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第三話 再会と激突
①
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ロックとガゼルは互いに睨み合い、一定の距離を保っている。
ガゼルは悪どい笑顔でロックに言った。
「久しぶりだなぁ……ハーネスト……。こんな所で会うとは、今日は運がいい……」
ロックは憮然とした表情で言った。
「俺はテメェの下品な面なんて、見たくなかったよ……。んで?ジンに何の用だよ?」
「国家転覆の嫌疑だ……。これ以上は言えねぇ……」
「ジンがそんな事をしねぇのは……テメェも知ってんだろ?」
ガゼルはニヤリとした。
「拘束すりゃあわかる。もちろんお前にも来てもらうぜ……ハーネスト……」
ガゼルはそう言うと、ロックに向かって戦闘体制をとった。
ロックは刀を抜いた。
「俺が「はいそうでか」と言うとでも、思ってんのか?」
ガゼルは不敵に笑った。
「納得してもらっちゃあ……困るぜ……。俺はお前と戦りたくて、ウズウズしてんだ……」
ロックの登場によって、エリスの表情には少し余裕の色が表れた。
「ジン博士……ロックが来たから、もう安心よね?」
ジンは渋い表情をしている。
「どうだろうな?」
エリスは怪訝な表情をした。
「えっ?」
ロックに向かっているガゼルは、ロックとの間合いを詰めながら言った。
「現在のお前が……どれ程弱ぇか……俺が確かめてやる」
ガゼルの言葉にエリスの表情は険しくなった。
(弱い?あのロックが?)
ロックはミドに耳打ちした。
「ミド……俺がアイツに突っ込むと同時に、ジンの所へ行け……」
ミドは情けない表情になった。
「えっ?そんな……怖いです……」
「言ってる場合かっ……オメェが行かねぇと、俺達の飛空挺は飛ばねぇぞ……」
ミドは目を丸くした。
「俺達の……ロックさん、あなた……」
「じゃあ後はヨロシクなっ……」
ロックはそう言うと同時に、ガゼルに飛び込んだ。ミドも勢いよく走りだし、ジンとエリスの位置を目指したが……。
ロックの刀と、ガゼルのトンファーが勢いよくつばぜり合ったが……ガゼルは難なくロックの刀を弾き飛ばした。
「遅ぇーっ!」
ガゼルはそう叫ぶと、もう片方のトンファーで、ロックの左こめかみを狙い撃ちした。
ロックは勢いよく吹っ飛んでいき、コテージの食器棚に勢いよくぶつかった。
ガッシャーーンッという衝撃音がコテージに響き渡った。
ガゼルはロックを吹っ飛ばしたトンファーを、クルクル回した。
「頭蓋骨が砕けたかぁ?」
ロックはバラバラになった食器棚に埋もれて動かない。
エリスは悲痛な面持ちで叫んだ。
「ロックーーッ!」
「へっ、呆気ねぇ……。さてと……」
ガゼルはミドを見据えた。
ミドはロックが吹っ飛んでいったショックで、足を止めてしまった。
ガゼルはミドに詰め寄った。
「諦めな……」
ミドは泣きそうな表情になっている。
(ロックさん……師匠……)
するとガゼルの後頭部目掛けて、コーヒーカップが飛んできた。
ガゼルはニヤリとして、コーヒーカップを弾き飛ばした。
「しゃらくせぇーっ!……!?……」
カップを弾き飛ばしたガゼルは、目を見開いた。
何故ならばガゼルの懐に、いつの間にかロックが入ってきたのだ。
(コイツッ!……速ぇっ!)
「うおらぁーーーっ!」
ロックは下方から、ガゼルの喉を目掛けて刀を振り上げた。
これにはガゼルも焦った表情をした。
(斬られる……チィーッ!)
ガキィィィィンッ!
