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第十五話 エルサ平原とハイキング
③
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おにぎりを食べた事により、男の顔色も少しづつだが良くなってきた。
「ありがとうございます……しばらく何も食ってなかったもんで……」
「だろうな……アンタの食いっぷりを見ればわかるよ……」
男は苦笑いし、照れくさそうに頭を掻いた。
「面目ない……。ところでアナタ達は?どうしてこんなところに?」
「俺達は旅の途中で、エルサ草を採りにここまで来たんだけどよぉ……。休憩してた時に、そこの猿に、そこの女が握り飯取られちまってな。其を追いかけて来てみれば、アンタがここで倒れてたわけだ」
ギルはそう言いながら、猿とすっかり仲良くなり、戯れているユイを指さした。
ユイはギルに指さされ、不機嫌そうな表情をした。
「ガキの次は、女呼ばわりかよ……」
男は猿を見て笑顔を浮かべた。
「そうでしたか……お猿に感謝ですね」
男の笑顔に感謝の気持ちが伝わったのか、猿は心なしか嬉しそうな表情だ。
ギルはその和やかな光景に微笑した。
「だな……」
男は再びギルに視線を戻した。
「俺はタジフ族のカジガラと言います。この御恩は一生忘れませんっ」
ギルは頭を掻いた。
「そんな大層なもんじゃねぇよ……。医者じゃなかったら見捨ててたよ」
照れくさそうに頭を掻いているギルを見て、ユイは思った。
(素直じゃない奴……。医者なくても見捨ててないでしょが……)
普段は悪態ついた変わり者で、ガラの悪いのギルだが……ユイの脳裏には、カジガラに対しての迅速な対応が焼き付いている。
普段とは違うギャップも手伝ってはいたが……ユイはギルを改めて見直した。
ギルは立ち上がって、カジガラに言った。
「俺達はエルサ草を採りにいかなきゃならねぇ……。悪いけどここで待っててくれるか?タジフ族のキャンプにはちゃんと送るからよ……」
「わかりました。ほんとなら俺もお供したいのですが……」
申し訳なさそうなカジガラに、ユイが言った。
「怪我してんだからさぁ……おとなしく待っといてよ」
「コイツの言う通りだ。だから気にすんな。猿、オメェも留守番だ」
ギルが猿にそう言うと、理解したのかしてないのか、猿は「キキィ」と返事したかの鳴き声を上げた。
「コイツ意外と賢いかも……」
「とっとと行くぞ」
ギルは猿に感心するユイにそう言うと、スタスタと川沿いを歩きだした。
「あっ!まってよぉっ!」
ユイも慌ててギルの言葉に後を追った。
……飛空挺ウィング……
ギルとユイが川で男の手当をしていた頃、ロック達はそんな事も知らずに、フリースペースで談笑をしていた。
ロックは気の抜けた表情をし、ジンはアクビをしながらソファーでくつろぎ、エリスは自分で入れた紅茶を美味しそうに飲んでいる。
「それにしてもジン……あんなオンボロ漁船で何を造るんだ?」
ロックな問にジンは不敵な笑みを浮かべた。
「フフフ……楽しみにしていろ。必ず役にたつぞ……」
ジンの不敵な感じとは裏腹に、エリスは怪訝な表情をした。
「ほんとかなぁ?その笑顔が怖いんだけど……」
すると話が一段落した時だった。
ウゥーーッ……ウゥーーッ……ウゥーーッ……。
フリースペース内及び、飛空挺全体に、サイレンが鳴り響いた。
「なっ!何だっ!?」
けたたましいサイレンの音に、ロックもエリスも驚いている。
そんな二人とは異なり、ジンは冷静だった。
「飛空挺がこちらに近付いてるな……」
ジンは白衣のポケットから、何やらリモコンを取り出して、それに付いているボタンを押した。
するとサイレンは止み飛空挺は静寂を取り戻した。
ジンはリモコンに付いている、小さな液晶を確認した。
「我々の隣に降りたようだな……」
ロックが言った。
「テメェ……いつの間にこんなやかましいのを、付けやがった?」
「そこはいいでしょが……。それより隣って……まさか空賊に絡まれたんじゃ……」
エリスはロックに突っ込みを入れたが、不安げな表情だ。
ロックは立ち上がった。
「とりあえず様子を見に行くか……」
三人はフリースペースをあとにし、甲板に向かった。
甲板に出ると、それはすぐに確認できた。
「何これ……軍艦じゃないっ……」
目を見開いて驚くエリスの、視線の先には、ウィングより少し大きい目の、黒くて厳つい飛空挺が、ウィングの真隣に着艦していた。
船の側面には無数の砲弾が装備されており、いかにも武装艦といった感じだった。
ジンがロックに言った。
「ロック……この船は……」
ロックは眉間にシワを寄せた。
「ああ……アデルの軍艦だ」
エリスは今度は目を丸くした。
「アデルの?なんで?」
三人が怪訝な表情で軍艦を観察していると、甲板に誰かが現れ、三人に手を振った。
ロックは軽く舌打ちをした。
「チッ……ジュノス……」
「またアイツか……」
ロックと異なり、ジンは呆れた様子だ。
「お~いっ!センパ~イッ!」
ジュノスは三人に手を振りながら、叫んでる。
「何なんだよぉ、アイツは……」
ロックが呆れていると、ジュノスの背後から、また誰かが現れた。
ロックとジンはその人物に驚き、エリスは思わず惚けてしまった。
「きっ、綺麗……」
思わずエリスが呟いてしまうその人物は、美しく凛々しいたたずまいの、アリエル・ノイヤーだった。
ロックはアリエルを凝視した。
「隊長……」
……ウィングフリースペース……
突然の来客であるアリエルとジュノスを、ウィングのフリースペースへ招き入れると、そこには異様な光景があった。
ソファーに並んで座るアリエルとジュノスは、いつもの漆黒のスーツに身を包み、二人とも様になっていた。
それと対照的に、ロック達はラフな格好で、ロックはいつものツナギスタイルで、エリスは黒のキャミソールにホットパンツ……ジンに至っては少し汚れた白衣姿だ。
エリスは来客二人にお茶を出すと、ロックの隣にちょこんと座り、二人を観察した。
ジュノスは気の抜けた表情で、エリスに出されたお茶をさっそく口にした。
「いただきまぁす……ズズズ……」
音を立てて飲むジュノスに、エリスはげんなりした。
(相変わらずヘラヘラした奴……。この顔で敵を斬り刻むから、余計に怖いよ……)
エリスは次にアリエルに目線を移した。アリエルはジュノスとは異なり、上品にお茶を飲んでいる。
(それにしても綺麗な女性だなぁ……ロックは『隊長』って言っていたけど……)
エリスがアリエルの綺麗な顔を、惚けて見ていると、その視線に気付いたのか、アリエルはエリスに対してニコリと笑顔を返した。
アリエルの美しく癒される笑顔に、エリスは戸惑い、思わず顔を伏せてしまった。
するとロックが口を開いた。
「で?何の用だよ?……たまたま立ち寄って、茶を飲みに来た訳じゃねぇだろ?」
険しい表情のロックに、ジュノスが苦笑いした。
「やだなぁ先輩……顔が怖いっすよ」
するとジンが言った。
「警戒するのも当然だろ?アデルの将軍殿がここにいるのだから……」
ジンの言葉に、エリスは目を丸くした。
「将軍?コイツが?」
エリスはジュノスを指さして、目を丸くしているが、ジンは首を横に振り、ジュノスは顔をひきつらせた。
「コイツって……」
ジンが言った。
「そんなわけないだろ……将軍はそこのアリエル殿だ……」
「えっ!?嘘っ!?……マジでこの女の人がっ!?」
アリエルは上品で美しく、腺が細い……エリスがたまげるのも無理はない。
ジンは続けた。
「元アデル十傑の隊長で……現アデル将軍であり、アデル軍の総司令でもある、女将軍だ」
エリスは再び目を丸くし、アリエルを凝視した。
アリエルはエリスに笑顔で言った。
「アリエル・ノイヤーです。よろしく……エリス・クラウド……」
エリスはアリエルが自分の名前を知っていた事に、驚いた。
「どうして……わたしの名前を?」
アリエルは笑顔を止めて、すました表情で言った。
「青い頭をした男に、¥キングが壊滅され……そこから一人の女性が救われた……」
ロックの表情はピクリとなり、エリスは目を見開いた。
アリエルは続けた。
「アデル内でそれだけの事をすれば、当然関係者を調べます……。ましてやハーネストもマクベスも元々はアデルの人間……知っていて当然でしょ」
淡々と話すアリエルに、エリスは背筋を凍らせた。
(つまりわたし達の行動は……筒抜けってわけ?)
