえないので」
ここから暫くこの黒マントとの会話が続く。
「フフフ……それが我々の狙いですからね……」
「奴らは我の強い連中です……個々で行動すれば、必ず綻びがでますから……」
「それが……纏まっているために、綻びがでない……。ドレルもアデルも困惑しているでしょう」
黒マントは不気味に笑った。
「フフフ……暗殺者は自分の業に拘りを持ち、それを自己満足に披露しますからね……。それがまさか策に講じるとは思わないでしょう……」
「全ては貴方様の計画通りに……」
「しかし計画通りにいかない事もあります……。まぁ私はそれを期待しているのですが……」
「お戯れを……」
「フフフ……そう言わないで下さい……。引き続きよろしくお願いしますよ」
「はっ!……この世の理のために……」
「あの男……何者なんだ?」
ロックと剣を合わせたアシャは、屯所に飾ってある剣と盾を睨み付けながら、戸惑っていた。
見た目とは裏腹に、自分の放つ剣をことごとく防いだロックの剣技は見事だったのだ。
「アシャ様から逃げ切るなんて……あの青頭、只者じゃないですね」
部下も真剣な表情をしている。
すると屯所に誰が現れた。
「アシャはいるか?」
やって来たのは男性で、キリッとした顔立ちに、綺麗な法衣の様なものを纏った……いかにも育ちの良さそうな、若者だった。
男性の登場により、アシャとその部下は、サッと立ち上がり、男性に向かってひざまづいた。
「若っ!……わざわざこのような処に……」
アシャに若と呼ばれる、この品のある男性は、ケリー・ドレル……つまり現ドレルの首長、ドレル13世の息子であり、ドレルの王子だ。
「そう畏まるな……面を上げよ……」
ケリーはアシャ達にそう言うと、アシャはスッと顔を上げた。
「はっ!」
アシャはケリーに言った。
「若……姫様の婚礼の準備で、御忙しい身であられるというのに……」
ケリーはアシャに微笑んだ。
「フッ……だからこそ顔を出しに来たのだ。それに聞いたぞ……街で刀を持った男と、一悶着あったそうだな」
アシャは恐縮した。
「はっ!取り逃がしてしまい……面目ないしだいです」
部下が言った。
「指名手配の準備をしております。特徴的な髪の色をしておりますので……すぐに捕まるでしょう……」
ケリーは顎に手をやった。
「ふむ……特徴的な色?」
アシャが言った。
「青い頭の……チャラチャラとした男です。そのような者が崇高な刀を持つとは……許すまじき事です……」
ケリーは呆れた様子で言った。
「お前は相変わらず、侍の事となると見境がないな……」
アシャは誇らしげに言った。
「はっ!私はこの国のためを第一としておりますが……侍とはその最たる者であり、我が目標でありますっ!」
ケリーは再び微笑んだ。
「フッ……お前のそういう所が、信頼できる所だ……」
「明日には捕らえて見せましょうぞ……」
アシャとケリーが話をしていると、屯所に声が届いた。
「その必要は、ねぇでさぁ……」
ケリーは屯所に現れた声の主に、目を見開いた。
「これは……ジュノス殿……」
やって来たのはジュノスだった。
「お久しぶりですねぇ……ケリー王子殿……それにアシャ殿も……」
どうやらジュノスは、この二人と顔馴染みのようだ。
アシャはジュノスに一礼をした。
「ジュノス殿……お久しぶりです。しかし何故ここに?」
「ボスの命令でさぁ……」
ケリーが言った。
「我が妹の結婚前夜祭に関わる事ですね……。情報によるとテロリストも入港しているそうですが……」
「まぁ……そういう事です……」
アシャが言った。
「ところで先程の「必要はない」とは?」
ジュノスは苦笑いした。
「その青頭の不審者は……俺の先輩なんでさぁ……」
アシャは目を丸くした。
「なんとっ!それは真か?」
「特徴的な頭ですからねぇ……。それにアンタ程の手練れから逃げたとなると……ロック先輩しかいねぇでさぁ……」
ジュノスがそう言うと、ケリーは目を丸くした。
「ロック……ひょっとして……ロック・ハーネスト殿では?」
ジュノスが黙って頷くと、アシャが驚いた様子で言った。
「ロック・ハーネスト……あの人喰いの?」
ケリーは怪訝な表情でジュノスに言った。
「しかし……ジュノス殿はともかく、何故蒼鬼殿がここドレルに?退役されたと聞いたが……」
「先輩……今は飛空挺乗りでして……。補給にドレルに寄ったみてぇで……まぁついでに賞金稼ぎするみたいですけど」
アシャが言った。
「飛空挺乗りを?……それにしてもあの男が、人喰いの蒼鬼とは……信じられぬ……」
ジュノスは苦笑いした。
「見てくれも、あんなんですからね……」
アシャの表情は険しくなった。
(それもそうだが……あの男には『気』が感じられなかった……)
「つぅわけで……先輩は放っておいても大丈夫でさぁ……。まぁあの人が、何かやらかしたら、俺とこに連絡をくだせぇ。じゃ俺はこれで……前夜祭で会いやしょう……」
ジュノスはそう言うと、屯所を後にした。
ケリーはアシャに言った。
「ジュノス殿が警備に助力してくれるのなら……これほど心強い事はないな……」
「はっ!……しかし我々騎士団も負けてられませぬ」
ケリーは微笑んだ。
「フッ……そうだな……。期待しているぞ、アシャ……」
アシャは背筋を伸ばして、ケリーに敬礼した。
「はっ!有り難き御言葉っ!」
……飛空挺ウィング……
ウィングに残ったギルは自室で一人、エルサ草や他の薬品の手入れをしていた。
