OVER-DRIVE

陽芹孝介

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第十六話 賞金稼ぎと剣士の国ドレル

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  ロックに逃げられたアシャは、ドレル城すぐそばにある、ドレル騎士団屯所に戻っていた。
 「あの男……何者なんだ?」
  ロックと剣を合わせたアシャは、屯所に飾ってある剣と盾を睨み付けながら、戸惑っていた。
  見た目とは裏腹に、自分の放つ剣をことごとく防いだロックの剣技は見事だったのだ。
 「アシャ様から逃げ切るなんて……あの青頭、只者じゃないですね」
  部下も真剣な表情をしている。
  すると屯所に誰が現れた。
 「アシャはいるか?」
  やって来たのは男性で、キリッとした顔立ちに、綺麗な法衣の様なものを纏った……いかにも育ちの良さそうな、若者だった。
  男性の登場により、アシャとその部下は、サッと立ち上がり、男性に向かってひざまづいた。
 「若っ!……わざわざこのような処に……」
  アシャに若と呼ばれる、この品のある男性は、ケリー・ドレル……つまり現ドレルの首長、ドレル13世の息子であり、ドレルの王子だ。
 「そう畏まるな……面を上げよ……」
   ケリーはアシャ達にそう言うと、アシャはスッと顔を上げた。
 「はっ!」
  アシャはケリーに言った。
 「若……姫様の婚礼の準備で、御忙しい身であられるというのに……」
  ケリーはアシャに微笑んだ。
 「フッ……だからこそ顔を出しに来たのだ。それに聞いたぞ……街で刀を持った男と、一悶着あったそうだな」
  アシャは恐縮した。
 「はっ!取り逃がしてしまい……面目ないしだいです」
  部下が言った。
 「指名手配の準備をしております。特徴的な髪の色をしておりますので……すぐに捕まるでしょう……」
  ケリーは顎に手をやった。
 「ふむ……特徴的な色?」
  アシャが言った。
 「青い頭の……チャラチャラとした男です。そのような者が崇高な刀を持つとは……許すまじき事です……」
  ケリーは呆れた様子で言った。
 「お前は相変わらず、侍の事となると見境がないな……」
  アシャは誇らしげに言った。
 「はっ!私はこの国のためを第一としておりますが……侍とはその最たる者であり、我が目標でありますっ!」
  ケリーは再び微笑んだ。
 「フッ……お前のそういう所が、信頼できる所だ……」
 「明日には捕らえて見せましょうぞ……」
  アシャとケリーが話をしていると、屯所に声が届いた。
 「その必要は、ねぇでさぁ……」
  ケリーは屯所に現れた声の主に、目を見開いた。
 「これは……ジュノス殿……」
  やって来たのはジュノスだった。
 「お久しぶりですねぇ……ケリー王子殿……それにアシャ殿も……」
  どうやらジュノスは、この二人と顔馴染みのようだ。
  アシャはジュノスに一礼をした。
 「ジュノス殿……お久しぶりです。しかし何故ここに?」
 「ボスの命令でさぁ……」
  ケリーが言った。
 「我が妹の結婚前夜祭に関わる事ですね……。情報によるとテロリストも入港しているそうですが……」
 「まぁ……そういう事です……」
  アシャが言った。
 「ところで先程の「必要はない」とは?」
  ジュノスは苦笑いした。
 「その青頭の不審者は……俺の先輩なんでさぁ……」
  アシャは目を丸くした。
 「なんとっ!それは真か?」
 「特徴的な頭ですからねぇ……。それにアンタ程の手練れから逃げたとなると……ロック先輩しかいねぇでさぁ……」
  ジュノスがそう言うと、ケリーは目を丸くした。
 「ロック……ひょっとして……ロック・ハーネスト殿では?」
  ジュノスが黙って頷くと、アシャが驚いた様子で言った。
 「ロック・ハーネスト……あの人喰いの?」
  ケリーは怪訝な表情でジュノスに言った。
 「しかし……ジュノス殿はともかく、何故蒼鬼殿がここドレルに?退役されたと聞いたが……」
 「先輩……今は飛空挺乗りでして……。補給にドレルに寄ったみてぇで……まぁついでに賞金稼ぎするみたいですけど」
  アシャが言った。
 「飛空挺乗りを?……それにしてもあの男が、人喰いの蒼鬼とは……信じられぬ……」
  ジュノスは苦笑いした。
 「見てくれも、あんなんですからね……」
  アシャの表情は険しくなった。
 (それもそうだが……あの男には『気』が感じられなかった……)
 「つぅわけで……先輩は放っておいても大丈夫でさぁ……。まぁあの人が、何かやらかしたら、俺とこに連絡をくだせぇ。じゃ俺はこれで……前夜祭で会いやしょう……」
  ジュノスはそう言うと、屯所を後にした。
  ケリーはアシャに言った。
 「ジュノス殿が警備に助力してくれるのなら……これほど心強い事はないな……」
 「はっ!……しかし我々騎士団も負けてられませぬ」
  ケリーは微笑んだ。
 「フッ……そうだな……。期待しているぞ、アシャ……」
  アシャは背筋を伸ばして、ケリーに敬礼した。
「はっ!有り難き御言葉っ!」