ロックはアリエルに言った。
「そんな事を言いに、わざわざ来たのかよ?」
アリエルはロックを見据えた。
「仕事を依頼しようと思って……」
ロックはさらに警戒した。
「仕事だぁ?」
「旅のついででいいので……ある情報を収集して貰いたいのです……」
ジンがアリエルの言葉に食い付いた。
「情報?……どういった情報だ?」
アリエルの目は鋭くなった。
「とある秘石……『オーバードライブ』に、ついての情報です」
聞き慣れない言葉に、三人は顔を見合わせた。
ジュノスが言った。
「俺らも探してるモノなんですが……なんせ情報が少ないシロモンなんで……」
ロックがアリエルとジュノスに言った。
「何なんだ?その、オーバードライブって……」
ジュノスは苦笑いした。
「高価な小さい石ってのは……わかってんですが……」
エリスが言った。
「宝石かなぁ?」
ジュノスは呟いた。
「だといいんだけど……」
アリエルは三人に言った。
「勿論報酬は支払います……長い旅なのでしょう?悪い話ではないと思いますが」
するとジンが言った。
「いいだろう……引き受けよう……」
ジンの返事に、ロックとエリスは声を揃えた。
「おいっ!ジンッ!」
ジンはキョトンとした表情で二人に言った。
「何を驚いてる?ついでに情報を集めて、報酬が貰えるのだろ?悪い話ではないぞ」
ロックは頭を抱えた。
「確かにそうだけどよ……」
ジンはニヤリとした。
「それにアデルの将軍が自ら我々に依頼してくるとは……余程情報が必要とみえる。それほどまでにこの案件……重要なのだろ?」
アリエルもジュノスも黙っている。ジンは続けた。
「その沈黙は『イエス』と受けとろう……」
アリエルは立ち上がった。
「では……契約成立ですね……」
ロックはしかめっ面をした。
「仕方ねぇな……。報酬ははずんでくれよ……」
するとジュノスが言った。
「俺まだお茶を飲んでんすけどぉ……」
アリエルは呆れた様子で言った。
「ではこの船の甲板で待ってます……」
アリエルはそう言うと、フリースペースを後にした。
エリスは顔をひきつらせた。
「凄いクールね……」
ジュノスが言った。
「クールじゃねぇと総司令なんて、できねぇでさぁ……」
一方のギルとユイは、ロック達が新しい仕事の商談をしている頃、目的のエルサ草が生えているポイントに到着していた。
ある程度川下までやって来た頃に、ギルは立ち止まった。
「ここがいいな……」
ユイは目を丸くした。
「何がいいわけ?」
ユイは辺りを見渡したが……それらしき物は生えてなく、雑草のような草と、綺麗な川が流れているだけだった。
ギルは言った。
「ここの川沿に生えてる草は、全てエルサ草だ」
「えっ!?マジッ!?ただの雑草のだと思った」
ギルは苦笑いした。
「そう思うのも無理はねぇな……雑草っつぅのは間違ってねぇから……」
ユイは怪訝な表情をした。
「何言ってんの?」
ギルは言った。
「雑草も……この場所なら薬草になる」
ユイはギルの言葉の意味を理解できず、考え込んでいる。
ギルは続けた。
「秘密はこの川だよ……エルサ川の特異な養分を吸った草は、全てエルサ草って訳だ」
ユイは手をポンと叩いた。
「なるほどっ!川の養分が特殊だからだ」
「ああ……増水と減水を繰り返して、草は川の養分を吸いとって、エルサ草になるわけだ」
そう言うと、ギルは生えている草の前でしゃがんだ。
ギルは鎌を取り出して、草に対して合掌した。
ユイはそんなギルに言った。
「なんで草に手を合わせるの?」
ギルは言った。
「俺達は様々な命を糧に、この世界を生きている。動物や……この草のような植物もその一つだ」
ユイは珍しく真剣な表情でギルの話を聞いている。
ギルは続けた。
「それに感謝の意を込めるのは……当然だろ?」
ギルはそう言うと、合掌を解いて、鎌で草の回りの土を堀始めた。
やがて土を堀終えると、草を根っこごと引き抜いて、それをユイに見せた。
「エルサ草の葉っぱは薬草になり、根っこは飲み薬に使える……まさに万能薬なんだよ。お前も鎌でやってみろ」
ギルに促されたユイは草の前にしゃがんで、ギルに見習って合掌した。
ギルはそんなユイを一瞬驚いた様子で見たが、直ぐに微笑した。
ユイはギルの事が少しわかった気がした。
(コイツが命を大事に思う気持ちが……少しわかった気がする……。ガラは悪いけどね……)
二人はこの後、夕方までエルサ草を採った。
命の有り難みを学んだユイにとっては、有意義なハイキングとなった。
「ありがとうございます……しばらく何も食ってなかったもんで……」
「だろうな……アンタの食いっぷりを見ればわかるよ……」
男は苦笑いし、照れくさそうに頭を掻いた。
「面目ない……。ところでアナタ達は?どうしてこんなところに?」
「俺達は旅の途中で、エルサ草を採りにここまで来たんだけどよぉ……。休憩してた時に、そこの猿に、そこの女が握り飯取られちまってな。其を追いかけて来てみれば、アンタがここで倒れてたわけだ」
ギルはそう言いながら、猿とすっかり仲良くなり、戯れているユイを指さした。
ユイはギルに指さされ、不機嫌そうな表情をした。
「ガキの次は、女呼ばわりかよ……」
男は猿を見て笑顔を浮かべた。
「そうでしたか……お猿に感謝ですね」
男の笑顔に感謝の気持ちが伝わったのか、猿は心なしか嬉しそうな表情だ。
ギルはその和やかな光景に微笑した。
「だな……」
男は再びギルに視線を戻した。
「俺はタジフ族のカジガラと言います。この御恩は一生忘れませんっ」
ギルは頭を掻いた。
「そんな大層なもんじゃねぇよ……。医者じゃなかったら見捨ててたよ」
照れくさそうに頭を掻いているギルを見て、ユイは思った。
(素直じゃない奴……。医者なくても見捨ててないでしょが……)
普段は悪態ついた変わり者で、ガラの悪いのギルだが……ユイの脳裏には、カジガラに対しての迅速な対応が焼き付いている。
普段とは違うギャップも手伝ってはいたが……ユイはギルを改めて見直した。
ギルは立ち上がって、カジガラに言った。
「俺達はエルサ草を採りにいかなきゃならねぇ……。悪いけどここで待っててくれるか?タジフ族のキャンプにはちゃんと送るからよ……」
「わかりました。ほんとなら俺もお供したいのですが……」
申し訳なさそうなカジガラに、ユイが言った。
「怪我してんだからさぁ……おとなしく待っといてよ」
「コイツの言う通りだ。だから気にすんな。猿、オメェも留守番だ」
ギルが猿にそう言うと、理解したのかしてないのか、猿は「キキィ」と返事したかの鳴き声を上げた。
「コイツ意外と賢いかも……」
「とっとと行くぞ」
ギルは猿に感心するユイにそう言うと、スタスタと川沿いを歩きだした。
「あっ!まってよぉっ!」
ユイも慌ててギルの言葉に後を追った。
……飛空挺ウィング……
ギルとユイが川で男の手当をしていた頃、ロック達はそんな事も知らずに、フリースペースで談笑をしていた。
ロックは気の抜けた表情をし、ジンはアクビをしながらソファーでくつろぎ、エリスは自分で入れた紅茶を美味しそうに飲んでいる。
「それにしてもジン……あんなオンボロ漁船で何を造るんだ?」
ロックな問にジンは不敵な笑みを浮かべた。
「フフフ……楽しみにしていろ。必ず役にたつぞ……」
ジンの不敵な感じとは裏腹に、エリスは怪訝な表情をした。
「ほんとかなぁ?その笑顔が怖いんだけど……」
すると話が一段落した時だった。
ウゥーーッ……ウゥーーッ……ウゥーーッ……。
フリースペース内及び、飛空挺全体に、サイレンが鳴り響いた。
「なっ!何だっ!?」
けたたましいサイレンの音に、ロックもエリスも驚いている。
そんな二人とは異なり、ジンは冷静だった。
「飛空挺がこちらに近付いてるな……」
ジンは白衣のポケットから、何やらリモコンを取り出して、それに付いているボタンを押した。
するとサイレンは止み飛空挺は静寂を取り戻した。
ジンはリモコンに付いている、小さな液晶を確認した。
「我々の隣に降りたようだな……」
ロックが言った。
「テメェ……いつの間にこんなやかましいのを、付けやがった?」
「そこはいいでしょが……。それより隣って……まさか空賊に絡まれたんじゃ……」
エリスはロックに突っ込みを入れたが、不安げな表情だ。
ロックは立ち上がった。
「とりあえず様子を見に行くか……」
三人はフリースペースをあとにし、甲板に向かった。
甲板に出ると、それはすぐに確認できた。
「何これ……軍艦じゃないっ……」
目を見開いて驚くエリスの、視線の先には、ウィングより少し大きい目の、黒くて厳つい飛空挺が、ウィングの真隣に着艦していた。
船の側面には無数の砲弾が装備されており、いかにも武装艦といった感じだった。
ジンがロックに言った。
「ロック……この船は……」
ロックは眉間にシワを寄せた。
「ああ……アデルの軍艦だ」
エリスは今度は目を丸くした。
「アデルの?なんで?」
三人が怪訝な表情で軍艦を観察していると、甲板に誰かが現れ、三人に手を振った。
ロックは軽く舌打ちをした。
「チッ……ジュノス……」
「またアイツか……」
ロックと異なり、ジンは呆れた様子だ。
「お~いっ!センパ~イッ!」
ジュノスは三人に手を振りながら、叫んでる。
「何なんだよぉ、アイツは……」
ロックが呆れていると、ジュノスの背後から、また誰かが現れた。
ロックとジンはその人物に驚き、エリスは思わず惚けてしまった。
「きっ、綺麗……」
思わずエリスが呟いてしまうその人物は、美しく凛々しいたたずまいの、アリエル・ノイヤーだった。
ロックはアリエルを凝視した。
「隊長……」
……ウィングフリースペース……
突然の来客であるアリエルとジュノスを、ウィングのフリースペースへ招き入れると、そこには異様な光景があった。
ソファーに並んで座るアリエルとジュノスは、いつもの漆黒のスーツに身を包み、二人とも様になっていた。
それと対照的に、ロック達はラフな格好で、ロックはいつものツナギスタイルで、エリスは黒のキャミソールにホットパンツ……ジンに至っては少し汚れた白衣姿だ。
エリスは来客二人にお茶を出すと、ロックの隣にちょこんと座り、二人を観察した。
ジュノスは気の抜けた表情で、エリスに出されたお茶をさっそく口にした。
「いただきまぁす……ズズズ……」
音を立てて飲むジュノスに、エリスはげんなりした。
(相変わらずヘラヘラした奴……。この顔で敵を斬り刻むから、余計に怖いよ……)
エリスは次にアリエルに目線を移した。アリエルはジュノスとは異なり、上品にお茶を飲んでいる。
(それにしても綺麗な女性だなぁ……ロックは『隊長』って言っていたけど……)
エリスがアリエルの綺麗な顔を、惚けて見ていると、その視線に気付いたのか、アリエルはエリスに対してニコリと笑顔を返した。
アリエルの美しく癒される笑顔に、エリスは戸惑い、思わず顔を伏せてしまった。
するとロックが口を開いた。
「で?何の用だよ?……たまたま立ち寄って、茶を飲みに来た訳じゃねぇだろ?」
険しい表情のロックに、ジュノスが苦笑いした。
「やだなぁ先輩……顔が怖いっすよ」
するとジンが言った。
「警戒するのも当然だろ?アデルの将軍殿がここにいるのだから……」
ジンの言葉に、エリスは目を丸くした。
「将軍?コイツが?」
エリスはジュノスを指さして、目を丸くしているが、ジンは首を横に振り、ジュノスは顔をひきつらせた。
「コイツって……」
ジンが言った。
「そんなわけないだろ……将軍はそこのアリエル殿だ……」
「えっ!?嘘っ!?……マジでこの女の人がっ!?」
アリエルは上品で美しく、腺が細い……エリスがたまげるのも無理はない。
ジンは続けた。
「元アデル十傑の隊長で……現アデル将軍であり、アデル軍の総司令でもある、女将軍だ」
エリスは再び目を丸くし、アリエルを凝視した。
アリエルはエリスに笑顔で言った。
「アリエル・ノイヤーです。よろしく……エリス・クラウド……」
エリスはアリエルが自分の名前を知っていた事に、驚いた。
「どうして……わたしの名前を?」
アリエルは笑顔を止めて、すました表情で言った。
「青い頭をした男に、¥キングが壊滅され……そこから一人の女性が救われた……」
ロックの表情はピクリとなり、エリスは目を見開いた。
アリエルは続けた。
「アデル内でそれだけの事をすれば、当然関係者を調べます……。ましてやハーネストもマクベスも元々はアデルの人間……知っていて当然でしょ」
淡々と話すアリエルに、エリスは背筋を凍らせた。
(つまりわたし達の行動は……筒抜けってわけ?)