凄まじい音と同時に、今度はガゼルが吹っ飛んだ。
エリスはなんとも言えない複雑な表情で叫んだ。
「ロックッ!」
しかしエリスはすぐに目を見開いた。ロックは頭から血を流し、左うでに大きな痣が出来ていて、そこからもダラリと血が流れている。
ロックの表情は苦痛で歪んでいた。
(野郎……間一髪トンファーで防ぎやがった……)
するとガゼルはすぐに立ち上がった。
「案外やるじゃねぇか……俺のトンファーを咄嗟に、その左腕で防いだか……。流石は俺達と同じ、元『アデル十傑』……」
ガゼルの言葉にエリスは目を見開いた。
(ロックも……あの人と同じ……)
ガゼルはエリスを見てニヤリとした。
「あの女……お前の連れみたいだが……。何も知らないみたいだなぁ……」
ロックの表情は険しくなった。
ガゼルは続けた。
「何百、何千の敵を斬り殺した……その返り血を浴びた姿は……まさに人を喰らう鬼……」
ガゼルはトンファーを振りかぶって襲い掛かった。
「なぁっ!人喰いの蒼鬼さんよぉ!」
ロックはガゼルのトンファーを刀でかわし、もう一本のトンファーの二撃目を、体をのけ反らせ、上手くかわした。
ロックは大声で言った。
「エリスッ!ミドとジンを連れてさっさと行けっ!」
エリスは不安そうな表情で言った。
「で……でもっ!」
するとジンが言った。
「ここはロックに任せよう……。私達はやるべき事をやるぞ……ミドッ!」
「はっ、はいっ!」
ジンはロックに言った。
「ロックッ!先に飛空挺で待ってるぞっ!」
ジンがそう言うと、三人は飛空挺ドッグへ向かった。
「飛空挺だぁ?行かせるかよぉっ!」
ガゼルはトンファーを三人に向かって投げようとしたが、すかさずロックがそれを刀で弾いた。
ガゼルは弾かれたトンファーを、ジャンピングキャッチし、ロックを睨んだ。
「ハーネスト……テメェーッ!」
ロックはニヤリとした。
「俺と闘り合いながら……アイツらを追えるかよっ!」
ガゼルは激昂した。
「ぶっ潰してやるよっ!」
「やってみやがれっ!」
ロックの刀と、ガゼルのトンファーが、再び激しく衝突した。
コテージの裏側に出た三人は、隠し階段に入って、走って飛空挺ドッグに向かった。
走りながらエリスは、ジンに言った。
「あの二人……なんなわけ?……仲悪いの?」
ジンは表情を変えることなく言った。
「ガゼルはただの戦闘凶だ。そんな奴にとって、ロックは格好の獲物だ」
エリスは理解に苦しんだ表情をした。
「意味がわかんない……」
ジンは言った。
「ガゼルは昔からずっと、ロックと戦いたかったのさ……しかし十傑同士の私闘は禁じられていた……」
ミドが言った。
「そうか……ロックさんは、もうアデルの軍人じゃない……」
ジンは走りながら頷いた。
「そうだ……。ガゼルからすれば、これで心置きなくロックと戦れるわけだ……」
エリスは困り果てた表情になった。
「見たままの危ない奴じゃないっ!」
ジンは言った。
「我々も……うかうかしてられない……」
エリスが言った。
「どういう意味?」
「アデルのエージェントは二人一組で行動する」
エリスとミドは揃って嫌な予感がした。
ジンは言った。
「つまり、ガゼルとは別の奴が、我々を追ってくるはずだ……」
「何でそんな冷静なわけ?」
エリスとミドは揃って泣きそうな表情になった。
ジンは二人に言った。
「通路に細工をしておいた……少しは時間稼ぎが出来るはずだ。急ぐぞ……」
三人はとにかくひたすら階段を降りて、飛空挺を目指した。
するとコテージの屋根の上では、もう一人のアデルのエージェント……ジュノスが、隠し階段に入っていく三人を見ていた。