  ……飛空挺ウィング……

  ウィングに残ったギルは自室で一人、エルサ草や他の薬品の手入れをしていた。
 「大方の薬は揃ったが……もう少しいる物があるなぁ……」
  ギルは立ち上がって深く溜め息をついた。
 「ふぅ……俺もアイツらについてきゃよかったな……」
  すると部屋のドアから、コンコンとノックがし、ジンが部屋に入ってきた。
 「少しいいか?」
  珍しい客に、ギルは少し戸惑った。
 「なんだぁ?珍しいなぁ……なんの用だ?」
 「先程バルバル夫婦から、情報が入ってな……」
  ギルは怪訝な表情をした。
 「情報だぁ?」
 「ああ……それも穏やかでない情報だ」
 「まぁ、適当なところに座れよ」
  ギルに促されたジンは、ギルのデスクの椅子に座った。
  ギルは自分のベットに腰をかけた。
 「で?なんだよ、その情報って……」
  ジンは軽く顎を撫でた。
 「我々や賞金稼ぎ……賞金首の他に……。多くのテロリストが入港してるらしい……」
  ギルの表情は険しくなった。
 「テロリストだぁ?」
  ジンは頷いた。
 「テロリストが入港しているのは、手配書で知ってはいたが……どうも団体で来て
いるようだ」
 「つまり……祭典に乗じて、大規模なテロが起こると?」
 「可能性はあるな……。その情報ありきで、ノイアー将軍はジュノスを我々に同行させたのだろう」
  ギルはしかめっ面をした。
 「気に入らねぇな……。で?なんで俺にその話を?」
 「お前は医者として、事態に備えて準備をしておいてくれ」
  ギルは目を丸くした……それはジンの口からそのような言葉が出るとは、思ってもみなかったからだ。
  ギルのジンに対する印象は、研究にしか興味のない変人……そういった印象だったからだ。
  目を丸くするギルに、ジンは怪訝な表情になった。
 「どうした?目を丸くして?」
  ギルは微笑した。
 「へっ……テメェ……そんなキャラだったか?」
  ジンは怪訝な表情のまま、椅子から立ち上がった。
 「何を言っている?……とにかく伝えたからな……」
  ジンはそう言うと、ギルの部屋を後にした。
 「変わり者が多い船だ……。まぁ、俺も相当だが……」


  一方……ドレル騎士団から警戒しつつ、必要な物を買い揃えたロックとエリスは、あまり街をうろつかずに、飛空挺ウィングに戻っていた。
  フリースペースにはユイと、バルバル夫婦がおり、それぞれくつろいでいた。
  ロックが帰ってくるなり、リキはロックに街の様子を聞いた。
 「どうだった街は?」
  ロックはしかめっ面でリキに言った。
 「どうもこうもねぇよ……。危うく俺らがしょっぴかれるところだったぜ」
  エリスも疲れた表情で言った。
 「前夜祭当日まで大人しくしとくしかないわ……」
  ユイは顔をひきつらせた。
 「留守番してて良かった……」
  リキが言った。
 「俺らもさっきまで、街に出てたが……どうも様子がおかしい」
  ロックは怪訝な表情をした。
 「どういう事だ?」
  カレンが代わりに答えた。
 「騎士団やハンターは、そこらをブラついてたんだけど……。肝心の獲物はナリを潜めてねぇ……」
  エリスが言った。
 「それが普通じゃないの?」
  リキが言った。
 「確かに目立った行動はしねぇが……。それにしても気配がなさすぎる」
  リキの表情は険しく、何かを感じ取っているようだった。
  ロックが言った。
 「確かに暗殺者共はそれぞれが個性的だからな……。それが足並み揃えてナリを潜めてるってのは……解せねぇなぁ……」
  ユイが言った。
 「そもそも暗殺者なんて来てないんじゃないの?」
  カレンは呆れた様子で言った。
 「だとすればアタイらは商売あがったりさ……」
  エリスは不安な面持ちでロックを見た。
 「ロック……」
  そんなエリスの不安な面持ちを、ロックは笑って流した。
 「へっ……当日になりゃわかんだろ」


  ……とある地下室……

  正方形の薄暗いとある地下室は、殺伐としていた。
  その部屋には物のなく、殺伐と表現するより、シンプルと言った方が良かったのかも知れないが……。
  部屋の奥に座る一人の人物が、その殺伐さを象徴していた。
  薄暗い部屋に溶け込むようなその人物の風貌は……フード付きの黒いマントを覆っており、それだけで堅気の者では無いことがわかる。
 「首尾は……どうですか?」
  誰もいないはずの部屋に、その人物が語りかけると、何処からか返事が返ってきた。
 「問題なく……」
  黒マントは返事を確認すると、語りを続けた。
 「暗殺者共を纏めるのは、骨が折れますね……」
  するとまた何処からか返事が返ってきた。
 「はっ!……しかし奴らも、こう警備が厳重ですと、こちらに従わざるおえないので」
  ここから暫くこの黒マントとの会話が続く。
 「フフフ……それが我々の狙いですからね……」
 「奴らは我の強い連中です……個々で行動すれば、必ず綻びがでますから……」
 「それが……纏まっているために、綻びがでない……。ドレルもアデルも困惑しているでしょう」
  黒マントは不気味に笑った。
 「フフフ……暗殺者は自分の業に拘りを持ち、それを自己満足に披露しますからね……。それがまさか策に講じるとは思わないでしょう……」
 「全ては貴方様の計画通りに……」
 「しかし計画通りにいかない事もあります……。まぁ私はそれを期待しているのですが……」
 「お戯れを……」
 「フフフ……そう言わないで下さい……。引き続きよろしくお願いしますよ」
 「はっ!……この世の理のために……」
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