OVER-DRIVE

陽芹孝介

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第九話 エリスの想いとライフシティー

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  ロック達はジルから預かった紹介状を頼りに、町の南へ来ていた。
  南へ向かえば向かうほどに、壁の大きさに圧倒される。
  灰色の巨大な壁は、まるで「この先は別の世界だ」と言っているようなオーラを醸し出していた。
  壁の梺にはロックが言っていたように川があった。
  川の幅は約20mと言ったところか……巨大な崖で川は囲まれている。
  この巨大な川は海まで繋がっており、ライフシティーを正に真っ二つに割っている。
  そんな巨大な川には一本だけ大きな橋が掛かっており、橋の真ん中に関所のようなものが存在していた。
 「まるで国境だな……」
  ロックが言うように、国境のような壁は「壁から先はライフシティーでない」と言わんばかりの、ふてぶてしさがあった。
  ロックはユイとマキに言った。
 「こっから先は俺とエリスで行く。お前らはウィングで待ってろ」
  ユイは怪訝な表情で言った。
 「なんでさぁ?アタシも行きたいのにっ!」
  ロックはユイに言った。
 「こっから先は治安が180℃変わるぜ……病人のバァさんには適してねぇよ。だから俺らが先に行って様子を伺う」
 「だったらアタシも……」
 「ユイ……私達は戻りましょう……」
  引き下がらないユイをマキが宥めると、マキはロックにお辞儀をした。
 「ロックさん、エリスさん……よろしくお願いします」
 「姉ちゃん……」
  納得のいかないユイをスルーして、エリスはマキに言った。
 「任せといてマキさん……お医者さん見つけてくるから……」
 「そんじゃ行きますか……」
  エリスとロックは橋を渡り、関所を目指した。


  ……ライフシティー南部……

  ライフシティー南部へ行くには、橋の真ん中にある関所を抜けねばならない。
  ロックとエリスは、関所で当然のように引っ掛かったが、ジルの紹介状を見せたらすんなり通してもらえた。
  関所を抜け橋を進むと壁にあたり、そこには巨大なゲートがあった。
  抜けたゲートから見えるその光景は、正にライフシティーの黒の部分と言えるだろう……これ迄のライフシティーの雰囲気が180℃変わった。
  汚ならしいボロボロの建物が建ち並び、住人達の身なりは、お世辞でも綺麗とは言えない。
  道もライフシティーの白のようなアスファルトでなく、砂利道で整備されていなかった。
 「これが……ライフシティーの黒……」
  エリスは目を見開て、このギャップのあり過ぎる光景に、ただただ驚いている。
  この極端なまでの格差が、ライフシティーの闇の部分であり……戦後の産物であった。
  ロックは紹介状の住所を確認した。
 「関所の看守の話じゃ……もう少し南へ行った所みたいだな……」
  ロックとエリスはダウンタウンをさらに南に進んだ。
  ダウンタウンを進めば進むほど、そのみすぼらしさが浮き彫りになる。
  子供達は裸足でリアカーを引っ張り……年老いた大人は道の端に座り込み、野菜などを売っている。
  そして特徴的なのは、ダウンタウンの至る所に治安隊が歩いている所だ。
  ダウンタウンの住人の不平不満が爆発し、暴動が起きないための威嚇の意味で、至る所に治安隊がいるのだろう。
  殺伐とした町を歩いていくと、目的地に到着した。
 「たぶんこの小屋だろな……」
  ロックの目線の先には白いプレハブ小屋があった。
  看板などは何もなく、医者がいるような場所には見えない。
 「ほんとにあってるの?」
  エリスは懐疑的な表情だ。
  すると小屋の中から大声がした。

 「きっ、貴様っ!何を……うわぁーっ!」

  ドガラッシャーンッ!

  凄まじい音と共に、プレハブ小屋の扉を破壊して、中から男が吹っ飛んできた。どうやら治安隊のようだ。
  飛んできた男は、勢いよく砂利道に転がり、腹を抑えて苦悶の表情をしている。
  エリスは目を見開いた。
 「なっ、なんなのっ!?」
  するとプレハブ小屋の中から、ヨレヨレの白いカッターシャツに、黒のネクタイをした男が出てきて、男に言った。
 「さっさと帰りやがれっ!ダァホがぁ……」
  腹を抑えた治安隊の男は、ネクタイの男を睨み付けた。
 「きっ、貴様ぁっ!俺にこんな事をして……ただで済むと思っているのかっ!?」
  ネクタイの男は右分けの黒髪を掻き上げて、治安隊の男を睨み返した。
 「あんっ!テメェ……俺をなめてんのか?」
  男は治安隊に詰め寄り、胸ぐらを掴み上げた。
 「治安隊けいさつが怖くて……」
 「ひっ、ひぃーっ!」
  胸ぐらを捕まれた治安隊は、怯えきっている。
 「このダウンタウンで……町医者ができっかよぉーっ!」
  男はそう叫ぶと、治安隊を勢いよく投げ飛ばした。
 「うわあぁーーーーっ!」

  ガッシャァーーーーンッ!

  投げ飛ばされた治安隊は、頭から勢いよく、道端のゴミ溜めに突っ込んで、そのまま意識を失った。
  男は手をパンパンと叩いて、ネクタイを伸ばした。
 「このギル・マグワイヤーを……なめてんじゃねぇぞっ!ダァホがぁ……」
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