「行くとしますかねぇ……」
一方コテージでは、ロックとガゼルの激しい攻防が繰り広げられていた。
最初は防戦一方だったロックだったが……徐々に互角の闘いまで持ってきていた。
ガゼルがロックの頬にトンファーを喰らわすと、ロックはガゼルの胸に斬り傷を付ける……。
ロックがガゼルの方を斬り付けると、ガゼルがロックの脇腹にトンファーを喰らわす……。
まさに一進一退の闘いが続いていた。
余裕だったガゼルの表情も険しくなる。
(コイツ……さっきまでの戦闘勘の鈍さが……無くなってやがる)
ロックは勢いよく上段から、刀を振り下ろした。
ガゼルは二本のトンファーで刀を受け止めた。
(俺と闘ううちに、戦闘勘が戻ってきやがったか……)
「うおぉーーっ!」
ロックは、刀を両手で防いだ事によって、がら空きになったガゼルの腹に、蹴りを入れた。
「ぐおっ!」
蹴りをまともに喰らったガゼルは、後方に吹っ飛んだ。
「がはっ!」
ロックもダメージが蓄積しているようで、刀を使って体を支えている。
二人は共に満身創痍で、口や頭から血を流し、今にも倒れそうだ。
するとガゼルは、フラフラと立ち上がり、ロックに言った。
「はぁ、はぁ……どうやらここまでのようだな……」
ロックも言った。
「はぁ……みてぇだな……はぁ、はぁ……来客だ……」
二人が言うように、コテージの玄関には、男が一人立っていた。ミドの造船所にいたタキシードの男だった。
ロックは顔をしかめた。
「アイツは……はぁ、はぁ……」
「はぁ……知ってんのか?……はぁ……」
ガゼルがそう言うと、ロックは頷いた。
「ああ……ジンの勧誘に来てた奴だ……。断られたけどよぉ……」
ガゼルは憮然とした表情になった。
「チッ……そう言う事か……」
ロックは不機嫌な表情をした。
「一人で納得してんなっ!どういうこった?」
タキシードの男は二人を見てニヤニヤしている。
ガゼルは言った。
「奴は朧の回し者だ……」
明らかにロックの表情は変わった。
「朧……だと……!?」
タキシードの男は二人に言った。
「昼間はどうも……そちらの方は存じませんが……」
ガゼルは言った。
「アデルのもんだよ……ノコノコこんな所までやって来やがってよ……何の用だ?」
「政府の犬ですか……。いやぁねっ……協力出来ないのなら……消してしまおうと思いましてね……」
男がそう言うとコテージ内に、頭から足まで黒装束の連中が、ゾロゾロと入ってきた。その数は凡そ20名程だ。
ロックは言った。
「逆らう奴は消すか……相変わらずクソな連中だ……。でもこれでジンが無実だってわかったろ?」
ガゼルは不機嫌な表情をした。
「ケッ……まぁなぁ……」
男は言った。
「満身創痍が……えらく余裕ですね……。心配せずとも、隠し階段にも部隊を送りました。仲良く皆であの世に送って差し上げます」
男の言葉にロックは焦った表情をしたが、ガゼルがすぐにロックに言った。
「安心しろ……向こうはジュノスが行ってる」
「ジュノス?……オメェ、アイツと組んでんのか?」
「ケッ……好きで組むかよ……。それよりハーネスト、提案だ。この喧嘩のルールのよぉ……」
「奇遇だねぇ……俺も提案しようと思ってたんだよ……」
「ケッ……お前もか……気に入らねぇ……」
ロックは軽く笑った。
「なぁに……簡単な提案だよ。こっからはバトルロワイアルと行こうじゃねぇか……」
ガゼルはニヤリとした。
「つまり、お前も含めて……ここにいる奴、全員をぶち殺せばいいわけだ……」
ロックもニヤリとした。
「そういうこった……。自分以外の奴を皆殺しにする。簡単だろ?」
ガゼルは笑った。
「ハハハハハハッ!」
ロックも笑った。
「ハハハハハハッ!」
その光景を見ていた男は、怒りの表情をした。
「死に損ないがぁっ!ぶち殺せぇーっ!」
黒装束が二人に、一斉に襲い掛かった。
ガゼルは悪どい笑顔でロックに言った。
「久しぶりだなぁ……ハーネスト……。こんな所で会うとは、今日は運がいい……」
ロックは憮然とした表情で言った。
「俺はテメェの下品な面なんて、見たくなかったよ……。んで?ジンに何の用だよ?」
「国家転覆の嫌疑だ……。これ以上は言えねぇ……」
「ジンがそんな事をしねぇのは……テメェも知ってんだろ?」
ガゼルはニヤリとした。
「拘束すりゃあわかる。もちろんお前にも来てもらうぜ……ハーネスト……」
ガゼルはそう言うと、ロックに向かって戦闘体制をとった。
ロックは刀を抜いた。
「俺が「はいそうでか」と言うとでも、思ってんのか?」
ガゼルは不敵に笑った。
「納得してもらっちゃあ……困るぜ……。俺はお前と戦りたくて、ウズウズしてんだ……」
ロックの登場によって、エリスの表情には少し余裕の色が表れた。
「ジン博士……ロックが来たから、もう安心よね?」
ジンは渋い表情をしている。
「どうだろうな?」
エリスは怪訝な表情をした。
「えっ?」
ロックに向かっているガゼルは、ロックとの間合いを詰めながら言った。
「現在のお前が……どれ程弱ぇか……俺が確かめてやる」
ガゼルの言葉にエリスの表情は険しくなった。
(弱い?あのロックが?)
ロックはミドに耳打ちした。
「ミド……俺がアイツに突っ込むと同時に、ジンの所へ行け……」
ミドは情けない表情になった。
「えっ?そんな……怖いです……」
「言ってる場合かっ……オメェが行かねぇと、俺達の飛空挺は飛ばねぇぞ……」
ミドは目を丸くした。
「俺達の……ロックさん、あなた……」
「じゃあ後はヨロシクなっ……」
ロックはそう言うと同時に、ガゼルに飛び込んだ。ミドも勢いよく走りだし、ジンとエリスの位置を目指したが……。
ロックの刀と、ガゼルのトンファーが勢いよくつばぜり合ったが……ガゼルは難なくロックの刀を弾き飛ばした。
「遅ぇーっ!」
ガゼルはそう叫ぶと、もう片方のトンファーで、ロックの左こめかみを狙い撃ちした。
ロックは勢いよく吹っ飛んでいき、コテージの食器棚に勢いよくぶつかった。
ガッシャーーンッという衝撃音がコテージに響き渡った。
ガゼルはロックを吹っ飛ばしたトンファーを、クルクル回した。
「頭蓋骨が砕けたかぁ?」
ロックはバラバラになった食器棚に埋もれて動かない。
エリスは悲痛な面持ちで叫んだ。
「ロックーーッ!」
「へっ、呆気ねぇ……。さてと……」
ガゼルはミドを見据えた。
ミドはロックが吹っ飛んでいったショックで、足を止めてしまった。
ガゼルはミドに詰め寄った。
「諦めな……」
ミドは泣きそうな表情になっている。
(ロックさん……師匠……)
するとガゼルの後頭部目掛けて、コーヒーカップが飛んできた。
ガゼルはニヤリとして、コーヒーカップを弾き飛ばした。
「しゃらくせぇーっ!……!?……」
カップを弾き飛ばしたガゼルは、目を見開いた。
何故ならばガゼルの懐に、いつの間にかロックが入ってきたのだ。
(コイツッ!……速ぇっ!)
「うおらぁーーーっ!」
ロックは下方から、ガゼルの喉を目掛けて刀を振り上げた。
これにはガゼルも焦った表情をした。
(斬られる……チィーッ!)
ガキィィィィンッ!
凄まじい音と同時に、今度はガゼルが吹っ飛んだ。
エリスはなんとも言えない複雑な表情で叫んだ。
「ロックッ!」
しかしエリスはすぐに目を見開いた。ロックは頭から血を流し、左うでに大きな痣が出来ていて、そこからもダラリと血が流れている。
ロックの表情は苦痛で歪んでいた。
(野郎……間一髪トンファーで防ぎやがった……)
するとガゼルはすぐに立ち上がった。
「案外やるじゃねぇか……俺のトンファーを咄嗟に、その左腕で防いだか……。流石は俺達と同じ、元『アデル十傑』……」
ガゼルの言葉にエリスは目を見開いた。
(ロックも……あの人と同じ……)
ガゼルはエリスを見てニヤリとした。
「あの女……お前の連れみたいだが……。何も知らないみたいだなぁ……」
ロックの表情は険しくなった。
ガゼルは続けた。
「何百、何千の敵を斬り殺した……その返り血を浴びた姿は……まさに人を喰らう鬼……」
ガゼルはトンファーを振りかぶって襲い掛かった。
「なぁっ!人喰いの蒼鬼さんよぉ!」
ロックはガゼルのトンファーを刀でかわし、もう一本のトンファーの二撃目を、体をのけ反らせ、上手くかわした。
ロックは大声で言った。
「エリスッ!ミドとジンを連れてさっさと行けっ!」
エリスは不安そうな表情で言った。
「で……でもっ!」
するとジンが言った。
「ここはロックに任せよう……。私達はやるべき事をやるぞ……ミドッ!」
「はっ、はいっ!」
ジンはロックに言った。
「ロックッ!先に飛空挺で待ってるぞっ!」
ジンがそう言うと、三人は飛空挺ドッグへ向かった。
「飛空挺だぁ?行かせるかよぉっ!」
ガゼルはトンファーを三人に向かって投げようとしたが、すかさずロックがそれを刀で弾いた。
ガゼルは弾かれたトンファーを、ジャンピングキャッチし、ロックを睨んだ。
「ハーネスト……テメェーッ!」
ロックはニヤリとした。
「俺と闘り合いながら……アイツらを追えるかよっ!」
ガゼルは激昂した。
「ぶっ潰してやるよっ!」
「やってみやがれっ!」
ロックの刀と、ガゼルのトンファーが、再び激しく衝突した。
コテージの裏側に出た三人は、隠し階段に入って、走って飛空挺ドッグに向かった。
走りながらエリスは、ジンに言った。
「あの二人……なんなわけ?……仲悪いの?」
ジンは表情を変えることなく言った。
「ガゼルはただの戦闘凶だ。そんな奴にとって、ロックは格好の獲物だ」
エリスは理解に苦しんだ表情をした。
「意味がわかんない……」
ジンは言った。
「ガゼルは昔からずっと、ロックと戦いたかったのさ……しかし十傑同士の私闘は禁じられていた……」
ミドが言った。
「そうか……ロックさんは、もうアデルの軍人じゃない……」
ジンは走りながら頷いた。
「そうだ……。ガゼルからすれば、これで心置きなくロックと戦れるわけだ……」
エリスは困り果てた表情になった。
「見たままの危ない奴じゃないっ!」
ジンは言った。
「我々も……うかうかしてられない……」
エリスが言った。
「どういう意味?」
「アデルのエージェントは二人一組で行動する」
エリスとミドは揃って嫌な予感がした。
ジンは言った。
「つまり、ガゼルとは別の奴が、我々を追ってくるはずだ……」
「何でそんな冷静なわけ?」
エリスとミドは揃って泣きそうな表情になった。
ジンは二人に言った。
「通路に細工をしておいた……少しは時間稼ぎが出来るはずだ。急ぐぞ……」
三人はとにかくひたすら階段を降りて、飛空挺を目指した。
するとコテージの屋根の上では、もう一人のアデルのエージェント……ジュノスが、隠し階段に入っていく三人を見ていた。
「行くとしますかねぇ……」
一方コテージでは、ロックとガゼルの激しい攻防が繰り広げられていた。
最初は防戦一方だったロックだったが……徐々に互角の闘いまで持ってきていた。
ガゼルがロックの頬にトンファーを喰らわすと、ロックはガゼルの胸に斬り傷を付ける……。
ロックがガゼルの方を斬り付けると、ガゼルがロックの脇腹にトンファーを喰らわす……。
まさに一進一退の闘いが続いていた。
余裕だったガゼルの表情も険しくなる。
(コイツ……さっきまでの戦闘勘の鈍さが……無くなってやがる)
ロックは勢いよく上段から、刀を振り下ろした。
ガゼルは二本のトンファーで刀を受け止めた。
(俺と闘ううちに、戦闘勘が戻ってきやがったか……)
「うおぉーーっ!」
ロックは、刀を両手で防いだ事によって、がら空きになったガゼルの腹に、蹴りを入れた。
「ぐおっ!」
蹴りをまともに喰らったガゼルは、後方に吹っ飛んだ。
「がはっ!」
ロックもダメージが蓄積しているようで、刀を使って体を支えている。
二人は共に満身創痍で、口や頭から血を流し、今にも倒れそうだ。
するとガゼルは、フラフラと立ち上がり、ロックに言った。
「はぁ、はぁ……どうやらここまでのようだな……」
ロックも言った。
「はぁ……みてぇだな……はぁ、はぁ……来客だ……」
二人が言うように、コテージの玄関には、男が一人立っていた。ミドの造船所にいたタキシードの男だった。
ロックは顔をしかめた。
「アイツは……はぁ、はぁ……」
「はぁ……知ってんのか?……はぁ……」
ガゼルがそう言うと、ロックは頷いた。
「ああ……ジンの勧誘に来てた奴だ……。断られたけどよぉ……」
ガゼルは憮然とした表情になった。
「チッ……そう言う事か……」
ロックは不機嫌な表情をした。
「一人で納得してんなっ!どういうこった?」
タキシードの男は二人を見てニヤニヤしている。
ガゼルは言った。
「奴は朧の回し者だ……」
明らかにロックの表情は変わった。
「朧……だと……!?」
タキシードの男は二人に言った。
「昼間はどうも……そちらの方は存じませんが……」
ガゼルは言った。
「アデルのもんだよ……ノコノコこんな所までやって来やがってよ……何の用だ?」
「政府の犬ですか……。いやぁねっ……協力出来ないのなら……消してしまおうと思いましてね……」
男がそう言うとコテージ内に、頭から足まで黒装束の連中が、ゾロゾロと入ってきた。その数は凡そ20名程だ。
ロックは言った。
「逆らう奴は消すか……相変わらずクソな連中だ……。でもこれでジンが無実だってわかったろ?」
ガゼルは不機嫌な表情をした。
「ケッ……まぁなぁ……」
男は言った。
「満身創痍が……えらく余裕ですね……。心配せずとも、隠し階段にも部隊を送りました。仲良く皆であの世に送って差し上げます」
男の言葉にロックは焦った表情をしたが、ガゼルがすぐにロックに言った。
「安心しろ……向こうはジュノスが行ってる」
「ジュノス?……オメェ、アイツと組んでんのか?」
「ケッ……好きで組むかよ……。それよりハーネスト、提案だ。この喧嘩のルールのよぉ……」
「奇遇だねぇ……俺も提案しようと思ってたんだよ……」
「ケッ……お前もか……気に入らねぇ……」
ロックは軽く笑った。
「なぁに……簡単な提案だよ。こっからはバトルロワイアルと行こうじゃねぇか……」
ガゼルはニヤリとした。
「つまり、お前も含めて……ここにいる奴、全員をぶち殺せばいいわけだ……」
ロックもニヤリとした。
「そういうこった……。自分以外の奴を皆殺しにする。簡単だろ?」
ガゼルは笑った。
「ハハハハハハッ!」
ロックも笑った。
「ハハハハハハッ!」
その光景を見ていた男は、怒りの表情をした。
「死に損ないがぁっ!ぶち殺せぇーっ!」
黒装束が二人に、一斉に襲い掛かった。
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