OVER-DRIVE

陽芹孝介

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第九話 エリスの想いとライフシティー

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  港をあとにし市街地に入った一行が驚いたのは、目前に広がるとある建造物だった。
 「何あれ?……壁?……」
  驚いた様子のエリスが言うように、町の遠方には巨大に広がる壁が見えていた。
  町に入った一行が見える程だ……その大きさは安易に想像できた。
  驚いた様子の一行に、ロックが言った。
 「噂には聞いていたが……あれほどデケェとはな……」
  ユイがロックに言った。
 「なんなのさ?あれ……」
 「あれが、ライフシティーが白と黒の町と言われる理由だ」
  マキが言った。
 「つまりどういう事ですか?」
 「俺も生で見るのは初めてだが……ライフシティーは川を挟んで二つの地域でできている。つまりあのデケェ壁のふもとには川が流れてんだよ」
  エリスが言った。
 「じゃあ、あの壁が町の中央線みたいな物?」
 「まぁ……そうだが……話はそんな単純じゃねぇ……」
  皆は不思議そうな表情でロックを見ていたが、ロックは話を続けた。
 「色で例えるなら……今俺達がいる場所が白で、あの壁の向こうは黒……ダウンタウンだ」
  ユイが言った。
 「ダウンタウン?」
  ロックは険しい表情で言った。
 「この町は貧富の格差が物凄くてな……あの壁で貧しい者と、裕福な者を区切ってんのさ……。それがこの町の闇の部分だ」
 「そんな……何でそんな事を?」
  悲しそうな表情のエリスに、ロックは言った。
 「俺も詳しくは知らねぇ……戦後にこうなったからな……」
  ユイがロックに言った。
 「つまり統一戦争が理由でこうなったの?」
 「さぁな……あの戦争が全く関係ねぇとは思わねぇが……。ハッキリした理由はわからねぇな」
  一行が今いる場所はライフシティーの市街地……ロックの言うような闇の部分等は微塵も感じさせないくらい、美しい町だった。
  高級感のある建物が並び、ゴミなどもいっさい落ちていない。
  町を綺麗に保つ事を意識している感じが、他所から来た者でもわかるくらい、美しい町作りをしているのが伺える。
  ロックが言った。
 「とにかく医者を探そうぜ……話はそれからだ」
  一行は適した病院を探すために、ライフシティーを進んだ。
  ライフシティーの街並みを堪能しながら、住人に聞き込みを重ねた結果、とある病院の情報を入手した。
 『マグワイヤーホスピタル』……ライフシティーで一番有名であり、ライフシティーの医療管理は全てマグワイヤーで行われている。
  マグワイヤーホスピタルはライフシティーの中心部にある一番高い建物だというので、すぐにわかった。
  一行はさっそくそのマグワイヤーホスピタルに向った。
  マグワイヤーホスピタルに到着すると、一行は驚愕した。
 「スゲェ……」
  ロックは目を見開き、口をポカーンと開けて呟いている。
  ロックが驚くのも無理はなく、マグワイヤーホスピタルの白く美しい宮殿のような造りの病院は、病院と言うよりまさに城だった。
 「逆に落ち着かないわね……」
  エリスの言葉にユイとマキも頷いている。
 「そうとう悪どい事をやってやがんな……」
  ロックの人聞きの悪い言葉に、誰も反論しなかった。それほどまでにこのマグワイヤーホスピタルは立派であり、まともな病院に見えなかった。
  豪華な病院を前に、胸を踊らせて受付にやって来た一行だったが……。

 「一千万円っ!?」

  一行の驚きの声が、綺麗で広い病院の受付に響き渡った。
  受付ロビーにいた他の患者の視線は、ロック達に集中している。
  ロックは受付の地味な女性に詰め寄った。
 「なんでそんなに費用がかかんだっ!?」
 「ですから検査費に三百万と、一週間の入院で一日百万……見ていただかないと……」
  地味な受付嬢は眉をハの字にして、困った表情だ。
  ユイもロックに見習って詰め寄った。
 「足下見んなよっ!……ボッタクリじゃんかぁっ!」
 「ちょっとユイ……」
  マキはユイを宥めたが……ロックは止まらない。
 「地味受付っ!テメェじゃ話にならねぇっ!院長呼んでこいっ!」
 「じっ!地味ですってぇっ!何なんですかっ!?アナタ達はっ!治安隊けいさつ呼びますよっ!」
  ロックの言葉に地味な受付嬢も頭に来たようだ。
  しかしロックは引かない。
 「警察が怖くて、この世界で生きていけっかよっ!」
 「いい加減にしなさいっ!」
  いきり立つロックに、エリスがロックの頭をパシッと叩いた。
  ロックはエリスに口を尖らせた。
 「エリスッ!テメェ、なにしやがるっ!」
 「場所を考えなさいっ!他の患者さん達……ビックリしてるじゃないっ!」
  エリスの言う通り、ロビーにいる患者達は、ロック達の方を見てヒソヒソと何かを話している。
  するとロック達の背後から声がした。
 「何を騒いでいるのだ?」
  地味な受付嬢は声の主に対して、背筋を伸ばした。
 「いっ……院長っ!」
  ロック達は院長と呼ばれる男性を一斉に見た。
  院長と呼ばれる男性は、黒いストレートの髪を左分けした、細身の若い男性で、高級感のある黒いスーツを着ている。
  院長はロック達の様子を見て言った。
 「患者さんですか?」
  ロックが院長に言った。
 「アンタが院長?」
  院長は頷いた。
 「えっ?ええ……私が院長のジル・マグワイヤーです」
  エリスが言った。
 「マグワイヤーって……」
  ギルはエリスに笑顔で言った。
 「これは美しいお嬢さんだ。マグワイヤーホスピタルは私の一族で運営しています。理事長はドル・マグワイヤー……私の父です」
  どうやら父親の病院を息子であるジルが運営しているようだ。
  ジルはロック達に外に出るように言った。他の患者の手前、外で話した方がいいと判断したのだろう。
  病院の裏手に移動した一行は、これ迄の経緯をジルに話した。
 「なるほど……そちらの御老人の為にわざわざライフシティーに……」
  ジルは腕組みをし、険しい表情をしている。
  マキは言った。
 「医療費が高額なのは知っていましたが……ここまでとは思わなかったので……」
  エリスが言った。
 「どっか他にいい病院はありませんか?もう少し費用のかからない……」
  ジルは難しい表情で言った。
 「う~ん……紹介したいのはやまやまですが……ライフシティーの治療費は一律でして、どこも同じなのですよ」
  するとユイが言った。
 「じゃあさっ!院長の権限でまけてよっ!」
  ユイの突然の値切りに、ジルは驚いた表情をしたが、すぐに首を横に振った。
 「残念ですが……それは院長の権限で出来る事ではないのです」
  ロックが言った。
 「どういう事だ?アンタ院長だろ?」
 「この『国』の法律で決まっているのです……破れば私達にも罰が下ります」
  ジルの『国』と言う言葉に、ロックは眉間にシワを寄せた。
  統一戦争が終り、ライフシティーも含め国として独立していた地域は、全てアデルの管理下に置かれ、国ではなく地域として残された。
  よって、ジル言う『国』と言う言葉に、ロックは違和感を持った。
 「国だと?……アデル管理下の地域は国と名乗れないはずだが?」
  ジルはロックを険しい表情で見た。
 「アナタ……色々詳しいみたいですね」
  ロックは耳をほじりながら言った。
 「誰でも知ってんだろ?そんな事より治療費まけろよ」
  ロックにまで値切られたジルは、溜め息をついて皆に言った。
 「仕方ありませんね……言ったところで引き下がりそうにありませんから……少し待っていて下さい」
  そう言うとジルはロック達を残して病院に入っていった。
  ユイは期待を膨らませた感じで言った。
 「まけてくれんじゃないっ?値切り成功だよっ!」
  エリスが言った。
 「そんな感じだったかなぁ?」
  皆でああだこうだと言っている内に、ジルが戻ってきた。
 「お待たせしました」
  ジルはそう言うと、持っていた封筒をロックに渡した。
  ロックは不思議そうにそれを眺めた。
 「なんだこれ?」
  ジルはロックに言った。
 「これを持って町の南に行ってください……住所は記載されてます」
  エリスが言った。
 「封筒の中身は?」
  ジルは苦笑いした。
 「紹介状です。私の名前で書いてあるので、そこの住所にいる医者に見せれば……格安で診てくれます」
  マキがジルにお辞儀をした。
 「無理言ってすみませんっ」
  ジルは笑顔で答えた。
 「気にしないで……。本当は私が診るべきなのですが……法が許してくれない。ただし、他言無用でお願いします」
  ジルが他言無用と言う事は、ジルにとって多少なりともリスクが伴うという事だ。
  ロックが言った。
 「いいのか?」
  ジルは再び苦笑いした。
 「『医療は平等であるべき』我が一族の家訓です。私も複雑なのですよ……。ですからそこに行ってください……悪いようにはならないので……それでは」
  ジルはそう言うと、再び病院に戻った。
  ロックは封筒の裏にある住所を見て言った。
 「とりあえず行くしかねぇか……」
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