「大方の薬は揃ったが……もう少しいる物があるなぁ……」
ギルは立ち上がって深く溜め息をついた。
「ふぅ……俺もアイツらについてきゃよかったな……」
すると部屋のドアから、コンコンとノックがし、ジンが部屋に入ってきた。
「少しいいか?」
珍しい客に、ギルは少し戸惑った。
「なんだぁ?珍しいなぁ……なんの用だ?」
「先程バルバル夫婦から、情報が入ってな……」
ギルは怪訝な表情をした。
「情報だぁ?」
「ああ……それも穏やかでない情報だ」
「まぁ、適当なところに座れよ」
ギルに促されたジンは、ギルのデスクの椅子に座った。
ギルは自分のベットに腰をかけた。
「で?なんだよ、その情報って……」
ジンは軽く顎を撫でた。
「我々や賞金稼ぎ……賞金首の他に……。多くのテロリストが入港してるらしい……」
ギルの表情は険しくなった。
「テロリストだぁ?」
ジンは頷いた。
「テロリストが入港しているのは、手配書で知ってはいたが……どうも団体で来て
いるようだ」
「つまり……祭典に乗じて、大規模なテロが起こると?」
「可能性はあるな……。その情報ありきで、ノイアー将軍はジュノスを我々に同行させたのだろう」
ギルはしかめっ面をした。
「気に入らねぇな……。で?なんで俺にその話を?」
「お前は医者として、事態に備えて準備をしておいてくれ」
ギルは目を丸くした……それはジンの口からそのような言葉が出るとは、思ってもみなかったからだ。
ギルのジンに対する印象は、研究にしか興味のない変人……そういった印象だったからだ。
目を丸くするギルに、ジンは怪訝な表情になった。
「どうした?目を丸くして?」
ギルは微笑した。
「へっ……テメェ……そんなキャラだったか?」
ジンは怪訝な表情のまま、椅子から立ち上がった。
「何を言っている?……とにかく伝えたからな……」
ジンはそう言うと、ギルの部屋を後にした。
「変わり者が多い船だ……。まぁ、俺も相当だが……」
一方……ドレル騎士団から警戒しつつ、必要な物を買い揃えたロックとエリスは、あまり街をうろつかずに、飛空挺ウィングに戻っていた。
フリースペースにはユイと、バルバル夫婦がおり、それぞれくつろいでいた。
ロックが帰ってくるなり、リキはロックに街の様子を聞いた。
「どうだった街は?」
ロックはしかめっ面でリキに言った。
「どうもこうもねぇよ……。危うく俺らがしょっぴかれるところだったぜ」
エリスも疲れた表情で言った。
「前夜祭当日まで大人しくしとくしかないわ……」
ユイは顔をひきつらせた。
「留守番してて良かった……」
リキが言った。
「俺らもさっきまで、街に出てたが……どうも様子がおかしい」
ロックは怪訝な表情をした。
「どういう事だ?」
カレンが代わりに答えた。
「騎士団やハンターは、そこらをブラついてたんだけど……。肝心の獲物はナリを潜めてねぇ……」
エリスが言った。
「それが普通じゃないの?」
リキが言った。
「確かに目立った行動はしねぇが……。それにしても気配がなさすぎる」
リキの表情は険しく、何かを感じ取っているようだった。
ロックが言った。
「確かに暗殺者共はそれぞれが個性的だからな……。それが足並み揃えてナリを潜めてるってのは……解せねぇなぁ……」
ユイが言った。
「そもそも暗殺者なんて来てないんじゃないの?」
カレンは呆れた様子で言った。
「だとすればアタイらは商売あがったりさ……」
エリスは不安な面持ちでロックを見た。
「ロック……」
そんなエリスの不安な面持ちを、ロックは笑って流した。
「へっ……当日になりゃわかんだろ」
……とある地下室……
正方形の薄暗いとある地下室は、殺伐としていた。
その部屋には物のなく、殺伐と表現するより、シンプルと言った方が良かったのかも知れないが……。
部屋の奥に座る一人の人物が、その殺伐さを象徴していた。
薄暗い部屋に溶け込むようなその人物の風貌は……フード付きの黒いマントを覆っており、それだけで堅気の者では無いことがわかる。
「首尾は……どうですか?」
誰もいないはずの部屋に、その人物が語りかけると、何処からか返事が返ってきた。
「問題なく……」
黒マントは返事を確認すると、語りを続けた。
「暗殺者共を纏めるのは、骨が折れますね……」
するとまた何処からか返事が返ってきた。
「はっ!……しかし奴らも、こう警備が厳重ですと、こちらに従わざるおえないので」
ここから暫くこの黒マントとの会話が続く。
「フフフ……それが我々の狙いですからね……」
「奴らは我の強い連中です……個々で行動すれば、必ず綻びがでますから……」
「それが……纏まっているために、綻びがでない……。ドレルもアデルも困惑しているでしょう」
黒マントは不気味に笑った。
「フフフ……暗殺者は自分の業に拘りを持ち、それを自己満足に披露しますからね……。それがまさか策に講じるとは思わないでしょう……」
「全ては貴方様の計画通りに……」
「しかし計画通りにいかない事もあります……。まぁ私はそれを期待しているのですが……」
「お戯れを……」
「フフフ……そう言わないで下さい……。引き続きよろしくお願いしますよ」
「はっ!……この世の理のために……」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でもある時、マリアは、妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる