OVER-DRIVE

陽芹孝介

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第八話 それぞれの想いと決着

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   ユイはとにかく走った……感情のまま……仲間の元へ……。
  前に大バァが言った。 
 『ユイ……お前は隠密の天才だ。しかし隠密に身を身を堕とすな……。広く視野を持つのじゃ……』
  当時は大バァの言っている意味がわからなかった。
 『なに言ってんの?バァ……。この村で産まれたんだよ?道は一つでしょ?』
 『ふぉふぉ……確かに矛盾しとるが……。その才能……隠密で埋もらすのは……惜しいのぉ』
 『意味わかんないよ……』
 『隠密に囚われずに……道を探すのも一つじゃなぁ……』

  大バァが伝えたかった事……。

 (今ならわかる気がする……)

  隠密はその任務をこなすために、技を極める……。しかし大バァはその旧い村の体質を、変えたかったのかもしれない。
  その旧い体質をユイやマキに叩き込んだのは、紛れもなく大バァだったが……。ユイの才能に可能性を感じたのだ……。
  諦めていたもう一本の道を……。
  その真意を全てユイが理解したのかは定かではないが……。
  ユイはロックと共に戦い……それを肌で感じたのだ……理屈ではなく、直感で……。
 
  一方のロックはバイクを真っ二つにした後、その場で座り込んでいた。
  ゴール付近のギャラリーの歓声がここまで聞こえてきている。
  ロック達とガンツ兄妹のバイクの後ろを走っていた、ミロとミカもバイクから降りて歓声を体で感じていた。
  ロックはその歓声で状況を把握した。
 「ふぅーっ……終わったみてぇだな……」
  ロックは脇腹を手で抑えて安堵の表情だ。
  するといつの間にやら海から上がったマリーダが、カストロに肩を貸してロックの前に現れた。
  びしょ濡れになったマリーダと、顔面蒼白のカストロは、ロックを睨み付けている。
  ロックは二人に言った。
 「レースは終わったぜ……」
  カストロは顔面蒼白のまま必死に悪態をついた。
 「んなこたぁ、わかってる。バカがっ!」
  ロックは渋い表情をした。
 「だったらなんの用だよ?」
 「俺達は……何でテメェに負けた?」
  カストロのストレートな物言いに、ロックは少し戸惑った。
  カストロは続けた。
 「戦争が終わって、テメェには何もないはずだ。そんなテメェに何で俺達は負けた?テメェがただ強いだけじゃ……納得できねぇ……」
  カストロの真剣な目を、ロックはじっと見据え、軽く笑った。
 「へっ……そういう事か……」
  カストロはロックを睨んだ。
 「テメェ……何が可笑しい?」
  ロックの表情は険しくなった。
 「テメェは……大事なもんを……失った事があんのか?」
  逆に質問をされたカストロは、その内容に言葉を失った。
  その様子にロックはカストロの答を察した。
 「ねぇみてぇだな……」
  ロックは感慨深い表情でカストロに言った。
 「俺はよぉ……一度失っちまった。だからこそ……負けられねぇんだ。それが俺とテメェらの差だよ」
  ガンツ兄妹にミロとミカは、ロックの言葉に目を見開いた。
  すると怪我人を収容する緊急車両が数台現れ、ぞろぞろと救急隊員がやって来た。
 「怪我人の方はこちらにっ!」
  救急隊員はそう言うと、タンカにカストロとミロを乗せた。
  救急隊員の一人がロックの元にもやって来た。
 「あなたもひどい怪我だ……横になって」
  救急隊員がロックにタンカに乗るよう促すと、ロックは首を横に振った。
 「俺はいいよ……」
  救急隊員は驚いた様子で言った。
 「何を言っているんですかっ!早く治療しないと……」
 「待ってんだよ……。もうすぐ来る……」
  ロックは救急隊員の言う事を聞かずに、座り込んだままだ。
  すると、コースの策を乗り越えて、エリスが走ってやって来た。
 「ほらな……来ただろ?」
  ロックはそう言うと、刀を杖がわりにして立ち上がった。
  エリスは泣きじゃくり、涙で顔をくしゃくしゃにしながら、ロックに突っ込んだ。
  エリスに突っ込まれ、やっと立ち上がったロックは、再びエリスと倒れた。
 「痛て……テメェ……急に突っ込むんじゃ……」
 「だってぇ……バカァ……アンタバカ過ぎるよぉ……」
  エリスの言う事はいまいち理解できなかったが……ロックを心配している事はわかった。
  ロックは軽く笑ってエリスの頭をポンと叩いた。
 「勝ったぜ……」
 「わかってるよぉ……」
  すると二人に手を差し出す者がいた……。ユイだった。
  ユイは走ってやって来たために、息を切らして苦笑いしている。
 「ハァハァ……まったく何をやってんだよ?」
 「へっ……やったな……」
  ロックはそう言うと、ユイの手をガッチリ握って起き上がった。
  三人の様子をタンカに乗って見ていたカストロは、ロックの言葉を理解した。
 (そうか……守りたいだけじゃないんだな……。失ったからこそ……強いんだな……)
  マリーダは感慨深い表情でカストロを見た。
 「兄貴……」
 「マリーダ……俺は、オヤジのためだけじゃなく……一家とオヤジも守れるくらい……強くなる……」
  マリーダは涙を浮かべて頷いた。

  こうしてバトルエアバイクレースは、ロックとユイの優勝で幕を閉じた。
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