ロックはアリエルに言った。
「そんな事を言いに、わざわざ来たのかよ?」
アリエルはロックを見据えた。
「仕事を依頼しようと思って……」
ロックはさらに警戒した。
「仕事だぁ?」
「旅のついででいいので……ある情報を収集して貰いたいのです……」
ジンがアリエルの言葉に食い付いた。
「情報?……どういった情報だ?」
アリエルの目は鋭くなった。
「とある秘石……『オーバードライブ』に、ついての情報です」
聞き慣れない言葉に、三人は顔を見合わせた。
ジュノスが言った。
「俺らも探してるモノなんですが……なんせ情報が少ないシロモンなんで……」
ロックがアリエルとジュノスに言った。
「何なんだ?その、オーバードライブって……」
ジュノスは苦笑いした。
「高価な小さい石ってのは……わかってんですが……」
エリスが言った。
「宝石かなぁ?」
ジュノスは呟いた。
「だといいんだけど……」
アリエルは三人に言った。
「勿論報酬は支払います……長い旅なのでしょう?悪い話ではないと思いますが」
するとジンが言った。
「いいだろう……引き受けよう……」
ジンの返事に、ロックとエリスは声を揃えた。
「おいっ!ジンッ!」
ジンはキョトンとした表情で二人に言った。
「何を驚いてる?ついでに情報を集めて、報酬が貰えるのだろ?悪い話ではないぞ」
ロックは頭を抱えた。
「確かにそうだけどよ……」
ジンはニヤリとした。
「それにアデルの将軍が自ら我々に依頼してくるとは……余程情報が必要とみえる。それほどまでにこの案件……重要なのだろ?」
アリエルもジュノスも黙っている。ジンは続けた。
「その沈黙は『イエス』と受けとろう……」
アリエルは立ち上がった。
「では……契約成立ですね……」
ロックはしかめっ面をした。
「仕方ねぇな……。報酬ははずんでくれよ……」
するとジュノスが言った。
「俺まだお茶を飲んでんすけどぉ……」
アリエルは呆れた様子で言った。
「ではこの船の甲板で待ってます……」
アリエルはそう言うと、フリースペースを後にした。
エリスは顔をひきつらせた。
「凄いクールね……」
ジュノスが言った。
「クールじゃねぇと総司令なんて、できねぇでさぁ……」
一方のギルとユイは、ロック達が新しい仕事の商談をしている頃、目的のエルサ草が生えているポイントに到着していた。
ある程度川下までやって来た頃に、ギルは立ち止まった。
「ここがいいな……」
ユイは目を丸くした。
「何がいいわけ?」
ユイは辺りを見渡したが……それらしき物は生えてなく、雑草のような草と、綺麗な川が流れているだけだった。
ギルは言った。
「ここの川沿に生えてる草は、全てエルサ草だ」
「えっ!?マジッ!?ただの雑草のだと思った」
ギルは苦笑いした。
「そう思うのも無理はねぇな……雑草っつぅのは間違ってねぇから……」
ユイは怪訝な表情をした。
「何言ってんの?」
ギルは言った。
「雑草も……この場所なら薬草になる」
ユイはギルの言葉の意味を理解できず、考え込んでいる。
ギルは続けた。
「秘密はこの川だよ……エルサ川の特異な養分を吸った草は、全てエルサ草って訳だ」
ユイは手をポンと叩いた。
「なるほどっ!川の養分が特殊だからだ」
「ああ……増水と減水を繰り返して、草は川の養分を吸いとって、エルサ草になるわけだ」
そう言うと、ギルは生えている草の前でしゃがんだ。
ギルは鎌を取り出して、草に対して合掌した。
ユイはそんなギルに言った。
「なんで草に手を合わせるの?」
ギルは言った。
「俺達は様々な命を糧に、この世界を生きている。動物や……この草のような植物もその一つだ」
ユイは珍しく真剣な表情でギルの話を聞いている。
ギルは続けた。
「それに感謝の意を込めるのは……当然だろ?」
ギルはそう言うと、合掌を解いて、鎌で草の回りの土を堀始めた。
やがて土を堀終えると、草を根っこごと引き抜いて、それをユイに見せた。
「エルサ草の葉っぱは薬草になり、根っこは飲み薬に使える……まさに万能薬なんだよ。お前も鎌でやってみろ」
ギルに促されたユイは草の前にしゃがんで、ギルに見習って合掌した。
ギルはそんなユイを一瞬驚いた様子で見たが、直ぐに微笑した。
ユイはギルの事が少しわかった気がした。
(コイツが命を大事に思う気持ちが……少しわかった気がする……。ガラは悪いけどね……)
二人はこの後、夕方までエルサ草を採った。
命の有り難みを学んだユイにとっては、有意義なハイキングとなった。
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夫が正室の子である妹と浮気していただけで、なんで私が悪者みたいに言われないといけないんですか?
ヘロディア
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